損害賠償請求事件 最高裁判所第三小法廷平成24年(受)第651号 平成25年4月16日判決

       主   文

原判決を破棄する。
本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

       理   由

 上告代理人大窪和久の上告受理申立て理由について
1 本件は,弁護士である被上告人に債務整理を依頼した第1審原告亡Aの相続人である上告人が,被上告人に対し,債務整理の方針についての説明義務違反があったことなどを理由として,債務不履行に基づき慰謝料等を損害賠償として求める事案である。
2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)弁護士である被上告人は,平成17年6月30日,Aから,消費者金融業者に合計約250万円の債務があるなどとして,その債務整理について相談を受けた。被上告人は,債務の返済状況等を聴取した後,Aに対し,過払金が生じている消費者金融業者から過払金を回収した上,これを原資として他の債権者に一括払による和解を提案して債務整理をすること,債務整理費用が30万円であり,過払金回収の報酬が回収額の3割であることなどを説明し,被上告人とAは,同日,債務整理を目的とする委任契約を締結した。
(2)被上告人は,利息制限法所定の制限利率に従い,Aが債権者に弁済した元利金の充当計算をしたところ,B(当時の商号はC)及びDに対してはまだ元本債務が残っているが,E,F及びGに対しては過払金が発生していることが判明した。
 そこで,被上告人は,平成17年9月27日までに,Aの訴訟代理人として,E,F及びGに対して過払金返還請求訴訟を提起し,その後,上記3社とそれぞれ和解をして,平成18年6月2日までに,合計159万6793円の過払金を回収した。
(3)被上告人は,上記3社から回収した過払金により,B及びDに対する支払原資を確保できたものと判断し,平成18年6月12日,B及びDに対し,「ご連絡(和解のご提案)」と題する文書を送付して,元本債務の8割に当たる金額(Bについては30万9000円,Dについては全ての取引を一連のものとして計算した9万4000円)を一括して支払うという和解案を提示した。上記文書には,「御社がこの和解に応じていただけない場合,預った金は返してしまい,5年の消滅時効を待ちたいと思います。」,「訴訟等の債権回収行為をしていただいても構いませんが,かかった費用を回収できない可能性を考慮のうえ,ご判断ください。」などと記載されていた。
 Bは上記の内容による和解に応じたが,Dはこれに応じなかった。
(4)被上告人は,平成18年7月31日頃,A方に電話をかけ,Aに対し,回収した過払金の額やDに対する残元本債務の額について説明したほか,Dについてはそのまま放置して当該債務に係る債権の消滅時効の完成を待つ方針(以下「時効待ち方針」という。)を採るつもりであり、裁判所やDから連絡があった場合には被上告人に伝えてくれれば対処すること,回収した過払金に係る預り金を返還するがDとの交渉に際して必要になるかもしれないので保管しておいた方が良いことなどを説明した。
 また,被上告人は,その頃,Aに対し,「債務整理終了のお知らせ」と記載された文書を送付した。同文書には,Dに対する未払分として29万7840円が残ったが消滅時効の完成を待とうと考えているなどと記載されていた。 
(5)被上告人は,平成18年8月1日,回収した過払金合計159万6793円から過払金回収の報酬47万9038円及び債務整理費用30万円の合計77万9038円,Bに支払った和解金等を差し引く経理処理を行い,残額の48万7222円から振込費用を控除した残金をAに送金した。
(6)被上告人は,平成21年4月24日,Aに対し,消費者金融業者の経営が厳しくなったため以前よりも提訴される可能性が高くなっており,12万円程度の資金を用意できればそれを基に一括して支払う内容での和解交渉ができるなどと説明したが,Aは,被上告人が依頼者から債務整理を放置したことを理由とする損害賠償請求訴訟を提起されたとの報道等を受けて,被上告人による債務整理に不安を抱くようになり,同年6月15日,被上告人を解任した。
 Aは,上告代理人に改めて債務整理を委任した。上告代理人は,Aの代理人としてDと交渉し,平成21年12月17日,AがDに対して和解金50万円を分割して支払う内容の和解を成立させた。
(7)Aは,平成22年3月16日,本件訴訟を提起したが,第1審係属中である平成23年3月20日に死亡し,その妻である上告人が本件訴訟に係るAの権利を承継した。
3 原審は,上記事実関係等の下において,債務整理の方針についての説明義務違反の有無について,Aが,被上告人から上記2(1)及び(4)に記載の内容等の説明を受け,被上告人の採る債務整理の方針に異議を述べず,その方針を黙示に承諾したと認められることなどからすれば,被上告人が上記説明義務に違反したとは認められないと判断して,上告人の請求を棄却した。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 本件において被上告人が採った時効待ち方針は,DがAに対して何らの措置も採らないことを一方的に期待して残債権の消滅時効の完成を待つというものであり,債務整理の最終的な解決が遅延するという不利益があるばかりか,当時の状況に鑑みてDがAに対する残債権の回収を断念し,消滅時効が完成することを期待し得る合理的な根拠があったことはうかがえないのであるから,Dから提訴される可能性を残し,一旦提訴されると法定利率を超える高い利率による遅延損害金も含めた敗訴判決を受ける公算が高いというリスクをも伴うものであった。
 また,被上告人は,Aに対し,Dに対する未払分として29万7840円が残ったと通知していたところ,回収した過払金から被上告人の報酬等を控除してもなお48万円を超える残金があったのであるから,これを用いてDに対する残債務を弁済するという一般的に採られている債務整理の方法によって最終的な解決を図ることも現実的な選択肢として十分に考えられたといえる。
 このような事情の下においては,債務整理に係る法律事務を受任した被上告人は,委任契約に基づく善管注意義務の一環として,時効待ち方針を採るのであれば,Aに対し,時効待ち方針に伴う上記の不利益やリスクを説明するとともに,回収した過払金をもってDに対する債務を弁済するという選択肢があることも説明すべき義務を負っていたというべきである。
 しかるに,被上告人は,平成18年7月31日頃,Aに対し,裁判所やDから連絡があった場合には被上告人に伝えてくれれば対処すること,Dとの交渉に際して必要になるかもしれないので返還する預り金は保管しておいた方が良いことなどは説明しているものの,時効待ち方針を採ることによる上記の不利益やリスクをAに理解させるに足りる説明をしたとは認め難く,また,Dに対する債務を弁済するという選択肢について説明したことはうかがわれないのであるから,上記の説明義務を尽くしたということはできない。そうである以上,仮に,Aが時効待ち方針を承諾していたとしても,それによって説明義務違反の責任を免れるものではない。
5 以上によれば,原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そこで,損害の点等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官田原睦夫,同大橋正春の各補足意見がある。

 裁判官田原睦夫の補足意見は,次のとおりである。

 本件訴訟では,依頼者から債務整理について受任した弁護士の依頼者に対する説明義務の有無及びその内容,並びに債権者に対し「時効待ち」の方針を採ることの適否が問題となっているところ,それらの諸点について,本件事案に即して以下に補足的に意見を述べる。
1 債務整理の依頼を受けた弁護士の説明・報告義務について
(1)受任時における説明義務について
 弁護士は,法律事務の依頼を受ける依頼者に対しては,委任契約締結過程における信義則上の義務の一環として,依頼を受けることとなる事務の内容に関して説明義務を負うものであるが,その受任する事務の内容は,一般に法律事務としての専門性が高く,またその事務の性質上受任者に一定の裁量権を伴うことが前提とされるところから,その受任時において,その委任契約の締結に伴う種々の問題点について説明すべき義務を負っているものというべきである。以下,その具体的内容についてみてみる。
ア 依頼者から債務整理の依頼を受けた弁護士は,その受任に当たり,当該事案に応じて適切と認められる法的手続(例えば破産,個人再生,特定調停,私的整理等)について,依頼者の資力や依頼者自身の対応能力等に応じて適切な説明をなすべき責任がある。
イ その説明に当たっては,それらの各手続に要する時間やコスト,依頼者自らが行うべき事務等の負担の内容等,メリット・デメリット(破産手続を選択する場合の免責の見込みの有無,免責を受けられない場合の就業制限等の制約内容,個人再生手続を選択する場合の履行の見込み,各手続と保証人等関係者への影響の有無,程度等)を説明することが求められる。
ウ 依頼者が経済的に困窮しているような場合には,法律扶助手続の制度の説明も含まれるというべきである。
エ なお,本件記録を見る限り,被上告人が本件受任時に上記の説明義務を尽くしていたかという点については,大きな疑義が残る。
(2)受任後の説明義務について
 弁護士は,依頼者から法律事務の委任を受けた後は,途中経過についての報告義務を免除するなどの特段の合意がない限り,委任契約における善管注意義務の一環として,適宜に受任事務の遂行状況について報告し,説明すべき義務を負うものというべきである。殊に,委任事務の内容が財産の管理にかかわるものである場合,その財産管理の状況を適宜に報告すべきことは委任事務の性質上当然と言えよう。そして,債務整理は,財産管理に係る事務であるから,債務者から途中経過の報告義務を全面的に免除する旨の明示の意思表示を受けている等の特別の事情のない限り,受任者として受任事務の区切り毎に報告・説明すべき義務があるものというべきである。
 殊に,過払金返還請求は,積極財産の処理である以上,かかる義務が存するのは当然である(民法644条による直接の効果であり,同法645条の請求による報告義務とは別の義務である。本件では原審までの審理過程において,委任者の自己決定権との関係について双方が主張を闘わしているが,それとは直接関係しないものというべきである。)。
 なお,上記の報告・説明義務の内容には,受任時以降の事案の進展状況に応じたその後の見通し,対応等に関する説明義務が当然に含まれるものというべきである。
2 受任事務の遂行にかかる善管注意義務について
(1)受任事務の遂行と裁量権の行使について
 一般に弁護士の受任する法律事務の遂行においては,弁護士業務の専門性との関係上,委任契約に特段の定めがない限り受任者たる弁護士に一定の裁量権が認められていると解することができる。
 しかし,その裁量権の行使に当たっては,専門家としての善管注意義務を尽くして行使すべきものであって,その行使の際に専門家として通常考慮すべき事項を考慮せず,あるいはその行使の内容が,専門家たる弁護士が行うものとして社会的に許容される範囲(それは,弁護士倫理上許容される範囲と必ずしも一致するものではない。)を超え,その結果依頼者外の関係者の権利を侵害するに至る場合には,善管注意義務違反が問われることとなる。
(2)受任事務の適宜遂行義務について
 受任者は,その受任事務を,その事務の性質上社会的に許容される期間内に適切に処理すべき義務を受任者としての善管注意義務の内容として求められる。
 その履行が,その事務の性質上通常求められる期間を超えた場合には,債務不履行責任を問われることとなり,また,弁護士倫理違反として懲戒処分の対象となり得る。
3 本件における「時効待ち」手法の選択と善管注意義務について
(1)債務整理における「時効待ち」手法の選択の可否について
ア 債務整理における債権者に対する誠実義務
 債務整理を受任した弁護士が,その対象となる債権者に受任通知及び債務整理についての協力依頼の旨を通知した場合には,債権者は,正当な理由のない限りこれに誠実に対応し,合理的な期間は強制執行等の行動に出ることを自制すべき注意義務を負担し,それに違反する場合には不法行為責任を負うものと解されている(東京高裁平成9年6月10日判決・高裁民事判例集50巻2号231頁)こととの対応上,かかる通知を発した弁護士は,その対象となる債権者に対して,誠実に且つ衡平に対応すべき信義則上の義務を負うものというべきである。
 そして,受任弁護士の債権者に対する不誠実な対応の結果,債権者との関係が悪化し通常の対応がなされていれば適宜の解決が図れたのにも拘ずその解決が遅れ,その結果,依頼者がその遅延に伴い過分な負担を負うこととなった場合には,当該弁護士は依頼者に対して債務不履行責任を負うことがあり得るといえる。
 上記で述べたところからすれば,受任した弁護士が一部の債権者と示談を進め乍ら,他の債権者との交渉をすることなく「時効待ち」を行ったり,債権者と誠実な交渉を行うことなく一方的に示談条件を提示し,その条件以外では示談に応じることを拒み,他の債権者とのみ交渉を行うようなことは許容されないと言わねばならない。
イ 債務整理における「時効待ち」の手法と債務者の地位
 弁護士が債務整理につき受任する場合,債務者の経済的再生の環境を整えることがその最大の責務であり,専門家としてそれに最も適した債務整理の手法を選択して,それを債務者に助言すべき義務を善管注意義務の内容として負っているものというべきである。
 債務者が経済的再生を図るには,債権者からの取立ての不安を払拭し,安心して自らの再生への途を踏む態勢を整えることが肝要であり,債務整理に徒に時間を費やすべきではない。
 かかる観点からすれば,債務整理の手段として「時効待ち」の手法を採ることは,対象債権者との関係では,時効期間満了迄債務者を不安定な状態に置くこととなり,その間に訴訟提起された場合には,多額の約定遅延損害金が生じ,又債権者が既に債務名義を取得している場合には,給与債権やその他の財産に対する差押えを受ける可能性がある等,債務者の再生に支障を来しかねないのであって,原則として適切な債務整理の手法とは言えない。かかる手法は,債権者と連絡がとれず交渉が困難であったり,債権者が強硬で示談の成立が困難であり且つ当該債権者の債権額や交渉対応からして訴の提起や差押え等債務者の再生の支障となり得る手段を採ることが通常予測されない等,特段の事情があると認められる場合に限られるべきである。
 そして,債権者が上場企業等一定の債権管理体制を備えている企業の場合には,一般に,債権の時効管理は厳格に行われており,超小口債権で回収費用との関係から法的手続を断念することが予想されるような場合を除き,時効まで放置することは通常あり得ないのであって,かかる債権者に対して「時効待ち」の手法を採ることは,弁護士としての善管注意義務違反に該るということができる。
 なお,債務整理に関する一部の文献に,債務整理の手法として「時効待ち」の手法が紹介されていることをもって被上告人はその主張の根拠としているが,法的な正当性を欠くそのような文献の存在をもって,安易に「時効待ち」の手法を採用することを合理化する理由とはならず,上記の善管注意義務を免除すべき理由とはなり得ないというべきである。
 また,一部の債権者と和解し,一部の債権者に対して「時効待ち」の対応をし,その後破産手続に移行した場合には,当該債権者との和解それ自体が否認の対象となる可能性が生じるのであって,却って全体の解決を遅らせる危険も存する点についても配慮すべきである。
ウ 本件における「時効待ち」の手法の選択の適否
 本件では,被上告人は,Dの残債権額について同社との間での確認作業を十分に行わず,被上告人が算定した計算結果(記録によれば,過去の取引履歴からして,取引が二口に岐れ,一口については過払金返還請求権が時効にかかっている可能性があるのにそれを無視して一連計算した結果)に基づいて一方的に示談条件を提示し,Dがそれに応じないからとの理由で「時効待ち」の方針を採用したことがうかがわれるが,かかる方針の採用自体,上述の受任弁護士としての債権者に対する誠実義務に反するものであり,又,Dが上場企業であって,企業としてシステム的に時効管理を行っていることが当然に予測される以上,「時効待ち」によってその債権が時効消滅することは通常予測し得ないのであるから,「時効待ち」の方針を採用すること自体,受任弁護士としての裁量権の逸脱が認められて然るべきである。
(2)「時効待ち」手法の選択と説明義務について
 本件において,被上告人が「時効待ち」の手法の選択をAに薦めるに当っては,Dの債権額についてDの主張する金額と被上告人が算定した金額との差異について,その理由を含めて詳細にAに対して説明し,訴訟を提起される場合に負担することとなる最大額,及び時効の成立まで相当期間掛りその間不安定な状態におかれることについて具体的に説明すべきであり,また,Dが上場企業であって,時効管理について一定のシステムを構築していることが想定されるところから,「時効待ち」が奏功しない可能性が高いことについても説明すべき義務が存したというべきである。
 ところが,被上告人は,法廷意見に指摘するとおり,裁判所やDから連絡があった場合には,被上告人に伝えてくれれば対処すること,Dとの交渉に際して必要になるかもしれないので返還する預り金は保管しておいた方がよいことなどの説明はしたものの,記録によれば「時効待ち」方針を採る場合の不利益やリスクについて具体的に説明していないばかりか,仮に裁判所やDから通知があった場合に,被上告人が具体的にどのように対処するのか,その際に被上告人に対して新たな弁護士報酬が発生するのか否か,被上告人が対処することによってAは最大幾何程の経済的負担を負うことになるのか,またそれにどの程度の期間を要するのか等について,説明をしていないのであって,被上告人の説明義務違反は明らかである。

 裁判官大橋正春の補足意見は,次のとおりである。

 事案に鑑み,法律事務を受任した弁護士の依頼者に対する説明義務に関し,以下のとおり補足意見を述べる。
 法律事務を受任した弁護士には,法律の専門家として当該事務の処理について一定の裁量が認められ,その範囲は委任契約によって定まるものであるが,特段の事情がない限り,依頼者の権利義務に重大な影響を及ぼす方針を決定し実行するに際しては,あらかじめ依頼者の承諾を得ることが必要であり,その前提として,当該方針の内容,当該方針が具体的な不利益やリスクを伴うものである場合にはそのリスク等の内容,また,他に考えられる現実的な選択肢がある場合にはその選択肢について,依頼者に説明すべき義務を負うと解される。さらに,受任した法律事務の進行状況についての報告が求められる場合もあるというべきであり,例えば,訴訟を提起して過払金を回収したような場合には,特段の事情がない限り,速やかにその内容及び結果を依頼者に報告すべき義務を負うものと解される。こうした弁護士の依頼者に対する説明義務が委任契約に基づく善管注意義務の一環として認められるものであることは,法廷意見の述べるとおりであり,上記の報告義務についても同様に解すべきであろう。
 本件において被上告人が採用した時効待ち方針には,法廷意見が指摘する不利益やリスクがあり,また,他に考えられる現実的な選択肢があったのであるから,これらを説明しなかった被上告人は説明義務違反を免れないものである。更に,弁護士からの受任通知及び協力依頼に対しては,正当な理由のない限り,これに誠実に対応し,合理的な期間は強制執行等の行動に出ることを自制している貸金業者との関係においても,時効待ち方針は,債務整理を受任した弁護士が積極的に採用するものとしてはその適切性に疑問があり,こうした方針を採用する場合は弁護士には依頼者に対しその内容等を説明することがより強く要求される。
 弁護士職務基本規程(平成16年日本弁護士連合会会規第70号。以下「基本規程」という。)36条は,「弁護士は,必要に応じ,依頼者に対して,事件の経過及び事件の帰趨に影響を及ぼす事項を報告し,依頼者と協議しながら事件の処理を進めなければならない。」と弁護士の依頼者に対する報告及び説明義務を定めているが,同条はその違反が懲戒の対象となり得る行為規範・義務規定として定められたものであり(基本規程82条2項参照),弁護士と依頼者との間の委任契約の解釈適用に当たって当然に参照されるべきものである。弁護士の依頼者に対する報告及び説明義務については,自治団体である弁護士会が基本規程36条の解釈適用を通じてその内容を明確にしていくことが期待される。
(裁判長裁判官 大橋正春 裁判官 田原睦夫 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 寺田逸郎)