株式取得価格決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件 最高裁判所第一小法廷平成28年(許)第4号,平成28年(許)第5号,平成28年(許)第6号,平成28年(許)第7号,平成28年(許)第8号,平成28年(許)第9号,平成28年(許)第10号,平成28年(許)第11号,平成28年(許)第12号,平成28年(許)第13号,平成28年(許)第14号,平成28年(許)第15号,平成28年(許)第16号,平成28年(許)第17号,平成28年(許)第18号,平成28年(許)第19号,平成28年(許)第20号 平成28年7月1日決定

       主   文

1 原決定を破棄し,原々決定を取り消す。
2 平成28年(許)第4号相手方ら・同第5号ないし第20号抗告人が有していた別紙保有株式数一覧表記載の同第4号抗告人・同第5号ないし第20号相手方の全部取得条項付種類株式の取得の価格をいずれも1株につき12万3000円とする。
3 手続の総費用は各自の負担とする。

       理   由

 平成28年(許)第4号抗告代理人関口健一ほかの抗告理由,同第5号抗告代理人豊島真,同赤塚洋信及び同高橋将志の抗告理由,同第6号ないし第18号抗告代理人大塚和成ほかの抗告理由,同第19号抗告人の抗告理由並びに同第20号抗告人の抗告理由(ただし,いずれも排除された部分を除く。)について
1 本件は,平成28年(許)第4号抗告人・同第5号ないし第20号相手方(以下「抗告人」という。)による全部取得条項付種類株式の取得に反対した抗告人の株主である同第4号相手方ら・同第5号ないし第20号抗告人(以下「相手方ら」という。)が,会社法172条1項(平成26年法律第90号による改正前のもの。以下同じ。)に基づき,全部取得条項付種類株式の取得の価格(以下「取得価格」という。)の決定の申立てをした事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)抗告人は,平成22年6月当時,その発行する普通株式(以下「本件株式」という。)を大阪証券取引所のJASDAQスタンダード市場に上場していたが,A及びBが合計して抗告人の総株主の議決権の70%以上を直接又は間接に有していた。
(2)A及びBは、両社で抗告人の株式を全部保有することなどを計画し,A,B外1社は,平成25年2月26日,買付予定数を180万1954株,買付期間を同月27日から同年4月10日まで(30営業日),買付価格を1株につき12万3000円(以下「本件買付価格」という。)として本件株式及び抗告人の新株予約権(以下「本件株式等」という。)の全部の公開買付け(以下「本件公開買付け」という。)を行う旨,本件株式等の全部を取得できなかったときは,抗告人において本件株式を全部取得条項付種類株式とすることを内容とする定款の変更を行うなどして同株式の全部を本件買付価格と同額で取得する旨を公表した。 
 抗告人は,上記の公表に先立ち,本件公開買付けに関する意思決定過程からA及びBと関係の深い取締役を排除し,両社との関係がないか,関係の薄い取締役3人の全員一致の決議に基づき意思決定をした。また,抗告人は,法務アドバイザーに選任したC法律事務所から助言を受け,財務アドバイザーに選任したD証券株式会社から,本件株式の価値が1株につき12万3000円を下回る旨の記載のある株式価値算定書を受領するとともに,本件買付価格は妥当である旨の意見を得ていた。さらに,抗告人は,有識者により構成される第三者委員会から,本件買付価格は妥当であると認められる上,株主等に対する情報開示の観点から特段不合理な点は認められないなどの理由により,本件公開買付けに対する応募を株主等に対して推奨する旨の意見を表明することは相当である旨の答申を受けて,同年2月26日,同答申のとおり本件公開買付けに対する意見を表明した。
(3)平成25年6月28日に開催された抗告人の株主総会において次のアからウまでの決議がされ,併せて,同日開催された普通株式の株主による種類株主総会においてイの決議がされた(以下,上記各株主総会を「本件総会」という。)。
ア 残余財産の分配についての優先株式であるA種種類株式を発行することができる旨定款を変更する。
イ 抗告人の普通株式を全部取得条項付種類株式とし,抗告人がこれを取得する場合,その対価として全部取得条項付種類株式1株につきA種種類株式69万4478分の1株の割合をもって交付する旨定款を変更し,この変更の効力発生日を平成25年8月2日とする。
ウ 抗告人は,取得日を平成25年8月2日と定めて,全部取得条項付種類株式の全部を取得する。
(4)平成25年8月2日,前記(3)イの定款変更の効力が生じ,抗告人は,同日,全部取得条項付種類株式の全部を取得した。
(5)相手方らは,本件総会に先立ち,前記(3)の各決議に係る議案に反対する旨を抗告人に通知し,かつ,本件総会において,同議案に反対した。そして,相手方らは,会社法172条1項所定の期間内に,取得価格の決定の申立てをした。
3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,相手方らが有していた別紙保有株式数一覧表記載の全部取得条項付種類株式の取得価格をいずれも1株につき13万0206円とすべきものとした。
 本件買付価格は,基本的に株主の受ける利益が損なわれることのないように公正な手続により決定されたものであり,本件公開買付け公表時においては公正な価格であったと認められるものの,その後の各種の株価指数が上昇傾向にあったことなどからすると,取得日までの市場全体の株価の動向を考慮した補正をするなどして本件株式の取得価格を算定すべきであり,本件買付価格を本件株式の取得価格として採用することはできない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)株式会社の株式の相当数を保有する株主(以下「多数株主」という。)が当該株式会社の株式等の公開買付けを行い,その後に当該株式会社の株式を全部取得条項付種類株式とし,当該株式会社が同株式の全部を取得する取引においては,多数株主又は上記株式会社(以下「多数株主等」という。)と少数株主との間に利益相反関係が存在する。しかしながら,独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ,公開買付けに応募しなかった株主の保有する上記株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど一般に公正と認められる手続により上記公開買付けが行われた場合には,上記公開買付けに係る買付け等の価格は,上記取引を前提として多数株主等と少数株主との利害が適切に調整された結果が反映されたものであるというべきである。そうすると,上記買付け等の価格は,全部取得条項付種類株式の取得日までの期間はある程度予測可能であることを踏まえて,上記取得日までに生ずべき市場の一般的な価格変動についても織り込んだ上で定められているということができる。上記の場合において,裁判所が,上記買付け等の価格を上記株式の取得価格として採用せず,公開買付け公表後の事情を考慮した補正をするなどして改めて上記株式の取得価格を算定することは,当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず,本来考慮することが相当でないと認められる要素を考慮して価格を決定するものであり(最高裁平成26年(許)第39号同27年3月26日第一小法廷決定・民集69巻2号365頁参照),原則として,裁判所の合理的な裁量を超えたものといわざるを得ない。
(2)したがって,多数株主が株式会社の株式等の公開買付けを行い,その後に当該株式会社の株式を全部取得条項付種類株式とし,当該株式会社が同株式の全部を取得する取引において,独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど多数株主等と少数株主との間の利益相反関係の存在により意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ,公開買付けに応募しなかった株主の保有する上記株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど一般に公正と認められる手続により上記公開買付けが行われ,その後に当該株式会社が上記買付け等の価格と同額で全部取得条項付種類株式を取得した場合には,上記取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り,裁判所は,上記株式の取得価格を上記公開買付けにおける買付け等の価格と同額とするのが相当である。
5 以上と異なる原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。抗告人の論旨は理由があり,その余の論旨について判断するまでもなく,原決定は破棄を免れない。
 そして,以上に説示したところによれば,本件株式の取得価格は,抗告人の主張するとおり,原則として本件買付価格と同額となるものというべきであり,本件の一連の取引においてその基礎となった事情に予期しない変動が生じたとは認められない。したがって,原々決定を取消し,相手方らが有していた別紙保有株式数一覧表記載の抗告人の全部取得条項付種類株式の取得価格をいずれも1株につき12万3000円とすることとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官小池裕の補足意見がある。

 裁判官小池裕の補足意見は,次のとおりである。

 私は,法廷意見に賛同するものであるが,会社法172条1項に基づく全部取得条項付種類株式の取得価格の決定に関する裁判所の合理的な裁量の在り方という点について,補足して意見を述べることとしたい。
 会社法172条1項に基づき全部取得条項付種類株式の取得価格の決定の申立てがされた場合には,裁判所は,株主総会で定められた取得対価が存することを前提として,合理的な裁量に基づき,その対価を変更することの要否を判断し,変更を要するときは独自にその対価を算定し,取得価格を定めるものとされる。
 この場合において,裁判所は,関係当事者によって形成された取引条件に関する判断や合意を対象として裁量的な判断をすることになるが,関係当事者の判断等の形成過程の公正さ,その判断等に基づく取引に関する関係当事者の予測可能性と利害,取引の衡平の確保等を考慮し,どこまでその判断等に介入するかについて検討する必要があると考えられる。
 ところで,相互に特別の資本関係がない会社間の企業再編取引における株式買取請求に伴う株式の買取価格の決定の事案について,一般に公正と認められる手続により株式移転の効力が発生した場合には,株主総会における株主の合理的判断が妨げられたと認めるに足りる特段の事情のない限り,当該株式移転における株式移転比率は公正なものとみるのが相当であるとされる(最高裁平成23年(許)第21号,第22号同24年2月29日第二小法廷決定・民集66巻3号1784頁参照)。
 本件は,多数株主による完全子会社化に向けた公開買付けと全部取得条項付種類株式の全部取得という二段階取引が行われた事案であり,多数株主等と少数株主との間に利益相反関係が存し,会社から退出を余儀なくされる少数株主の保護が要請される取引が対象となっている。しかし,このように構造的な利益相反関係が存する場合についても,取引に関する意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ,一般に公正と認められる手続が実質的に行われ,多数株主等と少数株主との利害が適切に調整され,株式の買付価格が公正に定められたものと認められる場合には,裁判所は,独立当事者間の取引の場合と同様に,原則としてこのような手続を通じて定められた価格(取引条件)を尊重すべきものであると考えられる。すなわち,裁判所は合理的な裁量に基づいて株式の取得価格の決定をするが,その判断においては,まず,関係当事者間の取引において一般に公正と認められる手続が実質的に行われたか否か,買付価格がそのような手続を通じて形成された公正な価格といえるか否かを認定することを要し,それが認定される場合には,原則として,公正な手続を通じて形成された取引条件である買付け等の価格を尊重し,取引の基礎とした事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情のない限り,当該買付け等の価格をもって取得価格とすべきものであると解するのが相当である。
 株式価格の形成には多元的な要因が関わることから,種々の価格算定方式が存する。そのため,株式価格の算定の公正さを確保するための手続等が講じられた場合にも,将来的な価格変動の見通し,組織再編等に伴う増加価値等の評価を考慮した株式価格について一義的な結論を得ることは困難であり,一定の選択の幅の中で関係当事者,株主の経済取引的な判断に委ねられる面が存するといわざるを得ない。このような株式価格の算定の性質からすると,本件のような事案において,裁判所は,買付け等の価格という取引条件の形成に関わる手続の公正について的確に認定するという点で特に重要な機能を果たすものといえる。そして,公正な手続等を通じて買付け等の価格が定められたとは認められない場合には,裁判所が取得価格を決定することになるが,その算定方法は市場株価分析によらざるを得ないこともあろう。ただし,裁判所が裁量権の行使に当たり,関係当事者等の経済取引的な判断を尊重してこれに委ねるべきか否かを判断するに当たっては,この方法が株式価格に関する多元的な要因を広く捉えるものとはいい難いという点も考慮する必要があろう。
 原審は,本件の一連の取引は基本的に公正な手続を通じて行われたということができ,株式の取得日における客観的価値が市場株価から補正すべき事情がない場合であれば,本件買付価格は公正な価格といえるとしている。その上で,仮に本件公開買付けがなければ,本件株式は株価指標の推移に連動して一定程度の上昇があったと考えるのが合理的であるとし,取得価格の算定に当たり,本件買付価格を採用することなく,株価の回帰分析の方法等に基づく算定をした。しかし,一般に公正と認められる手続を通じて本件買付価格が定められた場合には,取引の基礎とした事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情のない限り,その価格を尊重しこれを取得価格とすべきものであるところ,原審は,特段の事情が認められないにもかかわらず本件買付価格を採用しなかった上,本件買付価格には取得日までに生ずべき市場の一般的な価格変動が織り込まれているといえるにもかかわらず改めて事後の事情を考慮した補正をする算定をしており,本件取得価格の算定に関する原審の判断は,裁判所の合理的な裁量を超えたものといわざるを得ないと考える。
 なお付言すると,本件において上記の特段の事情が認められないことは,少数株主の多数や株式市場によって本件買付価格が受け入れられたとみられることなどからも裏付けられるといえるであろう。
(裁判長裁判官 山浦善樹 裁判官 櫻井龍子 裁判官 池上政幸 裁判官 大谷直人 裁判官 小池裕)