債権差押命令取消及び申立て却下決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件 最高裁判所第二小法廷平成28年(許)第26号 平成29年5月10日決定

       主   文

1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。
3 原決定を別紙のとおり更正する。

       理   由

 抗告代理人長澤格ほかの抗告理由について
1 本件は,輸入業者である抗告人から依頼を受けてその輸入商品に関する信用状を発行した銀行である相手方が,抗告人につき再生手続開始の決定がされた後,上記輸入商品に対する譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として,抗告人が転売した上記輸入商品の売買代金債権の差押えを申し立てた事案である。相手方が占有改定の方法により上記輸入商品の引渡しを受けたか否かが争われている。
2 記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。
(1)抗告人と相手方は,平成24年9月5日,銀行取引約定,信用状取引に係る基本約定及び輸入担保荷物保管に関する約定を締結し,その中で,〔1〕抗告人が相手方から信用状の発行を受けて輸入する商品につき,相手方は,信用状条件に従って輸出業者の取引銀行等に対して補償債務を負担し,抗告人は,相手方に対して償還債務等を負うこと,〔2〕抗告人は,上記償還債務等を担保するため,相手方に対し上記の輸入商品に譲渡担保権を設定すること,〔3〕相手方は,抗告人に対し上記輸入商品の貸渡しを行い,抗告人にその受領、通関手続,運搬及び処分等を行う権限を与えることを合意した。
(2)相手方は,平成26年12月25日から平成27年1月29日までの間に,抗告人が原決定別紙商品目録記載の各商品(以下「本件商品」という。)を輸入するについて信用状3通を発行し,同月22日から同年2月19日までの間に,これらの信用状に基づく補償債務を弁済して,抗告人に対し,原決定別紙担保権・被担保債権・請求債権目録記載2(1)及び(2)の償還債務履行請求権等を取得した。 
(3)抗告人は,本件商品の売主との間でこれに関する輸入契約を締結し,本件商品は,同輸入契約に基づいて,船舶により中国から大阪南港へ輸送され,平成27年1月5日から同年2月5日までの間に,同港に到着した。抗告人は,その頃,海運貨物取扱業者(以下「海貨業者」という。)に対して,本件商品の受領,通関手続及び転売先への運搬を委託した。
(4)抗告人は,遅くとも平成27年2月6日までに,瀧定大阪株式会社又はその承継会社である第三債務者(以下,これらを併せて「本件買主」という。)に対し,本件商品の一部(以下「本件転売商品」という。)を売り渡した。
(5)抗告人の上記(3)の委託を受けた海貨業者は,平成27年1月5日から同年2月6日までの間に,本件商品を大阪南港で受領し,通関手続を行った上で,自ら又はその再委託を受けた運送業者によって,本件転売商品を本件買主の指定先まで運搬した。抗告人は,本件商品を直接占有したことはなかった。
 なお,輸入取引においては,輸入業者から委託を受けた海貨業者によって輸入商品の受領及び通関手続が行われ,輸入業者が目的物を直接占有することなく転売を行うことは,一般的であった。また,信用状取引においては,信用状を発行した金融機関が輸入商品につき譲渡担保権の設定を受けることが一般的であり,抗告人の上記委託を受けた海貨業者には,本件商品が信用状取引によって輸入されたものであることが明らかにされていた。
(6)抗告人は,平成27年2月9日,再生手続開始の申立てをし,同月20日,再生手続開始の決定を受けた。抗告人は,上記申立てをしたことにより,前記(1)の銀行取引約定に基づき,前記(2)の償還債務履行請求権等に係る債務について期限の利益を失った。
(7)相手方は,平成27年3月11日,大阪地方裁判所に対し,前記(2)の償還債務履行請求権等のうち,本件転売商品の輸入のために相手方が負担した輸入代金に対応する部分を請求債権とし,前記(1)の譲渡担保権設定の合意に基づき本件商品に設定された譲渡担保権(以下「本件譲渡担保権」という。)に基づく物上代位権の行使として,抗告人の第三債務者に対する本件転売商品の各売買代金債権(以下「本件転売代金債権」という。)の差押えの申立て(以下「本件申立て」という。)をした。大阪地方裁判所は,同月26日,本件申立てに基づき,債権差押命令を発付した。
(8)抗告人は,本件譲渡担保権に基づく物上代位権を行使するためには,再生手続開始の時点で本件譲渡担保権につき対抗要件を具備している必要があるところ,抗告人が本件商品を直接占有していない以上,相手方が抗告人から占有改定の方法により本件商品の引渡しを受けることはできず,相手方は対抗要件を具備していないから,上記物上代位権を行使することはできないなどとして,上記(7)の命令の取消しを求める執行抗告をした。
 大阪地方裁判所は,民事執行法20条,民訴法333条の規定に基づき,上記命令を取消して,本件申立てを却下する旨の決定をしたため,相手方が,同決定に対し,執行抗告をした。原審は,相手方が占有改定の方法により本件商品の引渡しを受けたとして,本件譲渡担保権につき対抗要件を具備したことを認め,上記決定を取り消して,債権差押命令を発付すべきものとした。
3 上記の経緯によれば,抗告人は本件譲渡担保権の目的物である本件商品について直接占有したことはないものの,輸入取引においては,輸入業者から委託を受けた海貨業者によって輸入商品の受領等が行われ,輸入業者が目的物を直接占有することなく転売を行うことは,一般的であったというのであり,抗告人と相手方との間においては,このような輸入取引の実情の下,相手方が,信用状の発行によって補償債務を負担することとされる商品について譲渡担保権の設定を受けるに当たり,抗告人に対し当該商品の貸渡しを行い,その受領,通関手続,運搬及び処分等の権限を与える旨の合意がされている。一方,抗告人の海貨業者に対する本件商品の受領等に関する委託も,本件商品の輸入につき信用状が発行され,同信用状を発行した金融機関が譲渡担保権者として本件商品の引渡しを占有改定の方法により受けることとされていることを当然の前提とするものであったといえる。そして,海貨業者は,上記の委託に基づいて本件商品を受領するなどしたものである。
 以上の事実関係の下においては,本件商品の輸入について信用状を発行した銀行である相手方は,抗告人から占有改定の方法により本件商品の引渡しを受けたものと解するのが相当である。そうすると,相手方は,抗告人につき再生手続が開始した場合において本件譲渡担保権を別除権として行使することができるというべきであるから,本件譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として,本件転売代金債権を差し押さえることができる。
4 原審の判断は,以上と同旨をいうものとして是認することができる。所論引用の大審院判例は,事案を異にし,本件に適切でない。論旨は採用することができない。
5 なお,原決定の理由に照らすと,原決定は債権差押命令を発付する趣旨のものであることが明らかであり,原決定の当事者の表示及び主文には明白な誤りがあるから,職権により主文第3項のとおり更正する。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 山本庸幸 裁判官 菅野博之)