仮換地指定取消請求事件 最高裁判所第三小法廷平成22年(行ヒ)第158号 平成25年2月19日判決

       主   文

原判決を破棄する。
被上告人らの控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。

       理   由

 上告代理人大場民男の上告受理申立て理由第1点、第5点ないし第7点について
1 本件は、上告人の施行する土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)の施行地区(以下「本件施行地区」という。)内に土地を所有する被上告人らが、上告人から、土地区画整理法(平成17年法律第34号による改正前のもの。以下「法」という。)98条1項に基づき、被上告人らの所有する土地につき、それぞれ仮換地を指定する処分(以下「本件各仮換地指定処分」という。)を受けたことから、本件各仮換地指定処分は照応の原則を定める法89条1項に違反する違法なものであるなどとして、その取消しを求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
(1)本件事業は、近畿日本鉄道名古屋線白子駅の北西約1kmに位置する本件施行地区について、農地の埋立てによる小規模開発の宅地化が進み、都市基盤の立ち後れによる居住環境の悪化が指摘されていることなどを踏まえ、無秩序な市街化の進行を防止し、居住環境の良好かつ健全な市街地形成を行うことを目的として計画されたものである。
(2)被上告人X1は、平成16年10月20日当時、本件施行地区内に所在する第1審判決別紙物件目録記載1の土地(以下「被上告人X1従前地」という。)を所有し、被上告人X1従前地上の建物に居住していた。被上告人X2は、同日当時、本件施行地区内に所在する同目録記載2の土地(以下「被上告人X2従前地〔1〕」という。)及び同目録記載3の土地(以下「被上告人X2従前地〔2〕」といい、被上告人X2従前地〔1〕及び被上告人X1従前地と併せて「本件各従前地」という。)を所有していた。被上告人X2は、被上告人X2従前地〔1〕上に賃貸用共同住宅を所有し、被上告人X2従前地〔2〕上の建物に居住していた。
(3)上告人は、平成16年10月20日付けで、被上告人X1に対し、被上告人X1従前地について第1審判決別紙仮換地目録記載1の土地(以下「被上告人X1仮換地」という。)を仮換地として指定し、被上告人X2に対し、被上告人X2従前地〔1〕について同目録記載2の土地(以下「被上告人X2仮換地〔1〕」という。)を、被上告人X2従前地〔2〕について同目録記載3の土地(以下「被上告人X2仮換地〔2〕」といい、被上告人X2仮換地〔1〕及び被上告人X1仮換地と併せて「本件各仮換地」という。)を、それぞれ仮換地として指定する本件各仮換地指定処分をした。
(4)ア 被上告人X1従前地は、北東側で平均幅員約6.3mの市道(旭が丘江島線)に約12.6m接する、平均奥行き約26.5mの長方形の土地であり、その地積は330.58平方メートルである。
 被上告人X1仮換地は、被上告人X1従前地とほぼ同じ位置にある地積304.60平方メートルの土地である。被上告人X1仮換地は、被上告人X1従前地と比べて、北東側の幅約2.5m、長さ約12.6mの土地等が減じられることとなり、その減じられる部分の土地は隣接する道路である旭が丘江島線の拡幅用地等に充てられる。
 本件各仮換地指定処分により、被上告人X1従前地上の建物の移転や除却が必要となるものではないが、2台分の駐車場の一部が使用できなくなる。
イ 被上告人X2従前地〔1〕は、南西側で平均幅員約3.5mの市道に約36.6m接し、南東側で平均幅員約2.7mの市道に約28m接する、平均奥行き約28mのほぼ長方形の角地であり、その現況地積は1054.77平方メートルである。
 被上告人X2仮換地〔1〕は,被上告人X2従前地〔1〕とほぼ同じ位置にある地積934.16平方メートルの土地である。被上告人X2仮換地〔1〕は、被上告人X2従前地〔1〕と比べて、北西側の幅約2m(北側)ないし約3.6m(南側)、長さ約28mの土地、南西側の幅約0.5m(西側)ないし約4m(東側)、長さ約35mの土地等が減じられることとなり、その減じられる部分の土地は南西側の市道の拡幅用地と区画の整理用に充てられる。
 本件各仮換地指定処分により、被上告人X2従前地〔1〕上の建物の移転や除却が必要となるものではないが、駐輪場及びガスボンベ置き場の移設が必要となるほか、駐車場の一部が減少する。 
ウ 被上告人X2従前地〔2〕は、北東側で平均幅員約6.3mの旭が丘江島線に約23.4m接し、南東側で平均幅員約2.7mの市道に約26m接するほぼ長方形の角地であり、その地積は661.16平方メートルである。
 被上告人X2仮換地〔2〕は、被上告人X2従前地〔2〕とほぼ同じ位置にある地積586.50平方メートルの土地である。被上告人X2仮換地〔2〕は、被上告人X2従前地〔2〕と比べて、北東側の幅約4.2m、長さ約23.4mの土地等が減じられることとなり、その減じられる部分の土地は旭が丘江島線の拡幅用地に充てられる。
 本件各仮換地指定処分により、被上告人X2従前地〔2〕上の建物の一部の移転等が必要となるほか、1台分の駐車場の一部が減少する。
(5)本件各仮換地は、いずれも、本件各仮換地指定処分において計算上付与されるべき地積である権利地積より大きい地積を有するため、本件各仮換地のうち権利地積を超えて付与される地積に相当する部分については、被上告人らからの清算金の徴収が予定されている。
 なお、仮換地の権利地積は、整理前の画地の地積と整理前の画地の1平方メートル当たり指数(当該土地の1平方メートル当たりの価値を表す値)とを乗じたものに一定の比例率(仮換地の総評価指数を従前地の総評価指数で除した割合)を乗じた値を整理後の画地の1平方メートル当たり指数で除して算出されるものであり、本件各仮換地指定処分においては、整理前の画地の1平方メートル当たり指数及び整理後の画地の1平方メートル当たり指数は、路線価指数(当該土地が面する道路ごとに付された一定の価値を示す指数)に所定の修正を加える路線価方式によって算定され、上記の比例率は、1.087と算定された。
(6)本件各仮換地指定処分において、本件各従前地とそれらに対応する本件各仮換地との間で、どの程度地積が減少するかの割合(以下「減歩率」という。)を、被上告人らが受ける本件各仮換地の実際の地積を基準に算定すると、被上告人X1従前地については約7.86%、被上告人X2従前地〔1〕については約11.43%、被上告人X2従前地〔2〕については約11.29%となる。また、本件施行地区内の建付地(建物が現に存在する土地をいう。以下同じ。)全体について、従前地の地積の総和と仮換地の実際の地積の総和とを比較して上記と同様に減歩率を算定すると約9.02%となり、本件施行地区内の田全体について、上記と同様に減歩率を算定すると約42.26%となる。
(7)本件事業により、被上告人X1従前地及び被上告人X2従前地〔2〕が接する道路である旭が丘江島線の幅員は約6.3mから16.0mに拡張され、また、被上告人X2従前地〔1〕が接する南東側の市道及び南西側の市道の幅員はいずれも4m未満であるものが4m以上10m以下程度に拡張される。旭が丘江島線は、本件施行地区内に5路線配置されている都市計画道路の一つであり、本件施行地区の北東側において北西方向と南東方向を結び、東側において南北方向に走る国道23号線と交差するなど、本件施行地区の交通の軸となる幹線道路である。
3 原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、本件各仮換地指定処分は被上告人らとの関係で違法というべきであるとして、被上告人らの請求を認容した。
 本件各仮換地指定処分により、被上告人らは、現に住宅敷地として利用していた本件各従前地につき、利用している宅地の一部を削られるなどして利用上の不利益を現実に受けるところ、現に建物の敷地として利用されていない農地については本件事業による地価の上昇による利益が当該土地を売却することによって現実化されるのに対し、本件各従前地のように現に建物の敷地として利用されている宅地については売却の予定がないことから地価の上昇による利益が現実化されないため、被上告人らは利用上の不利益に代わる現実の利益を受けることがないので、本件各仮換地指定処分は被上告人らにとって大きな不利益をもたらす処分であり、違法というべきである。本件各仮換地指定処分がこのように不利益な処分となった主な原因は、本件各従前地が接する道路の路線価指数が不相当な基準により低く算定され、また、従前地の価値の算定に際してその利用状況に応じた修正を施すための数値である土地利用修正係数が過小なものであり、その結果、本件各従前地の価値が実際より低いものと評価され、本件各従前地に対して付与されるべき仮換地の地積が過小なものとされたことにある。
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1)土地区画整理事業の施行者は、法98条1項に基づいて仮換地を指定する場合において、法89条1項所定の基準を考慮してしなければならないところ(法98条2項)、土地区画整理は、施行者が一定の限られた施行地区内の宅地につき、多数の権利者の利益状況を勘案しつつそれぞれの土地を配置していくものであり、また、仮換地の方法は多数あり得るから、具体的な仮換地の指定を行うに当たっては、法89条1項所定の基準の枠内において、施行者の合目的的な見地からする裁量的判断に委ねざるを得ない面があることは否定し難いところである。そして、仮換地の指定は、指定された仮換地が、土地区画整理事業開始時における従前の宅地の状況と比較して、同項所定の照応の各要素を総合的に考慮してもなお、社会通念上不照応であるといわざるを得ない場合においては、上記裁量的判断を誤った違法のものと判断すべきである(最高裁昭和63年(行ツ)第104号平成元年10月3日第三小法廷判決・裁判集民事158号31頁参照)。
(2)本件についてこれをみると、前記事実関係等によれば、次の諸事情を指摘することができる。
 本件各仮換地指定処分により、本件各仮換地の地積は、本件各従前地の地積と比較していずれも減少するが、その減歩率は被上告人X1従前地については約7.86%、被上告人X2従前地〔1〕については約11.43%、被上告人X2従前地〔2〕については約11.29%であって、それ自体として、また、本件施行地区内における建付地全体の減歩率約9.02%と比較して、特に大きいものとはいえず、田全体の減歩率が約42.26%であることに照らしても、地積の上記減少をもって直ちに照応を欠くものとはいい難い。なお、仮換地の指定が地積の面で照応の原則に反しないかどうかを判断するに当たっては、現実に付与される仮換地の地積と従前地の実際の地積とを比較するのが最もその目的に合致するものと解され、上記のとおりこれらの地積を比較した減歩率を用いるのが相当である。
 本件各仮換地指定処分は、従前地とほぼ同じ位置に仮換地を指定するいわゆる現地仮換地であって、被上告人X1従前地及び被上告人X2従前地〔1〕上の建物の移転又は除却が必要となるものではなく、被上告人X2従前地〔2〕上の一部の建物については移転等が必要となるがその移転等が不可能又は著しく困難であるという事情はうかがわれない。また、本件各従前地上の駐車場並びに被上告人X2従前地〔1〕上の駐輪場及びガスボンベ置き場は本件各仮換地指定処分の影響を受けるが、これらを当該従前地に対応する仮換地内に移設するなどして本件各従前地上におけるこれらの施設と同等の施設を確保することが不可能又は著しく困難であるという事情はうかがわれない。そして、本件各従前地が接していた道路はいずれも拡幅され、その他周辺の都市施設が整備されることにより、これらの土地の利便性は向上するものである。
 また、上記のとおり、本件各仮換地指定処分はいわゆる現地仮換地であるため、位置、土質、水利について状況の変化はみられず、当該各土地が接する道路の拡幅による交通量のある程度の増加は予想されるものの、それによって環境に特段の変化が生ずると認めるべき事情はうかがわれない。
 加えて、上記のとおり、本件事業により当該各土地の利便性が向上することからすれば、これに伴い地価が上昇することが見込まれる。
 上記の諸事情を総合的に考慮すれば、本件各仮換地指定処分により本件各従前地の地積が前記の限度で減じられることを勘案しても、本件各仮換地は、本件各従前地の状況と比較して、いずれも社会通念上不照応なものとはいえないというべきである。
 したがって、本件各仮換地指定処分は、上告人が前記の裁量的判断を誤ってしたものとはいえず、照応の原則を定める法89条1項に違反するものではない。
(3)原審は、本件各従前地を建物の敷地として利用している被上告人らは、土地を売却する予定がないから、地価の上昇による現実的な利益を受けることはないとして、本件各仮換地指定処分により被上告人らが大きな不利益を受けるというが、本件事業による都市施設の整備等により、本件各仮換地の利用上の価値は本件各従前地と比較して上昇するというべきであり、また、それに伴って本件各仮換地の単位面積当たりの地価は本件各従前地の単位面積当たりの地価を上回ることが見込まれるところ、被上告人らは、このような地価の上昇による利益を、当該各土地を売却する予定の有無にかかわらず、資産価値の上昇として受けることになるというべきである。これらによれば、被上告人らは、本件各仮換地指定処分により、現実的な利益を受けることがないということはできず、当該各土地の利用上の価値及び資産価値の両面において相応の利益を受けるものというべきである。
 また、原審は、本件各従前地に対して付与されるべき仮換地の地積を算定するに当たり、路線価指数の算定の基準や土地利用修正係数の値といった土地評価の基準又は基準値が相当でなかったことから、本件各従前地の価値が過小に評価された結果、仮換地の地積が過小となったというが、本件各仮換地指定処分に当たって用いられた土地評価の基準及び基準値は、建設省(当時)が土地区画整理事業における土地評価の指針として策定した基準に基づいて定められたものであることがうかがわれ、その内容に別段不合理な点があるとは解し難く、他に、本件各従前地が不当に低く評価されていることをうかがわせる事情は見当たらない。
(4)以上のとおり、本件各仮換地指定処分は法89条1項に違反するものではなく、他にこれを違法と認めるに足りる事情もうかがわれないから、本件各仮換地指定処分が違法であるということはできない。
5 これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は以上と同旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、被上告人らの請求は理由がなく、これを棄却した第1審判決は正当であるから、被上告人らの控訴を棄却すべきである。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大橋正春 裁判官 田原睦夫 岡部喜代子 大谷剛彦 寺田逸郎)