差押処分取消,国家賠償等請求事件 最高裁判所第二小法廷平成24年(行ヒ)第156号 平成25年7月12日判決

       主   文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

 上告人の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1 本件は,選定者A及び上告人(以下「本件選定者ら」という。)とBとの共有に係る不動産のBの持分につき,Bが滞納していた相続税を徴収するため国税徴収法47条1項に基づく差押処分がされたことから,上告人が,選定当事者として,上記処分の取消し等を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)Cは,第1審判決別紙不動産目録記載1の各土地を所有し,また,その妻である選定者Aとともに,上記目録記載2の各建物を持分各2分の1の割合で共有していた(以下,上記各土地及び上記各建物を併せて「本件各不動産」という。)。
(2)Cは平成16年5月11日に死亡し,選定者Aが上記各土地の持分2分の1及び上記各建物の持分4分の1を,両名の子である上告人及びBが上記各土地の持分各4分の1及び上記各建物の持分各8分の1を,それぞれ相続により取得した。
(3)Bは,上記相続による財産の取得に係る相続税をその納付の期限である平成20年7月4日の経過後も納付せず滞納を続けたので,玉名税務署長は,国税徴収法所定の手続を経て,同22年6月29日,同法47条1項に基づいて本件各不動産のBの持分を差し押さえ(以下,これを「本件差押処分」という。),同日,その旨の登記がされた。
3 原審は,本件差押処分は本件各不動産のBの持分についてされたものであり,本件選定者らの持分についてされたものではなく,本件選定者らは本件差押処分の取消しを求める原告適格を有しないから,その取消しを求める訴え(以下「本件取消しの訴え」という。)は不適法であるとしてこれを却下した。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解すべきである(最高裁昭和49年(行ツ)第99号同53年3月14日第三小法廷判決・民集32巻2号211頁,最高裁平成元年(行ツ)第131号同4年9月22日第三小法廷判決・民集46巻6号1090頁等参照)。そして,処分の名宛人以外の者が処分の法的効果による権利の制限を受ける場合には,その者は,処分の名宛人として権利の制限を受ける者と同様に,当該処分により自己の権利を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者として,当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に当たり,その取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
(2)しかるところ,国税徴収法47条1項に基づく差押処分は,滞納者の所有する特定の財産につき,その名宛人である滞納者に対しその譲渡や用益権設定等の処分を禁止する効力を有するものであるから,滞納者と他の者との共有に係る不動産につき滞納者の持分が同項に基づいて差し押さえられた場合には,滞納者において,当該持分の譲渡や当該不動産に係る用益権設定等の処分が禁止されるため,滞納処分による差押登記後に当該不動産につき賃貸や地上権設定等をしてもこれを公売処分による当該持分の買受人に対抗することができず,その結果,滞納者の持分と使用収益上の不可分一体をなす持分を有する他の共有者についても当該不動産に係る用益権設定等の処分が制約を受け,その処分の権利が制限されることとなる。加えて,不動産につき同項に基づく差押処分がされた場合の使用又は収益については,当該不動産の価値を著しく減耗させる行為がされると認められるときに,税務署長は滞納者及び当該不動産につき使用又は収益をする権利を有する第三者に対しその使用又は収益を制限することができるものとされており(同法69条1項ただし書,同条2項),滞納者と他の者との共有に係る不動産における滞納者以外の共有者は上記の第三者に当たるものと解されるので,滞納者の持分が差し押さえられた土地上に建物を新築するなど,当該不動産の価値を著しく減耗させる使用又は収益に関しては,滞納者のみならず,他の共有者についても同法69条所定の上記制限が及ぶこととなる。
 以上に鑑みると,滞納者と他の者との共有に係る不動産につき滞納者の持分が国税徴収法47条1項に基づいて差し押さえられた場合における他の共有者は,その差押処分の法的効果による権利の制限を受けるものであって、当該処分により自己の権利を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者として,その差押処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に当たり,その取消訴訟における原告適格を有するものと解するのが相当である。
5 以上によれば,滞納者であるBと本件選定者らとの共有に係る本件各不動産のBの持分についてされた本件差押処分に関し,他の共有者である本件選定者らは,その取消訴訟の原告適格を有するものというべきであるから,本件選定者らが原告適格を有しないとして本件取消しの訴えを不適法とした原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があるといわなければならない。 
 しかしながら,原審は,本件取消しの訴えにつき,仮定的に本案の判断をし,滞納処分の要件を満たしている本件差押処分が対象財産の選定など所論の点において違法なものとは認められない旨を判断しているところ,本件記録に現れた証拠関係等に照らせば,原審の上記判断は是認することができ,上告人の本件取消しの訴えに係る請求は理由がないことが明らかである。そうすると,上告人の上記請求は棄却を免れないものである以上,不利益変更禁止の原則(行政事件訴訟法7条,民訴法313条,304条参照)により,上告を棄却するにとどめるほかなく,原判決の上記違法は結論に影響を及ぼすものではない。
 なお,上告人のその余の請求に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,これを棄却することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小貫芳信 裁判官 竹内行夫 裁判官 千葉勝美 裁判官 鬼丸かおる)