執行判決請求事件 最高裁判所第一小法廷平成23年(受)第1781号 平成26年4月24日判決

       主   文

原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。

       理   由

 上告代理人石川正ほかの上告受理申立て理由第4について
1 本件は,上告人が,営業秘密(米国カリフォルニア州の法律におけるもの)の不正な開示及び使用を理由に損害賠償及び差止めを命じた米国の裁判所の判決のうち懲罰的損害賠償を命じた部分を除く部分について,民事執行法24条に基づいて提起した執行判決を求める訴えである。
 執行判決を得るためには,民訴法118条各号に掲げる要件を具備する必要があるところ,同条1号所定の「法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること」とは,我が国の国際民訴法の原則からみて,当該外国裁判所の属する国(以下「判決国」という。)がその事件について国際裁判管轄を有すると積極的に認められることをいう(以下,この場合における国際裁判管轄を「間接管轄」という。)。被上告人らは,本件においては米国に間接管轄が認められないなどと主張して,これを争っている。
2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)カリフォルニア州民法典は,独立の経済的価値をもたらすものであって,公然と知られておらず,かつ,その秘密性を維持するために合理的な努力がされている情報を「営業秘密」と定義し(同法典3426.1条(d)項)、この営業秘密の不正な取得,開示又は使用を「不正行為」と定義した上(同条(b)項),〔1〕損害賠償に関する規定(同法典3426.3条)のほか,〔2〕現実の又は行われるおそれのある不正行為は,これを差止めることができるとの規定(同法典3426.2条(a)項)を置いている(以下,これらの規定を「本件規定」という。)。
(2)上告人はカリフォルニア州法人であり,「X・テクニカルサービス」と呼ばれる眉のトリートメント技術及び情報(以下「本件技術等」という。)を保有していた。本件技術等は,本件規定にいう営業秘密に当たる。 
(3)上告人は,平成15年12月,日本法人であるA株式会社との間で,日本国内における本件技術等の独占的使用権等をAに付与し,その対価を受領する旨の契約を締結した。そして,上告人は,同契約に基づき,平成16年4月,カリフォルニア州内の上告人の施設において,Aの従業員であった被上告人Y1及び同Y2に対し,本件技術等を開示した。
 Aは,平成16年10月以降,日本国内において眉のトリートメントサロンを順次開設した。
(4)被上告人Y1及び同Y2は,平成18年2月,Aとは別に,被上告人株式会社Y3(以下「被上告会社」という。)を設立し,被上告人Y1は同年4月に,被上告人Y2は同年5月にそれぞれAを退職した。被上告会社は,日本国内において眉のトリートメントサロンを開設したほか,眉のトリートメント技術を指導する教室を開講し,被上告人Y1及び同Y2は,被上告会社の取締役として眉のトリートメント技術を使用した。
 被上告人Y4,同Y5及び同Y6は,いずれもAの従業員であったが,平成18年12月頃までにそれぞれ退職し,被上告会社に雇用されて,日本国内において眉のトリートメント技術を使用した。
(5)上告人は,平成19年5月,被上告人らによる本件技術等の不正な開示及び使用を理由に,カリフォルニア州中部地区連邦地方裁判所に対し,被上告人らを被告として,本件規定に基づく損害賠償及び差止めを求める訴えを提起した。
 上記裁判所は,平成20年10月,被上告人らに対し,損害賠償のほか,日本国内及び米国内における本件技術等の不正な開示及び使用の差止めを命ずる旨の判決(以下「本件米国判決」という。)をした。
3 原審は,次のとおり判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。
 被上告人らの行為地は日本国内にあるため,これによる上告人の損害が米国内で発生したことを証明できなければならないところ,その証明がないから,本件米国判決のうち損害賠償を命じた部分及び差止めを命じた部分のいずれについても間接管轄を認める余地はない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)人事に関する訴え以外の訴えにおける間接管轄の有無については,基本的に我が国の民訴法の定める国際裁判管轄に関する規定に準拠しつつ,個々の事案における具体的事情に即して,外国裁判所の判決を我が国が承認するのが適当か否かという観点から,条理に照らして判断すべきものと解するのが相当である。
(2)そこで,まず,我が国の民訴法の定める国際裁判管轄に関する規定をみると,民訴法3条の3第8号は,「不法行為に関する訴え」については「不法行為があった地」を基準として国際裁判管轄を定めることとしている。
 民訴法3条の3第8号の「不法行為に関する訴え」は,民訴法5条9号の「不法行為に関する訴え」と同じく,民法所定の不法行為に基づく訴えに限られるものではなく,違法行為により権利利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者が提起する差止請求に関する訴えをも含むものと解される(最高裁平成15年(許)第44号同16年4月8日第一小法廷決定・民集58巻4号825頁参照)。そして,このような差止請求に関する訴えについては,違法行為により権利利益を侵害されるおそれがあるにすぎない者も提起することができる以上は,民訴法3条の3第8号の「不法行為があった地」は,違法行為が行われるおそれのある地や,権利利益を侵害されるおそれのある地をも含むものと解するのが相当である。
(3)ところで,民訴法3条の3第8号の規定に依拠して我が国の国際裁判管轄を肯定するためには,不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の場合,原則として,被告が日本国内でした行為により原告の権利利益について損害が生じたか,被告がした行為により原告の権利利益について日本国内で損害が生じたとの客観的事実関係が証明されれば足りる(最高裁平成12年(オ)第929号,同年(受)第780号同13年6月8日第二小法廷判決・民集55巻4号727頁参照)。そして,判決国の間接管轄を肯定するためであっても,基本的に民訴法3条の3第8号の規定に準拠する以上は,証明すべき事項につきこれと別異に解するのは相当ではないというべきである。
 そうすると,違法行為により権利利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者が提起する差止請求に関する訴えの場合は,現実の損害が生じたことは必ずしも請求権発生の要件とされていないのであるから,このような訴えの場合において,民訴法3条の3第8号の「不法行為があった地」が判決国内にあるというためには,仮に被告が原告の権利利益を侵害する行為を判決国内では行っておらず,また原告の権利利益が判決国内では現実に侵害されていないとしても,被告が原告の権利利益を侵害する行為を判決国内で行うおそれがあるか,原告の権利利益が判決国内で侵害されるおそれがあるとの客観的事実関係が証明されれば足りるというべきである。
(4)これを本件についてみると,本件規定は,違法行為により権利利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者が提起する差止請求についても定めたものと解される。そして,本件米国判決が日本国内だけでなく米国内においても被上告人らの不正行為の差止めを命じていることも併せ考えると,本件の場合,被上告人らが上告人の権利利益を侵害する行為を米国内で行うおそれがあるか,上告人の権利利益が米国内で侵害されるおそれがあるとの客観的事実関係が証明された場合には,本件米国判決のうち差止めを命じた部分については,民訴法3条の3第8号に準拠しつつ,条理に照らして間接管轄を認める余地もある。また,そうであれば,本件米国判決のうち損害賠償を命じた部分についても,民訴法3条の6に準拠しつつ,条理に照らして間接管轄を認める余地も出てくることになる。
5 以上と異なり,被上告人らが上告人の権利利益を侵害する行為を米国内で行うおそれの有無等について何ら判断しないまま間接管轄を否定した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記の点についてはまだ客観的事実関係の立証活動がされていないのであるから,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木勇 裁判官 山浦善樹)