詐欺被告事件 最高裁判所第二小法廷平成25年(あ)第725号 平成26年3月28日決定

       主   文

本件上告を棄却する。

       理   由

 弁護人黒岩千晶,同金岡繁裕の上告趣意は,憲法違反,判例違反をいうが,実質は事実誤認,単なる法令違反の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 所論に鑑み,本件ゴルフ場の施設利用に関する詐欺罪(以下「本件」という。)の成否について検討する。
1 原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件の事実関係は次のとおりである。
(1)本件は,暴力団員である被告人が,本件ゴルフ倶楽部の会員であるAと共謀の上,平成22年10月13日,長野県内のゴルフ倶楽部において,同倶楽部はそのゴルフ場利用約款等により暴力団員の入場及び施設利用を禁止しているにもかかわらず,真実は被告人が暴力団員であるのにそれを秘し,Aにおいて,同倶楽部従業員に対し,「○○○○」等と記載した組合せ表を提出し,被告人の署名簿への代署を依頼するなどして,被告人によるゴルフ場の施設利用を申し込み,同倶楽部従業員をして,被告人が暴力団員ではないと誤信させ,よって,被告人と同倶楽部との間でゴルフ場利用契約を成立させた上,被告人において同倶楽部の施設を利用し,もって,人を欺いて財産上不法の利益を得た,という事案である。
(2)本件ゴルフ倶楽部では,暴力団員及びこれと交友関係のある者の入会を認めておらず,入会の際には「暴力団または暴力団員との交友関係がありますか」という項目を含むアンケートへの回答を求めるとともに,「私は,暴力団等とは一切関係ありません。また,暴力団関係者等を同伴・紹介して貴倶楽部に迷惑をお掛けするようなことはいたしません」と記載された誓約書に署名押印させた上,提出させていた。ゴルフ場利用約款でも,暴力団員の入場及び施設利用を禁止していた。共犯者のAは,平成21年6月頃,本件ゴルフ倶楽部の入会審査を申請した際,上記アンケートの項目に対し,「ない」と回答した上,上記誓約書に署名押印して提出し,同倶楽部の会員となった。
(3)被告人は,暴力団員であり,長野県内のゴルフ場では暴力団関係者の施設利用に厳しい姿勢を示しており,施設利用を拒絶される可能性があることを認識していたが,Aから誘われ,本件当日,その同伴者として,本件ゴルフ倶楽部を訪れた。
 本件ゴルフ倶楽部のゴルフ場利用約款では,他のゴルフ場と同様,利用客は,会員,ビジターを問わず,フロントにおいて,「ご署名簿」に自署して施設利用を申し込むこととされていた。しかし,Aは,施設利用の申込みに際し,被告人が暴力団員であることが発覚するのを恐れ,その事実を申告せず,フロントにおいて,自分については,「ご署名簿(メンバー)」に自ら署名しながら,被告人ら同伴者5名については,事前予約の際に本件ゴルフ倶楽部で用意していた「予約承り書」の「組合せ表」欄に,「△△」「○○○○」「××○○××」などと氏又は名を交錯させるなどして乱雑に書き込んだ上,これを同倶楽部従業員に渡して「ご署名簿」への代署を依頼するという異例な方法をとり,被告人がフロントに赴き署名をしないで済むようにし,被告人分の施設利用を申込み,会員の同伴者である以上暴力団関係者は含まれていないと信じた同倶楽部従業員をして施設利用を許諾させた。なお,Aは,申込みの際,同倶楽部従業員から同伴者に暴力団関係者がいないか改めて確認されたことはなく,自ら同伴者に暴力団関係者はいない旨虚偽の申出をしたこともなかった。
 他方,被告人は,妻と共に本件ゴルフ倶楽部に到着後,クラブハウスに寄らず,車をゴルフ場内の練習場の近くに停めさせ,直接練習場に行って練習を始め,妻から「エントリーせんでええの。どこでするの」と尋ねられても,そのまま放置し,Aに施設利用の申込みを任せていた。その後,結局フロントに立ち寄ることなく,クラブハウスを通過し,プレーを開始した。なお,被告人の施設利用料金等は,翌日,Aがクレジットカードで精算している。
(4)ゴルフ場が暴力団関係者の施設利用を拒絶するのは,利用客の中に暴力団関係者が混在することにより,一般利用客が畏怖するなどして安全,快適なプレー環境が確保できなくなり,利用客の減少につながることや,ゴルフ倶楽部としての信用,格付け等が損なわれることを未然に防止する意図によるものであって,ゴルフ倶楽部の経営上の観点からとられている措置である。
 本件ゴルフ倶楽部においては,ゴルフ場利用約款で暴力団員の入場及び施設利用を禁止する旨規定し,入会審査に当たり上記のとおり暴力団関係者を同伴,紹介しない旨誓約させるなどの方策を講じていたほか,長野県防犯協議会事務局から提供される他の加盟ゴルフ場による暴力団排除情報をデータベース化した上,予約時又は受付時に利用客の氏名がそのデータベースに登録されていないか確認するなどして暴力団関係者の利用を未然に防いでいたところ,本件においても,被告人が暴力団員であることが分かれば,その施設利用に応じることはなかった。
2 以上のような事実関係からすれば,入会の際に暴力団関係者の同伴,紹介をしない旨誓約していた本件ゴルフ倶楽部の会員であるAが同伴者の施設利用を申し込むこと自体,その同伴者が暴力団関係者でないことを保証する旨の意思を表している上,利用客が暴力団関係者かどうかは,本件ゴルフ倶楽部の従業員において施設利用の許否の判断の基礎となる重要な事項であるから,同伴者が暴力団関係者であるのにこれを申告せずに施設利用を申し込む行為は,その同伴者が暴力団関係者でないことを従業員に誤信させようとするものであり,詐欺罪にいう人を欺く行為にほかならず,これによって施設利用契約を成立させ,Aと意を通じた被告人において施設利用をした行為が刑法246条2項の詐欺罪を構成することは明らかである。被告人に詐欺罪の共謀共同正犯が成立するとした原判断は,結論において正当である。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官小貫芳信の意見がある。

 裁判官小貫芳信の意見は、次のとおりである。 

 多数意見の結論に賛同するが,偽る行為についての私の意見は,当裁判所平成25年(あ)第3号同26年3月28日第二小法廷判決における私の反対意見に述べたとおりであるから,ここにこれを引用する。付言すると,本件実行行為である施設利用申込みは,会員であるAが組合せ表に被告人の氏名を記載した上,フロント係に被告人を含むプレーメンバーの署名簿に代署を依頼して行っている。この実行行為について,上記反対意見において述べたところを当てはめてみると,被告人が暴力団員でないとの会員による人物保証の下で申込みがされているので,これをもって偽る行為に該当すると認めることができることとなる。A自らが上記行為を行ったことを取り立てて重視する必要はないし,また,本件においては相当でもないと思われる。ビジター自身がフロントに赴いて署名簿に自署するのを原則とするゴルフ場において,会員がビジターに代わって行為に及ぶということは不審を抱かれる原因ともなり得ると考えるからである。
(裁判長裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 山本庸幸)