最高裁判所第二小法廷平成24年(あ)第193号 平成26年6月13日判決

       主   文

本件上告を棄却する。

       理   由

 弁護人和田恵,同布川佳正の上告趣意のうち,死刑制度に関して憲法13条,31条,36条違反をいう点は,死刑制度が憲法のこれらの規定に違反しないことは,当裁判所の判例(最高裁昭和22年(れ)第119号同23年3月12日大法廷判決・刑集2巻3号191頁,最高裁昭和26年(れ)第2518号同30年4月6日大法廷判決・刑集9巻4号663頁,最高裁昭和32年(あ)第2247号同36年7月19日大法廷判決・刑集15巻7号1106頁)とするところであるから,理由がなく,その余は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない(責任能力の認定につき事実誤認をいう点は,被告人本人が撤回した。)。
 弁護人坂本博之の上告趣意のうち,死刑制度に関して憲法11条,13条,31条,36条違反をいう点は,死刑制度が憲法のこれらの規定に違反しないことは,当裁判所の判例(前記各大法廷判決)及びその趣旨に照らして明らかであるから,理由がなく,その余は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 被告人本人の上告趣意は,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 なお,記録を調査しても,本件について,刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。
 付言するに,本件は,被告人が,元厚生事務次官らの殺害を企て,(1)元厚生事務次官及びその妻に対し,それぞれ,その胸部等を包丁で数回突き刺すなどし,両名を失血死させて殺害し,(2)別の元厚生事務次官の妻に対し,その胸部を包丁で数回突き刺すなどしたが,同女が逃げ出したため殺害の目的を遂げず,(3)元社会保険庁長官で元最高裁判事の自宅近辺に,刃物等を積み込んだ自動車で赴くなどして,もって殺人の予備をし,(4)(3)の際,包丁等の刃物10本を不法に携帯したという事案である。被告人は,子供の頃に飼い犬が殺処分に遭ったこと等の「仇討ち」をするという考えを抱き続けていたところ、本件当時の厚生労働行政一般に対する不満等を募らせ,元官僚への憤りを強めて具体的な殺害計画を立てて本件に及んだものであって,犯行の経緯,動機は独善的で酌量の余地がない(なお,記録によれば,このような動機が病的な妄想に支配されているという見方は採り得ないとして,被告人の完全責任能力を肯定した原判断は,正当である。)。被告人は,相当な期間にわたり,殺害の対象とする元厚生事務次官らを選び出し,犯行の日時・順序,用いる凶器,殺害の手段・方法等につき入念に計画を練り,目的達成を確実にするため周到な準備を進めたものであり,本件は,元厚生事務次官やその殺害の妨げになるなどした場合にはその家族に対する確定的かつ強固な殺意に基づく,極めて高い計画性を有する犯行である。(1)の殺害方法は,宅配業者を装い,その応対に出るなどした被害者2名に対し,その胸部等を包丁で数回突き刺して失血死させるという冷酷かつ残忍なものであり,(2)の犯行もほぼ同様の方法によるものである。被害者らに全く落ち度はない。2名の命を奪い,1名に心停止の危険が高い状態に陥らせ,重篤な後遺症が残る傷害を負わせた結果は誠に重大であり,遺族及び(2)の被害者の処罰感情が峻烈であるのも当然である。また,元厚生事務次官等を襲った連続的な犯行として,社会に与えた衝撃も大きい。
 以上のような諸事情に照らすと,その刑事責任は極めて重大であって,罰金刑以外の前科が見当たらないことなど,被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,原判決が維持した第1審判決の死刑の科刑は,やむを得ないものとして,当裁判所もこれを是認せざるを得ない。 
 よって,刑訴法414条,396条,181条1項ただし書により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
検察官水野美鈴,同野口元郎 公判出席
平成26年6月13日
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 山本庸幸 裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる