株主総会決議取消請求事件 最高裁判所第二小法廷平成27年(受)第1431号 平成28年3月4日判決

       主   文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。

       理   由

 上告代理人浅野秀樹,同吉岡隆典の上告受理申立て理由について
1 本件は,被上告人の株主である上告人らが,被上告人に対し,平成26年5月26日に開催された被上告人の臨時株主総会における上告人らを取締役から解任する旨の議案を否決する株主総会決議(以下「本件否決決議」という。)について,会社法831条1項1号に基づき,その取消しを請求する事案である。本件否決決議の取消しを請求する本件訴えが適法であるか否かが争われている。
2 所論は,本件否決決議が取り消されれば,別途上告人らに対して提起されている会社法854条所定の役員の解任の訴えが不適法として却下されることとなるから,本件訴えは適法であるというのである。
3 会社法は,会社の組織に関する訴えについての諸規定を置き(同法828条以下),瑕疵のある株主総会等の決議についても,その決議の日から3箇月以内に限って訴えをもって取消しを請求できる旨規定して法律関係の早期安定を図り(同法831条),併せて,当該訴えにおける被告,認容判決の効力が及ぶ者の範囲,判決の効力等も規定している(同法834条から839条まで)。このような規定は,株主総会等の決議によって,新たな法律関係が生ずることを前提とするものである。
 しかるところ,一般に,ある議案を否決する株主総会等の決議によって新たな法律関係が生ずることはないし,当該決議を取り消すことによって新たな法律関係が生ずるものでもないから,ある議案を否決する株主総会等の決議の取消しを請求する訴えは不適法であると解するのが相当である。このことは,当該議案が役員を解任する旨のものであった場合でも異なるものではない。
4 以上によれば,本件否決決議の取消しを請求する本件訴えは不適法であって,これを却下した原判決は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官千葉勝美の補足意見がある。

 裁判官千葉勝美の補足意見は,次のとおりである。

 私は,法廷意見が本件否決決議の取消しを請求する本件訴えを不適法としたこととの関係で,次のとおり,私見を補足しておきたい。
1 株主総会の決議は,個人の意思表示とは異なり,組織上の運営に関する集団的な取決めであり,それを前提に会社が様々な活動を行い,その結果,関係する多くの第三者も,そこに様々な法律関係を多数形成していくことになるものであって,その意味では,第三者に対しても効力を及ぼすという点で,いわば対世的な効力を有するものといえよう。
 株主総会の決議の性質がこのようなものであるため,その取消し,無効については,意思表示の効力等に関する一般法理ともいうべき民法の規定が直接適用されるものではなく,どのような理由及び手続でこれを主張することができるのかは,集団的・組織的な規制,すなわち会社法上の定めにより全て処理されることとされている。
2 会社法は,株主総会の決議については,831条において,決議から3箇月以内に限り決議の取消しを請求できるとし,多くの法律関係が積み上げられてしまうこととなる前の短期間に限って提訴を認め,さらに,834条ないし839条において,被告,訴えの管轄及び移送,担保提供命令,弁論等の必要的併合,認容判決の効力が及ぶ者の範囲,無効又は取消しの判決の効力等を逐一定め,組織的規制を完結させている。
 このように,会社法の関係諸規定の趣旨は,株主総会の決議が,その成立によって新たな集団的,組織的な法律関係(ないし権利義務関係)を形成するという特質・効力がある点を踏まえて規制したものであり,組織法上の各種の法律関係が発生し,対世的効力を有するという株主総会決議の特殊性を踏まえて,その取消しをするための特別なルールを定めているといえよう。
3 ところで,議案が株主総会で否決された場合には,当該議案が認められなかったのであるから,議案が提出される前と同じ状態が続くこととなり,組織的にも第三者に対しても,当該議案の成立による新たな法律関係が形成されることはない。このような点からすると,否決の決議については,その効力を否定するための手続を限定したり,法律関係が多数形成される前までに出訴しなければ提訴を許さないとする時間的制限を設けたり,取消し等の訴えについての特別な各種の規制を設ける必要はないというべきである。すなわち,否決の決議については,上記の各規制を及ぼす理由はなく,その意味で,一般に,会社法831条所定の株主総会の決議には当たらないというほかなく,否決の決議の取消しを求める訴訟なるものは,同法が想定しておらず,許容されないものであって,不適法とされることになる。
4 なお、否決の決議がされたことが何らかの法律効果の発生の要件とされているような事例は,想定されないではなく,そうなると,当該法律効果の発生を否定するためにこれを取り消す法律上の利益を観念する余地が生ずるかのように思われる。しかし,それは,否決の決議それ自体から当該法律効果が発生するのではなく,他の法的な定めにおいて議案が否決されることを要件として法的効果を発生させるという制度を作ったものであって,効果の発生を争うのであれば,否決の決議を取り消すのではなく,当該定めの適用においては,取消事由となるような手続上の瑕疵のある否決の決議がされても,それは効果発生要件としての否決の決議には当たらない,あるいは否決されたとみるべきではない等といった合理的で柔軟な解釈をして適用を否定し,法律効果の発生を否定するといった処理が可能であろう。
5 例えば,否決された議案については,会社法304条ただし書は,当該提案が総株主の議決権の10分の1以上の賛成が得られなかったものであるときは,3年以内の再提案を認めていない。その点について,否決の決議を取り消せばこの制限が無くなり再提案が即時にできるので,取消しの訴えの利益を肯定できるという見解があるかもしれない。しかし,上記の制限は,否決された提案を短期間に繰り返すことが適当でないとして設けられたものであり,その趣旨を踏まえると,否決の決議が重大な瑕疵を有する手続によってされた場合は,これは再提案の制限の前提となる否決の決議にはなり得ないとして,3年間の制限は及ばず再提案ができると解釈すべきであり,否決の決議を取り消すまでの必要はない。このような場合に,否決の決議の取消しの利益を肯定するというのは,結局,否決の決議の取消訴訟という形で実質的に再提案が蒸し返されるおそれがあり,制度の趣旨に反することにもなりかねず,採り得ないところである。 
6 このほか,会社法の規定等に基づき否決の決議取消訴訟の訴えの利益が問題となり得るような事例が生じたとしても,そのような事例は,ほとんどの場合,根拠とされた規定等の合理的な解釈により,あるいは信義則や禁反言等の法理の適用で対処することができ,また,そうするべきであって,訴えの利益を無理に生じさせるような解釈をすべきではないであろう。
(裁判長裁判官 山本庸幸 裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる)