固定資産評価審査決定取消請求事件 最高裁判所第三小法廷平成30年(行ヒ)第262号 平成31年4月9日判決

       主   文

原判決を破棄する。
本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

       理   由

 上告代理人萱垣建,同萱垣佑樹の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1 本件は,三重県志摩市所在の2筆の土地に係る固定資産税の納税義務者である上告人が,上記の各土地につき,志摩市長により決定され土地課税台帳に登録された平成27年度の価格を不服として志摩市固定資産評価審査委員会に対し審査の申出をしたところ,これを棄却する旨の決定(以下「本件各決定」という。)を受けたため,被上告人を相手に,その取消しを求める事案である。
2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)ア 地方税法349条1項は,土地に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準を,当該土地の基準年度に係る賦課期日における価格で土地課税台帳又は土地補充課税台帳に登録されたもの(以下,これらの台帳に登録された価格を「登録価格」という。)とする旨規定し,同法403条1項は,市町村長は,同法388条1項の固定資産評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならない旨規定する。平成27年度は上記の基準年度であり,これに係る賦課期日は平成27年1月1日である。
イ 固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号。以下「評価基準」という。)は,土地の評価は,次に掲げる土地の地目の別に、それぞれ,評価基準に定める評価の方法によって行うものとし,土地の地目として,田,畑,宅地,鉱泉地,池沼,山林,牧場,原野及び雑種地を掲げた上,この場合における土地の地目の認定に当たっては,当該土地の現況及び利用目的に重点を置き,部分的に僅少の差異の存するときであっても,土地全体としての状況を観察して認定するものとしている(第1章第1節一)。
 そして,評価基準は,主として市街地的形態を形成する地域における宅地については,市街地宅地評価法によって各筆の宅地の評点数を付設し,これを評点1点当たりの価額に乗じて,各筆の宅地の価額を求めるものとしている。市街地宅地評価法は,〔1〕状況が相当に相違する地域ごとに,その主要な街路に沿接する宅地のうちから標準宅地を選定し,〔2〕標準宅地について,売買実例価額から評定する適正な時価を求め,これに基づいて上記主要な街路の路線価を付設するなどし,〔3〕この路線価を基礎とし,画地計算法(評価基準別表第3)を適用して各筆の宅地の評点数を付設するというものである(第1章第3節)。 
 また,評価基準は,池沼の評価は,池沼の売買実例価額から評定する適正な時価によってその価額を求める方法によるものとし,ただし,市町村内に池沼の売買実例価額がない場合においては,池沼の位置,形状,利用状況等を考慮し,附近の土地の価額に比準してその価額を求める方法によるものとしている(第1章第6節)。
(2)ア 株式会社ササヤマは,志摩市内の山林等を開発した土地上にショッピングセンター(以下「本件商業施設」という。)を開設することとし,平成8年5月24日,三重県知事に対し,都市計画法に基づく開発行為の許可申請をした。三重県においては,開発面積1ha以上かつ洪水調整容量500立方メートル以上の開発行為については,洪水調整の方法として,河川等の改修,調整池の設置又は排水ポンプの設置のいずれか又は複数の措置を講ずることが義務付けられているところ,本件商業施設に係る開発行為はこれに該当したことから,同社は,本件商業施設の敷地の東側に位置する第1審判決別紙物件目録記載1及び2の各土地(以下,順に「本件土地1」,「本件土地2」といい,併せて「本件各土地」という。)を当時の所有者から借り受け,本件各土地に洪水調整のための調整池を設けることとした。
 三重県知事は,平成8年11月5日,「開発行為に伴って設けた調整池については,河川整備等排水調整の必要性が無くなるまで,調整機能を保持すること」を条件として,上記申請を許可した。
イ 本件各土地は,本件商業施設の開業以降,調整池の用に供されており,本件土地1は,その面積の80%以上に常時水がたまっている。また,本件土地2は,少なくともその面積の大半は調整池としての機能を有する平地であるが,平時は本件商業施設の従業員の駐車場として使用されている。
ウ 上告人は,平成18年4月16日,前記所有者から本件各土地を相続して,その貸主の地位を承継した。
(3)ア 志摩市長は,本件各土地の平成27年1月1日における価格を次のとおり決定し,土地課税台帳に登録した(以下,これらの価格を併せて「本件各登録価格」という。)。
 本件土地1 108万0450円
 本件土地2 480万2400円
 志摩市長は,本件各登録価格を決定するに際し,本件各土地の地目をいずれも宅地と認定した上,市街地宅地評価法により,本件各土地に沿接する街路の路線価を基礎とし,画地計算法を適用して,奥行価格補正率0.8及び不整形補正率0.87を乗じ,また,本件土地1については,これに加えて,常時水がたまっており利用形態が制限されること等を考慮し,雑種地における減額補正に準じた補正率0.3を乗じて,評点数を付設した。
イ 上告人は,平成27年1月1日当時,本件各土地の所有者であり,これらに係る固定資産税の納税義務者であったところ,本件各土地の現況及び利用目的に照らせば,その地目はいずれも池沼と認定されるべきであると主張して,同年6月29日,志摩市固定資産評価審査委員会に対し,本件各登録価格につき審査の申出をしたが,同委員会は,同年10月22日付けで,同申出を棄却する旨の本件各決定をした。
3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。
 本件商業施設に係る開発行為については調整池の設置等が義務付けられ,これによって本件各土地が調整池の用に供されることとなっており,開発許可を受けるに際しては,その調整機能を保持することが許可条件とされていることから,本件各土地は,本件商業施設が適法に開発許可を受け,同施設が有事のための洪水調整機能を維持して安全に運営を継続するために必要なものである。したがって,本件各土地は,宅地である本件商業施設の敷地を維持するために必要な土地と認められるから,本件各土地の地目をいずれも宅地と認定した上で決定された本件各登録価格は,評価基準によって決定される価格を上回るものではなく適法である。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)本件各決定は,本件各登録価格の決定に違法はないとして,これに係る上告人の審査の申出を棄却したものであるところ,土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格が評価基準によって決定される価格を上回る場合には,同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るか否かにかかわらず,その登録価格の決定は違法となるものというべきである(最高裁平成24年(行ヒ)第79号同25年7月12日第二小法廷判決・民集67巻6号1255頁)。
(2)評価基準は,土地の地目の別に評価の方法を定め,これに従って土地の評価をすべきこととし,上記地目は,当該土地の現況及び利用目的に重点を置き,土地全体としての状況を観察して認定することとしている。そして,上記地目のうち宅地とは,建物の敷地のほか,これを維持し,又はその効用を果たすために必要な土地をも含むものと解される。
(3)本件各土地は,本件商業施設に係る開発行為に伴い調整池の用に供することとされ,排水調整の必要がなくなるまでその機能を保持することが上記開発行為の許可条件となっているというのであるが,開発許可に上記条件が付されていることは,本件各土地の用途が制限を受けることを意味するにとどまり,また,開発行為に伴う洪水調整の方法として設けられた調整池の機能は,一般的には,開発の対象となる地区への降水を一時的に貯留して下流域の洪水を防止することにあると考えられる。そうすると,上記条件に従って調整池の用に供されていることから直ちに,本件各土地が本件商業施設の敷地を維持し,又はその効用を果たすために必要な土地であると評価することはできないというべきである。
 したがって,本件商業施設に係る開発行為に伴い本件各土地が調整池の用に供されており,その調整機能を保持することが上記開発行為の許可条件になっていることを理由に,本件土地1の面積の80%以上に常時水がたまっていることなど,本件各土地の現況等について十分に考慮することなく,本件各土地は宅地である本件商業施設の敷地を維持するために必要な土地であるとして,前記2(3)アのとおり算出された本件各登録価格が評価基準によって決定される本件各土地の価格を上回るものではないとした原審の判断には,固定資産の評価に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。
5 以上によれば,原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件各土地のそれぞれの現況,利用目的等に照らし,本件各登録価格が評価基準によって決定される本件各土地の価格を上回らないか否かについて更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 戸倉三郎 裁判官 岡部喜代子 裁判官 山崎敏充 裁判官 林景一 裁判官 宮崎裕子)