地位不存在等確認請求本訴、時間外割増賃金等請求反訴事件 最高裁判所第一小法廷平成二五年(受)第一九七号 平成26年3月6日判決

       主   文

一 原判決中、労働基準法一一四条の付加金に係る反訴請求に関する部分を破棄し、同部分につき第一審判決中上告人敗訴部分を取り消す。
二 前項の取消部分に関する被上告人の反訴請求を棄却する。
三 上告人のその余の上告を棄却する。
四 訴訟の総費用はこれを五分し、その三を上告人の負担とし、その余を被上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人石嵜信憲ほかの上告受理申立て理由第一点について
一 本件は、上告人が、本訴として、被上告人を相手に、被上告人に対する未払賃金債務が一七三万一九一九円を超えて存在しないことの確認を求め、被上告人が、反訴として、上告人を相手に、未払賃金の支払等を求めるとともに、労働基準法三七条所定の割増賃金の未払金(以下「未払割増賃金」という。)に係る同法一一四条の付加金の支払を求める事案である。
二 記録によれば、本件訴訟の上記付加金請求に係る経緯等は次のとおりである。
(1)被上告人は、第一審係属中の平成二二年一〇月一八日、上告人に対し、反訴請求として、未払割増賃金一八一万六九〇二円及びこれに対する同年三月一日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める(以下「本件割増賃金請求」という。)とともに、上記未払割増賃金に係る労働基準法一一四条の付加金一二四万二三四四円(上記未払割増賃金のうち同条ただし書所定の期間が経過していない部分に係るもの)及びこれに対する判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた(以下「本件付加金請求」という。)。
(2)第一審は、本件割増賃金請求につき、一七三万一九一九円及びこれに対する平成二二年三月一日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容するとともに、本件付加金請求につき、八六万五九六〇円及びこれに対する判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容する旨の判決をした。これに対し、上告人のみが控訴を提起した。
(3)上告人は、原審の口頭弁論終結前である平成二四年七月一九日、被上告人に対し、本件割増賃金請求につき第一審判決が認容した金額の全額(未払割増賃金一七三万一九一九円及びこれに対する同二二年三月一日から同二四年七月一九日まで年六分の割合による遅延損害金の合計額一九八万〇〇六六円)を支払い、被上告人はこれを受領した。これを受けて、被上告人は、本件割増賃金請求に係る訴えを取り下げ、上告人はこれに同意した。
(4)原審は、上記(3)の事実等を認定した上、本件付加金請求を上記(2)の限度で認容すべきものと判断した。
三 しかしながら、本件付加金請求に関する原審の上記二(4)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 労働基準法一一四条の付加金の支払義務は、使用者が未払割増賃金等を支払わない場合に当然発生するものではなく、労働者の請求により裁判所が付加金の支払を命ずることによって初めて発生するものと解すべきであるから、使用者に同法三七条の違反があっても、裁判所がその支払を命ずるまで(訴訟手続上は事実審の口頭弁論終結時まで)に使用者が未払割増賃金の支払を完了しその義務違反の状況が消滅したときには、もはや、裁判所は付加金の支払を命ずることができなくなると解すべきである(最高裁昭和三〇年(オ)第九三号同三五年三月一一日第二小法廷判決・民集一四巻三号四〇三頁、最高裁昭和四八年(オ)第六八二号同五一年七月九日第二小法廷判決・裁判集民事一一八号二四九頁参照)。
 本件においては、上記二(3)のとおり、原審の口頭弁論終結前の時点で、上告人が被上告人に対し未払割増賃金の支払を完了しその義務違反の状況が消滅したものであるから、もはや、裁判所は、上告人に対し、上記未払割増賃金に係る付加金の支払を命ずることができないというべきである。
四 以上によれば、被上告人の本件付加金請求を一部認容すべきものとした原審の上記二(4)の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、この点に関する論旨は理由がある。そして,上記に説示したところによれば、被上告人の本件付加金請求は理由がないから、原判決中本件付加金請求に関する部分を破棄し、同部分につき第一審判決中上告人敗訴部分を取消し、同取消部分に関する被上告人の請求を棄却すべきである。なお、その余の請求に関する上告については、上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので、これを棄却することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 
(裁判長裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 横田尤孝 白木勇 山浦善樹)