懲戒処分無効確認等請求事件 最高裁判所第一小法廷平成26年(受)第1310号 平成27年2月26日判決

       主   文

原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,被上告人らの控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。

       理   由

 上告代理人井上圭吾ほかの上告受理申立て理由について
1 本件は,上告人の男性従業員である被上告人らが,それぞれ複数の女性従業員に対して性的な発言等のセクシュアル・ハラスメント(以下「セクハラ」という。)等をしたことを懲戒事由として上告人から出勤停止の懲戒処分(以下「出勤停止処分」という。)を受けるとともに,これらを受けたことを理由に下位の等級に降格されたことから,上告人に対し,上記各出勤停止処分は懲戒事由の事実を欠き又は懲戒権を濫用したものとして無効であり,上記各降格もまた無効であるなどと主張して,上記各出勤停止処分の無効確認や上記各降格前の等級を有する地位にあることの確認等を求めている事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は,水族館の経営等を目的とする株式会社であり,大阪市が出資するいわゆる第三セクターとして,同市港区に所在する水族館(以下「本件水族館」という。)及びこれに隣接する商業施設の運営等を行っている。
 被上告人X1は,平成3年に上告人に入社し,同21年8月から営業部サービスチームのマネージャーの職位にあり,同24年3月当時,上告人の資格等級制度規程(以下「本件資格等級制度規程」という。)に基づき,M0(課長代理)の等級に格付けされていた。
 被上告人X2は,平成4年に上告人に入社し,同22年11月から営業部課長代理の職位にあり,同24年2月当時,本件資格等級制度規程に基づき,M0の等級に格付けされていた。
(2)上告人の営業部は営業チームとサービスチームで構成されており,営業部の事務室内では,サービスチームの責任者の役割を担うマネージャーである被上告人X1,同チームの複数の課長代理の1人である被上告人X2,売上管理等担当の女性従業員(昭和56年生。以下「従業員A」という。)及び拾得物担当の女性従業員(昭和61年生。以下「従業員B」といい,従業員Aと従業員Bを併せて「従業員Aら」ともいう。)を含む二十数名の従業員が勤務していた。なお,従業員Aは,営業部の事務室の一部を壁で仕切った精算室において,主任のC(以下「C」という。)とともに勤務していた。
 従業員Aは,D社(以下「D社」という。)から上告人に派遣されている派遣社員であり,従業員Bは,D社の従業員として同社が上告人から請け負っている業務に従事していた。
(3)平成23年当時,上告人の従業員(管理職,正社員,派遣社員等を問わず,上告人の事業所において勤務する者をいう。以下同じ。)の過半数は女性であり,本件水族館の来館者も約6割が女性であった。また,上告人は,職場におけるセクハラの防止を重要課題として位置付け,かねてからセクハラの防止等に関する研修への毎年の参加を全従業員に義務付けるなどし,平成22年11月1日には「セクシュアルハラスメントは許しません!!」と題する文書(以下「セクハラ禁止文書」という。)を作成して従業員に配布し,職場にも掲示するなど,セクハラの防止のための種々の取組を行っていた。
(4)ア上告人の就業規則には,社員の禁止行為の一つとして「会社の秩序又は職場規律を乱すこと」が掲げられ(4条(5)),就業規則に違反した社員に対しては,その違反の軽重に従って,戒告,減給,出勤停止又は懲戒解雇の懲戒処分を行う旨が定められていた(46条1項)。また,社員が「会社の就業規則などに定める服務規律にしばしば違反したとき」等に該当する行為をした場合は,上告人の判断によって減給又は出勤停止に処するものとされていた(46条の3)。
イ セクハラ禁止文書には,禁止行為として「〔1〕性的な冗談,からかい,質問」,「〔3〕その他,他人に不快感を与える性的な言動」,「〔5〕身体への不必要な接触」,「〔6〕性的な言動により社員等の就業意欲を低下させ,能力発揮を阻害する行為」等が列挙され,これらの行為が就業規則4条(5)の禁止する「会社の秩序又は職場規律を乱すこと」に含まれることや,セクハラの行為者に対しては,行為の具体的態様(時間,場所(職場か否か),内容,程度),当事者同士の関係(職位等),被害者の対応(告訴等),心情等を総合的に判断して処分を決定することなどが記載されていた。上告人において,セクハラ禁止文書は,就業規則4条(5)に該当するセクハラ行為の内容を明確にするものと位置付けられていた。
ウ 平成24年2月及び3月当時の本件資格等級制度規程には,M0(課長代理),S2(係長,主任)等の等級が定められ,社員が精神若しくは身体上の故障のため当該等級に該当しないとみなされたとき,等級に格付けされた後も職務遂行能力が甚だしく低く当該等級への格付けが不適当と認められたとき,又は就業規則46条に定める懲戒処分を受けたときは,社長,専務取締役及び総務部長により構成される審査会における降格に係る審査を経て降格を相当とされた社員につき,社長が降格の決定をする旨が定められていた。
(5)被上告人らは,従業員Aらに対し,平成22年11月頃から同23年12月までの間に,少なくとも別紙1(被上告人X1の行為一覧表)及び同2(被上告人X2の行為一覧表)のとおりの行為(以下「本件各行為」という。)をした。
 なお,被上告人X2は,以前から女性従業員に対する言動につきD社内で多数の苦情が出されており,また,平成22年11月に営業部に異動した当初,上司から女性従業員に対する言動に気を付けるよう注意されていた。
(6)上告人は,平成23年12月,従業員Aらから,被上告人らから本件各行為などのセクハラ行為等を受けた旨の申告を受け,被上告人らから事情聴取等を行った上で,次のア及びイのとおり,被上告人らに対し,本件各行為などのセクハラ行為等を懲戒事由として,それぞれ出勤停止処分をした。
ア 上告人は,被上告人X1の行為がセクハラ禁止文書の禁止行為(前記(4)イの〔1〕,〔3〕及び〔6〕)に該当し,就業規則4条(5)「会社の秩序又は職場規律を乱すこと」に当たるとして,同被上告人に対し,平成24年2月17日付けで,就業規則46条の3の規定により,同月18日から30日間(同年3月18日まで)の出勤を停止する旨の懲戒処分をした。
イ 上告人は,被上告人X2の行為がセクハラ禁止文書の禁止行為(前記(4)イの〔1〕,〔3〕,〔5〕及び〔6〕)に該当し,就業規則4条(5)「会社の秩序又は職場規律を乱すこと」に当たるとして,同被上告人に対し,平成24年2月17日付けで,就業規則46条の3の規定により,同月18日から10日間(同月27日まで)の出勤を停止する旨の懲戒処分をした。
 なお,従業員Aは,被上告人らの本件各行為が一因となって,平成23年12月末日限りでD社を退職し,本件水族館における勤務を辞めた。従業員Aは,被上告人らのセクハラ行為等について,被上告人らによる報復や派遣元であるD社の立場の悪化を懸念し,被上告人らに直接抗議したり上告人に訴えたりすることを控えていたが,本件水族館での勤務を辞めるに当たり,職場に残る従業員Bや後任者のことを考えて,従業員Bとともに上告人に対する上記の被害の申告をしたものであった。
(7)ア 上告人は,平成24年2月23日に審査会を開いた上で,被上告人X1が上記(6)アの出勤停止処分を受けたことを理由に,同被上告人の等級をM0からS2に1等級降格することを決定し,同年3月19日付けで,その旨を同被上告人に通知した。また,上告人は,同日付けで,同被上告人を営業部サービスチームのマネージャーから解任し,施設部施設チームの係長に任命した。
イ 上告人は,平成24年2月23日に審査会を開いた上で,被上告人X2が上記(6)イの出勤停止処分を受けたことを理由に,同被上告人の等級をM0からS2に1等級降格することを決定し,同月28日付けで,その旨を同被上告人に通知した。また,上告人は,同日付けで,同被上告人を総務部連絡調整チームの係長に任命した。
(8)被上告人らは,それぞれ上記(6)及び(7)の出勤停止処分及び降格により,次のとおり給与及び賞与の減額等を受けた。
ア 被上告人X1は,上記(6)アの出勤停止処分により,平成24年3月分及び同年4月分の給与につき合計49万2933円,同年6月分の賞与につき15万5459円を減額されるとともに,同年4月に行われた基本給の一つである年齢給の昇給(1490円の増額)を受けられなかった。また,同被上告人は,上記(7)アの降格により,同年3月から課長代理以上の管理職に支給される管理職手当(同月まで月額6万9000円,同年4月から月額5万5000円)及び同年4月に新設されたマネージャー手当(月額2万円)の支給を受けられなくなり,基本給の一つである職能給がM0の26号俸からS2の36号俸へと月額1万6600円減額された。
イ 被上告人X2は,上記(6)イの出勤停止処分により,平成24年3月分の給与につき17万2774円,同年6月分の賞与につき15万5459円を減額されるとともに,同年4月に行われた年齢給の昇給(1490円の増額)を受けられなかった。また,同被上告人は,上記(7)イの降格により,同年3月から管理職手当(同月まで月額6万9000円,同年4月から月額5万5000円)の支給を受けられなくなり,職能給がM0の19号俸からS2の36号俸へと月額6800円減額された。
3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断して,被上告人らの各出勤停止処分の無効確認請求や各降格前の等級を有する地位にあることの確認請求等を認容すべきものとした。
(1)前記2(5)のとおり被上告人らは本件各行為を現に行ったものと認められるところ,被上告人らがこれらの行為を行ったことは,セクハラ禁止文書の禁止するセクハラ行為など会社の秩序又は職場規律を乱すもの(就業規則4条(5))に当たり,会社の服務規律にしばしば違反したものとして,出勤停止等の懲戒事由(就業規則46条の3)に該当する。
(2)しかし,被上告人らが,従業員Aから明確な拒否の姿勢を示されておらず,本件各行為のような言動も同人から許されていると誤信していたことや,被上告人らが懲戒を受ける前にセクハラに対する懲戒に関する上告人の具体的な方針を認識する機会がなく,本件各行為について上告人から事前に警告や注意等を受けていなかったことなどを考慮すると,懲戒解雇の次に重い出勤停止処分を行うことは酷に過ぎるというべきであり,上告人が被上告人らに対してした本件各行為を懲戒事由とする各出勤停止処分は,その対象となる行為の性質,態様等に照らして重きに失し,社会通念上相当とは認められず,権利の濫用として無効であり,上記各処分を受けたことを理由としてされた各降格もまた無効である。
4 しかしながら,原審の上記3(1)の判断は是認することができるが,同(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)本件各行為の内容についてみるに,被上告人X1は,営業部サービスチームの責任者の立場にありながら,別紙1のとおり,従業員Aが精算室において1人で勤務している際に,同人に対し,自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器,性欲等について殊更に具体的な話をするなど,極めて露骨で卑わいな発言等を繰り返すなどしたものであり,また,被上告人X2は,前記2(5)のとおり上司から女性従業員に対する言動に気を付けるよう注意されていたにもかかわらず,別紙2のとおり,従業員Aの年齢や従業員Aらがいまだ結婚をしていないことなどを殊更に取上げて著しく侮蔑的ないし下品な言辞で同人らを侮辱し又は困惑させる発言を繰り返し,派遣社員である従業員Aの給与が少なく夜間の副業が必要であるなどとやゆする発言をするなどしたものである。このように,同一部署内において勤務していた従業員Aらに対し,被上告人らが職場において1年余にわたり繰り返した上記の発言等の内容は,いずれも女性従業員に対して強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感等を与えるもので,職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切なものであって,その執務環境を著しく害するものであったというべきであり,当該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来するものといえる。
 しかも,上告人においては,職場におけるセクハラの防止を重要課題と位置付け,セクハラ禁止文書を作成してこれを従業員らに周知させるとともに,セクハラに関する研修への毎年の参加を全従業員に義務付けるなど,セクハラの防止のために種々の取組を行っていたのであり,被上告人らは,上記の研修を受けていただけでなく,上告人の管理職として上記のような上告人の方針や取組を十分に理解し,セクハラの防止のために部下職員を指導すべき立場にあったにもかかわらず,派遣労働者等の立場にある女性従業員らに対し,職場内において1年余にわたり上記のような多数回のセクハラ行為等を繰り返したものであって,その職責や立場に照らしても著しく不適切なものといわなければならない。
 そして,従業員Aは,被上告人らのこのような本件各行為が一因となって,本件水族館での勤務を辞めることを余儀なくされているのであり,管理職である被上告人らが女性従業員らに対して反復継続的に行った上記のような極めて不適切なセクハラ行為等が上告人の企業秩序や職場規律に及ぼした有害な影響は看過し難いものというべきである。
(2)原審は,被上告人らが従業員Aから明白な拒否の姿勢を示されておらず,本件各行為のような言動も同人から許されていると誤信していたなどとして,これらを被上告人らに有利な事情としてしんしゃくするが,職場におけるセクハラ行為については,被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも,職場の人間関係の悪化等を懸念して,加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくないと考えられることや,上記(1)のような本件各行為の内容等に照らせば,仮に上記のような事情があったとしても,そのことをもって被上告人らに有利にしんしゃくすることは相当ではないというべきである。
 また,原審は,被上告人らが懲戒を受ける前にセクハラに対する懲戒に関する上告人の具体的な方針を認識する機会がなく,事前に上告人から警告や注意等を受けていなかったなどとして,これらも被上告人らに有利な事情としてしんしゃくするが,上告人の管理職である被上告人らにおいて,セクハラの防止やこれに対する懲戒等に関する上記(1)のような上告人の方針や取組を当然に認識すべきであったといえることに加え,従業員Aらが上告人に対して被害の申告に及ぶまで1年余にわたり被上告人らが本件各行為を継続していたことや,本件各行為の多くが第三者のいない状況で行われており,従業員Aらから被害の申告を受ける前の時点において,上告人が被上告人らのセクハラ行為及びこれによる従業員Aらの被害の事実を具体的に認識して警告や注意等を行い得る機会があったとはうかがわれないことからすれば,被上告人らが懲戒を受ける前の経緯について被上告人らに有利にしんしゃくし得る事情があるとはいえない。
(3)以上によれば,被上告人らが過去に懲戒処分を受けたことがなく,被上告人らが受けた各出勤停止処分がその結果として相応の給与上の不利益を伴うものであったことなどを考慮したとしても,被上告人X1を出勤停止30日,被上告人X2を出勤停止10日とした各出勤停止処分が本件各行為を懲戒事由とする懲戒処分として重きに失し,社会通念上相当性を欠くということはできない。
 したがって,上告人が被上告人らに対してした本件各行為を懲戒事由とする各出勤停止処分は,客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合に当たるとはいえないから,上告人において懲戒権を濫用したものとはいえず,有効なものというべきである。
(4)上告人は,被上告人らがそれぞれ出勤停止処分を受けたことを理由に,本件資格等級制度規程に基づき,被上告人らをそれぞれM0からS2に1等級降格したものであるところ,同規程には降格事由の一つとして就業規則46条に定める懲戒処分を受けたことが規定されており,また,上記のとおり被上告人らに対する各出勤停止処分は有効であるから,被上告人らについては降格事由に該当する事情が存するものといえる。
 また,本件資格等級制度規程は,社員の心身の故障や職務遂行能力の著しい不足といった当該等級に係る適格性の欠如の徴表となる事由と並んで,社員が懲戒処分を受けたことを独立の降格事由として定めているところ,その趣旨は,社員が企業秩序や職場規律を害する非違行為につき懲戒処分を受けたことに伴い,上記の秩序や規律の保持それ自体のための降格を認めるところにあるものと解され,現に非違行為の事実が存在し懲戒処分が有効である限り,その定めは合理性を有するものということができる。そして,被上告人らが,管理職としての立場を顧みず,職場において女性従業員らに対して本件各行為のような極めて不適切なセクハラ行為等を繰り返し,上告人の企業秩序や職場規律に看過し難い有害な影響を与えたことにつき,懲戒解雇に次いで重い懲戒処分として上記(3)のとおり有効な出勤停止処分を受けていることからすれば,上告人が被上告人らをそれぞれ1等級降格したことが社会通念上著しく相当性を欠くものということはできず,このことは,上記各降格がその結果として被上告人らの管理職である課長代理としての地位が失われて相応の給与上の不利益を伴うものであったことなどを考慮したとしても,左右されるものではないというべきである。
 以上によれば,上告人が被上告人らに対してした上記各出勤停止処分を理由とする各降格は,上告人において人事権を濫用したものとはいえず,有効なものというべきである。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,被上告人らの各請求は理由がなく,これらをいずれも棄却した第1審判決は正当であるから,上記の部分につき,被上告人らの控訴を棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 金築誠志 裁判官 櫻井龍子 裁判官 白木勇 裁判官 山浦善樹 裁判官 池上政幸)