各刑の執行猶予の言渡し取消し決定に対する各即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件 最高裁判所第二小法廷平成29年(し)第8号 平成29年1月16日決定

       主   文

各原決定を取り消す。
各事件を高松高等裁判所に差し戻す。

       理   由

 本件各抗告の趣意は,いずれも,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反の主張であって,刑訴法433条の抗告理由に当たらない。
 しかしながら、職権により調査すると,各原決定は,以下の理由により取消しを免れない。 
1 各原決定が是認する各原々決定及び記録によれば,次の事実が認められる。
 申立人は,(1)平成26年1月28日,窃盗罪により,懲役2年,3年間執行猶予を言い渡され,この判決が同年2月13日に確定し,(2)平成27年5月14日,窃盗未遂罪により,懲役1年,4年間執行猶予,付保護観察を言い渡され,この判決が同月29日に確定していたところ,(3)平成28年6月18日から同年7月23日までの間,3件にわたる窃盗に及び,これにつき同年11月21日,懲役6月に処する有罪判決を宣告され,控訴を申し立て,控訴審係属中である。
 検察官は,前記(1)(2)の各刑の執行猶予の言渡し取消しを請求したところ,原々審は,前記(3)の窃盗3件と同一の事実を認定し,保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず,その情状が重いと認め,刑法26条の2第2号,刑訴法349条の2第1項により前記(2)の刑の執行猶予の言渡しを取消し,刑法26条の3,刑訴法349条の2第1項により前記(1)の刑の執行猶予の言渡しを取り消す各原々決定をしたが,各原々決定の謄本を,いずれも検察官と原々審で申立人が選任した弁護人2名のうち主任弁護人に対して送達したものの,申立人に対して送達しなかった。
 申立人は,前記弁護人2名を原審の弁護人として改めて選任し,各原々決定に対してそれぞれ即時抗告を申し立てたが,原審は,本件各即時抗告をいずれも棄却した。
 なお,前記弁護人2名は,刑訴規則62条1項の送達受取人には選任されていなかった。
2 刑訴規則34条は,「裁判の告知は,公判廷においては,宣告によつてこれをし,その他の場合には,裁判書の謄本を送達してこれをしなければならない。但し,特別の定のある場合は,この限りでない。」と規定しているところ,刑の執行猶予の言渡し取消し請求において,同条により刑の執行猶予の言渡し取消し決定(刑訴法349条の2第1項)の謄本の送達を受けるべき者は,検察官及び猶予の言渡しを受けた者(被請求人)であり,また,同謄本が,被請求人の選任した弁護人に対して送達されたからといって,被請求人に対する送達が行われたものと同じ法的な効果は生じないと解するのが相当である。
 そうすると,本件において,原々審は,各原々決定の謄本を,本件各刑の執行猶予の言渡し取消し請求の被請求人であった申立人の選任した弁護人に対して送達するにとどまり,申立人に対して送達していないから,各原々決定の告知の手続に刑訴規則34条の解釈適用を誤った違法があり,これらを是正せずに各即時抗告を棄却した各原決定も同様の違法があるものといわざるを得ず,これらの誤りは,各原決定に影響を及ぼし,各原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。
 よって,刑訴法411条1号を準用し,同法434条,426条2項により,各原決定を取り消し,各原々決定の謄本が申立人に対して送達された後各即時抗告に対する判断が行われるのが相当であるから,各事件を原裁判所である高松高等裁判所に差し戻すこととし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 鬼丸かおる 裁判官 小貫芳信 裁判官 山本庸幸 裁判官 菅野博之)