損害賠償請求事件 最高裁判所第二小法廷平成25年(受)第2331号 平成27年9月18日判決

       主   文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人青野洋士ほかの上告受理申立て理由について
1 本件は,死刑確定者として拘置所に収容されている被上告人が,夫の養子との外部交通の申出を拘置所長から不許可とされ,著しい精神的苦痛を被ったと主張して,上告人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料等の支払を求める事案である。
2 記録によれば,本件の経過は次のとおりである。
(1)被上告人は,平成24年5月30日,本件訴えを提起するとともに,訴訟上の救助を申し立てた。本件訴状には,請求の趣旨として,上告人に対し,300万円及びこれに対する平成22年1月4日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める旨記載されていた。
(2)第1審は,平成24年8月31日,上記救助の申立てにつき,被上告人は,訴訟の準備及び追行に必要な費用を支払う資力がない者に該当すると一応認められるが,被上告人の請求のうち50万円を超える部分については,被上告人が主張する違法行為や損害の内容に照らして明らかに過大であり,勝訴の見込みがないとはいえないときに該当するとは認められないとして,被上告人に対し,50万円の請求に対応する訴え提起の手数料5000円及び書類の送達に必要な費用について訴訟上の救助を付与し,その余の申立てを却下する旨の決定(以下「本件救助決定」という。)をした。
(3)第1審の裁判長は,同日,被上告人に対し,訴え提起の手数料として,収入印紙1万5000円を本件救助決定の確定の日から5日以内に納付することを命ずる補正命令(以下「本件補正命令」という。)を発した。上記収入印紙の額は,300万円の請求に対応する訴え提起の手数料2万円から訴訟上の救助が付与された5000円を控除した金額である。
(4)被上告人は,平成24年9月7日,本件訴状の請求の趣旨の「300万円」を「50万円」に訂正する旨の訴状訂正申立書(以下「本件訂正申立書」という。)を提出した。
(5)本件救助決定に対し,上告人が即時抗告を申し立てたが,抗告審は,平成24年12月3日,抗告を棄却し,同月4日,本件救助決定は確定した。
(6)被上告人は,本件補正命令で命じられた期間内に収入印紙1万5000円を納付しなかった。
(7)第1審は,本件訂正申立書による被上告人の請求の減縮によっては本件補正命令に応じた補正がされたものといえず,本件訴えは不適法であるなどとして,民訴法140条により本件訴えを却下した。
3 原審は,本件訴えの提起と同時に訴訟上の救助の申立てをした被上告人の意思を合理的に解釈すれば,本件訴えの請求金額は,本件訴状が提出された時ではなく,本件訂正申立書が提出された時に50万円に確定したというべきであるから,本件補正命令は違法であり,これに応じた補正がされなかったことを理由に本件訴えを却下することは許されないとして,第1審判決を取消し,本件を第1審に差し戻した。
4 所論は,訴額の算定は,訴えの提起時を基準とすべきであり,請求金額の一部に対応する訴え提起の手数料等についてのみ訴訟上の救助を付与する決定がされた後,原告が請求金額を減額する旨の訴状訂正申立書を提出した場合であっても,当初に納付すべき訴え提起の手数料がそれに応じて減額されるものではないから,本件補正命令に応じた訴え提起の手数料の納付がない以上,本件訴えは不適法であり,却下されるべきであるというものである。
5(1)金銭債権の支払を請求する訴えの提起時にされた訴訟上の救助の申立てに対し,当該債権の数量的な一部について勝訴の見込みがないとはいえないことを理由として,その部分に対応する訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する決定が確定した場合において,請求が上記数量的な一部に減縮されたときは,訴え提起の手数料が納付されていないことを理由に減縮後の請求に係る訴えを却下することは許されないと解すべきである。その理由は,次のとおりである。
 訴えに係る金銭債権の数量的な一部について勝訴の見込みがないとはいえず,かつ,これに対応する訴え提起の手数料を支払う資力がないか,又はその支払により生活に著しい支障を生ずる場合には,当該部分に対応する訴え提起の手数料につき訴訟上の救助を付与する決定(以下「一部救助決定」という。)をすることができるが,これは,当該債権の数量的な一部に限ってではあるものの,正当な権利を有する可能性がありながら無資力のために十分な保護を受けられない者を社会政策的な観点から救済するという訴訟上の救助の制度趣旨に沿うものといえる。そうすると,訴え提起時にされた訴訟上の救助の申立てに対する一部救助決定には,勝訴の見込みがないとはいえないとされた数量的な一部に請求が減縮された場合,これに対応する訴え提起の手数料全額の支払を猶予し、その結果,訴え提起時の請求に対応するその余の訴え提起の手数料の納付がされなくても,減縮後の請求に係る訴えを適法とする趣旨が含まれるものというべきである。このように解しないと,上記のとおり請求が減縮された場合であっても,一部救助決定をした裁判所は,勝訴の見込みがないとされた部分を含む訴え提起時の請求に対応する訴え提起の手数料が納付されない限り,減縮後の請求に係る訴えをも不適法であると判断せざるを得ないこととなり,そもそも一部救助決定をすることを認めた訴訟上の救助の制度趣旨に反することとなる。
(2)これを本件についてみると,被上告人は,金銭債権の支払を請求する本件訴えの提起時に訴訟上の救助を申し立てたところ,請求の数量的な一部である50万円については勝訴の見込みがないとはいえないことを理由として,これに対応する訴え提起の手数料5000円につき訴訟上の救助を付与する旨の本件救助決定が確定したのである。そして,被上告人は,本件訂正申立書により50万円に請求を減縮したと認められるのであるから,訴え提起の手数料が納付されていないことを理由に,本件訴えを却下することは許されないというべきである。 
6 以上によれば,本件訴えを却下することは許されないとした原審の判断は,結論において是認することができる。所論引用の判例(最高裁昭和43年(オ)第302号同47年12月26日第三小法廷判決・判例時報722号62頁)は,本件に適切でない。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鬼丸かおる 裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信 裁判官 山本庸幸)