第二次納税義務告知処分取消等請求事件 最高裁判所第二小法廷平成26年(行ヒ)第71号 平成27年11月6日判決

       主   文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人直井春夫,同青木那和の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1 本件は,株式会社A(以下「A社」という。)が,東京都知事から株式会社B(以下「B社」という。)を滞納者とする都税に係る徴収金(以下「本件徴収金」という。)について地方税法11条の8の規定に基づく第二次納税義務の納付告知(以下「本件納付告知」という。)を受けたため,A社を吸収合併した被上告人が,上告人を相手に,本件納付告知の取消しを求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)本件納付告知に係る不動産の譲渡等
 A社は,平成20年12月26日,B社から,第1審判決別紙1物件目録記載9,11及び13から16までの各不動産をいずれも有償で譲り受けた。
 また,A社は,同年11月13日から平成21年2月2日にかけて,株式会社Cほか5社から,第1審判決別紙1物件目録記載1から4まで,7及び8の各不動産をいずれも有償で譲り受けたが,当該各不動産についてされていたB社を抵当権者とする抵当権設定登記は,同月6日から同月20日にかけて,いずれも解除を原因として抹消された。
(2)B社に係る破産事件等
 東京地方裁判所は,平成21年2月24日,B社を再生債務者として,再生手続開始の決定をした。しかし,東京地方裁判所は,同年3月24日,B社の事業継続を不可能とする事実が明らかになったとして,再生手続廃止の決定をするとともに,再生手続廃止後,破産手続開始の決定があるまでの間,全ての債権者は,債務者の財産に対する強制執行等及び国税滞納処分をしてはならない旨の決定(以下「本件包括的禁止命令」という。)をし,同年4月21日,破産手続開始の決定をするとともに破産管財人を選任した。
(3)本件納付告知
ア 本件徴収金の額は,本件納付告知がされた平成21年8月4日の時点において,本税が14億8764万1927円,延滞金が1億6229万9000円の合計16億4994万0927円であったが,東京都知事は,同日までに差し押さえていたB社の財産のうち換価未了のものに係る配当見込額を合計4億5338万1000円と検討していた。なお,東京都知事は,同年6月4日から同年7月31日にかけて,B社の破産管財人(以下,単に「破産管財人」という。)に対し,本件徴収金の全額を財団債権として交付要求していたが,これについては上記の配当見込額に計上していなかった。
イ 東京都知事は,B社が前記(1)の各不動産の譲渡等をしたために同社に対して滞納処分をしても本件徴収金の額に不足することとなったと判断し,平成21年8月4日付け納付通知書により,A社に対し,地方税法11条の8に基づく第二次納税義務として19億9263万1000円を限度として本件徴収金を納付すべき旨を告知した(本件納付告知)。なお、東京都知事は,平成22年4月6日付けで,A社に対し,本件納付告知におけるA社が納付すべき限度額を11億2000万円に減額する旨の更正をした。
(4)B社の破産財団の状況等
ア 破産管財人の作成に係る平成21年4月21日現在のB社の清算貸借対照表においては,いずれも清算価値として,資産合計は2760億7719万7672円,負債合計は3256億0244万6680円とされており,上記の資産合計の額から別除権の対象である資産の合計額2684億2269万8985円を控除した金額は76億5449万8687円であるとされていた。また,同年10月20日現在のB社の破産財団の残高は,37億9107万7301円であった。 
イ B社は,これとは別に,平成21年3月24日に本件包括的禁止命令がされる前から,別除権の対象ではない財産として,D信託銀行株式会社に対する約68億円の預託金(以下「本件預託金」という。)の返還請求権を有していたところ,破産管財人は,同22年3月17日から同年7月5日までの間に本件預託金の返還を受けた。
(5)本件徴収金についての徴収の状況
 東京都知事は,平成22年2月24日から同年9月24日までの間に,本件納付告知に基づいて差押えをしたA社の預金債権及び賃料債権を取立て,A社から合計1億4770万4912円を徴収した。
 また,東京都知事は,同月30日,破産管財人から,前記(3)アの交付要求に係る財団債権に対する弁済として9億6000万3675円の納付を受けたほか,上記の納付を含め,平成21年8月6日から同22年11月25日までの間に,B社又は破産管財人から合計14億0792万2463円を徴収した。
 以上の結果,平成22年12月28日の時点で,B社の本税は全額徴収され,延滞金3億0064万0152円が残った。なお,東京都知事は,その後,担保不動産競売事件の配当金に係る供託金の払渡しとして,上記延滞金の額に相当する金員を受領した。
(6)吸収合併等
 被上告人は,平成25年1月1日,A社を吸収合併し,同26年4月1日,その商号を現商号に変更した。
3 原審は,上記の事実関係等の下で要旨次のとおり判断して,本件納付告知の取消請求を認容すべきものとした。
 地方税法11条の8の「滞納処分をしてもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合」とは,第二次納税義務を負わせることに係る告知をするときの現況において,差押え等の滞納処分をすることができる滞納者の財産の見積価額等の総額が徴収しようとする徴収金の額に不足すると認められる場合をいうものと解されるところ,東京都知事が,本件包括的禁止命令がされる前に,本件徴収金の額を大幅に上回る約68億円にも上る本件預託金の返還請求権について滞納処分(差押え)をしなかったことは著しく不合理であるから,本件納付告知は,上記の場合には当たらないというべきである。
4(1)地方税法11条の8は,滞納者である本来の納税義務者が,その地方団体の徴収金の法定納期限の1年前の日以後にその財産について無償又は著しく低い額の対価による譲渡,債務の免除その他第三者に利益を与える処分を行ったために,本来の納税義務者に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められるときは,これらの処分により権利を取得し,又は義務を免れた第三者に対し,これらの処分により受けた利益が現に存する限度において,本来の納税義務者の滞納に係る地方団体の徴収金の第二次納税義務を課している。
 このように,同条に定める第二次納税義務が,上記のような関係にある第三者に対して本来の納税義務者からの徴収不足額につき補充的に課される義務であることに照らすと,同条にいう「滞納者の地方団体の徴収金につき滞納処分をしてもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合」とは,第二次納税義務に係る納付告知時の現況において,本来の納税義務者の財産で滞納処分(交付要求及び参加差押えを含む。)により徴収することのできるものの価額が,同人に対する地方団体の徴収金の総額に満たないと客観的に認められる場合をいうものと解される。
(2)前記2の事実関係等によれば,本件納付告知がされた平成21年8月4日の時点における本件徴収金の額は合計16億4994万0927円であったところ,同年4月21日に破産手続開始の決定がされた時点において,B社には別除権の対象ではない76億5449万8687円の清算価値の資産があるとされ,同年10月20日の時点における破産財団の現在高は37億9107万7301円に上っており,さらに,B社は,これとは別に,本件納付告知時より前から,別除権の対象ではない財産として,D信託銀行株式会社に対する約68億円に及ぶ本件預託金の返還請求権を有していたというのである。そして,B社について上記の破産手続開始の決定がされ,破産管財人が選任されたことにより,B社の財産が破産管財人の管理下に置かれていたことに照らすと,本件納付告知の前後においてその財産に大幅な変動があったものとは考え難い。
 また,東京都知事は,平成21年6月4日から同年7月31日にかけて,本件徴収金の全額を財団債権として交付要求し,同22年9月30日,破産管財人から上記の財団債権に対する弁済として9億6000万3675円の納付を受けたほか,同年11月25日までの間に上記の納付を含めB社の財産から合計14億0792万2463円を徴収してB社の滞納に係る本税を全額回収しており,残余の延滞金についてもその後担保不動産競売事件からの配当を受けている。
 以上に鑑みると,本件納付告知の時点において,B社の財産で交付要求等を含む滞納処分により徴収することのできるものの価額が本件徴収金の総額に満たないと客観的に認められるとはいえず,本件納付告知は,地方税法11条の8にいう「滞納者の地方団体の徴収金につき滞納処分をしてもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合」においてされたものとはいえないというべきである。
5 そうすると,原判決にはその説示において必ずしも適切でないところがあるが,本件 納付告知が違法であるとしてこれを取り消すべきものとした原審の判断は是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鬼丸かおる 裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信 裁判官 山本庸幸)