損害賠償請求事件 最高裁判所第三小法廷平成26年(受)第754号 平成28年4月12日判決

       主   文

原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人都築政則ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1 本件は,死刑確定者として拘置所に収容されている被上告人が,信書の発信を拘置所長が許さずこれを返戻した行為が違法であると主張して,上告人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料等の支払を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)被上告人は,死刑確定者として,平成21年6月3日以降,大阪拘置所に収容されている者である。
(2)ア 被上告人は,平成22年9月28日,大阪拘置所の職員に対し,再審請求の弁護人であるA弁護士に宛てて,便箋7枚に記載された信書(以下「本件信書1」という。)を80円切手5枚を同封して発信することを申請した。
 本件信書1の1枚目には,A弁護士に対する近況報告等に続けて,被上告人の刑事裁判の支援者ら4名の氏名,住所,電話番号等が記載され,2枚目から7枚目までには,専ら上記支援者ら各自に対する連絡事項や差入れに対する感謝の言葉等が上記支援者らごとに便箋を分けて記載されていた。
イ 大阪拘置所長は,本件信書1は,外形的にはA弁護士を名宛人としているものの,便箋7枚のうち6枚(2枚目から7枚目まで)は,被上告人が同弁護士を介して支援者ら4名に対して信書の転送を図ったものであり,その発信を許可した場合,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)の定める死刑確定者の外部交通についての制限の潜脱を認める結果となり,ひいては,不正連絡等の手段として利用されるなど拘置所の規律及び秩序を害するおそれがあると判断し、同月29日,被上告人に対し,本件信書1及び切手5枚を返戻した。
(3)ア 被上告人は,同日,大阪拘置所の職員に対し,改めてA弁護士に宛てて,便箋7枚に記載された信書(以下「本件信書2」といい,本件信書1と併せて「本件各信書」という。)の発信を申請した。 
 本件信書2は,本件信書1を加筆,修正した上,2枚目以降について便箋の順序を入れ替えたものであり,その記載内容は,本件信書1とほぼ同じであった。
イ 大阪拘置所長は,本件信書2も,本件信書1と同様に,被上告人がA弁護士を介して支援者ら4名に対して信書の転送を図ったものであり,その発信を許可した場合,本件信書1の発信を許可した場合と同様に,拘置所の規律及び秩序を害するおそれがあると判断し,同年10月1日,本件信書2を被上告人に返戻した。
 これに対し,被上告人は,本件信書2のうち1枚目のみをA弁護士宛ての信書として発信するよう申請したため,大阪拘置所長がこれを許可し,本件信書2の1枚目は,同日,同弁護士に対して発信された。
3 原審は,上記事実関係の下において,本件各信書がA弁護士に対する信書であり,刑事収容施設法139条1項所定の信書には該当しないとした上で,要旨次のとおり判断して,被上告人の請求を一部認容すべきものとした。
 被上告人と支援者ら4名との関係及び本件各信書の内容からすると,本件各信書の支援者ら4名に関する部分(2枚目から7枚目まで)は,同人らとの間の良好な交友関係を維持するためのものであると解され,他方で,上記部分の発信により刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあるとは認められないから,本件各信書は,同条2項の要件を満たしており,大阪拘置所長は,その発信を許可すべき義務を負っていたものというべきである。したがって,大阪拘置所長がその発信を許可しないとすれば国家賠償法上違法となるから,本件各信書を被上告人に対して返戻した行為は同法上違法であるというべきである。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 刑事収容施設法139条2項は,同条1項各号に掲げる信書以外の信書の発受について,その発受の相手方との交友関係の維持その他その発受を必要とする事情があり,かつ,その発受により刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがないと認めるときは,刑事施設の長は,死刑確定者に対し,これを許すことができる旨を定めている。原審は,本件各信書の2枚目以降の部分が被上告人と支援者ら4名との間の良好な交友関係を維持するためのものであるとするが,同条2項の文言に照らせば,同項にいう交友関係の維持については当該信書の発受の相手方との関係で検討されるべきものであり,専ら支援者ら4名に対する連絡事項等が記載された上記の部分が本件各信書の発信の相手方であるA弁護士との交友関係の維持に関わるものでないことは明らかである。また,前記2(2)ア及び(3)アのような本件各信書の内容,体裁等に照らせば,被上告人が,上記の部分を支援者ら4名各自宛ての信書として個別に発信を申請せず,本件各信書の全部をA弁護士宛ての信書として発信しようとしたことに拘置所の規律及び秩序の維持の観点から問題があったことは否定し難く,本件各信書の発信を許可した場合には拘置所の規律及び秩序を害するおそれがあるとした大阪拘置所長の判断に不合理な点があったということはできない。
 したがって,大阪拘置所長が,同項の規定により発信を許すことができないものとして,被上告人に対し本件各信書を返戻した行為は,国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえない。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は以上と同旨をいうものとして理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,被上告人の請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は正当であるから,上記の部分につき,被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大橋正春 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 木内道祥 裁判官 山崎敏充)