神奈川県臨時特例企業税通知処分取消等請求事件 最高裁判所第一小法廷平成22年(行ヒ)第242号 平成25年3月21日判決

       主   文

原判決を破棄する。
被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人長島安治ほかの上告受理申立て理由について
1 本件は,神奈川県臨時特例企業税条例(平成13年神奈川県条例第37号。以下「本件条例」という。)に基づき道府県法定外普通税(以下「法定外普通税」という。)である臨時特例企業税(以下「特例企業税」という。)を課された上告人が,本件条例は法人の行う事業に対する事業税(以下「法人事業税」という。)の課税標準である所得の金額の計算につき欠損金の繰越控除を定めた地方税法の規定に違反し,違法,無効であるなどと主張して,被上告人に対し,主位的に,上告人が納付した平成15年度分及び同16年度分の特例企業税,過少申告加算金及び延滞金に相当する金額の誤納金としての還付並びにその還付加算金の支払を,予備的に,神奈川県川崎県税事務所長が上告人に対してした上記各年度分の特例企業税の更正及び過少申告加算金の決定の取消し並びに上記金額の過納金としての還付及びその還付加算金の支払を求める事案である。
2 法人事業税及び特例企業税に関する関係法令の定めは,次のとおりである。
(1)法人事業税の課税標準について,平成15年法律第9号による改正前の地方税法(以下「改正前地方税法」という。)は,電気供給業等の特定の業種を除き,特例の適用のある場合のほか,各事業年度の所得による旨を定め(72条の12,72条の19),各事業年度の所得の算定方法につき,各事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額によるものとし,同法又はこれに基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか,当該各事業年度の法人税の課税標準である所得の計算の例によって算定する旨を定めていた(72条の14第1項本文)。
 また,改正前地方税法は,本件条例が施行された平成13年8月当時の法人事業税の標準税率について,一般の法人の場合には,各事業年度の所得のうち年400万円以下の金額につき100分の5,年400万円を超え年800万円以下の金額につき100分の7.3,年800万円を超える金額につき100分の9.6とする旨を定めていた(72条の22第1項3号,附則40条10項)。
(2)平成15年法律第9号による地方税法の改正(以下「平成15年法改正」という。)により,法人事業税に所得以外の一定の外形的な指標を課税標準とするいわゆる外形標準課税が一部導入され,法人事業税につき付加価値割,資本割,所得割等の区分が設けられ,資本金又は出資金(以下「資本金等」という。)の額が1億円を超える法人については,電気供給業等の特定の業種を除き,付加価値割額,資本割額及び所得割額の合算額によって法人事業税が課されるものとされ,このうち所得割については,各事業年度の所得が課税標準とされた(地方税法72条,72条の2第1項1号イ,72条の12第1号ハ)。なお,平成15年法改正後においても,各事業年度の所得の算定方法については,改正前と同様の規定が設けられている(同法72条の23第1項本文)。
 また,平成15年法改正後の地方税法は,法人事業税の所得割の標準税率について,一般の法人の場合には,各事業年度の所得のうち年400万円以下の金額につき100分の3.8,年400万円を超え年800万円以下の金額につき100分の5.5,年800万円を超える金額につき100分の7.2とする旨を定めている(72条の24の7第1項1号ハ)。
(3)法人税法(平成23年法律第114号による改正前のもの。以下同じ。)は,各事業年度の所得の金額の計算方法に関して,欠損金額(各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額が当該事業年度の益金の額を超える場合におけるその超える部分の金額。2条19号)の生じた事業年度について青色申告書である確定申告書を提出し,かつ,その後連続して確定申告書を提出していることを要件として,各事業年度開始の日前7年(平成16年法律第14号による改正前は5年)以内に開始した事業年度において生じた欠損金額を当該各事業年度に繰越し,当該各事業年度の所得の金額の計算上,当該欠損金額に相当する金額を損金の額に算入すること(以下「欠損金の繰越控除」という。)を認めていた(57条1項,9項)。したがって,上記の要件を満たす場合には,改正前地方税法72条の14第1項本文(平成15年法改正後は地方税法72条の23第1項本文)により,法人事業税(平成15年法改正後は法人事業税の所得割)の課税標準である各事業年度の所得の金額の計算においても,上記の計算の例に従い,欠損金の繰越控除が認められていたものである。
(4)本件条例は,当分の間の措置として,神奈川県内に事務所又は事業所を設けて行う資本金等の金額が5億円以上の法人の事業活動に対し,当該法人に,地方税法4条3項に基づく法定外普通税である特例企業税を課する旨を定めている(2条,3条1号,5条)。
 そして,平成16年神奈川県条例第18号による改正前の本件条例は,法人事業税の課税標準である所得の金額の計算において欠損金の繰越控除をした事業年度を特例企業税の課税事業年度とし,特例企業税の課税標準について,各課税事業年度における法人事業税の課税標準である所得の金額の計算上,繰越控除欠損金額(欠損金の繰越控除により,当該各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入することとされている欠損金額に相当する金額。3条2号)を損金の額に算入しないものとして計算した場合における当該各課税事業年度の所得の金額に相当する金額(当該金額が繰越控除欠損金額に相当する金額を超える場合は,当該繰越控除欠損金額に相当する金額)とする旨を定めており(3条1号,7条1項),また,特例企業税の税率について,一般の法人の場合には,100分の3とする旨を定めていた(8条2号)。
(5)平成15年法改正により法人事業税に付加価値割,資本割,所得割等の区分が設けられたことを受けて,本件条例についても,平成16年神奈川県条例第18号による改正(以下「平成16年条例改正」という。)が行われた。同改正後の本件条例は,法人事業税の所得割の課税標準である所得の金額の計算において欠損金の繰越控除をした事業年度を特例企業税の課税事業年度とし,各課税事業年度における法人事業税の所得割の課税標準である所得の金額の計算上,繰越控除欠損金額を損金の額に算入しないものとして計算した場合における当該各課税事業年度の所得の金額に相当する金額(当該金額が繰越控除欠損金額に相当する金額を超える場合は,当該繰越控除欠損金額に相当する金額)を課税標準とする旨を定めている(3条1号,7条1項)。
 また,平成16年条例改正後の本件条例は,特例企業税の税率を全ての法人について一律に100分の2とするとともに,本件条例が平成21年3月31日限り失効する旨(ただし,同日以前に終了する事業年度分の特例企業税については,同日後もなお効力を有する旨),同16年4月1日以後に開始する各事業年度分の特例企業税の課税標準の計算においては,対象となる繰越控除欠損金額を同年3月31日以前に開始した事業年度において生じた欠損金額に相当する金額に限定する旨を定めている(8条,附則2項,3項)。
3 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)本件条例の制定の経緯等
ア 被上告人は,平成10年度に急激な県税の減収に見舞われて同年度決算が約293億円の赤字となり,特別な対策を講じない場合には同12年度以降の5年間において合計1兆0150億円の財源不足が見込まれると試算されたことなどから,平成10年12月,神奈川県地方税制等研究会を設置し,被上告人独自の税源充実策及び大都市圏自治体にふさわしい地方税財政制度の在り方等について諮問した。
 神奈川県地方税制等研究会は,平成12年5月25日付けで「地方税財政制度のあり方に関する中間報告書」を作成し,神奈川県知事に報告した。上記の中間報告書は,被上告人の財政が危機的な状況に置かれていると分析し,景気に左右されない安定した財政基盤の構築が重要であるなどとし,そのためには全国一律に法人事業税に外形標準課税を導入することが適当であるとした上で,外形標準課税が早期に導入される見通しが立たない場合には,その導入までの臨時的・時限的な対応として,地方税法の改正により法人事業税について欠損金の繰越控除の適用を遮断する措置を講ずることが適当と考えられ,この制度改正が実現されない場合には,法定外普通税等の活用により,被上告人独自の措置として欠損金の繰越控除の適用を遮断するための方策を検討していくことが必要と考えられる旨を提言した。
イ その後,政府税制調査会において法人事業税への外形標準課税の導入に向けての検討がされるなどしたが,平成13年度の税制改正ではその導入は見送られることとなった。このような状況の下で,神奈川県地方税制等研究会は,平成13年1月,「法人課税の臨時特例措置に関する報告」(以下「最終報告書」という。)を作成し,神奈川県知事に報告した。
 最終報告書は,上記のとおり外形標準課税の導入が見送られたことから,早急に法定外普通税として「臨時特例企業税」を導入することが適当であるとの結論を得たとした上で,(ア)欠損金の繰越控除の適用を遮断する効果のある税制を構築することの是非について,繰越欠損金には通常の事業活動から生じたものと本来の事業活動から離れて行った土地や株式等の投機活動により生じたものの2種類があり,後者の繰越欠損金は必ずしも損金として認める必然性がないことからすれば,繰越欠損金のおおむね30%程度につき控除を認めないものとすることは税政策上行い得ると考えられるとし,また,(イ)その課税標準について,当該事業年度において損金に算入した繰越欠損金の額とすることは,課税標準が繰越欠損金そのものに連動することになり,あたかも欠損金に課税するようで課税理論上説明し難い面があるところ,欠損金の繰越控除をした場合には当該事業年度において必ずこれに相当する利益が生じていることから、その利益に対して課税するという考え方で課税標準を設定するのが適当であるなどとした。
 その上で,最終報告書は,上記「臨時特例企業税」の具体的内容につき,〔1〕法人事業税に外形標準課税が導入されるまでの間の臨時的,特例的な措置として,一定規模以上の法人に相応の負担を求める法定外普通税として創設すること,〔2〕課税標準については,各事業年度の法人事業税の課税標準である所得に,当該所得の計算に当たって損金に算入した繰越欠損金に相当する額を加算した額に一定の割合を乗じた額とするが,当該額が繰越欠損金に相当する額を上回る場合は,当該繰越欠損金に相当する額を上限とすること,〔3〕納税義務者については,法人の担税力に配慮し,資本金等の金額が5億円以上の法人とすること,〔4〕税率については,繰越欠損金の一部について控除を認めないという考え方を課税標準で反映せずに税率で反映するという考え方に立って,その30%程度を対象とすること及び法人事業税の税率水準が10%程度であることを踏まえ,一般の法人の場合には両者を掛け合わせた3%とすることが適当と考えるなどと提言した。 
ウ 神奈川県知事は,最終報告書の提言を受けて,本件条例案を作成し,平成13年2月15日,これを神奈川県議会に提出した。同議会は,同年3月21日,本件条例案を全会一致で可決した。
(2)本件の課税処分に係る経緯等
ア 上告人は,自動車の製造及び販売等を業とする株式会社であり,神奈川県藤沢市に有する工場において自動車の製造等を行っている。上告人の資本金の額は,本件に関係のある期間を通じ,5億円以上である。
イ 上告人は,法人税につき,欠損金額の生じた事業年度について青色申告書である確定申告書を提出し,かつ,その後において連続して確定申告書を提出していたところ,平成15年4月1日から同16年3月31日までの事業年度(平成15年度)及び平成16年4月1日から同17年3月31日までの事業年度(平成16年度)の法人事業税(同年度については,法人事業税の所得割)の課税標準である所得の金額の計算上,繰越控除欠損金額を生じていた。
ウ 上告人は,神奈川県川崎県税事務所長に対し,平成15年度分の特例企業税について,税額を12億8645万5600円とする旨の期限内申告をして,同額を納付し,同16年度分の特例企業税について,税額を6億5675万7500円とする旨の期限内申告をして,同額を納付した。
 同県税事務所長は,平成19年5月22日付けで,上告人に対し,平成15年度分の特例企業税について,税額を13億1122万7400円(新たに納付すべき税額2477万1800円)とする更正及び過少申告加算金の決定を,同16年度分の特例企業税について,税額を6億6341万6100円(新たに納付すべき税額665万8600円)とする更正及び過少申告加算金の決定をそれぞれ行った。その後,上告人は,上記各更正及び過少申告加算金の決定により納付すべき金額(延滞金を含む。)を全て納付した。
4 原審は,上記事実関係の下において,条例が法律に違反するか否かは,それぞれの趣旨,目的,内容及び効果を比較し,両者の間に矛盾抵触があるかどうかにより決すべきである旨を判示した上で,本件条例が地方税法に違反するかどうかについて,要旨次のとおり判断して,上告人の請求をいずれも棄却すべきものとした。
(1)地方税法は,地方税が全てにわたって全国一律に同一でなければならないとしているものではなく,地域ごとに異なる税制が存することを許容しているものというべきであり,同法が全国一律に同一であるべきであるとしている税目に付加して,各地方公共団体が課税権に基づいて独自の税目を創設することは認められていると解される。そして,地方税法は,法人事業税について,欠損金の繰越控除が全国一律に必ず実施されなければならないほどの強い要請であるとまではしておらず,欠損金の繰越控除を時限的に認めない制度を条例で創設することは,それが法定外普通税の形を採りつつも実質的には法人事業税の課税要件等を変更するものでない限り,許容されるものと解される。
(2)特例企業税は,被上告人の行政サービスを享受し,かつ,当該事業年度において利益が発生していながら,欠損金の繰越控除により相応の税負担をしていない法人に対し,担税力に見合う税負担を求めることを趣旨,目的として,当該事業年度において生じている利益に対して課税するものとして創設されたものであって,単に法人事業税と異なる外形を整えただけのものではなく,法人事業税を補完する別の税目として併存し得る実質を有するものというべきである。したがって,本件条例は,地方税法の法人事業税に関する規定の内容を実質的に変更するものであるとはいえないから,これと矛盾抵触するものとは解されず,同法に違反するということはできない。
5 しかしながら,原審の上記4(1)及び(2)の判断は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)地方自治法14条1項は,普通地方公共団体は法令に違反しない限りにおいて同法2条2項の事務に関し条例を制定することができると規定しているから,普通地方公共団体の制定する条例が国の法令に違反する場合には効力を有しないことは明らかであるが,条例が国の法令に違反するかどうかは,両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく,それぞれの趣旨,目的,内容及び効果を比較し,両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない(最高裁昭和48年(あ)第910号同50年9月10日大法廷判決・刑集29巻8号489頁)。
(2)普通地方公共団体は,地方自治の本旨に従い,その財産を管理し,事務を処理し,及び行政を執行する権能を有するものであり(憲法92条,94条),その本旨に従ってこれらを行うためにはその財源を自ら調達する権能を有することが必要であることからすると,普通地方公共団体は,地方自治の不可欠の要素として,その区域内における当該普通地方公共団体の役務の提供等を受ける個人又は法人に対して国とは別途に課税権の主体となることが憲法上予定されているものと解される。しかるところ,憲法は,普通地方公共団体の課税権の具体的内容について規定しておらず,普通地方公共団体の組織及び運営に関する事項は法律でこれを定めるものとし(92条),普通地方公共団体は法律の範囲内で条例を制定することができるものとしていること(94条),さらに,租税の賦課については国民の税負担全体の程度や国と地方の間ないし普通地方公共団体相互間の財源の配分等の観点からの調整が必要であることに照らせば,普通地方公共団体が課することができる租税の税目,課税客体,課税標準,税率その他の事項については,憲法上,租税法律主義(84条)の原則の下で,法律において地方自治の本旨を踏まえてその準則を定めることが予定されており,これらの事項について法律において準則が定められた場合には,普通地方公共団体の課税権は,これに従ってその範囲内で行使されなければならない。
 そして,地方税法が,法人事業税を始めとする法定普通税につき,徴収に要すべき経費が徴収すべき税額に比して多額であると認められるなど特別の事情があるとき以外は,普通地方公共団体が必ず課税しなければならない租税としてこれを定めており(4条2項,5条2項),税目,課税客体,課税標準及びその算定方法,標準税率と制限税率,非課税物件,更にはこれらの特例についてまで詳細かつ具体的な規定を設けていることからすると,同法の定める法定普通税についての規定は,標準税率に関する規定のようにこれと異なる条例の定めを許容するものと解される別段の定めのあるものを除き,任意規定ではなく強行規定であると解されるから,普通地方公共団体は,地方税に関する条例の制定や改正に当たっては,同法の定める準則に拘束され,これに従わなければならないというべきである。したがって,法定普通税に関する条例において,地方税法の定める法定普通税についての強行規定の内容を変更することが同法に違反して許されないことはもとより,法定外普通税に関する条例において,同法の定める法定普通税についての強行規定に反する内容の定めを設けることによって当該規定の内容を実質的に変更することも,これと同様に,同法の規定の趣旨,目的に反し,その効果を阻害する内容のものとして許されないと解される。
(3)ア 法人税法の規定する欠損金の繰越控除は,所得の金額の計算が人為的に設けられた期間である事業年度を区切りとして行われるため,複数の事業年度の通算では同額の所得の金額が発生している法人の間であっても,ある事業年度には所得の金額が発生し別の事業年度には欠損金額が発生した法人は,各事業年度に平均的に所得の金額が発生した法人よりも税負担が過重となる場合が生ずることから,各事業年度間の所得の金額と欠損金額を平準化することによってその緩和を図り,事業年度ごとの所得の金額の変動の大小にかかわらず法人の税負担をできるだけ均等化して公平な課税を行うという趣旨,目的から設けられた制度であると解される(最高裁昭和39年(行ツ)第32号同43年5月2日第一小法廷判決・民集22巻5号1067頁参照)。
イ 前記2(1)のとおり,平成15年法改正前においては,法人事業税の課税標準は原則として各事業年度の所得によるものとされ(改正前地方税法72条の12),その所得の計算につき,同法又はこれに基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか,当該各事業年度の法人税の課税標準である所得の計算の例によって算定するものとされており(同法72条の14第1項本文),平成15年法改正後においては,法人事業税の所得割の課税標準は各事業年度の所得によるものとされ(地方税法72条の2第1項1号イ,72条の12第1号ハ),その所得の計算につき,上記と同様の例によって算定するものとされている(同法72条の23第1項本文)。また,平成15年法改正の前後を通じて,上記特別の定めとして条例等により欠損金の繰越控除の特例を設けることを許容するものと解される規定は存在しない。これらの点からすれば,法人税法の規定する欠損金の繰越控除は,平成15年法改正前においては法人事業税の課税標準である各事業年度の所得の金額の計算について,平成15年法改正後においては法人事業税の所得割の課税標準である各事業年度の所得の金額の計算について,いずれも必要的に適用すべきものとされていると解され,法人税法の規定の例により欠損金の繰越控除を定める地方税法の規定は,法人事業税に関する同法の強行規定であるというべきである。
ウ このように,法人事業税の所得割の課税標準(平成15年法改正前は法人事業税の課税標準。以下同じ。)である各事業年度の所得の金額の計算においても,上記アと同様に,各事業年度間の所得の金額と欠損金額の平準化を図り,事業年度ごとの所得の金額の変動の大小にかかわらず法人の税負担をできるだけ均等化して公平な課税を行うという趣旨,目的から,地方税法の規定によって欠損金の繰越控除の必要的な適用が定められているものといえるのであり,このことからすれば,たとえ欠損金額の一部についてであるとしても,条例において同法の定める欠損金の繰越控除を排除することは許されず,仮に条例にこれを排除する内容の規定が設けられたとすれば,当該条例の規定は,同法の強行規定と矛盾抵触するものとしてこれに違反し,違法,無効であるというべきである。
(4)以上のことを踏まえ,本件条例の規定の趣旨,目的,内容及び効果について検討すると,本件条例は,特例企業税の課税標準を定めた7条1項の規定の文言を一見した限りでは,各課税事業年度における法人事業税の所得割の課税標準(平成16年条例改正前は法人事業税の課税標準)である所得の金額の計算上,原則として繰越控除欠損金額を損金の額に算入しないものとして計算した場合における当該各課税事業年度の所得の金額に相当する金額(すなわち,欠損金の繰越控除をしない場合の所得の金額)をその課税標準とするように見えるものの,同項括弧書きにおいて繰越控除欠損金額に相当する金額がその上限とされており,さらに,繰越控除欠損金額の上限は欠損金の繰越控除をしない場合の所得の金額であること(法人税法57条1項ただし書)からすれば,その実質は,繰越控除欠損金額それ自体を課税標準とするものにほかならず,法人事業税の所得割の課税標準である各事業年度の所得の金額の計算につき欠損金の繰越控除を一部排除する効果を有するものというべきである。また,上記のような実質を有する法定外普通税である特例企業税が設けられた経緯は前記3(1)の事実関係のとおりであり,このような特例企業税の創設の経緯等にも鑑みると,本件条例は,最終報告書に記載されているように,上記の所得の金額の計算において,欠損金の繰越控除のうち約30%につきその適用を遮断することを意図して制定されたものというほかはない。
 以上によれば,特例企業税を定める本件条例の規定は,地方税法の定める欠損金の繰越控除の適用を一部遮断することをその趣旨,目的とするもので,特例企業税の課税によって各事業年度の所得の金額の計算につき欠損金の繰越控除を実質的に一部排除する効果を生ずる内容のものであり,各事業年度間の所得の金額と欠損金額の平準化を図り法人の税負担をできるだけ均等化して公平な課税を行うという趣旨,目的から欠損金の繰越控除の必要的な適用を定める同法の規定との関係において,その趣旨,目的に反し,その効果を阻害する内容のものであって,法人事業税に関する同法の強行規定と矛盾抵触するものとしてこれに違反し,違法,無効であるというべきである。
6 以上と異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,上告人の主位的請求は理由があり,これを認容した第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官金築誠志の補足意見がある。

 裁判官金築誠志の補足意見は,次のとおりである。

 私は,法廷意見に賛成するものであるが,本件における二,三の論点について,補足しておきたい。
1 特例企業税は,地方税法4条3項に基づく法定外普通税であるから,同項が,どのような税を許容し,どのような税を許容していないのかは,本件条例の有効・無効を判断する上で,まず最初に検討されるべき点であろう。同項は,「別に税目を起こして」と規定するだけで,どのような税を許容し,どのような税を許容しないのか,法定外税の積極的,消極的適法要件について,明らかにするところがない。道府県外に所在する土地,家屋,物件や同様の事務所,事業所において行われる事業並びにこれらから生ずる収入を非課税とする同法262条1号,2号は,道府県税として余りにも当然のことであり,同条3号は特殊な課税物件に関するもので,いずれも法定外税の適法要件の明確化に役立つところは少ない。また,同法261条1号は,国税や他の地方税と課税標準を同じくする法定外税さえあり得ることを想定していると解される点で,法定外税の許容範囲を広く解釈する一つのよすがにはなり得るであろうが,同条各号の不同意事由は,後述のように,少なくとも主として政策的観点から定められた事由であって,適法要件を一般的に明らかにする手掛かりになるものではないと考えられる。
 このように法定外税の適法要件について明文上の制約は余りないが,しかし,他の強行規定に反し得ないことは,書かれざる当然の消極的適法要件というべきであろう。法定税は,地方税法の規定に従って原則として全国一律に課税すべきこととされているものであって,同法が許容しない課税標準の算出方法や税率で課税することが許されないことについて異論は見当たらない。法定税も法定外税も,同法が規定するもので,両者に関する規定の間に法令としての形式的効力の優劣はないけれども,もし仮に,法定外税として上記のような法定税の規定を実質的に潜脱する税を設けることを許容しているとしたら,同法自体が矛盾を内包していることになってしまう。原判決も,特例企業税が,法定外税の形をとりながら,それは形式だけであって,実質は法人事業税の課税要件等を変更するものにほかならないときは,違法無効であると判示しており、この判示の限りでは,基本的な判断基準において,上記したところと差異はない。
2 特例企業税が,法人事業税における欠損金の繰越控除の効果を一部排除することを趣旨・目的とすることは,本件条例制定の経緯のみならず,特例企業税の趣旨,目的,特にその効果を見れば明白であると思われる。 
 特例企業税の課税標準は,所得の計算において欠損金の繰越控除を行う法人事業税を前提として初めてその趣旨が理解できるものであって,単独では合理性を主張できるようなものではない。特例企業税だけでは,担税力に応じた課税であるとも,県から受ける行政サービスの受益に応じた課税であるともいえないのである。何よりもこの点が,特例企業税が法人事業税の課税標準を実質的に変更するものであることを,如実に示しているように思われる。
 原判決は,欠損金の繰越控除は,白色申告には認められていないし,過去にこれが認められていなかった時期もあったことなどから,この制度の採否や認める年限は立法政策により決め得ることで,他に選択の余地のない絶対的要請とまではいうことができないとする。この点は,原判決が,法律と条例の矛盾抵触は一方の目的や効果がその重要な部分において否定されてしまうことをいうとしているところなどと関係するものかもしれないが,そのような見解の当否はおくとしても,上記のような制度の採否等が立法政策事項であるからといって,その制度が重要でないことになるものではない。課税標準の定めなどは,ほとんどが立法政策事項であるといっても過言ではない。欠損金の繰越控除が認められるかどうかは,税負担に多大な影響を与えるものであって,このような事項が重要でないと考えることはできない。
3 地方税法259条以下が定める総務大臣の同意制度は,不同意事由の内容や規定振りからして,少なくとも主として,政策的観点からのコントロールを意図しているものであることは疑いないであろう。仮に条例の法律適合性の審査をも含むとしても,法律適合性全般をカバーするものとは解し難く,また,その審査結果が,司法による条例の法律適合性の判断に対して,何らの拘束力も有するものではないことはいうまでもない。
 許可制から不同意事由を限定した同意制度へ移行したことは,地方公共団体の課税自主権をできるだけ尊重しようという趣旨の表れであろうから,法定外税の許容性の解釈上,考慮すべき事情であるとはいえようが,それ以上のものではなく,本件の結論に影響する事情とはいえない。地方税法が,この不同意事由に該当する法定外税のみを,国家的利益を害するものとして許容しないこととしているとの見解は,上記したところに照らし,採用できない。
4 法定税と課税標準が重複する場合であっても,当該地方公共団体における実情に即した,その税自体として独自の合理性が認められるものであれば,法定外税として許容される余地があるのであり,また,法定税と課税標準が共通性を有する場合などには税収や経済的効果において法定税に事実上の影響が及ぶことは避け難いのであるから,そのような事実上の影響があり得るとしても,法定外税が直ちに法定税と矛盾抵触することになるものではないと解される。
 もっとも,国税や法定地方税が広く課税対象を押さえているため,これらの税との矛盾抵触を避けて,地方公共団体が法定外税を創設することには,大きな困難が伴うというのが実情かもしれない。しかし,憲法が地方公共団体の条例制定権を法律の範囲内とし,これを受けて地方自治法も条例は法令に違反しない限りにおいて制定できると定めている以上,地方公共団体の課税自主権の拡充を推進しようとする場合には,国政レベルで,そうした方向の立法の推進に努めるほかない場面が生じるのは,やむを得ないことというべきである。
(裁判長裁判官 白木勇 裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 裁判官 横田尤孝 裁判官 山浦善樹)