固定資産税等賦課徴収懈怠違法確認等請求事件 最高裁判所第二小法廷平成26年(行ヒ)第190号 平成27年7月17日判決

       主   文

原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

       理   由

 上告代理人比嘉廉丈ほかの上告受理申立て理由第4について
1 本件は,堺市の住民である被上告人が,登記簿の表題部の所有者欄に「大字西」などと記載されている同市内の土地(第1審判決別紙1-1記載の各土地のうち番号1から14まで,同17から20まで及び同31から34まで。以下,その番号に従い「本件土地1」などといい,併せて「本件各土地」という。)につき,平成18年度から同20年度まで(ただし,本件土地7については平成20年度を除く。)について当時の堺市長がその固定資産税及び都市計画税(ただし,本件土地10,13,14,17及び18については固定資産税に限る。以下「本件固定資産税等」という。)の賦課徴収を違法に怠ったため,地方税法18条1項の徴収権に係る消滅時効の完成により堺市に損害が生じたと主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,同市の執行機関である上告人を相手に,本件固定資産税等の徴収権に係る消滅時効が完成するまでの期間において堺市長の職にあった者(以下「本件各市長」という。)及びその賦課徴収に係る専決権限を有する各市税事務所長の職にあった者(以下「本件各専決権者」という。)に対して本件固定資産税等相当額(ただし,各人の在職期間及び管轄区域に応じて各自の賦課徴収に係る権限の行使を怠った部分に限る。)の損害賠償請求をすること等を求める住民訴訟である。
2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)地方税法343条1項は,固定資産税は固定資産の所有者に課する旨を定め,同条2項前段は,同条1項の所有者とは,土地又は家屋については,登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者をいう旨を定めており,同条2項後段は,所有者として登記又は登録されている個人が賦課期日前に死亡しているとき,若しくは所有者として登記又は登録されている法人が同日前に消滅しているとき,又は所有者として登記されている同法348条1項の者(国,都道府県,市町村,特別区等)が同日前に所有者でなくなっているときは,同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする旨を定めている。なお,地方税法702条1項所定の土地又は家屋を課税客体とする都市計画税の納税義務者は,当該土地又は家屋の固定資産税の納税義務者と同じである(同条,同法343条(3項,8項及び9項を除く。))。
(2)ア 本件固定資産税等の賦課期日(当該年度の初日の属する年の1月1日(地方税法359条,702条の6))においては,本件土地31を除き,本件各土地の登記簿に権利部の登記はなく,その表題部の所有者欄には,本件土地1から9までにつき「大字西」,本件土地10につき「大字原寺,大字西,大字北」,本件土地11及び12につき「踞尾共有地」,本件土地13,17,19及び20につき「共有地」,本件土地14につき「上神谷村大字畑」,本件土地18につき「鶴田村大字菱木,鶴田村大字草部」,本件土地32及び33につき「大字下」,本件土地34につき「大字下共有地」とそれぞれ記載されていた。他方,本件土地31については,本件固定資産税等の賦課期日において,その登記簿の権利部に堺市が所有者として登記されていたが,同土地の所有権は同市には帰属していなかった。
イ 本件各土地は,旧来はため池又はその堤とうであった土地であるが,本件固定資産税等の賦課期日における現況は宅地又は雑種地等であり,いずれも当該各土地の所在する地区の住民の総有に係る財産として,その異動状況の把握のために堺市が作成する財産台帳に登録されている(ただし,本件土地7は平成19年1月に,本件土地11及び12は同20年12月にそれぞれ第三者に売却されたため,これらの土地については上記財産台帳に「処分済」と記載されている。)。そして,上記の財産として上記財産台帳に登録されている財産(以下「台帳登録財産」という。)の管理及び処分については,堺市の定める要綱等において,その決定につき当該地区の住民により組織されている自治会又は町会の総会の決議によることが基本とされている。
(3)本件固定資産税等については,納税義務者を特定することができないとして,その賦課徴収は行われていない。そして,堺市の固定資産税及び都市計画税の法定納期限は毎年5月31日であることから(地方税法11条の4第1項,堺市市税条例(昭和41年堺市条例第3号)39条1項,99条),本件固定資産税等のうち,平成18年度のものは平成23年5月31日の経過により,平成19年度のものは平成24年5月31日の経過により,平成20年度のものは平成25年5月31日の経過により,それぞれその徴収権が時効により消滅している(同法18条1項)。
3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断して,本件固定資産税等の納税義務者は本件各土地の所在する地区の住民により組織されている自治会又は町会(以下「関係自治会等」という。)であり,本件各専決権者の一部及び本件各市長は上記納税義務者を特定することができたなどとして,被上告人の請求を一部認容すべきものとした。
(1)関係自治会等は,本件固定資産税等の賦課期日における本件各土地の登記簿上の所有名義人であるとはいえないから,地方税法343条2項前段に基づいて本件固定資産税等の納税義務者に当たるとみることはできない。
(2)他方,一部の土地について固定資産税の納税義務者を特定することができないとしてその賦課徴収を留保し続けることは課税上の衡平を著しく害する結果を招来するものといえるところ,関係自治会等は,台帳登録財産である本件各土地につき,堺市により同市の定める要綱等に従ってその管理処分権限を有する団体として取り扱われることなどから,本件各土地の実質的な所有者と評価することができる。したがって,本件各土地のうち本件土地31以外のものについては,その登記簿の表題部の所有者欄に記載されている「大字西」等の名義によって表章される旧来の地縁団体は消滅しているものと同視し,地方税法343条2項後段を類推適用して,関係自治会等が同項後段にいう「現に所有している者」として当該土地の本件固定資産税等の納税義務者に当たるとみるべきである。また,本件土地31については,同項後段にいう「所有者として登記されている第348条第1項の者が同日前に所有者でなくなっているとき」に該当するから,上記と同様に,関係自治会等が同法343条2項後段にいう「現に所有している者」として同土地の本件固定資産税等の納税義務者に当たると解すべきである。
4 しかしながら,原審の上記3(1)の判断は是認することができるが,同(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)憲法は,国民は法律の定めるところにより納税の義務を負うことを定め(30条),新たに租税を課し又は現行の租税を変更するには,法律又は法律の定める条件によることを必要としており(84条),それゆえ,課税要件及び租税の賦課徴収の手続は,法律で明確に定めることが必要である(最高裁昭和55年(行ツ)第15号同60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁参照)。そして,このような租税法律主義の原則に照らすと,租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではないというべきであり(最高裁昭和43年(行ツ)第90号同48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1333頁,最高裁平成19年(行ヒ)第105号同22年3月2日第三小法廷判決・民集64巻2号420頁参照),このことは,地方税法343条の規定の下における固定資産税の納税義務者の確定においても同様であり,一部の土地についてその納税義務者を特定し得ない特殊な事情があるためにその賦課徴収をすることができない場合が生じ得るとしても変わるものではない。
(2)ある土地につき地方税法343条2項後段により固定資産税の納税義務者に該当するというためには,少なくとも,固定資産税の賦課期日において当該者が同項後段にいう「当該土地…を現に所有している者」であること,すなわち,上記賦課期日において当該土地の所有権が当該者に現に帰属していたことが必要である。そして,上記(1)において説示したところに照らせば,ある土地につき,固定資産税の賦課期日においてその所有権が当該者に現に帰属していたことを確定することなく,同項後段に基づいて当該者を固定資産税の納税義務者とすることはできないものというべきである。
 しかるに,原審は,本件各土地につき,本件固定資産税等の賦課期日におけるその所有権の帰属を確定することなく、前記2(2)イの要綱等における取扱い等に照らして関係自治会等をその実質的な所有者と評価することができるなどとして,地方税法343条2項後段の規定を類推適用することにより,関係自治会等が本件固定資産税等の納税義務者に該当する旨の判断をしたものであり,このような原審の判断には,同項後段の解釈適用を誤った違法があるというべきである。
 なお,原審は,前記2(2)イのとおり,堺市の定める要綱等において台帳登録財産の管理及び処分の決定につき当該地区の自治会等の総会の決議に基づくことが基本とされていること等をもって,台帳登録財産である本件各土地につき,関係自治会等が堺市により上記の要綱等に従ってその管理処分権限を有する団体として取り扱われているなどとして,その実質的な所有者と評価することができる旨をいうが,原審の摘示する上記の事情によっても,本件固定資産税等の賦課期日においてその所有権が関係自治会等に現に帰属していたことを基礎付けることはできない。 
(3)以上と異なる見解に立って,地方税法343条2項後段の類推適用により関係自治会等が本件固定資産税等の納税義務者に当たるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。
 以上によれば,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,本件各土地につき原審において判断されていない地方税法343条4項の適用の有無等について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鬼丸かおる 裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信 裁判官 山本庸幸)