延滞税納付債務不存在確認等請求事件 最高裁判所第二小法廷平成25年(行ヒ)第449号 平成26年12月12日判決

       主   文

1 原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
2(1)上告人X1の被上告人に対する亡Aの相続に係る相続税の延滞税1万5800円の納付義務が存在しないことを確認する。
 (2)上告人X2の被上告人に対する亡Aの相続に係る相続税の延滞税1万6200円の納付義務が存在しないことを確認する。
3 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人井上清成,同衞藤正道,同尾籠真弥の上告受理申立て理由第3の3について
1 本件は,亡Aの相続人である上告人らが,Aの相続について,それぞれ,法定申告期限内に相続税の申告及び納付をした後,その申告に係る相続税額が過大であるとして更正の請求をしたところ,所轄税務署長において,相続財産の評価の誤りを理由に減額更正をするとともに還付加算金を加算して過納金を還付した後,再び相続財産の評価の誤りを理由に増額更正をし,これにより新たに納付すべきこととなった本税額につき,国税通則法(平成23年法律第114号による改正前のもの。以下「法」という。)60条1項2号,2項及び61条1項1号に基づき,法定納期限の翌日から完納の日までの期間(ただし,法定申告期限から1年を経過する日の翌日から上記の増額更正に係る更正通知書が発せられた日までの期間を除く。)に係る延滞税の納付の催告をしたことから,上告人らが,被上告人を相手に,上記の延滞税は発生していないとして,その納付義務がないことの確認を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)上告人ら及びBは,いずれもAの子であり,Aの死亡により,その財産を相続した。Aの相続に係る各相続税(以下「本件各相続税」という。)の法定申告期限及び法定納期限は平成21年8月25日である。
(2)上告人ら及びBは,平成21年7月22日,市川税務署長に対し,それぞれ本件各相続税の申告をした。上告人X1は,同年8月21日,上記申告に係る納付すべき税額4185万1300円を納付し,上告人X2は,同月12日,上記申告に係る納付すべき税額4556万0600円を納付した(以下,これらの申告を「本件各申告」という。)。
(3)上告人らは,平成22年7月12日,市川税務署長に対し,本件各申告における相続財産である土地(以下「本件相続土地」という。)の評価額が時価よりも高いことを理由として,それぞれ更正の請求(以下「本件各更正請求」という。)をした。これに対し,市川税務署長は,同年12月21日,本件各申告における本件相続土地の評価に誤りがあったとして,本件各更正請求の一部を認め,上告人X1について納付すべき税額を3035万5500円とし,上告人X2について納付すべき税額を3353万7100円とする減額更正(以下「本件各減額更正」という。)をした。
(4)市川税務署長は,本件各減額更正により上告人らの本件各相続税に係る納付すべき税額が減少したことから,平成23年1月26日,本件各申告に係る納付すべき税額から本件各減額更正に係る納付すべき税額を控除した金額(以下「本件各過納金」という。)に,法58条1項2号に基づき,本件各更正請求があった日の翌日から起算して3月を経過する日の翌日である同22年10月13日からの期間の日数についての租税特別措置法(平成25年法律第5号による改正前のもの)95条に基づく特例基準割合である年4.3%の割合による還付加算金を加算した金額につき支払決定をし、上告人らに対して上記の還付加算金を加算して本件各過納金を還付した。これによる各上告人に対する支払額の合計は,上告人X1に対しては1163万9200円(本件各過納金1149万5800円と還付加算金14万3400円の合計額),上告人X2に対しては1217万3600円(本件各過納金1202万3500円と還付加算金15万0100円の合計額)であった。
(5)上告人らは,平成23年2月1日,市川税務署長に対し,それぞれ,本件各減額更正について本件相続土地の評価額がなお時価より高いとしてその取消しを求める異議申立てをした。市川税務署長は,同年4月27日,その異議申立手続において本件相続土地の一部の評価額を見直して算出した上告人らの納付すべき税額の金額は,本件各減額更正において上告人らの納付すべき税額とされた金額を上回るので,結局,本件各減額更正はいずれも適法であるとして,上記各異議申立てをいずれも棄却する旨の各決定をした。 
(6)市川税務署長は,平成23年5月31日,上記各決定における上記の評価額の見直しによれば,本件各減額更正における本件相続土地の評価額は時価よりも低かったとして,上告人X1について納付すべき税額を3071万5800円とし,上告人X2について納付すべき税額を3391万1700円とする増額更正(以下「本件各増額更正」という。)をした。
 本件各増額更正により新たに納付すべきこととなった本税額,すなわち本件各減額更正に係る納付すべき税額と本件各増額更正に係る納付すべき税額との差額(以下「本件各増差本税額」という。)は,上告人X1につき36万0300円,上告人X2につき37万4600円であり,その納期限は,その更正通知書が発せられた日の翌日から起算して1月を経過する日(法35条2項2号)である平成23年6月30日であった。
 上告人らは,平成23年6月3日,本件各増差本税額をそれぞれ納付した。
(7)市川税務署長は,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分について,本件各相続税の法定納期限の翌日である平成21年8月26日から本件各増差本税額の納付日である同23年6月3日までの期間(ただし,法定申告期限から1年を経過する日の翌日である平成22年8月26日から本件各増額更正に係る更正通知書が発せられた日である同23年5月31日までの期間を除く。以下「本件期間」という。)に係る延滞税として,上告人X1について1万5800円,上告人X2について1万6200円が発生していることを前提に,同年7月27日付けの催告書をそれぞれ送付し,その納付を催告した。
3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分について本件期間に係る延滞税は発生しており,上告人らはその納付義務を負うものであるとして,上告人らの請求を棄却した。
 本件のように,国税の申告及び納付がされた後に減額更正がされると,減額された税額に係る部分の具体的な納税義務は遡及的に消滅するのであり,その後に増額更正がされた場合には,増額された税額に係る部分の具体的な納税義務が新たに確定することになるのであるから,新たに納税義務が確定した本件各増差本税額について,更正により納付すべき国税があるときに該当するものとして,法60条1項2号に基づき延滞税が発生するものというべきである。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記事実関係等によれば,本件各増額更正がされた時点において,本件各相続税については,本件各増差本税額に相当する部分につき法的効果としては新たに納税義務が発生するとともに未納付の状態となっているが,本件各増額更正後の相続税額は本件各申告に係る相続税額を下回るものであることからすれば,本件各増差本税額に相当する部分は,本件各申告に基づいて一旦は納付されていたものである。これにつき再び未納付の状態が作出されたのは,所轄税務署長が,本件各減額更正をして,その減額された税額に係る部分について納付を要しないものとし,かつ,当該部分を含め,本件各申告に係る税額と本件各減額更正に係る税額との差額を過納金として還付したことによるものである。このように,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分については,それぞれ減額更正と過納金の還付という課税庁の処分等によって,納付を要しないものとされ,未納付の状態が作出されたのであるから,納税者としては,本件各増額更正がされる前においてこれにつき未納付の状態が発生し継続することを回避し得なかったものというべきである。
 他方,所轄税務署長は,本件各更正請求に係る税務調査に基づき,本件相続土地の評価に誤りがあったことを理由に,上告人らの主張の一部を認めて本件各減額更正をしたにもかかわらず,本件各増額更正に当たっては,自らその処分の内容を覆し,再び本件各減額更正における本件相続土地の評価に誤りがあったことを理由に,税額を増加させる判断の変更をしたものである。
 以上によれば,本件の場合において,仮に本件各相続税について法定納期限の翌日から延滞税が発生することになるとすれば,法定の期限内に本件各増差本税額に相当する部分を含めて申告及び納付をした上告人らは,当初の減額更正における土地の評価の誤りを理由として税額を増額させる判断の変更をした課税庁の行為によって,当初から正しい土地の評価に基づく減額更正がされた場合と比べて税負担が増加するという回避し得ない不利益を被ることになるが,このような帰結は,法60条1項等において延滞税の発生につき納税者の帰責事由が必要とされていないことや,課税庁は更正を繰り返し行うことができることを勘案しても,明らかに課税上の衡平に反するものといわざるを得ない。そして,延滞税は,納付の遅延に対する民事罰の性質を有し,期限内に申告及び納付をした者との間の負担の公平を図るとともに期限内の納付を促すことを目的とするものであるところ,上記の諸点に鑑みると,このような延滞税の趣旨及び目的に照らし,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分について本件各増額更正によって改めて納付すべきものとされた本件各増差本税額の納期限までの期間に係る延滞税の発生は法において想定されていないものとみるのが相当である。
 したがって,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分は,本件各相続税の法定納期限の翌日から本件各増額更正に係る増差本税額の納期限までの期間については,法60条1項2号において延滞税の発生が予定されている延滞と評価すべき納付の不履行による未納付の国税に当たるものではないというべきであるから,上記の部分について本件各相続税の法定納期限の翌日から本件各増差本税額の納期限までの期間に係る延滞税は発生しないものと解するのが相当である。
 そして,本件において,本件各増差本税額の納期限は平成23年6月30日であるところ,上告人らは,これより前の同月3日に本件各増差本税額を納付しているから,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分について本件期間に係る延滞税は発生しないものというべきである。
5 以上と異なる見解に立って,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分について本件期間に係る延滞税が発生するとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記説示したところによれば,上告人らの請求は理由があるから,第1審判決を取消し,上告人らの請求をいずれも認容すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官千葉勝美の補足意見,裁判官小貫芳信の意見がある。

 裁判官千葉勝美の補足意見は,次のとおりである。

 私は,本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分について本件期間に係る延滞税は発生しないとする多数意見の見解に関連して,次のとおり,私見を付加しておきたい。
1 延滞税は,納付義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものであり(国税通則法15条3項6号),その発生要件は,法60条1項2号にいう「・・・35条2項の規定により納付すべき国税があるとき」である。
 ところで,本件では,課税庁が自ら行った減額更正により納税者に対し余分に税を還付したため,未納付状態が生じたのであり,納税者としては,いかに真摯に納付の努力をしても,このような未納付状態を回避し得ないのであって,延滞税を賦課することは,納税者に不当な不利益を与えるものである。また,更正処分は,制度上,所定の期限内であれば何度でも行い得るとしても,本件各減額更正は,いわゆる公定力を有する行政処分であり,課税庁がこれを行ったことは,課税庁自らが,他の事由がない限りそれ以上の納付を要しないとの規範を一度は明示しているのであって,納税者も,還付加算金まで付して過誤納金が還付されたのであるから,そのように信頼するであろう。
 本件には,このような特殊な事情があるので,多数意見が指摘する延滞税の目的に鑑みても,この未納付状態が民事罰を課すような債務不履行ではなく,延滞税を納付させることが納税者間の負担の公平に資することにもならず,期限内納付を促す効果も全く期待し得ないのであって,本件の未納付においては,実質的に見て,延滞税を生じさせる前提ないし理由は全く存在しないといえよう。
2 法63条6項4号及びこれを受けた国税通則法施行令26条の2第2号は,人為による異常な災害等により納付行為等ができなくなった場合の免除を定め,平成13年6月22日付け徴管2-35ほか国税庁長官通達「人為による異常な災害又は事故による延滞税の免除について(法令解釈通達)」によれば,いわゆる誤指導があり,納税者側に社会通念上なすべき行為を尽くしているときもこれに当たるとしている。これは,正に,延滞税の目的が上記のようなものであることを前提として,その趣旨等に背馳するような場合には納付を免除できることを定めたものである。もっとも,このような免除事由は,一義的に明らかなものではないため,その該当性や免除を行うかどうかについては課税庁の裁量によることになる。しかしながら,本件の場合は,本件各増差本税額に相当する部分につき,税務署職員の指導にとどまらず,減額更正や過納金の還付という課税庁の行為によって未納付状態が作出されたのである。このことは,延滞税の免除をすべきかどうかではなく,そもそも延滞税を発生させるべき実質的な根拠が全く存在せず,延滞税を生じさせることは制度の趣旨に完全に背馳し,不正義となることは明らかなのである。このような場合にまで延滞税を発生させることは法が全く想定していないことであろう。
3 そうであれば,このような場合には,延滞税の納付を免除するのではなく,延滞税の発生自体を認めないとする法解釈を行うべきものであろう。この解釈は,法60条1項2号をいわば目的論的に限定解釈する面もあるが,同号が当然に前提としていると思われる「納税者によって生じた延滞」と評価すべきではないことは明らかであるので,同号にいう「納付すべき国税があるとき」に当たらないとするものである。税法の解釈は,納税者側の信頼や衡平にかない課税実務の効率化や恣意の排除に資するため,本来一義的で明確であることが求められるところであるが,本件は,延滞税の趣旨・目的に照らし,これを発生させることが適当でないことが明らかな例外的な事案であり,これを否定する(限定)解釈を採ったとしても,個別の事案毎の判断が必要となり徴税実務が不安定になるといったおそれはないというべきである。
4 なお,小貫裁判官の意見は,個々の事案毎の判断ではなく,法定申告期限までに本件各相続税の申告・納付が行われた点とその後の減額更正と還付加算金を加えた過納金の還付が行われたという客観的事実を捉えて,法定申告期限から減額更正・過納金還付までの期間は延滞税が発生しないとした上,この過納金の還付によって納税の事実が存在しないことになるので,その後からは,増額更正により増額された部分の延滞税が発生するという解釈を示しておられる。この見解は,租税の画一性と大量処理の観点から,延滞税が発生しない場合の明確な基準を示すという点で租税法の特質を踏まえた解釈といえよう。
 もっとも,条文にはない明確な基準を示すことについては,それが解釈により不文の消極要件を作ることにもなることや(延滞税の発生要件を定めた法60条1項2号にただし書きを加えるような機能を果たすことになる。),その後の増額更正が,減額更正の事由とは別個の,例えば所得隠しが見つかったことを理由にされた場合にもこの解釈が適用されることになり,そうなると,増額された部分についても,過納金還付前の期間は延滞税が当初申告・納税した額の範囲までは発生しないという結果となるが,これが不都合・不公平ではないかという点が危惧されるところである。また,減額更正・過納金の還付が法定納期限後あまり期間を置かずにされた場合には,結局,延滞税の不発生期間は短期間となり,その後増額更正までの間は延滞税が発生することになり,本件のような場合であっても,課税庁の誤った処理による不利益を納税者が長期間甘受することとなり,不当な課税の是正という面からみて十分ではないのではないかという疑問もある。さらに,法61条1項1号が,特例として,法定申告期限から1年間を延滞税が発生する期間とし,1年経過後の翌日から(増額)更正通知が発せられた日までの期間は延滞税の額の計算の基礎から除くとしているため,減額更正・過納金の還付が1年経過後にされた場合(本件はこの場合である。)には,結局,増額更正の通知が発せられた日までは延滞税が発生しないということになるが,このような結果は,減額更正・還付金の還付がされた時期により納税者の受ける影響があまりにも違いすぎ,延滞税の処理として相当かが気になるところである(本件は,たまたま,この説により多数意見と同様に延滞税が発生しないという結論となる。)。
5 いずれにしろ,本件の多数意見による処理は,極めて例外的でかつ延滞税不発生となるのが明らかな場合にされるものである点で,全体的な影響が少なくて済む点を指摘しておきたい。

 裁判官小貫芳信の意見は,次のとおりである。

1 延滞税が発生しないとする多数意見の結論には賛成するが,その理由付けについては意見を異にする。本件においては,端的に延滞税の発生要件を充足するか否かを検討するのが相当であり,この観点からすると,本件各減額更正に伴う過納金の還付前の期間については,国税通則法60条1項2号にいう納付すべき国税は存在せず,納税が法定納期限を徒過した事実もないので,延滞税の発生要件を欠き,延滞税は発生しないと考える。
2 上告人らは,それぞれ,相続税について申告期限内に申告し,法定納期限内に納税したが,その後,更正の請求,減額更正,過納金の還付,増額更正の経過をたどり,税務署長から,最後の増額更正により納付すべき国税が確定し,その本税増差額の納税につき法定納期限を徒過しており,延滞税が発生しているとして納付の催告を受けた。本件を時間の経過に従って観察してみると,減額更正に伴う過納金の還付前においては,増額更正による本税額を超えた税額が法定納期限内に納税されており,納付すべき国税は存在せず,法定納期限の徒過もなく,延滞税の発生要件を欠いていることは明らかである。このような延滞税の発生要件を欠いている期間についても,その後に,減額更正に伴う過納金の還付及び増額更正の過程を経ることによって,延滞税の発生要件を充たすことになるのかどうかが,まず検討すべき問題であるように思われる。
3 この点について,原審は,国税通則法においては,減額更正によって具体的納税義務が遡及的に消滅し,これに伴い,減額更正により減少した税額に係る納付については,これに対応する具体的納税義務が存在しなくなるので,所定の還付加算金を加算した過納金の還付による不当利得の清算関係のみが残り,その後改めて増額更正がされた場合には,増額した税額に係る部分の具体的納税義務が新たに確定することとなるのであるから,同法60条1項2号に基づき,更正により納付すべき国税があるとして,増額した税額に係る部分について,延滞税の納税義務が発生し,本件各増差本税額に相当する税額が事実として納付されていたとしても,延滞税の発生に影響しない旨判示した。
 原審は,減額更正の遡及効と過納金の還付による清算を根拠として,延滞税発生の場面において,納税の事実を考慮の外に置いてよいとしたものと思われるが,その根拠が延滞税を発生させる根拠として十分かについては議論の余地があろう。原審のように減額更正に遡及効を認めるのが相当であるとしても,延滞税の発生要件との関係で,納税の事実に一定の効果を認めることと矛盾するとは思われないのである。なるほど,減額更正の遡及効によって具体的納税義務がなかったことになるから,用語の厳密な意味では,その減額部分についての上告人らの金銭納付は税金の納付とはいえないとしても,延滞税の発生において問題としているのは,後に増額更正があった際に上告人らが税として金銭納付していた事実をどのように評価すべきであるかであって,単なる用語の問題ではないのである。したがって,減額更正の遡及効を認めるにしても,そのことから直ちに税として納付した事実が消え去るわけではなく,両者は別の問題であって,論理必然的に結び付く関係にあるとはいえない。また,過納金の還付による清算については,それは減額更正に伴う当然の事後処理にすぎず,特に上告人らに対し延滞税の帰趨に影響を及ぼす可能性のあるような経済的利益を与えるものではなく,納税の事実の存在を覆滅させる理由となるとは思われない。さらに,減額更正の遡及効と過納金の還付を併せてみても,上述したことに違いをもたらすものではない。
 原審の判示するところは,延滞税発生の場面において,上告人らの納税の事実をなかったものとする根拠としては十分とはいえないが,さらに本件においては,他にその根拠になり得るような事情も見当たらないように思われる。そもそも,厳然として存在した法定納期限内の納税の事実をなかったことにするのは,一つのフィクションにすぎず,フィクションを正当化するのは異例であり,これを正当化するためには,法の明文の規定や法解釈上の論理的必然性あるいは十分な代償措置など,それなりの強い論拠がなければならないと思われるが,本件においては明文の規定はなく,また,法解釈上の論理的必然性や代償措置などを認めるのは困難である。そうすると,本件延滞税の発生を肯定すべき論拠は存在しないか,甚だ薄弱であるというほかないであろう。
4 翻って,延滞税の趣旨・目的との関係で検討すると,その趣旨・目的は,納付した者と納付しない者との間の公平を図り,早期の納税を促すことにあるが,これを本件に当てはめてみると,次のようになろう。上告人らは,本件過納金の還付を受けるまでは,相続税を増額更正による本税額を超えて法定納期限内に納税しており,未納者として公平を図るための措置を受ける立場にはなく,また,法定納期限内に納税しているのであるから,早期の納税を促さなければならない対象とはいえず,いずれの面においても,延滞税の趣旨・目的を害するところは全くない。したがって,過納金の還付前の期間において,上告人らに延滞税制度を作動させなければならない理由はなく,それにもかかわらず,延滞税の発生を認めることは延滞税の趣旨・目的に反するであろう。
 さらに,結果の妥当性を見てみると,減額更正に伴う過納金の還付前にも延滞税の発生を認める見解によれば,上告人らのように何ら責められる点のない申告納税をした者と過少申告納税した者とを,延滞税発生の場面で同列に扱うこととなるが,その結論には違和感を禁じ得ないところである。
 延滞税の趣旨・目的と延滞税の発生を認めることによる不当な結果は,本件における減額更正,過納金の還付前の延滞税発生を否定すべき積極的理由となる。このことと前記3で述べたところを併せ考えると,上告人らが法定納期限内にその後の増額更正による本税額を超える納税をした場合には,減額更正による過納金の還付があるまでの期間については,延滞税の発生要件を欠くことになると解するのが相当である。
5 本件においては,後述するように国税通則法が延滞税の発生する期間について特段の規定を設けているため、減額更正に伴う過納金の還付の時期によって延滞税額に差が出てくることになり,また,減額更正に引き続いて増額更正という一見矛盾した処分をした事情があることから,過納金の還付後の期間についても延滞税の発生を認めるべきかどうかが問題とされる余地がある。上記に述べたところからすると,過納金の還付を受けたことにより,それ以後は,納税の事実が存在しないこととなるので,減額更正に伴う過納金の還付後において,増額更正があった場合は,増額更正が適法である限り,延滞税が発生することとなる。これに対し,本件減額更正から増額更正に至る経過をも踏まえた本件の事情を総合して考慮し,過納金の還付後も延滞税は発生しないとする考え方もあり得ないではない。しかし,減額更正後に増額更正をする原因については種々のものが想定できるところであり,それらを踏まえて延滞税の発生を検討しなければならないというのは,租税の画一性と大量処理の観点から望ましいことではないし,延滞税の発生要件との関係で不明確さが残るように思われる。したがって,延滞税発生期間内に減額更正に伴う過納金の還付が行われ,その後増額更正がされた場合には,過納金の還付後について,増額された部分の延滞税が発生すると解すべきである。
 ただ,国税通則法は,更正等の事務処理の先後による不公平さと延滞税が過大になることを防ぐため,法定申告期限から1年間を延滞税が発生する期間とし,1年経過後の翌日から更正通知書が発せられた日までの期間は延滞税の額の計算の基礎から除くとしており(同法61条1項1号),本件においては,減額更正及び過納金の還付が,延滞税の発生する期間ではなく,税額計算上除くとされている時点でそれらが行われているので,延滞税の発生する期間においては延滞税の発生要件を欠いており,上記考え方の違いは結論に影響を及ぼさない。また,増額更正通知書が発せられた日の翌日から起算して1月が経過する日を納期限とされており(同法35条2項2号),その日までの期間は延滞税額の計算の基礎から除くのが相当と解されるところ,上告人らは,納期限前に増差本税額の全額を納付している。したがって,結局,本件上告人らに延滞税は発生しないこととなる。 
(裁判長裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 山本庸幸)