危険運転致死傷幇助被告事件 最高裁判所第三小法廷平成23年(あ)第2249号 平成25年4月15日決定

       主   文

本件各上告を棄却する。

       理   由

 被告人Aの弁護人岩本憲武の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であり,被告人Bの弁護人松山馨の上告趣意のうち,憲法31条,38条2項違反をいう点は,記録を調べても,自白の任意性を疑うに足りる証跡は認められないから,前提を欠き,その余は,単なる法令違反,事実誤認の主張であって、いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 なお,所論に鑑み,被告人両名に対する危険運転致死傷幇助罪の成否について,職権で判断する。 
1 原判決及びその是認する第1審判決の認定によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。
(1)被告人A(当時45歳)及び被告人B(当時43歳)は,運送会社に勤務する同僚運転手であり,同社に勤務するC(当時32歳)とは,仕事の指導等をする先輩の関係にあるのみならず,職場内の遊び仲間でもあった。
(2)被告人両名は,平成20年2月17日午後1時30分頃から同日午後6時20分頃までの間,飲食店でCらと共に飲酒をしたところ,Cが高度に酩酊した様子をその場で認識したばかりでなく,更に飲酒をするため,別の場所に向かってCがスポーツカータイプの普通乗用自動車(以下「本件車両」という。)で疾走する様子を後から追う車内から見て,「あんなに飛ばして大丈夫かな」などと話し,Cの運転を心配するほどであった。
(3)被告人両名は,目的の店に到着後,同店駐車場に駐車中の本件車両に乗り込んで,Cと共に同店の開店を待つうち,同日午後7時10分前後頃,Cから,「まだ時間あるんですよね。一回りしてきましょうか」などと,開店までの待ち時間に,本件車両に被告人両名を同乗させて付近の道路を走行させることの了解を求められた折,被告人Aが,顔をCに向けて頷くなどし,被告人Bが,「そうしようか」などと答え,それぞれ了解を与えた。
(4)これを受けて,Cは,アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で,上記駐車場から本件車両を発進させてこれを走行させ,これにより,同日午後7時25分頃,埼玉県熊谷市内の道路において,本件車両を時速100ないし120kmで走行させて対向車線に進出させ,対向車2台に順次衝突させて,その乗員のうち2名を死亡させ,4名に傷害を負わせる本件事故を起こした。被告人両名は,その間,先に了解を与えた際の態度を変えず,Cの運転を制止することなく本件車両に同乗し,これを黙認し続けていた。
2 所論は,被告人両名がCによる本件車両の運転を了解し,その走行を黙認しただけでは被告人両名に危険運転致死傷幇助罪は成立しないという。
 そこで検討するに,刑法62条1項の従犯とは,他人の犯罪に加功する意思をもって,有形,無形の方法によりこれを幇助し,他人の犯罪を容易ならしむるものである(最高裁昭和24年(れ)第1506号同年10月1日第二小法廷判決・刑集3巻10号1629頁参照)ところ,前記1のとおりのCと被告人両名との関係,Cが被告人両名に本件車両発進につき了解を求めるに至った経緯及び状況,これに対する被告人両名の応答態度等に照らせば,Cが本件車両を運転するについては,先輩であり,同乗している被告人両名の意向を確認し,了解を得られたことが重要な契機となっている一方,被告人両名は,Cがアルコールの影響により正常な運転が困難な状態であることを認識しながら,本件車両発進に了解を与え,そのCの運転を制止することなくそのまま本件車両に同乗してこれを黙認し続けたと認められるのであるから,上記の被告人両名の了解とこれに続く黙認という行為が,Cの運転の意思をより強固なものにすることにより,Cの危険運転致死傷罪を容易にしたことは明らかであって,被告人両名に危険運転致死傷幇助罪が成立するというべきである。これと同旨の原判断は相当である。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 寺田逸郎 裁判官 田原睦夫 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 大橋正春)