懲戒処分取消等請求事件 最高裁判所第二小法廷平成25年(行ツ)第140号 平成25年9月6日判決

       主   文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。

       理   由

1 上告代理人尾山宏ほかの上告理由のうち憲法19条違反をいう部分について
 原審の適法に確定した事実関係の下において,本件職務命令が憲法19条に違反するものでないことは,当裁判所大法廷判決(最高裁昭和28年(オ)第1241号同31年7月4日大法廷判決・民集10巻7号785頁,最高裁昭和44年(あ)第1501号同49年11月6日大法廷判決・刑集28巻9号393頁,最高裁昭和43年(あ)第1614号同51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁,最高裁昭和44年(あ)第1275号同51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号1178頁)の趣旨に徴して明らかというべきである(起立斉唱行為に係る職務命令につき,最高裁平成22年(行ツ)第54号同23年5月30日第二小法廷判決・民集65巻4号1780頁,最高裁平成22年(オ)第951号同23年6月6日第一小法廷判決・民集65巻4号1855頁,最高裁平成22年(行ツ)第314号同23年6月14日第三小法廷判決・民集65巻4号2148頁,最高裁平成22年(行ツ)第372号同23年6月21日第三小法廷判決・裁判集民事237号53頁参照。伴奏行為に係る職務命令につき,最高裁平成16年(行ツ)第328号同19年2月27日第三小法廷判決・民集61巻1号291頁参照)。所論の点に関する原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
2 その余の上告理由について
 論旨は,違憲をいうが,その実質は事実誤認若しくは単なる法令違反をいうもの又はその前提を欠くものであって,民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。
 よって、裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官鬼丸かおるの補足意見がある。 

 裁判官鬼丸かおるの補足意見は,次のとおりである。

 原審の適法に確定した事実関係の下においては,本件職務命令が,憲法19条に違反するものでないことは,法廷意見の述べるとおりと考えるものであるが,以下のとおり私見を付加しておきたい。
 法廷意見の引用する最高裁平成23年5月30日第二小法廷判決,最高裁平成23年6月6日第一小法廷判決,最高裁平成23年6月14日第三小法廷判決及び最高裁平成23年6月21日第三小法廷判決の各判例が指摘するように,卒業式における国歌斉唱の際に国旗に向かって起立し国歌を斉唱すること等を命じた職務命令は,「日の丸」「君が代」に関する当該教諭の歴史観ないし世界観に由来する行動と異なる外部的行為を求められることとなる面があり,個人の思想及び良心の自由についての間接的な制約となり得る面の存在することは否定し難いものである。個人の思想及び良心の自由は憲法19条の保障するところであるから,その命令の不服従が国旗国歌に関する個人の歴史観や世界観に基づき真摯になされている場合には,命令不服従に対する不利益処分は,慎重な衡量的な配慮が求められるというべきである。求められる配慮としては,〔1〕当該教諭の国旗国歌に関する思想についての従前からの表明の有無,〔2〕不服従の態様,程度,〔3〕不服従による式典や生徒への影響の内容,程度,〔4〕当該職務命令の必要性と代替措置配慮の有無,〔5〕不利益処分が当該教諭や生徒に与える影響度,〔6〕当該職務命令や不利益処分がされるに至った経緯などの事情があり得るところ,これらの事情を総合的に勘案した結果,当該不利益処分を課することが裁量権の濫用あるいは逸脱となることもあり得るところであり,これらの事情に配慮した謙抑的な対応が教育現場における状況の改善に資するものというべきである。しかし,本件の事実関係及び訴訟経過等の下においては,これらの視点から結論が左右されるような事情はうかがわれないので,付言にとどめる。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 鬼丸かおる 裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信
裁判官竹内行夫は,退官につき署名押印することができない。
裁判長裁判官 鬼丸かおる