建物明渡請求事件 最高裁判所第一小法廷平成26年(受)第2146号 平成27年11月30日判決

       主   文

1 原判決を破棄する。
2 上告人の控訴を棄却する。
3 控訴費用は上告人の負担とし,上告費用は被上告人の負担とする。

       理   由

 上告人の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1 記録によれば,本件の経過等は次のとおりである。
(1)被上告人は,上告人に対し,原判決別紙物件目録記載の貸室(以下「本件貸室」という。)の所有権に基づく明渡し及び賃料相当損害金の支払を求めて本件訴訟を提起した。
(2)上告人と被上告人との間には,平成25年5月8日,訴訟上の和解(以下「本件和解」という。)が成立したが,上告人は,同月22日,本件和解の無効を主張して既に終了した訴訟手続の続行を求めて期日指定の申立てをした。
(3)第1審は,本件訴訟は本件和解が成立したことにより終了した旨の終局判決をした。
(4)第1審判決に対しては,上告人のみが控訴し,被上告人は控訴も附帯控訴もしなかった。
2 原審は,本件和解は無効であり,被上告人の請求は一部理由があるとして,第1審判決を取り消し,本件和解が無効であることを確認し,上告人に対して,被上告人から40万円の支払を受けるのと引換えに本件貸室を明け渡すべきこと及び賃料相当損害金を支払うべきことを命じ,被上告人のその余の請求をいずれも棄却する旨の判決をした。
3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)訴訟上の和解の無効を主張する者は,当該和解が無効であることの確認を求める訴えを提起することができると解されるが,記録によれば,本件においては,いずれの当事者も本件和解が無効であることの確認は求めていない。それにもかかわらず,主文において本件和解が無効であることを確認した原判決には,当事者が申し立てていない事項について判決をした違法があり,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
(2)また,訴訟上の和解が成立したことによって訴訟が終了したことを宣言する終局判決(以下「和解による訴訟終了判決」という。)は,訴訟が終了したことだけを既判力をもって確定する訴訟判決であるから,これと比較すると,原告の請求の一部を認容する本案判決は,当該和解の内容にかかわらず,形式的には被告にとってより不利益であると解される。したがって,和解による訴訟終了判決である第1審判決に対し,被告のみが控訴し原告が控訴も附帯控訴もしなかった場合において,控訴審が第1審判決を取り消した上原告の請求の一部を認容する本案判決をすることは,不利益変更禁止の原則に違反して許されないものというべきである。
 そして,和解による訴訟終了判決に対する控訴の一部のみを棄却することは,和解が対象とした請求の全部について本来生ずべき訴訟終了の効果をその一部についてだけ生じさせることになり,相当でないから,上記の場合において,控訴審が訴訟上の和解が無効であり,かつ,第1審に差し戻すことなく請求の一部に理由があるとして自判をしようとするときには,控訴の全部を棄却するほかないというべきである。
 これを本件についてみると,和解による訴訟終了判決である第1審判決に対しては、第1審被告である上告人のみが控訴しているのであるから,第1審判決を取消して第1審原告である被上告人の請求の一部を認容することは,不利益変更禁止の原則に違反して許されず,原審としては,仮に本件和解が無効であり,かつ,被上告人の請求の一部に理由があると認めたとしても,第1審に差し戻すことなく自判する限りは,上告人の控訴の全部を棄却するほかなかったというべきである。それにもかかわらず,原判決は,第1審判決を取り消し,上告人に対し,40万円の支払を受けるのと引換えに本件貸室を明け渡すべきこと及び賃料相当損害金を支払うべきことを命じた上で,被上告人のその余の請求をいずれも棄却したのである。このような原判決の処理には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
4 論旨は以上の趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところに従い,上告人の控訴を棄却することとする。 
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小池裕 裁判官 櫻井龍子 裁判官 山浦善樹 裁判官 池上政幸 裁判官 大谷直人)