不動産仮差押命令申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件 最高裁判所第三小法廷平成二八年(許)第三九号 平成29年1月31日決定

       主   文

本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。

       理   由

 抗告代理人阿部正義、同阿部和子、同阿部一真の抗告理由について
 本件事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって、裁判官岡部喜代子、同木内道祥の各反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

 裁判官木内道祥の反対意見は、次のとおりである。

 本件仮差押えに民事保全制度を利用する必要性(権利保護の利益)がないとする原審の判断は是認できない。その理由は次のとおりである。
一 本件仮差押えにおける権利保護の利益につき、まず問題とされるのは、抗告人が債務名義を有することであるが、債務名義があっても、債権の期限が未到来であれば、強制執行を開始することができない(民事執行法三〇条)のであるから、期限到来分の債権とは別異のものである期限未到来の債権については債務名義があることをもって仮差押えを利用する必要性を否定することはできない。
 本件で抗告人の有する養育料債権は、給料その他の継続的給付に係る債権に対しては、期限未到来のものについても差押えが可能である(同法一五一条の二)が、本件では、相手方は給料その他の継続的給付に係る債権を有するとは認められないから、この差押えを利用することはできない。同法一六七条の一六は期限未到来の養育料債権についても間接強制を認めるが、それは六月以内に確定期限が到来するものに限られているところ、本件仮差押え申立ての時点において、抗告人の有する養育料債権のうち期限未到来分は、平成二八年二月分以降、長男分については五〇月分一五〇万円、二男分については六八月分二〇四万円の合計三五四万円であり、間接強制が可能であることをもって本件仮差押えにつき権利保護の利益がないということもできない。
 さらに、債務名義を有しており、債権の期限が到来していて即時に強制執行の申立てが可能な債権を有する債権者であっても、その時点で強制執行の申立てをするか否かは債権者の意思に委ねられている。本件仮差押え申立て時点で養育料債権の期限到来分、すなわち、延滞分は長男分と二男分を合計してほぼ二年分の一三九万円にのぼっているものの、ただちに強制競売を申し立てることが経済的にちゅうちょされる実情にある抗告人が、それを行わないからといって、別に有している期限未到来の債権の保全措置をとることについて、不利益を課せられる理由はないはずである。
二 次に、本件仮差押えの対象とされた不動産には独立行政法人住宅金融支援機構を債権者とする抵当権が設定されているところ、現状では、無剰余とされる可能性が相当程度あるものの、上記抵当権は普通抵当権であり、相手方が被担保債権の分割支払を怠っている状況もうかがえない以上、将来において剰余が生ずる見込みがあることは否定できない。債務名義がなく今後の提訴を予定して行われる不動産仮差押えの申立てにおいて、申立ての時点で対象不動産が無剰余である可能性が相当にあっても、仮差押えが認められているのは、強制執行を開始できる将来の時点における剰余の見込みが否定できないことを前提としているからである。本件でも、同様に、現時点の無剰余の可能性の程度を理由として仮差押えを利用する必要性を否定することはできない。
 確かに、抗告人は、既に期限の到来した養育料債権一三九万円および慰謝料債権一〇〇万円の合計二三九万円について、不動産に対する強制執行の開始を求めることができる。しかし、その強制執行手続の請求債権は期限到来分のみである。期限未到来分についても債務名義があるので配当要求をすることができるが、それは、抗告人が差押えをすることができた不動産を対象とする強制執行手続についてである。相手方が複数の不動産を所有していれば、差押えは請求債権の額に相応する不動産に対してしか許容されない。期限到来分の債権で差押えを許されなかった不動産があれば、それを期限未到来分の債権によって仮差押えをする必要性があるというべきである。その仮差押えによって、この不動産を相手方が処分してもそれに優先することができ,他の債権者からの差押えがあっても当然の配当加入が認められるからである。
三 以上のとおりであるから、債務名義を有しているが期限未到来であって即時に強制執行の申立てができない債権を有する債権者が、期限未到来の債権を保全するための実効性がある仮差押え制度を利用することについて、強制執行の申立てが可能な債権を有しているが即時に強制執行の申立てをしていないが故に権利保護の利益を否定することはできないというべきである。 
 裁判官岡部喜代子は、裁判官木内道祥の反対意見に同調する。
(裁判長裁判官 大谷剛彦 裁判官 岡部喜代子 大橋正春 木内道祥 山崎敏充)