登記引取等請求事件 最高裁判所第二小法廷平成30年(受)第1387号 令和元年7月5日判決

       主   文

1 原判決中,金員支払請求に関する部分を破棄する。
2 前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。
3 上告人のその余の上告を棄却する。
4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人西田勇人,同鈴木寛康の上告受理申立て理由第2について
1 本件は,上告人が,Aから同人の被上告人に対する貸金返還請求権を譲り受けたとして,被上告人に対し,貸金及び遅延損害金の支払を求めるなどしている事案である。
2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)被上告人は,Aから,平成25年1月23日に800万円を,同年3月29日に50万円をそれぞれ受領した(以下,これらの金員を併せて「本件金員」という。)。被上告人が所有する第1審判決別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)について,被上告人からAに対し,同年1月23日に同日売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記がされ,同年3月29日に同日売買を原因とする所有権移転登記がされた。
(2)Aは,平成25年6月,被上告人に対し,本件建物の明渡し等を求める訴え(以下「前訴1」という。)を提起し,同年1月23日に被上告人を売主,Aを買主とする本件建物の売買契約を締結し,その代金として本件金員を交付したと主張した。被上告人は,上記の主張事実を否認し,同日にAと締結したのは金銭消費貸借契約であり,本件金員は貸金として受領したものであると主張した。前訴1の第1審裁判所は,平成27年5月,Aの主張する売買契約の成立を認めることはできないとしてAの建物明渡請求を棄却する判決をし,同判決は確定した。
(3)上告人は,前訴1の判決後,被上告人に対し,本件建物の明渡し等を求める訴え(以下「前訴2」といい,前訴1と併せて「各前訴」という。)を提起し,Aが平成25年1月23日に被上告人と本件建物につき譲渡担保設定予約をし,予約完結権を行使した上、譲渡担保権を実行して本件建物を上告人に売却したから,上告人が本件建物の所有者であると主張した。被上告人は,上記の主張事実について,同日にAと締結したのは金銭消費貸借契約であると主張しつつ,譲渡担保設定予約の成立を否認した。前訴2の第1審裁判所は,平成28年4月,上告人の主張する譲渡担保設定予約の成立を認めることはできないとして上告人の建物明渡請求を棄却する判決をし,同判決は確定した。
(4)本件訴訟において,上告人は,Aが,平成25年1月23日に被上告人と金銭消費貸借契約を締結し,貸金として本件金員を交付したと主張している。被上告人は,上記の主張事実について,本件金員を受領したことは認めたが,上記契約の成立は否認している。これに対し,上告人は,被上告人が同日にAと金銭消費貸借契約を締結したと主張してきたことなどの各前訴における訴訟経過に鑑みれば,本件訴訟において被上告人が同契約の成立を否認することは信義則に反して許されないと主張している。 
3 原審は,上記事実関係等の下において,被上告人が上記の否認をすることは信義則に反するとの主張を採用せず,証拠等に基づき,Aが本件金員を本件建物の売買代金として被上告人に支払ったと認定し,上告人の主張する金銭消費貸借契約は成立していないと判断して,上告人の貸金等の支払請求を棄却した。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記事実関係等によれば,被上告人は,前訴1において,Aの主張する本件建物の売買契約の成立を否認し,その理由として金銭消費貸借契約の成立を主張し,前訴2においても,金銭消費貸借契約の成立を主張しており,各前訴では,このような訴訟経過の下において被上告人に対する本件建物の明渡請求を棄却する各判決がされたものである。そこで,上告人が各前訴における被上告人の主張に合わせる形で金銭消費貸借契約の成立を前提として貸金等の支払を求める本件訴訟を提起したところ,被上告人は,一転して金銭消費貸借契約の成立を否認したというのである。各前訴の判決は確定しており,仮に,本件訴訟において上記の否認をすることが許されて上告人の貸金返還請求が棄却されることになれば,被上告人が本件金員を受領しているにもかかわらず,上告人は,被上告人に対する本件建物の明渡請求のみならず上記貸金返還請求も認められないという不利益を被ることとなる。これらの諸事情によれば,本件訴訟において,被上告人が金銭消費貸借契約の成立を否認することは,信義則に反することが強くうかがわれる。なお,上告人は,原審において,被上告人が各前訴では自らAの面前で金銭消費貸借契約書に署名押印したことや本件金員を返す予定であることを積極的かつ具体的に主張していたなどと主張しているところ,この主張に係る事情は,被上告人が従前の主張と矛盾する訴訟行為をしないであろうという上告人の信頼を高め,上記の信義則違反を基礎付け得るものといえる。
 しかるに,原審は,上記諸事情や上告人の上記主張があるにもかかわらず,これらの諸事情を十分考慮せず,同主張について審理判断することもなく,被上告人が上記の否認をすることは信義則に反するとの主張を採用しなかったものであり,この判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。
5 以上によれば,原判決中,金員支払請求に関する部分は破棄を免れない。そして,被上告人が上記の否認をすることが信義則に反するか否か等について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
 なお,その余の請求に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山本庸幸 裁判官 菅野博之 裁判官 三浦守 裁判官 草野耕一)