昭和42年11月17日最高裁第二小法廷判決

会社法判例百選[第3版]9「他人名義による株式の引受け」

株券引渡請求事件
昭和四二年(オ)第二三一号
同年一一月一七日最高裁第二小法廷判決
【上告人】 控訴人 原告 略 代理人 川合常彰 外一名
【被上告人】 被控訴人 被告 旭洋物産株式会社

主   文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理   由

上告代理人谷川八郎、同川合常彰の上告理由第一点について。
 他人の承諾を得てその名義を用い株式を引受けた場合においては、名義人すなわち名義貸与者ではなく、実質上の引受人すなわち名義借用者がその株主となるものと解するのが相当である。けだし、商法第二〇一条は第一項において、名義のいかんを問わず実質上の引受人が株式引受人の義務を負担するという当然の事理を規定し、第二項において、特に通謀者の連帯責任を規定したものと解され、単なる名義貸与者が株主たる権利を取得する趣旨を規定したものとは解されないから、株式の引受および払込については、一般私法上の法律行為の場合と同じく、真に契約の当事者として申込をした者が引受人としての権利を取得し、義務を負担するものと解すべきであるからである。されば、右の同旨の見解に立ち上告人の本訴請求を排斥した原判決は正当であつて、原判決に所論の違法はない。所論は、右と異る見解に立つて原判決を攻撃するものであつて、採用できない。
 同第二点について。
 控訴人(上告人)は本件新株の引受に関し、単なる名義貸与者にすぎず、実質上の当事者でないとする原審の認定は、原判決挙示の証拠に照らして肯認することができる。したがつて、原判決に所論の違法はなく、所論は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨選択ないしは事実の認定を非難するに帰し、採用できない。
 よつて,民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)

上告代理人谷川八郎、同川合常彰の上告理由

第一、原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背あり、破棄されるべきである。 
一、原判決は、商法第二〇一条の解釈を誤つているものである。即ち、原判決はその理由、第四項において商法第二〇一条の解釈としておもうに、他人の承諾をえてその名義を用い株式を引受けた場合においては名義人即ち名義貸与者ではなく、実質上の引受人即ち名義借受人が、その株主となるものと解するが相当である。けだし株式の引受及び払込は一般私法上の法律行為の場合と同じくたとえこれが、何人の名義によつてなされたかを問わず真に契約の当事者として申込をなした者が引受人としての権利を取得し義務を負担するものであつて、商法第二〇一条一項は当事者が仮設人の名義を用い、あるいは実在する他人の名義をその承諾をえないで、用いた場合において、その行為をなした者が義務を負担するという右当然の事由を明らかにしたものであり、同条二項はさらに資本の充実をはかるため他人の承諾をえてその名義で引受が、なされた場合には名義貸与者にも払込義務につき連帯責任を負担せしめることを明定した趣旨と考えられるからであるとしている。
二、然しながら、右原判決の解釈は商法における組織法乃至団体法としての外観主義若くは表示主義の原則を否定した誤つた解釈である。株式引受契約は、資本的計算の基における賞利法の制度的表現としての株式会社の構成に関するものであり集団的法律関係として処理されるものであり、その取引の団体性、大量性より同一性、安全敏速性が要求され、外観主義ないしは表示主義の原則がある。従つて一般の私法上取引の如く何人の名義によつて当該法律行為が為されたかを問わず真の当事者としての行為者に法律効果を帰属せしめるのではなく、外部から容易に認識しうる形式的且つ画一的な、表示された標準によつて法律効果が帰属せしめることになる。
三、従つて、原審が主張するが如く、商法第二〇一条第一項の規定は、当然の事理を明らかにしたものであり、第二項は資本充実を企る為に特別に定められたものではなく、第一項は元来外観主義ないしは表示主義によれば、株式引受人として表示された者について法律関係が定まるのであるから、その表示された者(名目者)が仮設人であるが、他人名義でその者の承諾がない場合は、結局株式引受人契約は、無効となるべきところ(明治四四年一一月九日、大審院判決、録一七輯六八五頁昭和九年六月一一日、大審院判決、集一三巻一三号九八〇頁参照)例外として資本充実の要請と株式引受契約の集団性から契約自体をなるべく可能な限り有効にせんとする要請により、事実上の行為者に責任を負わせると同時に、その反射として、権利の取得せしめるように規定したと解すべきである。
四、故に第二項の如く、名目者において承諾ある場合は当然に原則に戻り、表示された名目人が当事者となるのであり、名義利用者には、資本充実の原則と利用者の得る経済的利益を考慮して、連帯債務者としたにすぎないものであると解すべきである。(昭和三九年一二月二七日東京地方裁判所判決、判例タイムス四四号五二号)
五、以上の如く、商法第二〇一条を解すれば、仮に上告人において実質上の当事者ではないとしても、少なくとも対会社関係にあつては、株主であると云わざるを得ない。よつてこの点に関する原判決の判断は誤りがあり、この誤りは判決に影響があることは明白であるので、原判決の破棄を求める。
(その他の上告理由は省略する。)