死体遺棄,傷害致死,傷害,殺人被告事件 最高裁判所第一小法廷平成23年(あ)第1224号 平成26年3月17日決定

       主   文

本件上告を棄却する。
当審における未決勾留日数中700日を本刑に算入する。

       理   由

 弁護人小坂井久,同鈴木一郎,同井原誠也の上告趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であり,被告人本人の上告趣意は,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 なお,所論に鑑み,第1審の公判前整理手続段階において検察官が2件の傷害被告事件につき変更請求をして許可された各訴因の特定について,職権で判断する。
1 このうちAを被害者とする傷害被告事件(以下「A事件」という。)の訴因は,「被告人は,かねて知人のA(当時32年)を威迫して自己の指示に従わせた上,同人に対し支給された失業保険金も自ら管理・費消するなどしていたものであるが,同人に対し,(1)平成14年1月頃から同年2月上旬頃までの間,大阪府阪南市(中略)のB荘C号室の当時のA方等において,多数回にわたり,その両手を点火している石油ストーブの上に押し付けるなどの暴行を加え,よって,同人に全治不詳の右手皮膚剥離,左手創部感染の傷害を負わせ,(2)Dと共謀の上,平成14年1月頃から同年4月上旬頃までの間,上記A方等において,多数回にわたり,その下半身を金属製バットで殴打するなどの暴行を加え,よって,同人に全治不詳の左臀部挫創,左大転子部挫創の傷害を負わせたものである。」というものである。また,Eを被害者とする傷害被告事件(以下「E事件」という。)の訴因は,「被告人は,F,G及びHと共謀の上,かねてE(当時45年)に自己の自動車の運転等をさせていたものであるが,平成18年9月中旬頃から同年10月18日頃までの間,大阪市西成区(中略)付近路上と堺市堺区(中略)付近路上の間を走行中の普通乗用自動車内,同所に駐車中の普通乗用自動車内及びその付近の路上等において,同人に対し,頭部や左耳を手拳やスプレー缶で殴打し,下半身に燃料をかけ,ライターで点火して燃上させ,頭部を足蹴にし,顔面をプラスチック製の角材で殴打するなどの暴行を多数回にわたり繰り返し,よって,同人に入院加療約4か月間を要する左耳挫・裂創,頭部打撲・裂創,三叉神経痛,臀部から両下肢熱傷,両膝部瘢痕拘縮等の傷害を負わせたものである。」というものである。
2 これら訴因に加え,各事件に関し検察官が提出した証明予定事実記載書面の内容及び検察官による釈明内容も踏まえると,検察官は,次の趣旨の主張をしていたものである。すなわち,
(1)A事件については,〔1〕Aに対する傷害は,約4か月の期間内において,被告人が暴力等を通じてAを支配し,経済面や居住場所も統制する状況の中で,A方住居等というある程度限定された場所で,憂さ晴らしや面白半分という共通の動機に基づきなされた暴行により生じたものであり,〔2〕その暴行と傷害は,(ア)多数の機会に,被告人が,Aに対し,その両手を燃焼中の石油ストーブの上に押し付けることを主とする暴行を加えて,両手に熱に起因する傷害を負わせ,(イ)多数の機会に,被告人又は被告人から命じられた共犯者が,Aに対し,その下半身を金属製バットで殴打することを主とする暴行を加えて,左臀部挫創,左大転子部挫創の傷害を負わせ,(ウ)このような同じ態様の暴行の反復累行により,個別機会の暴行との対応関係を個々には特定し難いものの,これら傷害を発生させた上で,拡大ないし悪化させて,結局,全治不詳の右手皮膚剥離,左手創部感染,左臀部挫創,左大転子部挫創の傷害を負わせたものであることから,〔3〕一連の暴行により〔2〕(ウ)の傷害を生じさせたことを1個の公訴事実として訴因を明示,特定したものである。
(2)E事件については,〔1〕Eに対する傷害は,約1か月の期間内において,被告人が,Eを運転手として使い,暴力等を通じて服従させる状況の中で,当時の被告人方住居と被告人が関係する暴力団事務所との間を往復する自動車内,同住居付近に駐車中の自動車内及びその付近路上等というある程度限定された場所で,自己の力の誇示,配下の者に対するいたぶりや憂さ晴らしという共通の動機に基づきなされた暴行により生じたものであり,〔2〕その暴行と傷害は,(ア)多数の機会に,被告人が,Eに対し,その頭部や左耳を拳やスプレー缶で殴打することを主とする暴行を加えて,左耳挫・裂創,頭部打撲・裂創の傷害を負わせ,(イ)特定の機会に,被告人が,Eに対し,その顔面をプラスチック製の角材で殴る暴行を加えて,三叉神経痛等の傷害を負わせ,(ウ)多数の機会に,被告人又は被告人から命じられた共犯者らが,Eに対し,下半身に燃料をかけライターで点火して燃やし,下半身を蹴り付ける暴行を加えて,臀部から両下肢の一部範囲の熱傷や両膝部への傷害を負わせ,(エ)このうち(ア)及び(ウ)については,同じ態様の暴行の反復累行により,個別機会の暴行との対応関係を個々には特定し難いものの,これら傷害を発生させた上で,拡大ないし悪化させて,結局,(イ)の点を含め,入院加療約4か月間を要する左耳挫・裂創,頭部打撲・裂創,三叉神経痛,臀部から両下肢熱傷,両膝部瘢痕拘縮等の傷害を負わせたものであることから,〔3〕一連の暴行により〔2〕(エ)の傷害を生じさせたことを1個の公訴事実として訴因を明示,特定したものである。
3 上記2の検察官主張に係る一連の暴行によって各被害者に傷害を負わせた事実は,いずれの事件も,約4か月間又は約1か月間という一定の期間内に,被告人が,被害者との上記のような人間関係を背景として,ある程度限定された場所で,共通の動機から繰り返し犯意を生じ,主として同態様の暴行を反復累行し,その結果,個別の機会の暴行と傷害の発生,拡大ないし悪化との対応関係を個々に特定することはできないものの、結局は一人の被害者の身体に一定の傷害を負わせたというものであり,そのような事情に鑑みると,それぞれ,その全体を一体のものと評価し,包括して一罪と解することができる。そして,いずれの事件も,上記1の訴因における罪となるべき事実は,その共犯者,被害者,期間,場所,暴行の態様及び傷害結果の記載により,他の犯罪事実との区別が可能であり,また,それが傷害罪の構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされているから,訴因の特定に欠けるところはないというべきである。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。 
(裁判長裁判官 山浦善樹 裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木勇)