じん肺管理区分決定処分取消等請求事件 最高裁判所第一小法廷平成27年(行ヒ)第349号 平成29年4月6日判決

       主   文

原判決中上告人らに関する部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

       理   由

 上告代理人深堀寿美の上告受理申立て理由(ただし,排除された部分を除く。)について
1 本件は,建物の設備管理等の作業に従事する労働者であったAが,福岡労働局長に対し,じん肺法15条1項に基づいてじん肺管理区分の決定の申請をしたところ,管理1に該当する旨の決定(以下「本件決定」という。)を受けたため,じん肺健康診断の結果によれば管理4に該当するとして,被上告人を相手に,その取消し等を求めて提起した訴訟である。Aが本件訴訟の第1審口頭弁論終結後に死亡したことから,原審において,同人の妻及び子である上告人らが相続により本件訴訟におけるAの地位を承継したと主張して訴訟承継の申立てをし,その成否が争点となっている。
2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)関係法令の定め等
ア じん肺法は,「じん肺」につき,粉じんを吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病とした上(2条1項1号),粉じん作業に従事する労働者等につき,管理1から管理4までのじん肺管理区分を決定する手続を定め,事業者において当該労働者のじん肺管理区分に応じて従事させる作業内容等について配慮をすること等のじん肺に関する健康管理のための措置その他必要な措置を定めている。
 じん肺管理区分を決定する具体的手続としては,都道府県労働局長が,〔1〕事業者からじん肺の所見があると診断された労働者のエックス線写真及びじん肺健康診断の結果を証明する書面等が提出されたときや,〔2〕常時粉じん作業に従事する労働者若しくは常時粉じん作業に従事する労働者であった者(以下「労働者等」という。)がじん肺健康診断を受けて行う申請又はこれらの者にじん肺健康診断を行った事業者が行う申請(以下,これらの申請を併せて「随時申請」という。)があったときは,エックス線写真等を基礎として,地方じん肺診査医(同法39条)の診断又は審査により,じん肺管理区分の決定をするものとされている(同法13条2項,15条3項,16条2項)。
 じん肺管理区分としては,じん肺健康診断の結果,じん肺の所見がないと認められる者は管理1に,当該所見があると認められる者はその進展の程度に応じて管理2から管理4までに区分され(同法4条2項),このうち,最も重い管理4と決定された者については,「療養を要するものとする」とされている(同法23条)。
イ 労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)は,労働者の業務上の負傷,疾病,障害又は死亡に関する保険給付(以下「労災保険給付」という。)を療養補償給付(療養の給付又はこれに代わる療養の費用の支給)等とし(7条1項1号,12条の8第1項,13条),労災保険給付につき,業務上の疾病等の災害補償の事由が生じた場合に,補償を受けるべき労働者若しくは遺族又は葬祭を行う者に対し,その請求に基づいて行うものとしている(12条の8第2項)ところ,業務上の疾病の一つとして,労働基準法施行規則35条及び別表第1の2第5号において,「粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症」が定められている。
 また,労災保険法に基づく保険給付を受ける権利を有する者が死亡した場合において,その死亡した者に支給すべき保険給付でまだその者に支給しなかったものがあるときは,同法11条1項に規定する者,すなわち,その者の配偶者,子等であって,その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたもの等(以下「労災保険法11条1項所定の遺族」という。)は,自己の名でその未支給の保険給付の支給を請求することができ,上記の場合において,死亡した者が死亡前にその保険給付を請求していなかったときは,上記遺族は,自己の名でこれを請求することができる(同条2項)。
ウ 労働省労働基準局長発出の「改正じん肺法の施行について」(昭和53年4月28日付け基発第250号。以下「本件通達」という。)は,管理4と決定された者に係るじん肺は,労働基準法施行規則別表第1の2第5号に掲げる業務上の疾病として取り扱うとした上,その認定手続につき,要旨次のとおり行うものとしている。
〔1〕管理4と決定された者から労災保険給付の請求があった場合は,じん肺管理区分決定通知書等を確認の上,その健康診断を行った日に発病したものとみなして所定の事務処理を行う。
〔2〕管理4以外の者からじん肺に係る労災保険給付の請求があった場合は,随時申請を行うべきことを指導し,当該申請によるじん肺管理区分の決定を待って,上記〔1〕による所定の事務処理を行う。
(2)本件訴訟に至る経緯等
ア Aは,約15年間にわたり建物の設備管理等の作業に従事していた者であり,退職後の平成21年6月27日,じん肺健康診断を受けたところ,管理4相当と診断されたことから,同年9月24日,福岡労働局長に対し,じん肺管理区分の決定の申請をした。
イ 福岡労働局長は,地方じん肺診査医の審査に基づき,平成21年11月2日,Aが管理1に該当する旨の本件決定をした。
ウ Aは,厚生労働大臣に対し,本件決定の取消しを求めて審査請求をしたが,厚生労働大臣は,平成22年3月31日,同審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。
エ Aは,平成22年9月29日,本件決定及び本件裁決(以下「本件決定等」という。)の各取消し並びに国家賠償を求めて本件訴訟を提起したが,第1審口頭弁論終結後の同25年9月14日,死亡した。
オ 第1審は,平成25年12月10日,Aが管理2以上に該当するとして,本件決定を取り消し,本件裁決の取消しを求める訴えは却下し,Aのその余の請求(国家賠償請求)を棄却する旨の判決をしたところ,被上告人が控訴した。そして,平成26年6月6日,Aの妻及び子である上告人らが,相続により本件訴訟におけるAの地位を承継したと主張して,訴訟承継の申立てをした。
3 原審は,上記事実関係等の下で,本件決定等の取消しによって回復すべき法律上の利益は,管理2以上のじん肺管理区分の決定を受ける地位であるところ,じん肺法上,じん肺管理区分の決定を受けるという労働者等の地位は,当該労働者等に固有のものであり,一身専属的なものであると解されるから,上告人らがAの相続人としてこれを承継することはできず,本件訴訟はAの死亡により当然に終了すると判断し,第1審判決(ただし,国家賠償請求に関する部分を除く。)を取消し,訴訟終了宣言をした。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)ア 都道府県労働局長のじん肺管理区分の決定は,粉じん作業に従事する労働者及び粉じん作業に従事する労働者であった者を対象とし,じん肺健康診断の結果を基礎として,じん肺に関し相当の学識経験を有する医師である地方じん肺診査医の審査等に基づき,じん肺の所見の有無及びその進展の程度を確認し,じん肺に関する健康管理その他必要な措置を適切に講じ得るよう,じん肺の所見がないと認められる者を管理1に,当該所見があると認められる者をその進展の程度に応じて管理2から管理4までに区分するもの(じん肺法4条2項)である。
 そして,同法23条は,管理4と決定された者については,療養を要するものとしているところ,これは,労災保険給付の対象となる業務上の疾病として,「粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症」が定められ,療養補償給付等の対象とされていることに対応する規定であり,都道府県労働局長が上記のようなじん肺健康診断の結果を基礎とする専門医の判断に基づいて管理4と決定した者については,上記の業務上の疾病に当たるものとして労災保険給付が円滑かつ簡便に支給されるようにしたものと解される。そうすると,同条は,管理4に該当するじん肺にかかった労働者等が、その旨のじん肺管理区分決定を受けた場合に上記の業務上の疾病に当たるか否かについての実質的審査を再度経ることなく当該労災保険給付の支給を受けられることとしたものと解するのが相当である。
イ 他方,本件通達によれば,じん肺に係る労災保険給付に関する事務を行うに当たっては,管理4と決定された者に係るじん肺を業務上の疾病として取り扱うものとする一方,管理4以外の者からじん肺に係る労災保険給付の請求があった場合は,原則として,随時申請を行うべきことを指導し,当該申請によるじん肺管理区分の決定を待って,その結論に応じて所定の事務を行うこととされている。これは,上記のようなじん肺法23条及び労災保険法等の規定を踏まえて,じん肺に係る労災保険給付に関する事務において,管理4に該当する旨の決定がある場合に上記アの業務上の疾病に当たるとの判断が行われることとしているものということができ,管理1に該当する旨の決定を受けた労働者等が労災保険給付の請求をした場合には,当該業務上の疾病に当たるとは認められないとして当該労災保険給付の不支給処分を受けることが確実であるということができる。 
ウ 以上によれば,都道府県労働局長から所定の手続を経て管理1に該当する旨の決定を受けた労働者等は,これを不服として,当該決定の取消しを求める法律上の利益を有するところ,労災保険法11条1項所定の遺族は,死亡した労働者等が有していたじん肺に係る労災保険給付の請求権を承継的に取得するものと理解することができること(同項及び同条2項)を考慮すると,このような法律上の利益は,当該労働者等が死亡したとしても,当該労働者等のじん肺に係る未支給の労災保険給付を請求することができる上記遺族が存する限り,失われるものではないと解すべきである。このように解することは,本件のように,管理1に該当する旨の決定を受けた当該労働者等がその取消訴訟を提起した後に死亡した場合に,上記遺族に訴訟承継を認めないときは,当該遺族は当該労働者等のじん肺に係る労災保険給付を請求したとしても,管理1に該当する旨の決定が存する以上,当該労災保険給付の不支給処分を受けることが確実であり,改めてこれに対する取消訴訟を提起することを余儀なくされることに照らしても,合理性を有するということができる。
エ したがって,管理1に該当する旨の決定を受けた労働者等が当該決定の取消しを求める訴訟の係属中に死亡した場合には,当該訴訟は,当該労働者等の死亡によって当然に終了するものではなく,当該労働者等のじん肺に係る未支給の労災保険給付を請求することができる労災保険法11条1項所定の遺族においてこれを承継すべきものと解するのが相当である。そして,当該決定に係る審査請求を棄却する旨の裁決の取消しを求める訴訟についても同様に解される。
(2)これを本件についてみると,管理1に該当する旨の本件決定を受けたAは,管理4に該当するとして,本件決定等の取消しを求める本件訴訟を提起したところ,その係属中に死亡し,その妻及び子である上告人らにおいて訴訟承継の申立てをしたというのであるから,本件訴訟は,Aの死亡によって当然に終了するものではなく,上告人らがAの死亡の当時同人と生計を同じくしていたのであれば労災保険法11条1項所定の遺族に該当するものとしてこれを承継することになる。
5 以上と異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は以上と同旨をいうものとして理由があり,原判決中上告人らに関する部分は破棄を免れない。そして,上告人らが労災保険法11条1項所定の遺族に該当するか否か等について,更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 池上政幸 裁判官 大谷直人 裁判官 小池裕 裁判官 木澤克之)