賭博開張図利被告事件 最高裁判所第一小法廷平成24年(あ)第512号 平成25年3月5日決定

       主   文

本件上告を棄却する。

       理   由

 弁護人高島章,同鯰越溢弘の上告趣意のうち,原判決が本位的訴因を認定したことの判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,原審の事実誤認の審査方法等に関して判例違反をいう点は,実質は事実誤認の主張であり,その余は,単なる法令違反の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 なお、所論に鑑み,原判決が本位的訴因である賭博開張図利の共同正犯を認定したことの当否につき職権で判断する。
 起訴状記載の公訴事実は,要旨,「被告人が,Aと共謀の上,平成22年5月8日,新潟県村上市内の甲組組事務所2階において,賭博場を開張し,賭客らをして,金銭を賭けて麻雀賭博をさせ,同人らから寺銭として金銭を徴収し,もって賭博場を開張して利益を図った」という賭博開張図利の共同正犯の訴因によるものであったが,検察官は,第1審公判において,要旨「被告人は,甲組組長であるが,Aが,平成22年5月8日,新潟県村上市内の甲組組事務所2階において,賭博場を開張し,賭客らをして,金銭を賭けて麻雀賭博をさせ,同人らから寺銭として金銭を徴収し,賭博場を開張して利益を図った際,その情を知りながら,Aが同所を麻雀賭博場として利用することを容認し,もって同人の前記犯行を容易にさせてこれを幇助した」という賭博開張図利の幇助犯の予備的訴因の追加請求をし,第1審裁判所もこれを許可した。 
 第1審判決は,本位的訴因については,被告人自身が主宰者として本件賭博場を開張したとは認められず,また,Aを主宰者とする賭博開張図利の共謀共同正犯の成否について検討しても,被告人には同罪の正犯意思を認め難く,Aとの共謀も認定できないとして,賭博開張図利の共同正犯は成立しないとした上,予備的訴因である賭博開張図利の幇助犯の成立を認め,被告人を懲役10月,5年間執行猶予に処した。
 これに対し,被告人のみが控訴を申し立てたところ,原判決は,理由不備や訴訟手続の法令違反,法令適用の誤りをいう被告人の控訴趣意を排斥する一方,記録上認められる事実を総合勘案すれば,甲組の組長である被告人が,配下のAと共謀して,甲組の組ぐるみで本件賭博開張図利を敢行したものと認められ,被告人とAとの賭博開張図利の共同正犯を認定するのが相当であるから,被告人に賭博開張図利の幇助犯が成立するとした第1審判決には判決に影響を及ぼす事実を誤認した違法があり,破棄を免れないとして,第1審判決を破棄した上,本位的訴因である賭博開張図利の共同正犯を認定して被告人を有罪とし,第1審判決と同じ刑を言い渡した。
 しかしながら,本件のように,第1審判決の理由中で,本位的訴因とされた賭博開張図利の共同正犯は認定できないが,予備的訴因とされた賭博開張図利の幇助犯は認定できるという判断が示されたにもかかわらず,同判決に対して検察官が控訴の申立てをしなかった場合には,検察官は,その時点で本位的訴因である共同正犯の訴因につき訴訟追行を断念したとみるべきであって,本位的訴因は,原審当時既に当事者間においては攻防の対象から外されていたものと解するのが相当である(最高裁昭和41年(あ)第2101号同46年3月24日大法廷決定・刑集25巻2号293頁,同昭和42年(あ)第582号同47年3月9日第一小法廷判決・刑集26巻2号102頁参照)。そうすると,原審としては,本位的訴因については,これを排斥した第1審裁判所の判断を前提とするほかなく,職権により本位的訴因について調査を加えて有罪の自判をしたことは,職権の発動として許される限度を超えたものであり,違法というほかない。したがって,原判決には法令違反があり,この違法が判決に影響を及ぼすことも明らかである。
 もっとも,原判決が理由不備や訴訟手続の法令違反,法令適用の誤りをいう被告人の控訴趣意を排斥した点には何ら違法はない上,記録によれば,賭博開張図利の幇助犯を認定して被告人を懲役10月,5年間執行猶予に処した第1審判決には,被告人が控訴趣意において主張する事実誤認や量刑不当があるとは認められない。他方,原判決は,第1審判決と同一の刑を被告人に言い渡している。そうすると,原判決には上記の違法があるものの,原判決を破棄しなくてもいまだ著しく正義に反するものとは認められない。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 金築誠志 裁判官 櫻井龍子 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木勇 裁判官 山浦善樹)