固定資産評価審査決定取消等請求事件 最高裁判所第二小法廷平成24年(行ヒ)第79号 平成25年7月12日判決

       主   文

原判決中上告人に関する部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。

       理   由

 上告代理人吉田修平,同友田順,同沼井英明の上告受理申立て理由第3及び第4の4について
1 本件は,東京都府中市内の区分建物(不動産登記法2条22号)を共有し,その敷地権(同法44条1項9号)に係る固定資産税の納税義務を負う上告人が,府中市長により決定され土地課税台帳に登録された上記敷地権の目的である各土地の平成21年度の価格を不服として,府中市固定資産評価審査委員会(以下「本件委員会」という。)に対し審査の申出をしたところ,これを棄却する旨の決定(以下「本件決定」という。)を受けたため,被上告人を相手に,その取消し等を求める事案である。
2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)上告人及びAは,上告人を登記名義人として,原判決別紙物件目録(専有部分の建物の表示)記載の区分建物及びその敷地権を共有している。この敷地権の目的である土地が同目録(敷地権の目的である土地の表示)記載1ないし9の各土地(以下「本件各土地」という。)である。
(2)本件各土地を含む一帯の土地は,共同住宅である車返団地の敷地等であり,府中市の都市計画において都市計画法8条1項1号所定の第一種中高層住居専用地域と定められている。当該地域の指定建ぺい率は60%,指定容積率は200%である(同条3項2号イ,ハ)。
 車返団地は,府中市の都市計画において定められた同法11条1項8号所定の「一団地の住宅施設」であるところ,本件各土地のうち車返団地の敷地である原判決別紙課税明細目録記載1ないし3の各土地(同別紙物件目録(敷地権の目的である土地の表示)記載1,2及び5の各土地の課税対象部分。以下「本件敷地部分」という。)については,上記都市計画において,建ぺい率が20%に,容積率が80%にそれぞれ制限されている(同条2項,同法施行令6条1項7号)。
(3)府中市長は,本件各土地について,地方税法341条6号の基準年度に当たる平成21年度の価格を決定し,これを土地課税台帳に登録した。このうち本件敷地部分につき登録された価格(以下「本件敷地登録価格」という。)は,原判決別紙課税明細目録記載1の土地については26億0357万6166円,同2の土地については2億5557万4844円、同3の土地については25億9418万6372円であり,これらの1平方メートル当たりの価格は16万4560円である。
(4)上告人は,平成21年7月2日頃,本件委員会に対し,本件各土地に係る平成21年度の土地課税台帳に登録された価格につき,上記(2)の建ぺい率及び容積率の制限を適切に考慮していないとして審査の申出をしたところ,本件委員会は,上告人の審査の申出を棄却する旨の本件決定をした。 
3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,上告人の請求をいずれも棄却すべきものとした。
 地方税法434条に基づく固定資産評価審査委員会の決定の取消しの訴えにおいては,原則として同法432条に基づく固定資産課税台帳に登録された価格が適正な時価を超えた違法があるかどうかが審理判断の対象となるべきものであり,例外的に固定資産評価審査委員会の審査決定の手続に不服審査制度の根幹に関わり結論に影響がなくても違法として取り消されなければ制度の趣旨を没却することとなるような重大な手続違反があった場合に限り,固定資産評価審査委員会の決定を取り消すこととなると解すべきである。上告人は,本件敷地登録価格につき,その決定には標準宅地の適正な時価の評定の誤りなど多くの誤りがあり,同法388条1項の固定資産評価基準(以下「評価基準」という。)によって決定された価格とはいえない旨主張するが,それは,上記の重大な手続違反を主張するものではなく,適正な時価を超えた違法があると主張するに帰するものであるから,本件敷地登録価格の決定の適法性の判断に当たっては適正な時価を超えているかどうかを検討すれば必要かつ十分である。
 そして,本件敷地部分に関しては,上告人と被上告人が提出した各鑑定意見書により認められる諸般の事情を総合考慮すると,平成21年度の賦課期日における本件敷地部分の適正な時価は本件敷地登録価格を上回るものと認められるから,本件敷地登録価格の決定が違法となることはない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)ア 地方税法は,土地に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準を,当該土地の基準年度に係る賦課期日における価格で土地課税台帳又は土地補充課税台帳に登録されたもの(以下,これらの台帳に登録された価格を「登録価格」という。)とし(349条1項),上記の価格とは「適正な時価」をいうと定めている(341条5号)ところ,上記の適正な時価とは,正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格,すなわち,客観的な交換価値をいうと解される。したがって,土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格が同期日における当該土地の客観的な交換価値を上回れば,その登録価格の決定は違法となる(最高裁平成10年(行ヒ)第41号同15年6月26日第一小法廷判決・民集57巻6号723頁参照)。
イ また,地方税法は,固定資産税の課税標準に係る固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を総務大臣(平成13年1月5日以前は自治大臣。以下同じ。)の告示に係る評価基準に委ね(388条1項),市町村長は,評価基準によって,固定資産の価格を決定しなければならないと定めている(403条1項)。これは,全国一律の統一的な評価基準による評価によって,各市町村全体の評価の均衡を図り,評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消するために,固定資産の価格は評価基準によって決定されることを要するものとする趣旨であると解され(前掲最高裁平成15年6月26日第一小法廷判決参照),これを受けて全国一律に適用される評価基準として昭和38年自治省告示第158号が定められ,その後数次の改正が行われている。これらの地方税法の規定及びその趣旨等に鑑みれば,固定資産税の課税においてこのような全国一律の統一的な評価基準に従って公平な評価を受ける利益は,適正な時価との多寡の問題とは別にそれ自体が地方税法上保護されるべきものということができる。したがって,土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格が評価基準によって決定される価格を上回る場合には,同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るか否かにかかわらず,その登録価格の決定は違法となるものというべきである。
ウ そして,地方税法は固定資産税の課税標準に係る適正な時価を算定するための技術的かつ細目的な基準の定めを総務大臣の告示に係る評価基準に委任したものであること等からすると,評価対象の土地に適用される評価基準の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであり,かつ,当該土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格がその評価方法に従って決定された価格を上回るものでない場合には,その登録価格は,その評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情の存しない限り,同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るものではないと推認するのが相当である(最高裁平成11年(行ヒ)第182号同15年7月18日第二小法廷判決・裁判集民事210号283頁,最高裁平成18年(行ヒ)第179号同21年6月5日第二小法廷判決・裁判集民事231号57頁参照)。
エ 以上に鑑みると,土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格の決定が違法となるのは,当該登録価格が,〔1〕当該土地に適用される評価基準の定める評価方法に従って決定される価格を上回るとき(上記イの場合)であるか,あるいは,〔2〕これを上回るものではないが,その評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものではなく,又はその評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存する場合(上記ウの推認が及ばず,又はその推認が覆される場合)であって,同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るとき(上記アの場合)であるということができる。
(2)ア 上記(1)に説示したところによれば,本件敷地登録価格の決定及びこれを是認した本件決定の適法性を判断するに当たっては,本件敷地登録価格につき,適正な時価との多寡についての審理判断とは別途に,上記(1)エ〔1〕の場合に当たるか否か(前記2(2)の建ぺい率及び容積率の制限に係る評価基準における考慮の要否や在り方を含む。)についての審理判断をすることが必要であるところ,原審は前記3のとおりこれを不要であるとしてこの点についての審理判断をしていない。そうすると,原判決には,土地の登録価格の決定が違法となる場合に関する法令の解釈適用を誤った結果,上記の点について審理不尽の違法があるといわざるを得ず,この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
イ また,上記(1)に説示したところによれば,上記(1)エ〔2〕の場合に当たるか否かの判断に当たっては,本件敷地部分の評価において適用される評価基準の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであるか,その評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情があるか等についての審理判断をすることが必要であるところ,原審は,前記3のとおり評価基準によらずに認定した本件敷地部分の適正な時価が本件敷地登録価格を上回ることのみを理由として当該登録価格の決定は違法ではないとしており,これらの点についての審理判断をしていない。そうすると,原判決には,上記の点についても審理不尽の違法があるといわざるを得ず,この違法も原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
5 以上によれば,論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決のうち上告人に関する部分は破棄を免れない。そして,上記4(2)ア及びイの各点等について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官千葉勝美の補足意見がある。

 裁判官千葉勝美の補足意見は,次のとおりである。

 私は,法廷意見との関連で,次のとおり所見を付加しておきたい。
1 地方税法341条5号は,固定資産税の課税標準となる固定資産の価格を「適正な時価」としているところ,同法434条に基づく固定資産評価審査委員会の決定の取消しの訴えにおいては,同法432条に基づく固定資産課税台帳に登録された価格が適正な時価を超えた違法があるかどうかが審理判断の対象の一つとなる。そこで,土地の所有名義人が,自ら独自に提出した鑑定意見書等に基づき,その時価となるべき価格を算出して(以下,この価格を「算出価格」という。),法廷意見の述べる「特別の事情」(又は評価基準の定める評価方法自体の一般的な合理性の欠如)の主張立証を経ずに,上記の適正な時価を直接主張立証することにより,当該算出価格が評価基準の定める評価方法に従って決定された登録価格を下回るとして,当該登録価格の決定を違法とすることができるかが一応問題となろう。
2 上記の「適正な時価」とは,正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格,すなわち,客観的な交換価値をいうと解されるが,これは評価的な概念であり,その鑑定評価は,必ずしも一義的に算出され得るものではなく,性質上,その鑑定評価には一定の幅があり得るものである。したがって,鑑定意見書等によっていきなり登録価格より低い価格をそれが適正な時価であると摘示された場合,その鑑定意見書等による評価の方法が一般に是認できるもので,それにより算出された価格が上記の客観的な交換価値として評価し得るものと見ることができるときであったとしても,当該算出価格を上回る登録価格が当然に適正な時価を超えるものとして違法になるということにはならない。当該登録価格が,評価基準の定める評価方法に従ってされたものである限り,特別の事情がない限り(又はその評価方法自体が一般的な合理性を欠くものでない限り),適正な時価であるとの推認が働き(法廷意見の引用する平成15年7月18日第二小法廷判決等参照),これが客観的な交換価値であることが否定されることにならないからである。
3 そもそも,このような算出価格が当該登録価格を下回る場合,それだけで,上記の適正な時価であることの推認が否定されて登録価格の決定が違法となるのであれば,課税を行う市町村の側としては,このようにして所有名義人から提出される鑑定意見書等が誤りであること,算出方法が不適当であること等を逐一反論し,その点を主張立証しなければならなくなり,評価基準に基づき画一的,統一的な評価方法を定めることにより,大量の全国規模の固定資産税の課税標準に係る評価について,各市町村全体の評価の均衡を確保し,評価人の個人差による不均衡を解消することにより公平かつ効率的に処理しようとした地方税法の趣旨に反することになる。
4 実際上,登録価格が算出価格を上回ることにより,登録価格が上記の客観的な交換価値を上回る場合というのは,評価基準の定める評価方法によることが適当でないような特別の事情がある場合に限られる。このような特別の事情(又はその評価方法自体の一般的な合理性の欠如)についての主張立証をしないまま独自の鑑定意見書等を提出したところで,その意見書の内容自体は是認できるものであったとしても,それだけでは当該登録価格が適正な時価であることの推認を覆すことにはならないのであって,登録価格の決定を違法とすることにはならない。
(なお,実際上は,このような特別の事情の存否が争われている場合でも,評価基準の定める評価方法自体が不適当であるというのではなく,評価方法の当てはめの適否(すなわち当てはめの過程で所要の補正をすることの要否等)の問題として処理すべきであることが多いものと思われる。また,仮にこのような特別の事情があると認められる場合には,課税を行う市町村の側としては,登録価格が適正な時価を超えていないことの主張立証をする必要が改めて生ずることになるが,その場合においても,実務上は次のような対応が求められることが多いであろう。すなわち,評価基準の定める評価方法の全部ではなくその一部につき特別の事情があるときは,地方税法の趣旨からして,適正な時価の認定において当該評価方法の他の部分を前提として行うことの可否,要否をまず検討すべきである。この点は,個々の事案ごとに適用の排除される評価方法の範囲や性質等を勘案して個別具体的に検討することになるが,実際には,当該評価方法を全て放棄するのではなく,排除された部分を除き残余の部分を前提として適正な時価を認定していくべき場合が多いものといえよう。)
5 したがって,土地の所有名義人が,独自の鑑定意見書等の提出により適正な時価を直接主張立証し登録価格の決定を違法とするためには,やはり,その前提として,評価基準の定める評価方法によることができない特別の事情(又はその評価方法自体の一般的な合理性の欠如)を主張立証すべきであり,前掲最高裁平成15年7月18日第二小法廷判決もこの考えを前提にしているものと解される。
(裁判長裁判官 千葉勝美 裁判官 竹内行夫 裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる)