措置取消等請求事件 最高裁判所第二小法廷平成30年(行ヒ)第299号 令和元年8月9日判決

       主   文

原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人舘内比佐志ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1 本件は,死刑確定者である被上告人が,被上告人宛ての信書の一部について受信を許さないこととして当該部分を削除した拘置所長の措置は違法であると主張して,上告人を相手に,同措置の取消しを求めるとともに,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)被上告人は,死刑確定者であり,平成21年6月3日以降,大阪拘置所に収容されている者である。
(2)A作成に係る被上告人宛ての信書(以下「本件信書」という。)が,平成27年8月10日,大阪拘置所に到達した。本件信書には,被上告人からコピーを依頼された訴訟書類につき,その写し及び原本を送付する旨の記述のほか,1行目には時候の挨拶の記述が,4~9行目には被上告人に対する謝意及び激励の記述があった(以下,本件信書のうち,上記の時候の挨拶並びに謝意及び激励が記述されている部分を「本件記述部分」という。)。
(3)大阪拘置所長(以下「所長」という。)は,平成27年3月12日付け達示第16号「「死刑確定者処遇規程」の制定について」を発出しているところ,その別紙「死刑確定者処遇規程」16条は,死刑確定者に対し,面会及び信書の発受が予想される者の申告を求め,所管の統括矯正処遇官は,当該死刑確定者と上記申告がされた者との間における外部交通の許否の方針について所長の決裁を受けるものとする旨を定めている。所長は,同条に基づき,同年7月31日当時,被上告人の親族38名,弁護士14名及び友人1名について被上告人との外部交通を許す方針としていたが,Aは,被上告人の親族ではなく,所長が被上告人との間の外部交通を許す方針としているその他の者にも含まれていなかった。
(4)所長は,平成27年8月11日,本件記述部分については,死刑確定者に発受を許す信書について定めた刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)139条1項各号に該当せず,同条2項により受信を許すべき事情も認められないが,本件信書のその余の部分については,同条1項2号に該当すると判断した。そこで,所長は,同日,本件記述部分について受信を許さないこととしてこれを削除する措置(以下「本件処分」という。)をし、被上告人に対し,削除後の本件信書を交付した。なお,削除とは,信書の一部を物理的に切り取ることをいう。
(5)大阪拘置所においては,被収容者と外部との間で日常的に多数の信書の発受が行われており,平成27年8月3日から同月14日までの間の1日当たりの通数は,受信が249~548通,発信が350~505通であった。 
(6)被収容者が外部から受ける信書は,被収容者が発する信書と異なり,使用可能な筆記具及び用紙に制限がないため,その一部について受信を許さないこととして抹消する場合,抹消すべき部分を判読不能な状態にするためには,同一色の筆記具を用いて塗り潰すだけでは足りず,数種類の筆記具を用いて塗り潰すなどする必要があった。
3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,被上告人の本件処分の取消請求を認容し,損害賠償請求を一部認容した。
 刑事収容施設法139条1項2号は,信書の発受の目的が婚姻関係の調整,訴訟の遂行,事業の維持その他の死刑確定者の身分上,法律上又は業務上の重大な利害に係る用務の処理(以下,これらを「重大用務処理」という。)のためであることを発受の許可の要件とするものであるところ,上記目的は当該信書全体の内容及び発受の相手方に照らして判断すべきものである。そして,上記目的が重大用務処理のためであると認められる信書については,その全体の発受を許すべきであり,重大用務処理のために必要とはいえない記述部分があるとしても,同法129条1項各号のいずれかに該当しない限り,当該部分を削除し,又は抹消することはできないと解するのが相当である。
 本件信書は,被上告人からコピーを依頼された訴訟書類につき,その写し及び原本を送付することが記述されているものであり,重大用務処理のために発受するものと認められるところ,本件記述部分の内容は,時候の挨拶並びに被上告人に対する謝意及び激励であり,重大用務処理のために必要とはいえないものの,刑事収容施設法129条1項各号のいずれかに該当するものではないから,所長が本件記述部分を削除し,又は抹消することは許されない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)刑事収容施設法は,死刑確定者の信書の発受について,親族との間においては,これを許すものとする(139条1項1号)一方,親族以外の者との間においては,重大用務処理のため発受する場合(同項2号)又は発受により死刑確定者の心情の安定に資すると認められる場合(同項3号)にこれを許すものとし,それ以外の場合には,その発受の相手方との交友関係の維持その他発受を必要とする事情があり,かつ,その発受により刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがないと認められるときに,これを許すことができるものとしている(同条2項)。これらの規定は,死刑確定者の拘置の趣旨,目的が,死刑確定者の心情の安定にも配慮して,死刑の執行に至るまでの間,外部交通の遮断も含めて社会から隔離してその身柄を確保するというものであることに鑑み,死刑確定者と親族以外の者との間の信書の発受については,同条1項2号若しくは3号又は同条2項に該当する場合に限り,これを許すこととしたものと解される。
 そして,刑事収容施設法139条1項2号が,死刑確定者であっても重大用務処理を妨げられるべきではないとの考慮に基づくものと解されることにも照らせば,そのために必要とはいえない記述部分についてまで,同号により発受を許すべき理由はないというべきである。
 以上によれば,刑事施設の長は,死刑確定者が親族以外の者との間で発受する信書につき,重大用務処理のために必要な記述部分のほかに,そのために必要とはいえない記述部分もある場合には,刑事収容施設法139条1項3号又は同条2項によりその発受を許すべきものと認められるときを除き,同条1項に基づき,同部分の発受を許さないこととしてこれを削除し,又は抹消することができると解するのが相当である。
(2)これを本件についてみると,本件信書は,親族以外の者が被上告人に宛てたものであり,本件記述部分の内容は,時候の挨拶並びに被上告人に対する謝意及び激励であって,重大用務処理のために必要なものとはいえず,刑事収容施設法139条1項3号又は同条2項に基づきその発受を許すべき事情もうかがわれない。
 そして,前記事実関係等のとおり,大阪拘置所においては,被収容者と外部との間で日常的に多数の信書の発受が行われており,被収容者が外部から受ける信書の一部を抹消する作業には相当の負担を伴うものであること等に照らせば,所長が,本件記述部分の発受を許さないこととするに当たり,これを削除したことについて,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法があるとはいえない。
 以上によれば,本件処分は適法であり,所長が本件処分をしたことは国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は以上と同旨をいうものとして理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,被上告人の請求はいずれも理由がなく,これらを棄却した第1審判決は正当であるから,上記部分につき,被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 三浦守 裁判官 山本庸幸 裁判官 菅野博之 裁判官 草野耕一)