国籍確認請求事件 最高裁判所第三小法廷平成25年(行ツ)第230号 平成27年3月10日判決

       主   文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。

       理   由

第1 事案の概要
 本件は,日本国籍を有する父とフィリピン共和国籍を有する母との間に嫡出子として同国で出生し同国籍を取得した上告人らが,出生後3か月以内に父母等により日本国籍を留保する意思表示がされず,国籍法12条の規定によりその出生の時から日本国籍を有しないこととなったため,出生により日本国籍との重国籍となるべき子で国外で出生したものにつき上記の国籍留保の要件等を定める同条の規定が上記子のうち日本で出生した者等との区別において憲法14条1項等に違反し無効であると主張して,日本国籍を有することの確認を求めている事案である。
第2 上告代理人近藤博徳ほかの上告理由第3,第4及び第6について
1 憲法10条は,「日本国民たる要件は,法律でこれを定める。」と規定し,これを受けて,国籍法は,日本国籍の得喪に関する要件を規定している。憲法10条の規定は,国籍は国家の構成員としての資格であり,国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情,伝統,政治的,社会的及び経済的環境等,種々の要因を考慮する必要があることから,これをどのように定めるかについて,立法府の裁量判断に委ねる趣旨のものであると解される。そして,憲法14条1項が法の下の平等を定めているのは,合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであって,法的取扱いにおける区別が合理的な根拠に基づくものである限り,同項に違反するものではないから,上記のようにして定められた日本国籍の取得に関する法律の要件によって生じた区別につき,そのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠があり,かつ,その区別の具体的内容が上記の立法目的との関連において不合理なものではなく,立法府の合理的な裁量判断の範囲を超えるものではないと認められる場合には,当該区別は,合理的理由のない差別に当たるとはいえず,憲法14条1項に違反するということはできないものと解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁平成10年(オ)第2190号同14年11月22日第二小法廷判決・裁判集民事208号495頁,最高裁平成18年(行ツ)第135号同20年6月4日大法廷判決・民集62巻6号1367頁参照)。
2(1)国籍法12条は,出生により外国の国籍を取得するとともに同法2条1号又は2号によれば出生時に日本国籍を取得して重国籍となるべき子のうち国外で出生した者について,日本で出生した者と異なり,戸籍法104条の定めに従って出生の届出をすべき父母等により出生の日から3か月以内に日本国籍を留保する意思表示がその旨の届出によりされなければ(天災等の事由があれば上記の届出期間は伸張される。),その出生時から日本国籍を有しないものとすることを定め,その生来的な取得を認めないという区別を設けることとしたものである。また,国籍法17条1項及び3項は,同法12条により日本国籍を有しないものとされた者で20歳未満のものについて,日本に住所を有するときは,法務大臣に届け出ることによって,その届出時に日本国籍を取得することができることを定めている。
(2)日本国籍の生来的な取得につき,国籍法2条1号及び2号は,子の出生時において日本国籍を有する父又は母との間に法律上の親子関係があることをもって,一般的にみて我が国との密接な結び付きがあるものといえるとして,当該子に国籍を付与しようとするものと解される。しかるところ,国籍法は,上記各号の規律を前提とした上で,前記のように国外で出生して日本国籍との重国籍となるべき子に関して,例えば,その生活の基盤が永続的に外国に置かれることになるなど,必ずしも我が国との密接な結び付きがあるとはいえない場合があり得ることを踏まえ,実体を伴わない形骸化した日本国籍の発生をできる限り防止するとともに,内国秩序等の観点からの弊害が指摘されている重国籍の発生をできる限り回避することを目的として,12条において,日本国籍の生来的な取得の要件等につき,日本で出生して日本国籍との重国籍となるべき子との間に上記(1)のような区別を設けることとしたものと解され,このような同条の立法目的には合理的な根拠があるものということができる。
 そして,国籍法12条が,上記の立法目的に基づき,国外で出生して日本国籍との重国籍となるべき子に関して,日本で出生して日本国籍との重国籍となるべき子との間に上記(1)のような区別を設けていることについても,生来的な国籍の取得の有無は子の法的地位の安定の観点からできる限り子の出生時に確定的に決定されることが望ましいところ,出生の届出をすべき父母等による国籍留保の意思表示をもって当該子に係る我が国との密接な結び付きの徴表とみることができる上,その意思表示は原則として子の出生の日から3か月の期間内に出生の届出とともにするものとされるなど,父母等によるその意思表示の方法や期間にも配慮がされていることに加え,上記の期間内にその意思表示がされなかった場合でも,同法17条1項及び3項において,日本に住所があれば20歳に達するまで法務大臣に対する届出により日本国籍を取得することができるものとされていることをも併せ考慮すれば,上記の区別の具体的内容は,前記の立法目的との関連において不合理なものとはいえず,立法府の合理的な裁量判断の範囲を超えるものということはできない。
 したがって,国籍法12条において,出生により日本国籍との重国籍となるべき子のうち,国外で出生した者について日本で出生した者との間に設けられた上記の区別は,合理的理由のない差別には当たらないというべきである。
 なお,所論のうち,出生以外の事由による日本国籍の取得の要件等を定める他の制度との権衡について論難する点に関しては、出生による日本国籍の生来的な取得の要件等を定める国籍法12条とは制度の目的及び趣旨を異にする事柄に係るものであって,上記の判断を左右するものではない。
3 以上によれば,国籍法12条は,憲法14条1項に違反するものではない。このように解すべきことは,当裁判所大法廷の判例(前掲最高裁昭和39年5月27日大法廷判決)の趣旨に徴して明らかというべきである。これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができ,論旨は採用することができない。 
第3 その余の上告理由について
 論旨は,違憲をいうが,その実質は単なる法令違反をいうもの又はその前提を欠くものであって,民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大谷剛彦 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大橋正春 裁判官 木内道祥 裁判官 山崎敏充)