道路通行権確認等請求事件 最高裁判所第三小法廷平成23年(受)第1644号 平成25年2月26日判決

       主   文

原判決中被上告人らに関する部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

       理   由

 上告代理人串田正克ほかの上告受理申立て理由について
1 本件は,被上告人らが,上告人に対し,被上告人らがそれぞれ所有し,又は賃借する土地を要役地とし,上告人が所有する土地を承役地とする通行地役権又は土地通行権の確認等を求める事案である。
2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)別紙物件目録記載1ないし3の各土地は,Aが所有し,同目録記載4の土地は,同社の代表取締役であるBが所有していた(以下,同目録記載1ないし4の各土地を併せて「上告人所有地」という。)。上告人所有地の一部である第1審判決別紙物件目録(一)記載の各土地(以下「本件通路」という。)は,国道1号線の南行車線に通ずる通路の一部である。この通路は,昭和55年頃までに,被上告人X1及びAにより開設された。
(2)別紙物件目録記載1の土地につき,昭和56年11月2日,Cを根抵当権者とする根抵当権が設定され,同月10日,その旨の登記がされ,上告人所有地につき,平成10年9月25日,Dを根抵当権者とする根抵当権が設定され,同日,その旨の登記がされた。
 平成18年7月20日にDから根抵当権の移転を受けたEの申立てに基づいて,上告人所有地につき,担保不動産競売の開始決定がされ,平成20年4月11日,買受人である上告人が代金を納付して,上告人所有地を取得した。
(3)A及びB(以下,同社とBを併せて「Aら」という。)は,平成19年1月頃までに,本件通路を鈴鹿市に公衆用道路として移管することを計画し,本件通路を使用する者との間で順次「私設道路通行契約書」と題する書面(以下「本件通行契約書」という。)を作成した。
 Aらは、被上告人X2との間で平成12年2月4日に,被上告人X1との間で昭和55年頃から本件通行契約書の作成時までに,被上告人X3との間で平成12年ないし平成13年頃から本件通行契約書の作成時までに,被上告人X4との間で平成元年3月29日頃から本件通行契約書の作成時までに,被上告人X5との間で平成元年頃から本件通行契約書の作成時までに,被上告人X6との間で平成13年から本件通行契約書の作成時までに,上記被上告人らがそれぞれ所有する土地を要役地とし,本件通路を承役地とする通行地役権を設定する旨合意した。また,Aらは,Fとの間で平成18年8月7日に,Fが所有する土地を要役地とし,本件通路を承役地とする通行地役権を設定する旨合意した。その後,上記土地をFからGが取得し,同社から被上告人X7が賃借した。これらの通行地役権の設定登記はない。 
3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,被上告人らの通行地役権等の確認請求を認容すべきものとした。
 上告人所有地の担保不動産競売による売却時に,本件通路は,外形上通路として使用されていることが明らかであり,上告人は,被上告人らが所有し,又は賃借する土地上の工場に出入りする車両等が本件通路を使用することを認識していたか又は容易に認識し得る状況にあった。そうすると,上告人が,被上告人らに対し,通行地役権の登記の欠缺を主張することは信義に反し,上告人は,被上告人らに対して地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者には当たらないから,被上告人らは,上告人に対し,通行地役権等を主張することができる。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 通行地役権の承役地が担保不動産競売により売却された場合において,最先順位の抵当権の設定時に,既に設定されている通行地役権に係る承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置,形状,構造等の物理的状況から客観的に明らかであり,かつ,上記抵当権の抵当権者がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは,特段の事情がない限り,登記がなくとも,通行地役権は上記の売却によっては消滅せず,通行地役権者は,買受人に対し,当該通行地役権を主張することができると解するのが相当である。上記の場合,抵当権者は,抵当権の設定時において,抵当権の設定を受けた土地につき要役地の所有者が通行地役権その他の何らかの通行権を有していることを容易に推認することができる上に,要役地の所有者に照会するなどして通行権の有無,内容を容易に調査することができる。これらのことに照らすと,上記の場合には,特段の事情がない限り,抵当権者が通行地役権者に対して地役権設定登記の欠缺を主張することは信義に反するものであって,抵当権者は地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらず,通行地役権者は,抵当権者に対して,登記なくして通行地役権を対抗することができると解するのが相当であり(最高裁平成9年(オ)第966号同10年2月13日第二小法廷判決・民集52巻1号65頁参照),担保不動産競売により承役地が売却されたとしても,通行地役権は消滅しない。これに対し,担保不動産競売による土地の売却時において,同土地を承役地とする通行地役権が設定されており,かつ,同土地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用され,そのことを買受人が認識していたとしても,通行地役権者が承役地の買受人に対して通行地役権を主張することができるか否かは,最先順位の抵当権の設定時の事情によって判断されるべきものであるから,担保不動産競売による土地の売却時における上記の事情から,当然に,通行地役権者が,上記の買受人に対し,通行地役権を主張することができると解することは相当ではない。
5 以上によれば,上告人所有地の担保不動産競売による売却時に,本件通路が外形上通路として使用されていることが明らかであって,被上告人らが本件通路を使用していたことを上告人が認識していたか又は容易に認識し得る状況にあったことを理由として,被上告人らが上告人に対し,通行地役権等を主張することができるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。論旨は理由があり,原判決中被上告人らに関する部分は破棄を免れない。そして,上告人所有地に抵当権が設定された当時の事情等について更に審理を尽くさせるため,上記の部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大谷剛彦 裁判官 田原睦夫 裁判官 岡部喜代子 裁判官 寺田逸郎 裁判官 大橋正春)