地位確認等請求事件 最高裁判所第一小法廷平成23年(受)第1107号 平成24年11月29日判決

       主   文

1 本件上告を棄却する。
2 原判決主文第1項後段を次のとおり更正する。
「控訴人は,被控訴人に対し,平成21年2月から同24年1月まで毎月末日限り月額19万9293円(ただし,同月は18万6435円)及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。被控訴人の賃金請求のうちその余の予備的請求を棄却する。」
3 上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

第1 事案の概要
1 本件は,上告人において定年に達した後引き続き1年間の嘱託雇用契約により雇用されていた被上告人が,上告人に対し同契約終了後の継続雇用を求めたものの拒絶されたことから,被上告人は上告人が定めた高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「法」という。)9条2項所定の「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」(以下「継続雇用基準」という。)を満たす者を採用する旨の制度により再雇用されたなどと主張して,上告人を相手に,雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに同契約に基づき週40時間(予備的に週30時間)の労働時間に対応する額の賃金及びその遅延損害金の支払を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は,電子制御機器及び電子計測機器の製造及び販売を主たる業務内容とする株式会社であり,大阪府箕面市に本社工場を有している。
 被上告人(昭和23年1月19日生)は,昭和41年3月7日,上告人との間で,期間の定めのない雇用契約を締結し,以後,上告人の本社工場において勤務していた。
(2)ア 上告人の就業規則においては,従業員の定年を60歳とする旨が定められているが,上告人は,平成3年3月5日,労働組合との交渉において,組合員につき,定年である60歳から1年間嘱託として雇用することを合意して,その旨の労働協約を締結し,その後,上記の取扱いを全従業員に適用するものとした。
イ 平成18年当時,上告人の本社工場には従業員の過半数で組織する労働組合がなく,上告人は,その過半数を代表する者との書面による協定に基づき,同年3月23日付けで、法9条2項所定の継続雇用基準を含むものとして,高年齢者継続雇用規程(以下「本件規程」という。)を定め,これを従業員に周知する手続を執った。本件規程の概要は,〔1〕上告人は,継続雇用を希望する高年齢者のうちから選考して,高年齢者を採用する,〔2〕上告人は,高年齢者の在職中の業務実態及び業務能力につき作成された査定帳票の内容等を所定の方法で点数化し,総点数が0点以上の高年齢者を採用し,これに満たない高年齢者は原則として採用せず,また,採用した高年齢者の労働時間につき,総点数が10点以上の高年齢者は週40時間以内とし,これに満たない高年齢者は週30時間以内とする,〔3〕継続雇用の最長期限につき,平成22年4月1日から同25年3月31日までの期間においては,満64歳までの雇用とし,従業員が満64歳に達した日をもって退職とする,〔4〕賃金については,満61歳の時の基本給の額及び採用後の1週の労働時間から所定の計算式で算出される金額を本給の最低基準とし,所定の手当等を支給する旨のものである。
(3)被上告人は,上告人に以前から継続雇用を希望する旨を伝えていたところ,上告人は,平成20年12月15日,被上告人に対し,被上告人が本件規程所定の継続雇用基準を満たさず,被上告人の雇用は嘱託雇用契約の終了日である同21年1月20日をもって終了する旨の書面により,本件規程に基づく再雇用契約を締結しないことを通知した。 
(4)被上告人の在職中の業務実態及び業務能力に係る査定等の内容を本件規程所定の方法で点数化すると,総点数は1点となり,また,本件規程に基づき労働時間を週30時間とする再雇用契約が成立した場合の被上告人の月額賃金は,19万9293円となる。なお,上告人は,被上告人に係る上記査定等の内容の点数化に当たり,直近の査定帳票を用いず,賞罰実績につき表彰実績を加算しないなど評価を誤り,総点数を0点に満たないものと評価していた。
3 原審は,上記事実関係等の下において,継続雇用の申込みをした労働者が本件規程所定の継続雇用基準を満たす場合,上告人には継続雇用を承諾する義務が課せられており,これに反して上告人が不承諾としたときには,その不承諾は使用者の権利濫用に当たりこれを当該労働者に対し主張することができない結果,再雇用契約が成立したものと扱われるべきであるとした上で,上告人と被上告人との間には労働時間を週30時間以内とする再雇用契約が成立したものと扱うのが相当であると判断し,被上告人の地位確認請求及び原判決確定の日までの予備的賃金請求を認容すべきものとした。
第2 上告代理人中川元,同別城信太郎,同山浦美卯の上告受理申立て理由第1点ないし第3点,第6点について
 法は,定年の引上げ,継続雇用制度の導入等による高年齢者の安定した雇用の確保の促進等の措置を総合的に講じ,もって高年齢者等の職業の安定その他福祉の増進を図ること等を目的とする(法1条)ものであるところ,法附則4条1項により平成22年4月1日から同25年3月31日までの期間において読み替えて適用される法9条1項は,64歳未満の定年の定めをしている事業主は,その雇用する高年齢者の64歳までの安定した雇用を確保するため,当該定年の引上げ,継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは,当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度)の導入又は当該定年の定めの廃止のいずれかをしなければならない旨を定め,同条2項は,事業主が,当該事業所に労働者の過半数で組織する労働組合がない場合において,労働者の過半数を代表する者との書面による協定により,継続雇用基準を定めて当該基準に基づく制度を導入したときは,継続雇用制度の導入をしたものとみなす旨を定めている。
 上告人は,法9条2項に基づき,本社工場の従業員の過半数を代表する者との書面による協定により,継続雇用基準を含むものとして本件規程を定めて従業員に周知したことによって,同条1項2号所定の継続雇用制度を導入したものとみなされるところ,期限の定めのない雇用契約及び定年後の嘱託雇用契約により上告人に雇用されていた被上告人は,在職中の業務実態及び業務能力に係る査定等の内容を本件規程所定の方法で点数化すると総点数が1点となり,本件規程所定の継続雇用基準を満たすものであったから,被上告人において嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があると認められる一方,上告人において被上告人につき上記の継続雇用基準を満たしていないものとして本件規程に基づく再雇用をすることなく嘱託雇用契約の終期の到来により被上告人の雇用が終了したものとすることは,他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情もうかがわれない以上,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないものといわざるを得ない。したがって,本件の前記事実関係等の下においては,前記の法の趣旨等に鑑み,上告人と被上告人との間に,嘱託雇用契約の終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり,その期限や賃金,労働時間等の労働条件については本件規程の定めに従うことになるものと解される(最高裁昭和45年(オ)第1175号同49年7月22日第一小法廷判決・民集28巻5号927頁,最高裁昭和56年(オ)第225号同61年12月4日第一小法廷判決・裁判集民事149号209頁参照)。そして,本件規程によれば,被上告人の再雇用後の労働時間は週30時間以内とされることになるところ,被上告人について再雇用後の労働時間が週30時間未満となるとみるべき事情はうかがわれないから,上告人と被上告人との間の上記雇用関係における労働時間は週30時間となるものと解するのが相当である。
 原審の前記判断は,以上と同旨をいうものとして,是認することができる。論旨は採用することができない。
第3 なお,原審の引用する第1審判決の説示等によれば,原判決は,上告人の予備的賃金請求につき,被上告人が満64歳に達する日であって本件規程に基づく雇用関係が終了する平成24年1月18日より後に原判決が確定する場合には,同日までの賃金(平成23年12月21日から同24年1月20日までの月額賃金の計算期間においては19万9293円を日割計算した18万6435円)及びその遅延損害金の支払を命ずる限度でその請求を認容すべきものとする趣旨であることは明らかであるから,民訴法257条1項により,原判決主文第1項後段を主文第2項のとおり更正する。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山浦善樹 裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木勇)