不当利得返還等請求行為請求事件 最高裁判所第三小法廷平成25年(行ヒ)第562号 平成28年6月28日判決

       主   文

原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

       理   由

 上告代理人三野岳彦,同前堀克彦,同国松治一の上告受理申立て理由について
1 本件は,京都府(以下「府」という。)内に主たる事務所を有する特定非営利活動法人である被上告人が,平成14年度から同18年度までの間に,府が京都府議会(以下「府議会」という。)の4会派に対し,会派運営費として補助金を交付したことは違法であるから,上記各会派は府に対して上記補助金に相当する金員を不当利得として返還すべきであるのに,上告人はその返還請求を違法に怠っているなどとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,上告人に対し,上記各会派に対して上記不当利得の返還請求をすべきこと等を求めている事案である。
2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)地方自治法の制定以来,一部の普通地方公共団体は,条例に基づき,地方議会の議員に対し,調査研究費,通信費等の経費(以下「調査研究費等」という。)を支給していた。昭和31年法律第147号による同法の改正により,議員に対し,給与その他の給付を法律又はこれに基づく条例に基づかずに支給することが禁止されたため(同法204条の2),同改正後は,普通地方公共団体が上記のような方法で議員に対して調査研究費等を支給することはできなくなったが,地方議会の会派に対する経費の支給を禁止する旨の規定は置かれなかった。その後,一部の普通地方公共団体は,公益上必要がある場合においては寄附又は補助をすることができる旨を定める同法232条の2に基づき,会派に対し,調査研究費等として補助金を交付するようになった。
 上記の会派に対する補助金交付の運用については,普通地方公共団体の長がその交付の可否等を決定することができるため,長と会派の関係の対等性が損なわれるという問題点や,交付された補助金の使途を十分検証することができないという問題点がある旨の指摘がされていた。
(2)平成12年法律第89号による地方自治法の改正(以下「平成12年改正」という。)により,普通地方公共団体は,条例の定めるところにより,その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,会派又は議員に対し,政務調査費を交付することができるものとされた(平成14年法律第4号による改正前の同法100条12項。同改正後,平成20年法律第69号による改正前は同条13項。以下,これらの改正の前後を問わず,「地方自治法100条旧12項」という。)。政務調査費の交付の対象,額及び交付の方法は条例で定めなければならないものとされ(同項),また,その交付を受けた会派又は議員は,条例の定めるところにより,当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとされた(平成14年法律第4号による改正前の同法100条13項。同改正後,平成20年法律第69号による改正前は同条14項。以下,これらの改正の前後を問わず,「地方自治法100条旧13項」という。)。
(3)府は,昭和44年5月以降,府議会の会派に対し,会派の調査研究費等を支援するため,報償費という名称で金員を交付していた。
 平成12年改正により政務調査費の制度が設けられたことを受けて,府は,「京都府政務調査費の交付に関する条例」(平成13年京都府条例第14号。平成24年京都府条例第68号による全部改正前のもの。以下「本件政務調査費条例」という。)を制定し,平成13年4月以降,府議会の会派及び議員に対し,政務調査費として所定の金額を交付するものとした。本件政務調査費条例9条は,政務調査費の使途基準は議長が別に定めるものとし,これを受けて定められた「京都府政務調査費の交付に関する規程」(平成13年3月30日制定。平成25年3月15日全部改正前のもの。)は,会派に交付される政務調査費の使途基準の項目として,調査研究費,研修費,会議費等の八つを挙げていた(4条,別表第1)。
 一方,府は,本件政務調査費条例の制定と併せて,会派に対する支援の在り方についても検討し,これまで報償費の交付として行ってきた会派の運営経費の支援について,政務調査費の交付とは異なる制度であることを明確にし,その手続及び内容の透明化を図る見地から,「京都府議会会派運営費交付要綱」(以下「旧要綱」という。)を定め,平成13年4月以降,補助金等の交付に関する規則(昭和35年京都府規則第23号)及び旧要綱に基づき,会派に対し,会派運営費の名称で補助金を交付するものとした。旧要綱に基づく会派運営費の制度は,府が所定の要件を備えた会派に対し,その円滑な運営に要する経費の一部として所定の金額を交付するというものであり(旧要綱1条,2条),その交付対象経費の項目には,会派の人件費,事務費,慶弔等経費,会議費の四つが挙げられていた(旧要綱3条,別表)。なお,旧要綱3条は,上記の交付対象経費と本件政務調査費条例9条所定の政務調査費との関係について,「条例第9条に規定する調査研究に資する経費は,除くものとする。」との定めを置いていた。
 旧要綱は,平成18年3月31日をもって廃止され,同日,新たに「京都府議会会派運営への支援に関する要綱」が定められ,同年4月1日から施行されたが,同要綱も,上記の限度では旧要綱と同旨を定めるものであった。
(4)上告人は,平成14年度から同18年度までの間に,府議会の会派であるA議員団に対し合計1億1719万円,B議員団に対し合計5985万円,C議員団に対し合計5793万円,D議員団に対し合計3133万7918円の会派運営費(以下,これらを併せて「本件会派運営費」という。)を交付した。
(5)なお,平成24年法律第72号による地方自治法の改正により,政務調査費の名称が「政務活動費」(同法100条14項)に改められ,その交付目的についても「議会の議員の調査研究その他の活動に資するため」(同項)に改められるなどの所要の改正が行われた。
3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,被上告人の請求を一部認容すべきものとした。
 平成12年改正により設けられた政務調査費の制度は,会派に対する調査研究費等を地方自治法232条の2に基づく補助金として交付するという従前の運用について,普通地方公共団体の長と会派の関係の対等性が損なわれるという問題点や,補助金の使途を十分検証することができないという問題点があったこと等を踏まえて設けられたものである。このような同改正の経緯等に鑑みると,同法100条旧12項が,普通地方公共団体は会派に対し政務調査費を交付することができる旨を定めたのは,普通地方公共団体は同項に基づいてのみ会派に助成することができるとし,かつ,その助成の対象を政務調査費に限定する趣旨であったと解される。
 そうすると,平成12年改正により政務調査費の制度が設けられた後は,普通地方公共団体が会派に対し,地方自治法232条の2に基づき補助金を交付することができると解する余地はなくなったというべきである。
 したがって,本件会派運営費の交付は,地方自治法100条旧12項及び232条の2に反し違法である。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)平成12年改正により設けられた政務調査費の制度は,地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律の施行により,地方公共団体の自己決定権や自己責任が拡大し,その議会の担う役割がますます重要なものとなってきていることに鑑み,議会の審議能力を強化し,議員の調査研究活動の基盤の充実を図るため,議会における会派又は議員に対する調査研究の費用等の助成を制度化し,併せてその使途の透明性を確保しようとしたものである。このような同改正の趣旨及び目的に照らせば,同改正により政務調査費の制度が設けられたことは,従前,会派に交付されていた補助金のうち,「調査研究に資するため必要な経費」(地方自治法100条旧12項)について,以後はこれを政務調査費という新たな法制度に基づいて交付することができるものとし,政務調査費の交付の対象,額等については,議会が自主的に制定する条例で定めなければならないものとするとともに(同項),その使途の透明性確保のための定めを置いたこと(同条旧13項)に意義があったと認められる。
 そうすると,平成12年改正後において,会派に対し,政務調査費の対象とされた上記の「調査研究に資するため必要な経費」を交付するためには,当該政務調査費の交付の対象,額等について定めた条例に基づいてこれを行う必要が生じたというべきであり,従前のようにこれを地方自治法232条の2に基づく補助金として交付することは許容されなくなったものというべきである。
(2)他方,地方自治法100条旧12項及び旧13項は,上記の「調査研究に資するため必要な経費」以外の経費に対する補助の可否については特に触れるところがなく,平成12年改正の際に,そのような補助を禁止する旨の規定が置かれることもなかったところ,同改正に係る立法過程においても,そのような補助を禁止すべきものとする旨の特段の検討がされていたとはうかがわれない。これらによれば、同改正が,上記の「調査研究に資するため必要な経費」以外の経費に対する補助を禁止する趣旨でされたものであるとは認められない。
 そうすると,普通地方公共団体は,平成12年改正により政務調査費の制度が設けられた後においても,地方議会の会派に対し,地方自治法100条旧12項に定める「調査研究に資するため必要な経費」以外の経費を対象として,同法232条の2に基づき,補助金を交付することができるというべきである。 
(3)以上の点に照らせば,本件会派運営費について,地方自治法100条旧12項の「調査研究に資するため必要な経費」以外の経費を対象とするものであるか否か,また,仮にそのように認められる場合に同法232条の2に定める「公益上必要がある場合」の要件を満たすものであるか否かについて判断することなく,会派に対する補助金の交付であることをもって直ちにこれを同法100条旧12項及び232条の2に反し違法であるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。
5 以上のとおりであるから,論旨は理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,上記の点等について,更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大谷剛彦 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大橋正春 裁判官 木内道祥 裁判官 山崎敏充)