相続税更正及び加算税賦課決定取消請求事件 最高裁判所第三小法廷平成28年(行ヒ)第169号 平成29年2月28日判決

       主   文

原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。

       理   由

 上告代理人脇田敬志の上告受理申立て理由について
1 本件は,共同相続人である上告人らが,相続財産である土地の一部につき,財産評価基本通達(昭和39年4月25日付け直資56,直審(資)17国税庁長官通達。以下「評価通達」という。)の24に定める私道の用に供されている宅地(以下「私道供用宅地」という。)として相続税の申告をしたところ,相模原税務署長から,これを貸家建付地として評価すべきであるとしてそれぞれ更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下,これらを併せて「本件各処分」という。)を受けたため,被上告人を相手に,本件各処分(更正処分については申告額を超える部分)の取消しを求める事案である。
2(1)相続税法22条は,同法第3章で特別の定めのあるものを除くほか,相続,遺贈又は贈与により取得した財産の価額は,当該財産の取得の時における時価により,当該財産の価額から控除すべき債務の金額は,その時の現況による旨を定めている。
(2)評価通達1(2)は,財産の価額は,時価によるものとし,時価とは,課税時期において,それぞれの財産の現況に応じ,不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい,その価額は,評価通達の定めによって評価した価額による旨を定め,評価通達11は,宅地の評価は,原則として,市街地的形態を形成する地域にある宅地については路線価方式により,それ以外の宅地については倍率方式により行う旨を定めている。
 評価通達24は,私道供用宅地の価額は,評価通達11から21-2までの定め(路線価方式又は倍率方式)により計算した価額(以下「自用地の価額」という。)の100分の30に相当する価額によって評価し,この場合において,その私道が不特定多数の者の通行の用に供されているときは,その私道の価額は評価しない旨を定めている。
3 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)A(以下「被相続人」という。)は,平成20年3月19日に死亡し,上告人らがその財産を共同相続した(以下,この相続を「本件相続」という。)。
(2)ア 被相続人の相続財産の中には,第1審判決別紙2物件目録1記載1の土地(以下「本件相模原土地」という。)及び同別紙3物件目録2記載1から4までの土地(以下「本件大和土地」という。)並びに本件相模原土地上の共同住宅3棟(以下「本件相模原共同住宅」という。)及び本件大和土地上の共同住宅8棟(以下「本件大和共同住宅」という。)が含まれていた。
イ 上告人らは、平成20年5月25日,本件相続に係る遺産分割協議をし,上告人の1人が,本件相模原土地及び本件大和土地並びに本件相模原共同住宅及び本件大和共同住宅(以下「本件各共同住宅」という。)を取得した。 
ウ 本件相模原土地には,インターロッキング舗装が施された幅員2mの歩道状空地(以下「本件相模原歩道状空地」という。)が存在する。本件相模原歩道状空地は,被相続人が平成14年11月に相模原市長から都市計画法所定の開発行為の許可を受けて本件相模原共同住宅を建築した際に,相模原市開発行為等指導要綱を踏まえた市の指導によって,市道に接する形で整備された。
エ 本件大和土地には,インターロッキング舗装が施された幅員2mの歩道状空地(以下「本件大和歩道状空地」という。)が存在する。本件大和歩道状空地は,被相続人が平成14年11月及び同15年6月に大和市長から都市計画法所定の開発行為の許可を受けて本件大和共同住宅を建築した際に,大和市の「都市計画法施行令第25条第2号ただし書の運用基準」を踏まえた市の指導によって,市道に接する形で整備された。
オ 本件相模原歩道状空地及び本件大和歩道状空地(以下「本件各歩道状空地」という。)とこれらに接する各市道との間には,若干の段差があるものの,特に出入りを遮るものはなく,外観上,車道脇の歩道として本件各共同住宅の居住者等以外の第三者も利用することが可能な状態となっている。なお,本件各歩道状空地
は,いずれも遅くとも平成25年4月以降,近隣の小学校の通学路として指定さ
れ,児童らが通学に利用している。
(3)ア 上告人らは,平成21年1月14日,相模原税務署長に対し,本件各歩道状空地につき,不特定多数の者の通行の用に供されている私道供用宅地であるとしてその価額を評価せずに,本件相続に係る相続税申告書を提出した。その後,上告人らは,本件相模原歩道状空地につき,その価額を自用地の価額の100分の30に相当する価額とする旨の修正申告書を提出した。
イ 相模原税務署長は,平成23年7月8日付けで,上告人らに対し,本件各歩道状空地につき,いずれも私道供用宅地に該当せず,本件各共同住宅の敷地(貸家建付地)として評価すべきであるとして,本件各処分をした。
4 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断して,本件各処分は適法であり,上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした。
 私人が所有する道を私道と捉えた場合,〔1〕建物敷地の接道義務を満たすために建築基準法上の道路とされるものは,道路内の建築制限(同法44条)や私道の変更等の制限(同法45条)などの制約があるのに対し,〔2〕所有者が事実上一般の通行の用に供しているものは,特段の事情のない限り,私道を廃止して通常の宅地として利用することも可能であるから,評価通達24にいう私道とは,その利用に〔1〕のような制約があるものを指すと解するのが相当である。
 本件各歩道状空地は,建築基準法等の法令上の制約がある土地ではなく,また,本件各歩道状空地が市から要綱等に基づく指導によって設置されたことをもって上記〔1〕のような制約と評価する余地があるとしても,これは被相続人がそれを受入れつつ開発行為を行うのが適切であると考えた上での選択の結果生じたものであ
り,上告人らが利用形態を変更することにより通常の宅地と同様に利用することができる潜在的可能性と価値を有するから,評価通達24にいう私道供用宅地に該当するとはいえない。
5 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)相続税法22条は,相続により取得した財産の価額は,当該財産の取得の時における時価による旨を定めているところ,ここにいう時価とは,課税時期である被相続人の死亡時における当該財産の客観的交換価値をいうものと解される。そして,私道の用に供されている宅地については,それが第三者の通行の用に供され,所有者が自己の意思によって自由に使用,収益又は処分をすることに制約が存在することにより,その客観的交換価値が低下する場合に,そのような制約のない宅地と比較して,相続税に係る財産の評価において減額されるべきものということができる。
 そうすると,相続税に係る財産の評価において,私道の用に供されている宅地につき客観的交換価値が低下するものとして減額されるべき場合を,建築基準法等の法令によって建築制限や私道の変更等の制限などの制約が課されている場合に限定する理由はなく,そのような宅地の相続税に係る財産の評価における減額の要否及び程度は,私道としての利用に関する建築基準法等の法令上の制約の有無のみならず,当該宅地の位置関係,形状等や道路としての利用状況,これらを踏まえた道路以外の用途への転用の難易等に照らし,当該宅地の客観的交換価値に低下が認められるか否か,また,その低下がどの程度かを考慮して決定する必要があるというべきである。
(2)これを本件についてみると,本件各歩道状空地は,車道に沿って幅員2mの歩道としてインターロッキング舗装が施されたもので,いずれも相応の面積がある上に,本件各共同住宅の居住者等以外の第三者による自由な通行の用に供されていることがうかがわれる。また,本件各歩道状空地は,いずれも本件各共同住宅を建築する際,都市計画法所定の開発行為の許可を受けるために,市の指導要綱等を踏まえた行政指導によって私道の用に供されるに至ったものであり,本件各共同住宅が存在する限りにおいて,上告人らが道路以外の用途へ転用することが容易であるとは認め難い。そして,これらの事情に照らせば,本件各共同住宅の建築のための開発行為が被相続人による選択の結果であるとしても,このことから直ちに本件各歩道状空地について減額して評価をする必要がないということはできない。
(3)以上によれば,本件各歩道状空地の相続税に係る財産の評価につき,建築基準法等の法令による制約がある土地でないことや,所有者が市の指導を受け入れつつ開発行為を行うことが適切であると考えて選択した結果として設置された私道であることのみを理由として,前記(1)において説示した点について具体的に検討することなく,減額をする必要がないとした原審の判断には,相続税法22条の解釈適用を誤った違法があるというべきである。
6 したがって,原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。原判決は破棄を免れない。そして,本件各歩道状空地につき,前記5(1)において説示した点について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山崎敏充 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 大橋正春 裁判官 木内道祥)