移送決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件 最高裁判所第一小法廷平成26年(行フ)第2号 平成26年9月25日決定

       主   文

原決定を破棄する。
本件を高松高等裁判所に差し戻す。

       理   由

 抗告代理人堀金博の抗告理由について
1 本件の本案訴訟(徳島地方裁判所平成26年(行ウ)第2号障害基礎年金不支給決定取消請求事件)は,厚生労働大臣が徳島県内に居住する抗告人に対して国民年金法による障害基礎年金の裁定請求(以下「本件裁定請求」という。)を却下する旨の処分(以下「本件処分」という。)をしたため,抗告人が相手方を相手にその取消しを求めて徳島地方裁判所に提起したものである。
 本件は,相手方が,本案訴訟につき,管轄違いを理由に,行政事件訴訟法12条4項により,抗告人の普通裁判籍の所在地を管轄する高松高等裁判所の所在地を管轄する高松地方裁判所に移送することを申し立てた事案である。
2 記録により認められる事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)ア 従前,厚生労働省には,国民年金事業等を所掌事務とする社会保険庁が置かれ(平成19年法律第109号による改正前の厚生労働省設置法25条1項),その地方支分部局として,地方社会保険事務局及び社会保険事務所が置かれており(同法29条1項,30条1項),徳島県内には,徳島社会保険事務局及び徳島北社会保険事務所等が置かれていた。
 平成22年1月,日本年金機構法(平成19年法律第109号。以下「機構法」という。)の施行により,社会保険庁に代わる年金運営の組織として特殊法人である日本年金機構(以下「機構」という。)が設立され(機構法3条,同法附則1条,7条),同庁及びその地方支分部局が廃止された(同法附則71条)。
イ 機構は,厚生労働大臣の監督の下に,同大臣と密接な連携を図りながら,政府が管掌する国民年金事業等に関し,国民年金法等の規定に基づく業務等を行うこととされているところ(機構法1条),機構法の制定に伴う国民年金法等の改正により,同法等において上記事業等に関して社会保険庁長官が行うものとされていた権限及び事務は厚生労働大臣に移管され,上記事業等のうち国の歳入及び歳出に係るものは同大臣の処分として行うものとされる一方で,その他のものは機構に行わせるものとされた(機構法27条1項)。その結果,国民年金法において,国民年金の任意加入に関する申出の受理等については厚生労働大臣が機構にその権限に係る事務を委任して行わせるものとされ(109条の4),また,年金の給付を受ける権利の裁定等については,同大臣がこれを行うものの,機構に裁定等に係る事務を委託して行わせるものとされた(109条の10)。
ウ 機構は,その主たる事務所(機構法4条1項)として東京都内に本部を,従たる事務所(同条2項)として全国9箇所にブロック本部を,同本部の部局として各都道府県に事務センター及び全国300箇所以上に年金事務所(同法29条)をそれぞれ置いており,徳島県内には,四国ブロック本部の事務センターの一つである徳島事務センター(以下「本件事務センター」という。)及び徳島北年金事務所等が置かれている(日本年金機構組織規程51条,64条等)。
エ 国民年金法上の年金の給付を受ける権利の裁定については,市町村長等による裁定請求に係る審査を経ることとされているもの(同法3条3項,国民年金法施行令1条の2第4号等)を除き,請求者が所轄の年金事務所に裁定請求書を提出して裁定請求をし(国民年金法施行規則117条),当該年金事務所から回付を受けた事務センターにおける裁定請求に係る審査を経て,機構の本部を経由してその結果の報告を受けた厚生労働大臣が上記裁定請求に対する判断をすることとされている。
(2)抗告人は,平成24年9月,左下肢の疾病が障害等級2級の状態に至っているとして,障害基礎年金の裁定請求書を機構の徳島北年金事務所に提出して本件裁定請求をした。これを受けて,同年金事務所から上記請求書の回付を受けた本件事務センターにおける本件裁定請求に係る審査を経て,機構の本部を経由してその結果の報告を受けた厚生労働大臣は,同年10月,抗告人に対して本件処分をした。
3 原審は,要旨,本件事務センターは行政機関に当たらないから行政事件訴訟法12条3項にいう「事案の処理に当たった下級行政機関」に該当せず,本案訴訟は徳島地方裁判所の管轄に属しない旨を判示して,同法7条,民訴法16条1項により,本案訴訟を高松地方裁判所に移送すべきものとした。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)行政事件訴訟法12条3項において,処分又は裁決(以下「処分等」という。)に関し「事案の処理に当たった下級行政機関」の所在地の裁判所にも当該処分等の取消訴訟の管轄を認めている趣旨は,当該下級行政機関の所在地の裁判所に管轄を認めることにつき,被告の訴訟追行上の対応に支障が生ずることはないと考えられ,他方で原告の出訴及び訴訟追行上の便宜は大きく,また,当該裁判所の管轄区域内に証拠資料や関係者も多く存在するのが通常であると考えられるから証拠調べの便宜にも資し,審理の円滑な遂行を期待することができることにあると解される。このような同項の趣旨からすれば,同項にいう「事案の処理に当たった下級行政機関」とは,当該処分等に関し事案の処理そのものに実質的に関与した下級行政機関をいうものと解される(最高裁平成12年(行フ)第2号同13年2月27日第三小法廷決定・民集55巻1号149頁,最高裁平成14年(行フ)第10号同15年3月14日第二小法廷決定・裁判集民事209号255頁参照)。
 このような行政事件訴訟法12条3項の趣旨等に鑑みると,処分行政庁を補助して処分に関わる事務を行った組織は,それが行政組織法上の行政機関ではなく,法令に基づき処分行政庁の監督の下で所定の事務を行う特殊法人等又はその下部組織であっても,法令に基づき当該特殊法人等が委任又は委託を受けた当該処分に関わる事務につき処分行政庁を補助してこれを行う機関であるといえる場合において,当該処分に関し事案の処理そのものに実質的に関与したと評価することができるときは,同項にいう「事案の処理に当たった下級行政機関」に該当するものと解するのが相当である。
(2)機構は,機構法に基づき,役員の任命又はその認可や解任等(13条,16条),業務運営の計画に係る認可や業務改善命令(35条,49条)などによる厚生労働大臣の監督の下で,年金に関する広範な事務を行う特殊法人であるところ(1条,3条,27条等),前記2(1)ア及びイのとおり,政府が管掌する国民年金事業等に関し,国民年金法等に基づいて年金の給付を受ける権利の裁定に係る事務の委託を受けている。そして,前記2(1)ウ及びエのとおり,厚生労働大臣が年金の給付を受ける権利の裁定を行うに当たっては,上記の裁定に係る事務の委託を受けた機構の下部組織である事務センターが機構法等の定めに従って裁定請求の審査を行い,機構の本部を経由して同大臣にその結果が報告されるものであること等に照らせば,事務センターは,法令に基づき機構が委託を受けた上記の裁定に係る処分に関わる事務につき同大臣を補助してこれを行う機関であるということができる。
 したがって,機構の下部組織である事務センターは,機構法等の定めに従って厚生労働大臣による年金の給付を受ける権利の裁定に係る処分に関わる事務を行った場合において,当該処分に関し事案の処理そのものに実質的に関与したと評価することができるのであれば、行政事件訴訟法12条3項にいう「事案の処理に当たった下級行政機関」に該当するものと解される。
(3)そして,当該処分に関し事案の処理そのものに実質的に関与したと評価することができるか否かは,前記の行政事件訴訟法12条3項の趣旨に鑑み,当該処分の内容,性質に照らして,当該組織の関与の具体的態様,程度,当該処分に対する影響の度合い等を総合考慮して決すべきである。このような観点からすれば,当該組織において自ら積極的に事案の調査を行い当該処分の成立に必要な資料を収集した上意見を付してこれを処分行政庁に送付ないし報告し,これに基づいて処分行政庁が最終的判断を行った上で当該処分をしたような場合などは,当該組織の関与の具体的態様,程度等によっては,当該組織は当該処分に関し事案の処理そのものに実質的に関与したと評価することができるものというべきである(前掲最高裁平成13年2月27日第三小法廷決定参照)。 
 しかるところ,原審は,上記のような観点から本件事務センターが本件処分に関し事案の処理そのものに実質的に関与したと評価することができるか否かについて,何ら審理判断していない。
 したがって,上記の点について審理を尽くすことなく,本件事務センターが行政事件訴訟法12条3項にいう「事案の処理に当たった下級行政機関」に該当しないとして本案訴訟がその所在地の裁判所の管轄に属しないものとした原審の判断には,審理不尽の結果,法令の解釈適用を誤った違法がある。
5 以上のとおり,原審の判断には裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原決定は破棄を免れない。そして,上記4(3)の点に関し,本件事務センターによる本件裁定請求の審査の方法及び内容や厚生労働大臣に対する審査結果の報告の内容等について審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 横田尤孝 裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 裁判官 白木勇 裁判官 山浦善樹)