再生債権査定異議事件 最高裁判所第二小法廷平成22年(受)1207号 平成24年12月21日判決

       主   文

原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。

       理   由

 上告代理人中村直人、同倉橋雄作の上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について
1 本件は、上告人を再生債務者とする再生手続において、被上告人が届出をした再生債権につき、その額を2615万円及びこれに対する平成20年8月18日から支払済みまで年5%の割合による金員と査定する旨の決定(以下「本件査定決定」という。)がされたことから、これを不服とする上告人がその変更を求める異議の訴えである。
2 原審の確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
(1)上告人は、不動産に関するコンサルティング業務等を目的とする株式会社であり、その株式(以下「アーバン株」という。)は、平成14年3月から平成20年9月までの間、東京証券取引所市場第一部に上場されていた。
(2)上告人が平成20年6月26日に関東財務局長に提出し、公衆の縦覧に供された臨時報告書(以下「本件臨時報告書」という。)には、上告人が発行する転換社債型新株予約権付社債によって調達する資金の使途等について、金融商品取引法21条の2第1項にいう虚偽記載等があった(以下、本件臨時報告書における上記の虚偽記載等を「本件虚偽記載等」という。)。
(3)上告人は、平成20年8月13日、関東財務局長に対し、本件臨時報告書の訂正報告書を提出した上、本件虚偽記載等の事実を公表した。併せて、上告人は、同日、東京地方裁判所に再生手続開始の申立てをし、同月18日、再生手続開始の決定を受けた。
(4)アーバン株は、平成20年8月14日以降、大幅に値下がりし、同年9月14日、上場廃止となった。
(5)被上告人は、平成20年8月11日、取引所市場において、アーバン株35万株を2965万円で購入し、上記公表後の同月15日、その全部を350万円で売却した。
(6)被上告人は、平成20年9月17日、上告人の再生手続において、本件虚偽記載等を理由とする金融商品取引法21条の2に基づく損害賠償債権及びその不履行による損害金債権につき、再生債権として、その額を4550万円及びこれに対する同年8月18日から支払済みまで年5%の割合による金員とする届出をしたところ、上告人は、その全額を認めなかった。そこで、被上告人が査定の申立てをしたところ、東京地方裁判所が上記各債権につき本件査定決定をしたため、上告人は、これを不服として本件訴えを提起した。
3 原審は、上記事実関係の下において、本件虚偽記載等がされていなければ、被上告人がアーバン株を購入することはなかったと認定した上で、本件虚偽記載等により被上告人に生じた損害の額につき、次のとおり判断して、本件査定決定を認可すべきものとした。
 被上告人に生じた損害は、アーバン株の取得価額である2965万円から取得当時のアーバン株が本来有したものと想定される価額(想定価額)を差し引いたものというべきである。そして、被上告人がアーバン株を取得した時点の想定価額は、その処分価額である350万円を超えるものではないと推認するのが相当であるから、上記損害の額は2615万円と認められる。
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 臨時報告書に虚偽記載等がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が、当該虚偽記載等がなければこれを取得することはなかったとみるべき場合、当該虚偽記載等により上記投資者に生じた損害の額、すなわち当該虚偽記載等と相当因果関係のある損害の額は、上記投資者が当該虚偽記載等の公表後、上記株式を取引所市場において処分したときは、その取得価額と処分価額との差額を基礎とし、経済情勢、市場動向、当該上場株式を発行する会社の業績など当該虚偽記載等に起因しない市場価額の下落分を上記差額から控除して,これを算定すべきである(最高裁平成21年(受)第1177号同23年9月13日第三小法廷判決・民集65巻6号2511頁参照)。
 これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件虚偽記載等と相当因果関係のある損害の額について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。 
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 竹内行夫 裁判官 須藤正彦 千葉勝美 小貫芳信