詐欺被告事件 最高裁判所第二小法廷平成24年(あ)第1595号 平成26年4月7日決定

       主   文

本件上告を棄却する。

       理   由

 弁護人下村忠利の上告趣意は,違憲をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 所論に鑑み,本件詐欺罪の成否について検討する。
1 原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件の事実関係は次のとおりである。
(1)暴力団員である被告人は、自己名義の総合口座通帳及びキャッシュカードを取得するため,平成23年3月10日,郵便局において,株式会社ゆうちょ銀行から口座開設手続等の委託を受けている同局局員に対し,真実は自己が暴力団員であるのにこれを秘し,総合口座利用申込書の「私は,申込書3枚目裏面の内容(反社会的勢力でないことなど)を表明・確約した上,申込みます。」と記載のある「おなまえ」欄に自己の氏名を記入するなどして,自己が暴力団員でないものと装い,前記申込書を提出して被告人名義の総合口座の開設及びこれに伴う総合口座通帳等の交付を申込み,前記局員らに,被告人が暴力団員でないものと誤信させ,よって,その頃,同所において,前記局員から被告人名義の総合口座通帳1通の交付を受け,さらに,同月18日,当時の被告人方において,同人名義のキャッシュカード1枚の郵送交付を受けた。 
(2)政府は,平成19年6月,企業にとっては,社会的責任や企業防衛の観点から必要不可欠な要請であるなどとして「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」等を策定した。
 前記銀行においては,従前より企業の社会的責任等の観点から行動憲章を定めて反社会的勢力との関係遮断に取り組んでいたところ,前記指針の策定を踏まえ,平成22年4月1日,貯金等共通規定等を改訂して,貯金は,預金者が暴力団員を含む反社会的勢力に該当しないなどの条件を満たす場合に限り,利用することができ,その条件を満たさない場合には,貯金の新規預入申込みを拒絶することとし,同年5月6日からは,申込者に対し,通常貯金等の新規申込み時に,暴力団員を含む反社会的勢力でないこと等の表明,確約を求めることとしていた。また,前記銀行では,利用者が反社会的勢力に属する疑いがあるときには,関係警察署等に照会,確認することとされていた。そして,本件当時に利用されていた総合口座利用申込書には,前記のとおり,1枚目の「おなまえ」欄の枠内に「私は,申込書3枚目裏面の内容(反社会的勢力でないことなど)を表明・確約した上,申込みます。」と記載があり,3枚目裏面には,「反社会的勢力ではないことの表明・確約について」との標題の下,自己が暴力団員等でないことなどを表明,確約し,これが虚偽であることなどが判明した場合には,貯金の取扱いが停止され,又は,全額払戻しされても異議を述べないことなどが記載されていた。さらに,被告人に応対した局員は,本件申込みの際,被告人に対し,前記申込書3枚目裏面の記述を指でなぞって示すなどの方法により,暴力団員等の反社会的勢力でないことを確認しており,その時点で,被告人が暴力団員だと分かっていれば,総合口座の開設や,総合口座通帳及びキャッシュカードの交付に応じることはなかった。
2 以上のような事実関係の下においては,総合口座の開設並びにこれに伴う総合口座通帳及びキャッシュカードの交付を申し込む者が暴力団員を含む反社会的勢力であるかどうかは,本件局員らにおいてその交付の判断の基礎となる重要な事項であるというべきであるから,暴力団員である者が,自己が暴力団員でないことを表明,確約して上記申込みを行う行為は,詐欺罪にいう人を欺く行為に当たり,これにより総合口座通帳及びキャッシュカードの交付を受けた行為が刑法246条1項の詐欺罪を構成することは明らかである。被告人の本件行為が詐欺罪に当たるとした第1審判決を是認した原判断は正当である。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 鬼丸かおる 裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信 裁判官 山本庸幸)