営利誘拐幇助,逮捕監禁幇助,強盗殺人幇助,殺人被告事件 最高裁判所第三小法廷平成25年(あ)第755号 平成27年3月10日判決

       主   文

本件上告を棄却する。
当審における未決勾留日数中300日を本刑に算入する。

       理   由

1 弁護人塚田裕二の上告趣意のうち,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(以下「裁判員法」という。)71条以下の規定違憲をいう点について
所論は,裁判員法71条以下が定める区分審理決定がされた場合の審理及び裁判(以下「区分審理制度」という。)は,公平な裁判所の裁判を定めた憲法37条1項に違反する,というものである。
 そこで検討すると,裁判員法は,同一の被告人について,裁判員の参加する合議体で取り扱うべき事件を含む複数の被告事件の弁論を併合した場合において,裁判員の負担に関する事情を考慮し,その円滑な選任又は職務の遂行を確保するため特に必要があると認められるときは,相当でないと認められるときを除き,併合した事件のうちの一部の事件を区分し,順次,この区分した事件(区分事件)ごとに審理する旨の区分審理決定をすることができることとしている(同法71条1項)。この決定をした場合には,区分事件ごとに審理を担当する裁判員を選任して審理し,同法78条,79条に定める部分判決を行わなければならず(区分事件審判),区分事件審判に係る職務を行う裁判員の任務は,当該区分事件について部分判決の宣告をしたときに終了するものとされ(同法84条1号),最後の事件を審判する合議体(新たに選任された裁判員が加わった合議体)は,区分事件以外の事件を審理するとともに,区分事件に関しては部分判決を前提に必要な審理をし,併合した事件全体について裁判を行わなければならない(併合事件審判)とされている(同法86条1項)。
 区分審理制度は,裁判員裁判における審理及び裁判の特例であるところ,区分事件審判及び併合事件審判のそれぞれにおいて,身分保障の下,独立して職権を行使することが保障された裁判官と,公平性,中立性を確保できるよう配慮された手続の下に選任された裁判員とによって裁判体が構成されていることや,裁判官が裁判の基本的な担い手とされていること等は,区分審理決定がされていない裁判員裁判の場合と何ら変わるところはない。
 また,区分事件審判を行う裁判体と併合事件審判を行う裁判体では,裁判員の構成が異なり,併合事件審判においては,部分判決で判断が示された事項については,原則としてこれによるものとされているが(同法86条2項),区分審理制度は,事件が併合されていることを前提としながら事件を区分し,区分した事件について順次審理,判決するものであるから,区分事件審判を担当する裁判体と併合事件審判を担当する裁判体とは,裁判員が新たに選任されてその構成は異なるものの,事件を併合して審判する訴訟法上の裁判所における裁判体の構成の一部変更とみることができ,先行の区分事件審判の裁判体の示した判断を前提に後行の裁判体が裁判所としての終局判決をすることは,制度的に妨げられるものではない。そして,併合事件審判を担当する裁判体は,部分判決で示された事項によるだけでなく,併合事件審判をするのに必要な範囲で,区分事件の公判手続を更新して証拠を取り調べなければならないとされており(同法87条),区分事件の審理手続や部分判決に重大な瑕疵がある場合等には,当該部分判決によらずに(同法86条2項,3項),区分事件の審理をしなければならないとされている。
 以上によれば,区分審理制度においては,区分事件審判及び併合事件審判の全体として公平な裁判所による法と証拠に基づく適正な裁判が行われることが制度的に十分保障されているといえる。したがって,区分審理制度は憲法37条1項に違反せず,このように解すべきことは当裁判所の判例(最高裁昭和22年(れ)第171号同23年5月5日大法廷判決・刑集2巻5号447頁,同平成22年(あ)第1196号同23年11月16日大法廷判決・刑集65巻8号1285頁)及びその趣旨に徴して明らかである。所論は理由がない。
2 同弁護人のその余の上告趣意及び被告人本人の上告趣意について
 同弁護人のその余の上告趣意のうち,同一証人の証言の信用性判断が部分判決相互間で区々となったことを理由として憲法37条1項違反をいう点は,証拠とされた証言がそれぞれ別のものであるから,その信用性判断が分かれたとしても,裁判所の公平さとは直接関連を有するものではなく,共犯者の自白のみに基づいて有罪が認定されたことを理由として憲法38条3項違反をいう点は,第1審判決及び原判決が所論指摘のような認定をしたものではないことが明らかであるから,いずれも前提を欠き,その余は,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であり,被告人本人の上告趣意は,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
3 よって、同法408条,181条1項ただし書,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官大谷剛彦の補足意見がある。 

 裁判官大谷剛彦の補足意見は,次のとおりである。

 区分審理制度の憲法適合性については,法廷意見のとおりであるが,本件事案に鑑み,制度の運用につき若干の補足をしたい。
 本件は,第1審において,〔1〕Aに対する殺人被告事件,〔2〕Bに対する強盗殺人等被告事件,〔3〕Cに対する保険金殺人被告事件という,3件の裁判員裁判対象事件が併合決定され,公判前整理手続において裁判所により区分審理決定がなされ,〔1〕と〔2〕をそれぞれ区分事件として順次審理し,〔3〕を最後に審理する旨の決定もなされた。区分事件のそれぞれについて審判が行われ,〔1〕については被告人に実行行為及び共謀が認められず無罪の部分判決が,〔2〕については共謀は認められないが幇助の限度で有罪の部分判決がなされ,最後の〔3〕については争いなく有罪とされ,〔2〕及び〔3〕の全体の量刑として無期懲役が言い渡された。検察官,被告人の双方から控訴が申し立てられたが,原審はいずれの控訴も棄却した。〔1〕と〔2〕は,重要な証拠方法(共犯者の供述,被告人の供述)は共通であるが,その評価は,各区分事件審判の部分判決において分かれている。その判断が論理則,経験則等に照らして不合理であるといえないことは,原審の述べるとおりである。
 区分審理制度は,裁判員法71条により明らかなとおり,同一の被告人に対し,複数の事件が起訴され,その審理が長期に及ぶ場合などについて,裁判員の負担が著しく大きくならないようにし,長期間の審理に応じられる国民のみならず,幅広い層からより多くの国民の参加を可能とする制度が要請されることと,一方で複数の事件を区分して審理することにより,犯罪の証明に支障を生じ事案の真相が明らかにならなかったり,被告人の防御に不利益を生じたりする不都合があってはならないという要請があることも踏まえた制度である。
 上記の趣旨を踏まえて制度が適切に運用されるならば,裁判員裁判の国民の負担を軽減しつつ,裁判員裁判の円滑な実施に資することは明らかであるが,これにふさわしい事件の選択や,先行事件に関与しない裁判員が構成に加わる後行事件の審理手続に慎重を期さないと,場合によっては上記のような不都合や裁判員裁判における適正な判断の確保への影響が生じかねない。例えば,併合した裁判員裁判対象事件が相互に関連して一括して審理しなくては適正な事実認定に困難が想定されるケースや,重要証拠や背景事情が共通するなど事件を一括して審理しなければ統一的かつ矛盾のない判断に困難が想定されるケースに,あえて区分審理を選択するのは不相当であると考えられる。また,仮にこのような区分審理により整合のとれない部分判決がなされるとすれば,その区分事件の審判に直接関与しない併合事件審判の構成裁判員は,量刑に当たっても適切な心証を得難く,また直接関与した構成裁判官との円滑な協働に支障を生じないとも限らない。
 したがって,裁判所は,複数の裁判員裁判対象事件が起訴された場合の審理方法の選択に際しては,公判前整理手続において,検察官の立証方針や弁護人の防御方針を踏まえた上で,当事者と十分な議論を尽くし,区分審理を選択することの当否,適否を慎重に見極める必要があろう。また,最後の併合事件審判を担当する裁判体の審理に向けた適切な部分判決の在り方,区分事件の公判手続の更新の充実や,構成裁判官による必要かつ十分な裁判員への説明も求められよう。区分審理制度の適切な運営につき,引き続き裁判官の研究が望まれる。
(裁判長裁判官 大谷剛彦 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大橋正春 裁判官 木内道祥 裁判官 山崎敏充)