一般廃棄物処理業許可取消等,損害賠償請求事件 最高裁判所第三小法廷平成23年(行ヒ)第332号 平成26年1月28日判決

       主   文

1 原判決のうち損害賠償請求に係る部分を破棄する。
2 前項の部分につき,本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
3 上告人のその余の上告を棄却する。
4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人湯川二朗の上告受理申立て理由について
1 本件は,小浜市長から廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下,後記の改正の前後を通じて「廃棄物処理法」という。)に基づく一般廃棄物収集運搬業の許可及びその更新を受けている上告人が,同市長により同法に基づいて有限会社B(以下「B」という。)に対する一般廃棄物収集運搬業の許可更新処分並びに被上告補助参加人に対する一般廃棄物収集運搬業及び一般廃棄物処分業の許可更新処分がされたことにつき,被上告人を相手に,上記両名に対する上記各許可更新処分は違法であると主張してそれらの取消しを求めるとともに,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める事案である。
2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は,昭和33年1月28日に有限会社として設立され,福井県小浜市に本店を置く一般廃棄物の収集運搬,し尿浄化槽及びその他衛生処理施設の清掃及び保守点検等を業とする会社である。
 Bは,平成13年7月11日に有限会社として設立され,小浜市に本店を置く一般廃棄物及び産業廃棄物の収集運搬等を業とする会社である。
 被上告補助参加人は,平成8年11月26日に有限会社として設立され,兵庫県西脇市に本店を置く古紙の収集及び販売並びに一般廃棄物のリサイクル及び処理等を業とする会社である。
(2)上告人は,昭和56年4月,小浜市長から,廃棄物処理法(平成3年法律第95号による改正前のもの)7条1項に基づき,小浜市全域において一般廃棄物のうちごみ,し尿及び浄化槽汚泥の収集運搬を業として行うことの許可を受け,その後,数次にわたり上記許可の更新を受けている。
(3)被上告人が一般廃棄物の処理に係る事業を計画的に遂行するために作成される平成13年度一般廃棄物処理計画書においては,ごみの処理に関し,類型別排出量の項目に年間2万0740トンと記載され,処理主体の項目に廃棄物処理法7条に基づく許可を受けた上告人ほか2社の業者名が記載されていた。
 小浜市長は,Bに対し,平成13年10月1日付けで,廃棄物処理法7条1項に基づき,同日から同15年3月31日まで小浜市全域において一般廃棄物のうちごみ等の収集運搬を業として行うことを許可する処分をし,その後,上記許可を更新する処分を繰り返し行い,平成21年3月31日付けで,同年4月1日から同23年3月31日まで上記許可を更新する処分をした(以下「本件更新処分1」という。)。
(4)被上告人の平成16年度一般廃棄物処理計画書においては,ごみの処理に関し,類型別排出量の項目に年間2万1030トンと記載され,処理主体の項目に廃棄物処理法7条に基づく許可を受けた上告人,Bほか2社の業者名が記載されていた。
 小浜市長は,被上告補助参加人に対し,平成16年4月1日付けで,廃棄物処理法7条1項及び6項に基づき,同日から同18年3月31日まで小浜市全域において一般廃棄物のうちごみの収集運搬を業として行うことを許可する処分及びその処分を業として行うことを許可する処分をし,その後,上記各許可を更新する処分を繰り返し行い,平成22年3月30日付けで,同年4月1日から同24年3月31日まで上記各許可を更新する処分をした(以下「本件更新処分2」といい,本件更新処分1と併せて「本件各更新処分」という。)。
3 原審は,要旨,次のとおり判断して,上告人は本件各更新処分の取消しを求める原告適格を有しないとしてこれらの取消請求に係る訴えを却下すべきものとし、国家賠償法に基づく損害賠償請求を棄却すべきものとした。
 廃棄物処理法7条は,一般廃棄物収集運搬業又は一般廃棄物処分業(以下,併せて「一般廃棄物処理業」という。)の許可において,その許可の申請をする者が一般廃棄物処理業を的確にかつ継続して行うことができる経済的基盤を有することをその要件としているが(同条5項3号,10項3号),その目的は飽くまでも市町村の固有の事務である一般廃棄物の処理の継続的かつ安定的な実施や当該市町村における生活環境の保全に支障が生ずることを避けることにあり,同条に基づく一般廃棄物処理業の許可又はその更新を受けた者(以下「許可業者」という。)の営業上の利益を個別的利益として保護する趣旨を含むものではないから,上告人は本件各更新処分の取消しを求める原告適格を有するものではなく,また,被上告人は上告人に対してその営業上の利益に配慮しこれを保護すべき義務を負うものではないのであって,上告人の国家賠償法に基づく損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 
4 しかしながら,原審の上記判断のうち,本件各更新処分の取消しを求める訴えを不適法として却下した部分は結論において是認することができるが,その余の部分は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項,最高裁平成16年(行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)。
(2)上記の見地に立って,上告人が本件各更新処分の取消しを求める原告適格を有するか否かについて検討する。
ア 廃棄物処理法は,廃棄物の適正な収集運搬,処分等の処理をし,生活環境を清潔にすることにより,生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的として,廃棄物の処理について規制を定めている(同法1条)。
 市町村は,一般廃棄物について,その区域内における収集運搬及び処分に関する事業の実施をその責務とし,計画的に事業を遂行するために一般廃棄物処理計画を定め,これに従って一般廃棄物の処理を自ら行い,又は市町村以外の者に委託し若しくは許可を与えて行わせるものとされており(廃棄物処理法4条1項,6条,6条の2,7条1項),市町村以外の者に対する市町村長の一般廃棄物処理業の許可又はその更新については,当該市町村による一般廃棄物の収集運搬又は処分が困難であること(同法7条5項1号,10項1号)が要件とされている。
 上記の一般廃棄物処理計画には,一般廃棄物の発生量及び処理量の見込み(同法6条2項1号),一般廃棄物の適正な処理及びこれを実施する者に関する基本的事項(同項4号)等を定めるものとされており,一般廃棄物処理業の許可又はその更新については,その申請の内容が一般廃棄物処理計画に適合するものであること(同法7条5項2号,10項2号)が要件とされているほか,一般廃棄物の収集運搬及び処分に関する政令で定める基準に従って処理が行われるべきこと(同法6条の2第2項,7条13項)や,施設及び申請者の能力がその事業を的確にかつ継続して行うに足りるものとして環境省令で定める経理的基礎その他の基準に適合するものであること(同法7条5項3号,10項3号,同法施行規則2条の2及び2条の4)が要件とされている。
 加えて,一般廃棄物処理業の許可又はその更新がされる場合においても,市町村長は,これらの処分の際に生活環境の保全上必要な条件を付すことができ(廃棄物処理法7条11項),許可業者が同法の規定又は上記の条件に違反したとき等には事業停止命令や許可取消処分をする権限を有しており(同法7条の3,7条の4),また,許可業者が廃業するには市町村長に届出をしなければならず(同法7条の2第3項),許可業者が行う事業の料金は,市町村が自ら行う事業と競合する場合には条例で定める上限を超えることはできない(同法7条12項)とされるなど,許可業者は,市町村による所定の規制に服するものとされている。
イ(ア)一般廃棄物処理業は,市町村の住民の生活に必要不可欠な公共性の高い事業であり,その遂行に支障が生じた場合には,市町村の区域の衛生や環境が悪化する事態を招来し,ひいては一定の範囲で市町村の住民の健康や生活環境に被害や影響が及ぶ危険が生じ得るものであって,その適正な運営が継続的かつ安定的に確保される必要がある上,一般廃棄物は人口等に応じておおむねその発生量が想定され,その業務量には一定の限界がある。廃棄物処理法が,業務量の見込みに応じた計画的な処理による適正な事業の遂行の確保についての統括的な責任を市町村に負わせているのは,このような事業の遂行に支障を生じさせないためである。そして,既存の許可業者によって一般廃棄物の適正な処理が行われており,これを踏まえて一般廃棄物処理計画が作成されている場合には,市町村長は,それ以外の者からの一般廃棄物処理業の許可又はその更新の申請につき,一般廃棄物の適正な処理を継続的かつ安定的に実施させるためには既存の許可業者のみに引き続きこれを行わせるのが相当であり,当該申請の内容が当該一般廃棄物処理計画に適合するものであるとは認められないとして不許可とすることができるものと解される(最高裁平成14年(行ヒ)第312号同16年1月15日第一小法廷判決・裁判集民事213号241頁参照)。このように,市町村が市町村以外の者に許可を与えて事業を行わせる場合においても,一般廃棄物の発生量及び処理量の見込みに基づいてこれを適正に処理する実施主体等を定める一般廃棄物処理計画に適合すること等の許可要件に関する市町村長の判断を通じて,許可業者の濫立等によって事業の適正な運営が害されることのないよう,一般廃棄物処理業の需給状況の調整が図られる仕組みが設けられているものといえる。そして,許可業者が収集運搬又は処分を行うことができる区域は当該市町村又はその一部の区域内(廃棄物処理法7条11項)に限定されていることは,これらの区域を対象として上記の需給状況の調整が図られることが予定されていることを示すものといえる。
(イ)また,市町村長が一般廃棄物処理業の許可を与え得るのは,当該市町村による一般廃棄物の処理が困難である場合に限られており,これは,一般廃棄物の処理が本来的には市町村がその責任において自ら実施すべき事業であるため,その処理能力の限界等のために市町村以外の者に行わせる必要がある場合に初めてその事業の許可を与え得るとされたものであると解されること,上記のとおり一定の区域内の一般廃棄物の発生量に応じた需給状況の下における適正な処理が求められること等からすれば,廃棄物処理法において,一般廃棄物処理業は,専ら自由競争に委ねられるべき性格の事業とは位置付けられていないものといえる。
(ウ)そして,市町村長から一定の区域につき既に一般廃棄物処理業の許可又はその更新を受けている者がある場合に,当該区域を対象として他の者に対してされた一般廃棄物処理業の許可又はその更新が,当該区域における需給の均衡及びその変動による既存の許可業者の事業への影響についての適切な考慮を欠くものであるならば,許可業者の濫立により需給の均衡が損なわれ,その経営が悪化して事業の適正な運営が害され,これにより当該区域の衛生や環境が悪化する事態を招来し,ひいては一定の範囲で当該区域の住民の健康や生活環境に被害や影響が及ぶ危険が生じ得るものといえる。一般廃棄物処理業の許可又はその更新の許否の判断に当たっては,上記のように,その申請者の能力の適否を含め,一定の区域における一般廃棄物の処理がその発生量に応じた需給状況の下において当該区域の全体にわたって適正に行われることが確保されるか否かを審査することが求められるのであって,このような事柄の性質上,市町村長に一定の裁量が与えられていると解されるところ,廃棄物処理法は,上記のような事態を避けるため,前記のような需給状況の調整に係る規制の仕組みを設けているのであるから,一般廃棄物処理計画との適合性等に係る許可要件に関する市町村長の判断に当たっては,その申請に係る区域における一般廃棄物処理業の適正な運営が継続的かつ安定的に確保されるように,当該区域における需給の均衡及びその変動による既存の許可業者の事業への影響を適切に考慮することが求められるものというべきである。
ウ 以上のような一般廃棄物処理業に関する需給状況の調整に係る規制の仕組み及び内容,その規制に係る廃棄物処理法の趣旨及び目的,一般廃棄物処理の事業の性質,その事業に係る許可の性質及び内容等を総合考慮すると,廃棄物処理法は,市町村長から一定の区域につき一般廃棄物処理業の許可又はその更新を受けて市町村に代わってこれを行う許可業者について,当該区域における需給の均衡が損なわれ,その事業の適正な運営が害されることにより前記のような事態が発生することを防止するため,上記の規制を設けているものというべきであり,同法は,他の者からの一般廃棄物処理業の許可又はその更新の申請に対して市町村長が上記のように既存の許可業者の事業への影響を考慮してその許否を判断することを通じて,当該区域の衛生や環境を保持する上でその基礎となるものとして,その事業に係る営業上の利益を個々の既存の許可業者の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。したがって,市町村長から一定の区域につき既に廃棄物処理法7条に基づく一般廃棄物処理業の許可又はその更新を受けている者は,当該区域を対象として他の者に対してされた一般廃棄物処理業の許可処分又は許可更新処分について,その取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
エ 廃棄物処理法において一般廃棄物収集運搬業と一般廃棄物処分業とは別途の許可の対象とされ,各別に需給状況の調整等が図られる仕組みが設けられているところ,本件において,上告人は,一般廃棄物収集運搬業の許可及びその更新を受けている既存の許可業者であるから,本件更新処分1及び本件更新処分2のうち一般廃棄物収集運搬業の許可更新処分について,その取消しを求める原告適格を有していたものというべきである。他方,上告人は,一般廃棄物処分業の許可又はその更新を受けていないから,本件更新処分2のうち一般廃棄物処分業の許可更新処分については,その取消しを求める原告適格を有しない。
(3)次に,上告人の国家賠償法に基づく損害賠償請求については,原審は,前記3のとおり,廃棄物処理法は一般廃棄物収集運搬業者及び一般廃棄物処分業者の営業上の利益を個別的利益として保護する趣旨を含むものではないとした上で,被上告人は上告人に対してその営業上の利益に配慮しこれを保護すべき義務を負うものではないとして,その余の点について判断するまでもなく上記請求を棄却しているところ,以上に説示したところに照らせば,被上告人が上告人に対して上記のような義務をおよそ負っていないとはいえないから,原判決には審理不尽の違法があるといわざるを得ない。
5(1)以上のとおり,原審の判断のうち,本件更新処分1及び本件更新処分2のうち一般廃棄物収集運搬業の許可更新処分の取消請求並びに損害賠償請求に係る部分には,法令の解釈適用を誤った違法がある。
(2)しかしながら,記録によれば,上告人は,平成25年5月8日に小浜市長に対して廃棄物処理法7条の2第3項に基づき一般廃棄物収集運搬業を廃業する旨を届け出た上で同年6月に廃業したことが明らかであるから,上告人が上記各処分の取消しを求める法律上の利益は失われたものといわざるを得ない。そして,前記4(2)エのとおり,本件更新処分2のうち一般廃棄物処分業の許可更新処分の取消請求に係る訴えは当初から原告適格を欠いていたのであるから,本件各更新処分の取消請求に係る訴えをいずれも却下すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができる。この点に関する論旨は,結局,採用することができない。したがって,原判決のうち後記(3)の破棄部分以外の部分に係る上告は,これを棄却することとする。
(3)他方,原審の判断のうち損害賠償請求に係る部分に関する論旨は前記4(3)と同旨をいうものとして理由があり,原判決のうち同請求に係る部分は破棄を免れない。そして,本件各更新処分の違法性の有無等について更に審理を尽くさせるため,上記の部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 寺田逸郎 裁判官 大橋正春 裁判官 木内道祥)