損害賠償請求事件 最高裁判所第二小法廷平成24年(行ヒ)第19号 平成25年7月12日判決

       主   文

1 原判決主文第1項(2)中、29万7530円及びこれに対する平成21年4月16日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払の請求を命じた部分を超える部分を破棄する。
2 前項の破棄部分につき、本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
3 上告人のその余の上告を棄却する。
4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人長尾悟ほかの上告受理申立て理由第2について
1 本件は、兵庫県川西市(以下「市」という。)が、平成19年度及び同20年度において、業者Bとの間で、市における処理が困難な廃棄物の運搬等の委託契約を締結し、これに基づく委託料を支払ったところ、市の住民である被上告人らが、上記委託契約は廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)等に違反するもので違法、無効であり、これに基づく委託料の支出も違法であるなどと主張して、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、上告人を相手に、その支出当時に市長の職にあったAに対し損害賠償請求をすることを求める事案である。
2 原審の確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
(1)Aは、平成18年10月28日以降、現在まで市長の職にある者である。
 業者Bは、廃棄物の収集運搬等を行う業者であり、平成19年度及び同20年度当時、市における一般廃棄物収集運搬業の許可を受けていたが、市における一般廃棄物処分業の許可は受けていなかった。
(2)Aは、市を代表して、平成19年4月1日、業者Bとの間で、随意契約の方法により、委託業務の内容を市の北部処理センターから処理施設への不燃性廃棄物等の運搬等とし、委託業務期間を同日から同20年3月31日まで、委託料を4トン車1台当たり6万2500円(廃棄物の処分の費用を含む。)とすることなどを内容とする委託契約(以下「平成19年度委託契約」という。)を締結した。その委託業務の内容には、処理施設への運搬や車両への積込みのほか、上記のとおり委託料の費目に含まれる廃棄物の処分ないしその委託も含まれており、廃棄物の処分の方法やその処分を誰が行うか等は業者Bに一任されていた。
(3)Aは、市を代表して、平成20年4月1日、業者Bとの間で、随意契約の方法により、委託業務期間を同日から同21年3月31日までとし、それ以外は平成19年度委託契約と同内容の委託契約(以下「平成20年度委託契約」といい、平成19年度委託契約と併せて「本件各委託契約」という。)を締結した。
(4)本件各委託契約に基づいて業者Bが運搬等を行った対象物は、不燃性粗大ごみとして排出された一般廃棄物や不法に投棄された廃棄物の中から選別されたもので、市における破砕処理が不可能なもの及び市における処分ないし資源化が困難なもの(以下、これらを併せて「処理困難物」という。)であり、これらに含まれるものとしては、雨傘、マットレス、金網、消火器、ガスボンベ等がある。
(5)業者Bは、平成19年度委託契約に基づき、平成19年9月から同20年3月までの間に4トン車608台分の処理困難物について運搬等の受託業務を行い、平成20年度委託契約に基づき、同年4月から同年11月までの間に4トン車402台分の処理困難物について運搬等の受託業務を行った。
 なお、業者Bは、兵庫県尼崎市における一般廃棄物収集運搬業の許可を受けていなかったが、上記の4トン車1010台分の処理困難物を全て同市所在の業者Dに搬入していた。
(6)市は、業者Bに対し、平成19年度委託契約に基づき、平成19年9月分から同20年3月分までの委託料として合計3800万円を支払い、平成20年度委託契約に基づき、同年4月分から同年11月分までの委託料として合計2512万5000円を支払った。なお、これらの支払に係る各支出命令は、いずれも専決権者の専決により行われた。
3 原審は、上記事実関係等の下において、本件各委託契約における運搬等の対象物である処理困難物は廃棄物処理法2条2項の一般廃棄物に該当し、本件各委託契約は、一般廃棄物の処分やその委託等に関する同法に基づく規制(同法6条、6条の2第1項、2項、7条1項、14項、同法施行令4条等)を無視するもので、同法の趣旨を没却する重大な違法があり私法上も無効であって、Aが平成20年度委託契約を締結したこと及び本件各委託契約に基づく前記2(6)の委託料の各支出命令を阻止しなかったことは市に対する不法行為となるとした上で、その損害額の算定につき、上記不法行為により市が被った損害額は無効な本件各委託契約に基づいて支払われた委託料の全額6312万5000円であるとして、これと、同種の委託契約の相手方である業者Cに支払われた委託料の一部である29万7530円とを併せて、Aに対し合計6342万2530円及びこれに対する遅延損害金の支払を請求することを求める限度で被上告人らの請求を認容した。
4 しかしながら、本件各委託契約に係る損害額の算定に関する原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 地方自治法242条の2第1項4号に基づく住民訴訟において住民が執行機関等に対し行使することを求める損害賠償請求権は、民法その他の私法上の損害賠償請求権と異なるところはないというべきであるから、前者における損害の有無及びその額については、後者における損害の有無及び額についてと同様の規律に従ってこれを判断すべきものである(最高裁平成5年(行ツ)第15号同6年12月20日第三小法廷判決・民集48巻8号1676頁参照)。
 前記事実関係等によれば、本件においては、4トン車1010台分の処理困難物について本件各委託契約に基づく運搬等の受託業務が現に行われ、その対価として委託料が支払われたものであるところ、市は上記処理困難物の処理を行う必要があり、これを業者に委託して行うには、上記受託業務に相当するその運搬や積込みの業務及びその処分の業務の各委託につきそれぞれ相応の委託料を負担する必要があったことは明らかである。このような本件の事情の下においては、Aの上記不法行為については、廃棄物処理法に違反する違法な本件各委託契約に基づいて支払われた委託料(以下「本件委託料」という。)の額が、仮に本件各委託契約に代えて上記処理困難物の運搬や積込みの業務及びその処分の業務に係る各委託契約がそれぞれ同法に違反しない適法な契約として締結されていたとすれば市が負担したであろう適正な委託料(以下「適正委託料」という。)の額を超える場合に限り、Aが市に対し賠償すべき損害が発生したものと認められ,これらの差額がその損害額になるものと解するのが相当である。
5 以上と異なる見解に立って、本件委託料の全額を上記損害額と認定した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。 
 以上によれば、原判決中、本件委託料の全額6312万5000円及びこれに対する遅延損害金につきAに対し損害賠償請求をすることを求める請求を認容した部分は破棄を免れない。そして、Aが市に対し賠償すべき損害の有無やその額等に関し、適正委託料の額及び本件委託料との多寡や差額等について更に審理を尽くさせるため、上記破棄部分につき本件を原審に差し戻すこととする。なお、その余の請求に関する上告については、上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので、これを棄却することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 千葉勝美 裁判官 竹内行夫 小貫芳信 鬼丸かおる)