選挙無効請求事件 最高裁判所大法廷平成30年(行ツ)第153号 平成30年12月19日判決

       主   文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。

       理   由

 上告人兼上告代理人山口邦明,同國部徹,同三竿径彦及び上告復代理人永島賢也の各上告理由について
1 本件は,平成29年10月22日施行の衆議院議員総選挙(以下「本件選挙」という。)について,東京都第2区,同第5区,同第8区,同第9区,同第18区及び神奈川県第15区の選挙人である上告人らが,衆議院小選挙区選出議員の選挙(以下「小選挙区選挙」という。)の選挙区割りに関する公職選挙法の規定は憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であるなどと主張して提起した選挙無効訴訟である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)昭和25年に制定された公職選挙法は,衆議院議員の選挙制度につき,中選挙区単記投票制を採用していたが,平成6年に公職選挙法の一部を改正する法律(平成6年法律第2号)が成立し,その後,平成6年法律第10号及び同第104号によりその一部が改正され,これらにより,従来の中選挙区単記投票制に代わって小選挙区比例代表並立制が導入された。
 本件選挙施行当時,衆議院議員の定数は465人とされ,そのうち289人が小選挙区選出議員,176人が比例代表選出議員とされ(公職選挙法4条1項),小選挙区選挙については,全国に289の選挙区を設け,各選挙区において1人の議員を選出するものとされ(同法13条1項,別表第1。以下,後記の改正の前後を通じてこれらの規定を併せて「区割規定」という。),比例代表選出議員の選挙(以下「比例代表選挙」という。)については,全国に11の選挙区を設け,各選挙区において所定数の議員を選出するものとされている(同法13条2項,別表第2)。総選挙においては,小選挙区選挙と比例代表選挙とを同時に行い,投票は小選挙区選挙及び比例代表選挙ごとに1人1票とされている(同法31条,36条)。
(2)平成6年に前記の公職選挙法の一部を改正する法律と同時に成立した衆議院議員選挙区画定審議会設置法(以下,後記の改正の前後を通じて「区画審設置法」という。)によれば,衆議院議員選挙区画定審議会(以下「区画審」という。)は,衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し,調査審議し,必要があると認めるときは,その改定案を作成して内閣総理大臣に勧告するものとされている(同法2条)。
 上記の改定に係る選挙区の区割りの基準(以下,後記の改正の前後を通じて「区割基準」という。)について,平成28年法律第49号(以下「平成28年改正法」という。)による改正後の区画審設置法(以下「新区画審設置法」という。)3条は,〔1〕1項において,上記の改定案を作成するに当たっては,各選挙区の人口(同条においては最近の国勢調査の結果による日本国民の人口をいう。)の均衡を図り,各選挙区の人口のうち,その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることとし,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないものと定めるとともに,〔2〕2項において,各都道府県の区域内の選挙区の数は,各都道府県の人口を小選挙区基準除数(その除数で各都道府県の人口を除して得た数(1未満の端数が生じたときは,これを1に切り上げるものとする。)の合計数が衆議院小選挙区選出議員の定数に相当する数と合致することとなる除数をいう。)で除して得た数(1未満の端数が生じたときは,これを1に切り上げるものとする。)とするとし(いわゆるアダムズ方式),〔3〕3項において,下記の同法4条2項の規定による勧告に係る改定案の作成に当たっては,各都道府県の区域内の衆議院小選挙区選出議員の選挙区の数は変更しないものとすると定めている。
 そして,選挙区の改定に関する区画審の勧告は,統計法5条2項本文の規定により10年ごとに行われる国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に行うものとされ(新区画審設置法4条1項),さらに,区画審は,統計法5条2項ただし書の規定により上記の国勢調査が行われた年から5年目に当たる年に行われる各選挙区の国勢調査の結果による日本国民の人口のうち,その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上となったときは,当該国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に,上記の勧告を行うものとされている(新区画審設置法4条2項)。
 なお,平成24年法律第95号(以下「平成24年改正法」という。)による改正前の区画審設置法(以下「旧区画審設置法」という。)3条は,〔1〕1項において,上記の改定案を作成するに当たっては,各選挙区の人口の均衡を図り,各選挙区の人口のうち,その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることを基本とし,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないものと定めるとともに,〔2〕2項において,各都道府県の区域内の選挙区の数は,各都道府県にあらかじめ1を配当することとし(以下,このことを「1人別枠方式」という。),この1に,小選挙区選出議員の定数に相当する数から都道府県の数を控除した数を人口に比例して各都道府県に配当した数を加えた数とすると定めていた(以下,この区割基準を「旧区割基準」といい,この規定を「旧区割基準規定」ともいう。)。
(3)平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙(以下「平成21年選挙」という。)の小選挙区選挙は,同14年に成立した公職選挙法の一部を改正する法律(平成14年法律第95号)により改定された選挙区割り(以下「旧選挙区割り」という。)の下で施行されたものであり,選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は1対2.304(以下,較差に関する数値は,全て概数である。)であり,選挙人数が最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は45選挙区であった(以下,平成21年選挙に係る衆議院小選挙区選出議員の選挙区を定めた平成24年改正法による改正前の公職選挙法13条1項及び別表第1を併せて「旧区割規定」という。)。
 平成21年選挙につき,最高裁平成22年(行ツ)第207号同23年3月23日大法廷判決・民集65巻2号755頁(以下「平成23年大法廷判決」という。)は,選挙区の改定案の作成に当たり,選挙区間の人口の最大較差が2倍未満になるように区割りをすることを基本とすべきものとする旧区画審設置法3条1項の定めは,投票価値の平等の要請に配慮した合理的な基準を定めたものであると評価する一方,平成21年選挙時において,選挙区間の投票価値の較差が拡大していたのは,各都道府県にあらかじめ1の選挙区数を割り当てる同条2項の1人別枠方式がその主要な要因となっていたことが明らかであり,かつ,人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮等の視点から導入された1人別枠方式は既に立法時の合理性が失われていたものというべきであるから,旧区割基準のうち1人別枠方式に係る部分及び旧区割基準に従って改定された旧区割規定の定める旧選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたと判示した。そして,同判決は,これらの状態につき憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,旧区割基準規定及び旧区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で,事柄の性質上必要とされる是正のための合理的期間内に上記の状態を解消するために、できるだけ速やかに旧区割基準中の1人別枠方式を廃止し,旧区画審設置法3条1項の趣旨に沿って旧区割規定を改正するなど,投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要があると判示した。
(4)平成23年大法廷判決を受けて,平成24年11月16日,旧区画審設置法3条2項の削除及びいわゆる0増5減(各都道府県の選挙区数を増やすことなく議員1人当たりの人口の少ない5県の各選挙区数をそれぞれ1減ずることをいう。以下同じ。)を内容とする公職選挙法及び区画審設置法の一部を改正する法律案が平成24年改正法として成立した。この改正により,旧区画審設置法3条1項が同改正後の区画審設置法3条となり,同条の内容のみが区割基準となった。 
 平成24年改正法の成立と同日に衆議院が解散され,平成24年12月16日に施行された衆議院議員総選挙(以下「平成24年選挙」という。)までに新たな選挙区割りを定めることは時間的に不可能であったため,同選挙は平成21年選挙と同様に旧選挙区割りの下で施行された。
 平成24年選挙につき,最高裁平成25年(行ツ)第209号,第210号,第211号同年11月20日大法廷判決・民集67巻8号1503頁(以下「平成25年大法廷判決」という。)は,同選挙時において旧区割規定の定める旧選挙区割りは平成21年選挙時と同様に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものではあるが,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,旧区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で,国会においては今後も平成24年改正法による改正後の区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続けられていく必要があると判示した。
(5)平成24年改正法の成立後,同法の附則の規定に基づく区画審の勧告を受けて,平成25年6月24日,各都道府県の選挙区数の0増5減を前提に,選挙区間の人口の較差が2倍未満となるように17都県の42選挙区において区割りを改めることを内容とする平成24年改正法の一部を改正する法律案が,平成25年法律第68号(以下「平成25年改正法」という。)として成立した。
 上記の改定の結果,平成22年10月1日を調査時とする国勢調査の結果によれば選挙区間の人口の最大較差は1対1.998となるものとされたが,同26年12月14日施行の衆議院議員総選挙(以下「平成26年選挙」という。)当日においては,選挙区間の選挙人数の最大較差は1対2.129であり,選挙人数が最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は13選挙区であった。
 平成26年選挙につき,最高裁平成27年(行ツ)第253号同年11月25日大法廷判決・民集69巻7号2035頁(以下「平成27年大法廷判決」という。)は,上記0増5減の措置における定数削減の対象とされた県以外の都道府県について旧区割基準に基づいて配分された定数の見直しを経ておらず,上記のような投票価値の較差が生じた主な要因は,いまだ多くの都道府県において1人別枠方式を定めた旧区画審設置法3条2項が削除された後の区割基準に基づいて定数の再配分が行われた場合とは異なる定数が配分されていることにあり,このような投票価値の較差が生じたことは,全体として平成24年改正法による改正後の区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備が実現されていたとはいえないことの表れというべきであるとして,平成25年改正法による改正後の平成24年改正法により改定された選挙区割りはなお憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものといわざるを得ないと判示した。そして,同判決は,同条の趣旨に沿った選挙制度の整備については,漸次的な見直しを重ねることによってこれを実現していくことも国会の裁量に係る現実的な選択として許容されていると解されるとし,上記の選挙区割りの改定後も国会において引き続き選挙制度の見直しが行われていること等を併せ考慮すると,平成23年大法廷判決の言渡しから平成26年選挙までの国会における是正の実現に向けた取組は,立法裁量権の行使として相当なものでなかったということはできず,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえないと判示した。
(6)平成25年改正法の成立の前後を通じて,国会においては,今後の人口異動によっても憲法の投票価値の平等の要求に反する状態とならないようにするための制度の見直しについて,総定数の削減の要否等を含め,引き続き検討が続けられ,平成26年6月19日の衆議院議院運営委員会における議決により,衆議院選挙制度に関する調査,検討等を行うため,衆議院に有識者により構成される議長の諮問機関として衆議院選挙制度に関する調査会(以下「選挙制度調査会」という。)が設置された。
 選挙制度調査会は,平成26年9月以降,定期的な会合を開催し,衆議院議員の選挙制度の在り方,議員定数の削減,投票価値の較差の是正等の問題について,各政党からの意見聴取を含めた調査,検討を行い,同28年1月14日,衆議院議長に対し,衆議院選挙制度に関する調査会答申を提出した。
 上記答申は,〔1〕衆議院議員の選挙制度の在り方については,現行の小選挙区比例代表並立制を維持し,〔2〕議員定数の削減については,衆議院議員の定数を10削減して465人(小選挙区選出議員の定数につき6削減して289人,比例代表選出議員の定数につき4削減して176人)とする案が考えられるとした。また,〔3〕投票価値の較差の是正については,小選挙区選挙における各都道府県への議席配分方式について満たすべき条件として,比例性のある配分方式に基づいて配分すること,選挙区間の投票価値の較差を小さくするために各都道府県間の投票価値の較差をできるだけ小さくすること,各都道府県の配分議席の増減変動が小さいこと,一定程度将来にわたっても有効に機能し得る方式であることとした上で,この諸条件に照らして検討した結果として,各都道府県への議席配分につき,各都道府県の人口を一定の数値(小選挙区基準除数)で除し,それぞれの商の整数に小数点以下を切り上げて得られた数の合計数が小選挙区選挙の定数と一致するようにする方式(アダムズ方式)により行うものとした。そして,各都道府県への議席配分の見直しは,制度の安定性を勘案し,10年ごとに行われる国勢調査の結果による人口に基づき行うものとし,その5年後に行われる国勢調査の結果,選挙区間の人口の較差が2倍以上の選挙区が生じたときは,各都道府県への議席配分の変更は行わず,区画審において上記の較差が2倍未満となるように関係選挙区の区画の見直しを行うものとした。
(7)選挙制度調査会の前記答申を受けて,平成28年5月20日,衆議院議員の定数を475人から10削減して465人(小選挙区選出議員の定数につき6削減して289人,比例代表選出議員の定数につき4削減して176人)とするとともに,前記(2)のとおり,各都道府県への定数配分の方式としてアダムズ方式を採用すること等を内容とする衆議院議員選挙区画定審議会設置法及び公職選挙法の一部を改正する法律(平成28年改正法)が成立した。平成28年改正法においては,選挙制度の安定性を勘案し,アダムズ方式による各都道府県の選挙区数の変更は平成32年以降10年ごとに行われる国勢調査の結果に基づき行うこととされ,その5年後に行われる国勢調査の結果,選挙区間の日本国民の人口(以下,単に「人口」という。)の較差が2倍以上の選挙区が生じたときは,各都道府県の選挙区数の変更はせず,同較差が2倍未満となるように選挙区割りの改定を行うこととされた。
 他方,平成28年改正法は,アダムズ方式による各都道府県の選挙区数の変更が行われるまでの投票価値の較差是正のための措置として,附則により,小選挙区選出議員の定数を6削減することを前提として,区画審において平成27年に行われた国勢調査(以下「平成27年国勢調査」という。)の結果に基づく選挙区割りの改定案の作成及び勧告を行うこととした。そして,同改定案の作成に当たっては,各都道府県の選挙区数につき,定数の削減による影響を受ける都道府県を極力減らすことによって選挙制度の安定性を確保する観点から,減少の対象となる都道府県は,アダムズ方式により得られる選挙区数が改正前の選挙区数より少ない都道府県のうち,当該都道府県の平成27年国勢調査の結果による人口を同方式により得られる選挙区数で除して得た数が少ない順から6都道府県とし,それ以外の都道府県は改正前の選挙区数を維持することとした。また,選挙区割りにつき,平成27年国勢調査の結果に基づく選挙区間の人口の較差が2倍未満となるようにし,かつ,次回の国勢調査が実施される平成32年見込人口に基づく選挙区間の人口の較差が2倍未満であることを基本とするとともに,各選挙区の平成27年国勢調査の結果による人口及び平成32年見込人口の均衡を図り,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行うこととした。
 平成28年改正法の成立後,区画審による審議が行われ,平成29年4月19日,区画審は,内閣総理大臣に対し,上記のとおり各都道府県の選挙区数の0増6減の措置を採ることを前提に,19都道府県の97選挙区において区割りを改めることを内容とする改定案の勧告を行った。これを受けて,内閣は,同年5月16日,平成28年改正法に基づき,同法のうち上記0増6減を内容とする公職選挙法の改正規定の施行期日を定めるとともに,上記改定案に基づく選挙区割りの改定を内容とする公職選挙法の改正事項を定める法制上の措置として,平成28年改正法の一部を改正する法律案を国会に提出し,平成29年6月9日,この改正法案が平成29年法律第58号(以下「平成29年改正法」という。)として成立した。上記0増6減及びこれを踏まえた選挙区割りの改定を内容とする公職選挙法の改正規定は平成29年7月16日から施行され,この改正により,各都道府県の選挙区数の0増6減とともに上記改定案のとおりの選挙区割りの改定が行われた(以下,上記改正後の公職選挙法13条1項及び別表第1を併せて「本件区割規定」といい,本件区割規定に基づく上記改定後の選挙区割りを「本件選挙区割り」という。)。
(8)平成29年9月28日に衆議院が解散され,同年10月22日,本件選挙区割りの下において本件選挙が施行された。本件選挙区割りの下において,平成27年10月1日を調査時とする平成27年国勢調査の結果によれば選挙区間の人口の最大較差は1対1.956となるものとされ,本件選挙当日における選挙区間の選挙人数の較差は,選挙人数の最も少ない選挙区(鳥取県第1区)と最も多い選挙区(東京都第13区)との間で1対1.979であり,選挙人数が最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は存在しなかった。
3(1)憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば投票価値の平等を要求しているものと解される。他方,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであるところ,国会の両議院の議員の選挙については,憲法上,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとされ(43条2項,47条),選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認められている。
 衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採用される場合には,選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決定するに際して,憲法上,議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているというべきであるが,それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されているものと解されるのであって,具体的な選挙区を定めるに当たっては,都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単位として,地域の面積,人口密度,住民構成,交通事情,地理的状況などの諸要素を考慮しつつ,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められているところである。したがって,このような選挙制度の合憲性は,これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお,国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによって判断されることになり,国会がこのような選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが,上記のような憲法上の要請に反するため,上記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是認することができない場合に,初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである。
 以上は,衆議院議員の選挙に関する最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁以降の累次の大法廷判決の趣旨とするところであって(上掲最高裁昭和51年4月14日大法廷判決,最高裁昭和56年(行ツ)第57号同58年11月7日大法廷判決・民集37巻9号1243頁,最高裁昭和59年(行ツ)第339号同60年7月17日大法廷判決・民集39巻5号1100頁,最高裁平成3年(行ツ)第111号同5年1月20日大法廷判決・民集47巻1号67頁,最高裁平成11年(行ツ)第7号同年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1441頁,最高裁平成11年(行ツ)第35号同年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1704頁,最高裁平成18年(行ツ)第176号同19年6月13日大法廷判決・民集61巻4号1617頁,平成23年大法廷判決,平成25年大法廷判決及び平成27年大法廷判決参照),これを変更する必要は認められない。
(2)上記の見地に立って,本件選挙当時の本件区割規定及びこれに基づく本件選挙区割りの合憲性について検討する。
 前記2(6)及び(7)のとおり,平成26年選挙前に設置された衆議院議長の諮問機関である選挙制度調査会において,衆議院選挙制度に関する検討が重ねられ,平成27年大法廷判決の言渡し後に,小選挙区選出議員の定数を6削減するとともに,投票価値の較差を是正するための新たな議席配分方式として,各都道府県の人口に比例した配分方式の一つであるアダムズ方式を採用すること等を内容とする答申がされ,これを受けて制定された平成28年改正法は,これと同内容の規定を設けた上で,アダムズ方式による各都道府県への定数配分を平成32年以降10年ごとに行われる国勢調査の結果に基づいて行うこととし,その5年後に行われる国勢調査の結果に基づく選挙区間の人口の較差が2倍以上となったときは同較差が2倍未満となるように各都道府県内の選挙区割りの改定を行うことを定めたものである。
 さらに,平成28年改正法は,アダムズ方式による定数配分が行われるまでの措置として,選挙制度の安定性を確保しつつ較差の是正を図るため,附則において,平成27年国勢調査の結果に基づきアダムズ方式により定数配分を行った場合に選挙区数の削減が見込まれる議員1人当たりの人口の少ない6県の選挙区数をそれぞれ1減ずる0増6減の措置を採るとともに,新区画審設置法3条1項と同様の区割基準に基づき,次回の国勢調査が行われる平成32年までの5年間を通じて選挙区間の人口の較差が2倍未満となるように選挙区割りの改定を行うこととしたものである。その上で,区画審による改定案の勧告を経て制定された平成29年改正法において,19都道府県の97選挙区における選挙区割りの改定を内容とする公職選挙法の改正が行われ,同改正後の本件区割規定の定める本件選挙区割りの下において本件選挙が行われたところである。
 そして,本件選挙区割りの下における選挙区間の投票価値の較差は,平成27年国勢調査の結果による人口の最大較差において1対1.956,本件選挙当日の選挙人数の最大較差においても1対1.979に縮小され,選挙人数の最も少ない選挙区を基準として較差が2倍以上となっている選挙区は存在しなくなったというのである。
 このように,本件区割規定に係る改正を含む平成28年改正法及び平成29年改正法による改正は,平成32年に行われる国勢調査の結果に基づく選挙区割りの改定に当たり,各都道府県への定数配分を人口に比例した方式の一つであるアダムズ方式により行うことによって,選挙区間の投票価値の較差を相当程度縮小させ,その状態が安定的に持続するよう立法措置を講じた上で,同方式による定数配分がされるまでの較差是正の措置として,各都道府県の選挙区数の0増6減の措置を採るとともに選挙区割りの改定を行うことにより,上記のように選挙区間の人口等の最大較差を縮小させたものであって,投票価値の平等を確保するという要請に応えつつ,選挙制度の安定性を確保する観点から漸進的な是正を図ったものと評価することができる。
 もっとも,本件選挙においては,平成24年改正法及び平成28年改正法により選挙区数が減少した県以外の都道府県について,1人別枠方式を含む旧区割基準に基づいて配分された定数に変更はなく,その中には,アダムズ方式による定数配分が行われた場合に異なる定数が配分されることとなる都道府県が含まれている。しかし,前記2(4)から(7)までのとおり,平成24年改正法から平成29年改正法までの立法措置によって,旧区画審設置法3条2項が削除されたほか,1人別枠方式の下において配分された定数のうち議員1人当たりの人口の少ない合計11県の定数をそれぞれ1減ずる内容の定数配分の見直しや,選挙区間の投票価値の較差を縮小するための選挙区割りの改定が順次行われたことにより,本件選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差が上記のとおり縮小したものである。加えて,本件選挙が施行された時点において,平成32年以降10年ごとに行われる国勢調査の結果に基づく各都道府県への定数配分をアダムズ方式により行うことによって1人別枠方式の下における定数配分の影響を完全に解消させる立法措置が講じられていたものである。このような立法措置の内容やその結果縮小した較差の状況を考慮すると,本件選挙において,1人別枠方式を含む旧区割基準に基づいて配分された定数とアダムズ方式により各都道府県の定数配分をした場合に配分されることとなる定数を異にする都道府県が存在していることをもって,本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反するものとなるということはできない。
 以上の事情を総合的に考慮すれば,本件区割規定は,投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずることを求めた平成23年大法廷判決以降の各大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったものであり,投票価値の平等を最も重要かつ基本的な基準としつつ,新たな定数配分の方式をどの時点から議員定数の配分に反映させるかという点も含めて,国会において考慮することができる諸要素を踏まえた上で定められたものということができ,本件選挙当時においては,新区画審設置法3条1項の趣旨に沿った選挙制度の整備が実現されていたということができる。そうすると,平成28年改正法及び平成29年改正法による選挙区割りの改定等は,国会の裁量権の行使として合理性を有するというべきであり,平成27年大法廷判決が平成26年選挙当時の選挙区割りについて判示した憲法の投票価値の平等の要求に反する状態は,平成29年改正法による改正後の平成28年改正法によって解消されたものと評価することができる。
(3)したがって,本件選挙当時において,本件区割規定の定める本件選挙区割りは,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできず,本件区割規定が憲法14条1項等に違反するものということはできない。
 なお,論旨は,本件選挙が憲法の保障する1人1票の原則による人口比例選挙に反して無効であるなどというが,所論に理由のないことは以上に述べたところから明らかである。また,前記3(1)と同様の判断枠組みを示した上で本件選挙区割りの憲法適合性を判断するなどした原判決について,上告理由としての理由の不備,食違いがあるということもできない。
4 以上の次第であるから,本件区割規定が本件選挙当時憲法に違反していたということはできないとした原審の判断は,是認することができる。論旨はいずれも採用することができない。
 よって,裁判官鬼丸かおる,同山本庸幸の各反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官林景一,同宮崎裕子の各意見がある。

 裁判官林景一の意見は次のとおりである。

 私は,以下に述べるように,なお残る「ほぼ2倍」もの選挙区間の人口の最大較差及び本判決の中長期的な影響について懸念するところがあって,本件選挙区割りを合憲状態にあると判断する点において多数意見に賛同しかねる。ただ,累次の大法廷判決を受けて国会が行った是正努力の結果,不合理な制度の解消と較差の縮小について,漸次的とはいえ相当な前進がみられると評価できることから,結論として,本件区割規定は合憲であるとの多数意見に同調するものである。
1(1)多数意見は,投票価値の平等原則と国会の裁量に係る累次の大法廷判決の判断枠組みを忠実に踏まえたものといえようが,私は,本件選挙に関し,「ほぼ2倍」ともいうべき選挙区間の最大較差が残る結果について合憲状態にあると評価することには与し得ない。それは,平成27年大法廷判決が(1人別枠方式が解消していないからとはいえ)違憲状態であると断じた平成26年選挙における最大較差が2.129倍であったところ,本件選挙における最大較差は,それをわずか0.15下回っただけの1.979倍であったのに,本件選挙につき合憲状態にあると宣言することは,投票価値の平等という観点から考えた場合,素直に理解しにくいからである。
(2)国政選挙における投票価値の平等に関する合憲性判断に当たっての累次の大法廷判決の判断枠組みは,選挙制度の仕組みが投票価値の平等の要請との関係から国会に与えられた裁量権の限界を超えて是認することができない場合に憲法に違反するというものであり,較差の数値自体で判断しているものではない。そのような意味で,「ほぼ2倍」という較差自体を問題とするのは的外れであるという指摘があるかもしれない。しかしながら,およそ投票価値の平等原則との関係において選挙制度の合憲性を判断するものである以上,投票価値の客観的測定値である較差の数値と切り離して適切に評価することはできないと思う(もっとも,多数意見も,合憲状態であるという判断を下す上で,選挙区間の人口の最大較差が2倍未満になるように区割りをすることを基本とすべきものとした旧区画審設置法3条1項が「投票価値の平等に配慮した合理的な基準」であると評価した平成23年大法廷判決を出発点とするものであり,本件選挙における最大較差が2倍未満という数値であったということは,判断要素として念頭にあるように思われる。)。そして,その数値の評価に当たって,投票価値の間に2倍もの格差があって,なお不平等にあらずというのは,常識に反するように思うのである。また,最大較差2倍をめぐる上下0.1倍といったレベルの差異が有意なものであると考えることもできない。2倍未満とはいうものの「ほぼ2倍」といえる1.979倍の最大較差は,2倍超よりは良いということではあっても,その数値自体(いわば「静態的」数値)が,投票価値の平等原則との関係で,同原則が許容する範囲内,すなわち合憲状態にあると断ずることができる理論的根拠はない。本件選挙区割りのように,最大較差が2倍程度であれば,その不合理性が明白でない限り,国会の広範な裁量の範囲内にあるとして許容されるという考えもあり得るが,私の観点からは、それは,結局,2倍程度の較差を許容の範囲内とすることを前提とするものであって,理論的根拠はなく,平等原則を軽視するものといわざるを得ない。
(3)以上のようなことから,私は,本件選挙については,較差縮小に向けて相当な改善があったとはいえ,やはり「ほぼ2倍」もの大きな較差を生んでいる以上,その選挙制度は,どこかに不合理があるという評価とならざるを得ないと考えるものであり,多数意見のように,本件選挙に係る選挙制度が違憲状態を脱して合憲状態にあるとみることはできないのである。 
(4)投票価値の平等原則と較差の関係については,当該選挙の最大較差が約2倍か約3倍かという差はあるが,平成28年の参議院議員選挙に関する最高裁平成29年(行ツ)第47号同年9月27日大法廷判決・民集71巻7号1139頁における意見で私が述べたところ(2(1)及び(2))が,やはり国民の代表たる衆議院議員を選出する本件選挙についても基本的に妥当するので,これを引用する。その上で,私は,1人1票の原則とは,国民1人1人が1票を投じることができるというだけではなく,各1票の価値が,財産,地位等によって差別されてはならないという投票価値の平等原則に通ずるものであり,その差別の禁止は,居住地による差別をも含んでおり,これは厳格に考えるべきものであるという点を補足したい。つまり,地理的,歴史的,社会的といった,選挙制度の構築に当たって国会が考慮することのある他の諸要素は,それ自体が憲法上の要求でない以上,投票価値の平等原則の下位に立つものであり,よほど合理的な理由がない限り,そしてそのことが明確に説明されない限り,投票価値の平等が優先的に尊重されなければならないと考える。
(5)なお,国際的にみると,諸国家の成り立ちが様々であるため,単純な比較は容易でないが,投票価値のできる限りの平等化を目指すというのが国際潮流であって,その観点からも,できるだけ較差を縮小する方向を志向すべきであるとはいえよう。上記で引用した中にもあるように,我が国が議会政治の見本としてきており,小選挙区制を導入する際にもモデルとして念頭にあった英国の場合,法改正によって,原則5%以内の偏差,すなわち最大較差で1.1倍相当に制限する区割制度を構築しようとしていることが一つの参考にはなろう。もっとも,英国では,〔1〕全てが小選挙区で争われる下院の議席総数が,我が国衆議院の小選挙区議席総数の2倍以上の600議席(改正後)あり,〔2〕その600議席は,島嶼部の例外4議席を除いて,まず連合王国を構成するイングランド,スコットランド,ウェールズ,北アイルランドという四つの地域に人口比例的に配分され,このうち,イングランドに配分される約500議席については,更にその下にある九つの地域にやはり人口比例的に再配分される。つまり,単純化していえば,600近い議席を12の配分基盤に配分することとなり,各配分基盤は18ないし81もの選挙区を有するため,選挙区間の偏差調整についての柔軟性がかなりあるといえる。英国については,こうした事情もあることから,我が国にはあまり参考にならないという見方もあり得ようが,逆に,まさにそうした点も含めて参考になるという見方もあり得よう。
2(1)私が多数意見に全面的に賛同することができないもう一つの理由として,本判決の中長期的な影響への懸念がある。すなわち,本判決において本件選挙につき合憲状態との判定を下すことが,平成28年改正法及び平成29年改正法に基づく選挙制度について,実質上,いわば包括的な「お墨付き」を与えるものであると受け止められる可能性が高いことである。しかも,その判定の効果は,アダムズ方式による定数配分が実際に行われると見込まれる平成34年まではもちろんのこと,その次の国勢調査後までの約15年間は優に持続する(すなわち,人口動態がどうあれ,その間の衆議院選挙における選挙区割りは全て合憲状態であるとみなされる)可能性がある。しかるに,実は,アダムズ方式による定数配分の下においても,〔1〕議員定数が現状のまま維持され又は更に削減されること,及び,〔2〕現行の都道府県別の議席配分方式が維持されることの2点を前提とする限り,現状でも較差の縮小に限界があることは否定できない。加えて,農村部の過疎化と都市部,特に首都圏の過密化が更に進む見込みがあるため,2倍程度の最大較差が恒常化する構造が生まれる現実的な可能性が相当にあるように思われる。
(2)最大較差を2倍未満に抑えることが構造的に困難であった状況においては,2倍を切ることが重要であるという意味において,2倍未満という基準は合理的な目標であったといえるかもしれないが,約2倍に張り付いてよいということを意味するものではない。投票価値の平等の重要性に鑑みて,「約2倍」を最終目標と考えるのは適当ではなく,約2倍もの最大較差が恒常化することは,投票価値の平等を実質的に損なうものというほかない。「人口比例的な」配分方式が2倍もの較差を生むこと自体,背理ともいうべきであって,アダムズ方式による定数配分が行われた下においてもこのような事態が生ずることとなれば,それは同方式が人口比例的な議席配分方式として十分に機能していないともいうべきであるから,1人別枠方式のように違憲ともいうべき構造的な問題が生じていないのか,改めて問われてしかるべきであると考える。ところが,本判決によって,それには及ばずということになりはしないかというのが私の懸念である。
3 かつてウィンストン・チャーチルは,「1票の等価値(One vote, one value)」を1人1票と並ぶ代表民主制に関する原則であるとした上で,同原則の達成は,近似値においてしかあり得ず,また,様々な理由から漸次的なプロセスを経ねばならないが,しかし,「そのプロセスは,絶えず活発(constant and active)でなければならない」との点には誰も異論がないと喝破した(1948年2月16日付け英国議会議事録)。私は,投票価値の平等化については,確かに政治的な困難があって漸進的なものとならざるを得ないとしても,それは代表民主制の根幹に関わる重要な憲法問題であるので,本判決の結果をもって事足りることはなく,正に「絶えず活発に」その改善を目指すべきものであると考える。

 裁判官宮崎裕子の意見は次のとおりである。

 私は,結論において多数意見に賛同するものの,本件選挙時における本件選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったと考える。その点を含め,多数意見の理由には同調できないところがあるので,以下,その理由を述べる。
1 衆議院議員選挙における選挙区の定数配分及び選挙区割りについて,前掲最高裁昭和51年4月14日大法廷判決以降の累次の大法廷判決は,憲法上,議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれること(すなわち,人口比例)を最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているが,それ以外の要素(すなわち,人口比例以外の要素)も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されるという解釈を示してきた。このように,憲法の要求する投票価値の平等は,人口比例を最も重要かつ基本的な基準とし,人口比例以外の要素は合理性がある限り考慮することを許容するものであるから,各都道府県への定数配分やこれを前提とした選挙区割りも,合理性のある基準又は考慮要素に基づいて行うことを要請していると解すべきであり,平成23年大法廷判決がその合理性を認めた旧区画審設置法3条1項及びこれを改正して設けられた新区画審設置法3条1項の各規定もこのような合理性のある考慮要素に基づく定数配分及び選挙区割りを行うことを求めていると解すべきである。
 そして,平成23年大法廷判決は,この解釈を踏まえて,旧区割基準において1人別枠方式による定数配分を行う理由,すなわち,人口比例の配分により定数の急激かつ大幅な減少を受ける人口の少ない県に配慮すること(以下「人口少数県への配慮」という。)の合理性は失われたから,旧区割基準のうち1人別枠方式に係る部分は,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたと判断し,また,平成27年大法廷判決は,平成26年選挙における選挙区割りは,1人別枠方式に基づいて行われた定数配分を是正したものとはいえないという理由で,なお憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったと判示した。他方で,同大法廷判決は,最大較差が2倍未満であれば国会の裁量権として合理性があるとは判示していない。
 したがって,合理性のない要素を考慮してされた定数配分が実質的にみて是正されたとは評価できないと判断される場合には,最大較差が2倍未満であっても,その定数配分が憲法の投票価値の平等の要求に反する状態ではないと認めることはできないというべきである。
2 上記1を踏まえると,本件選挙に適用された本件区割規定の合憲性判断に当たっては,まず,本件区割規定において,平成23年大法廷判決,更には平成27年大法廷判決において憲法の投票価値の平等の要求に反するとされた合理性のない要素を考慮してされた定数配分がその後是正されているか否かについて,厳格に検証する必要があると考えられるので,その点について検討する。
(1)本件選挙区割りは,平成28年改正法の附則(以下単に「附則」という。)2条1項に基づいて作成された「平成27年の国勢調査の結果に基づく改定案」につき区画審の勧告があったことを受けて,同条5項の「法制上の措置」として国会が立法した平成29年改正法による改正後の公職選挙法別表第1に定められている選挙区割りである。この「平成27年の国勢調査の結果に基づく改定案」は,同条2項及び3項に定める基準(以下「附則基準」という。)に従って作成されたものであって,附則基準の内容は,新区画審設置法3条に定められている基準(以下「本則基準」という。)の内容とは異なり,都道府県への定数配分において人口比例基準を採用していない。
(2)次に,附則基準の内容をみると,附則2条2項は,平成28年改正法において定数削減の対象とされた6県への定数配分基準とそれ以外の都道府県(以下「2号区域」という。)への定数配分基準を別々に定めており,それぞれの定数配分基準は異なっている。2号区域に含まれる都道府県については同項2号が「改正前小選挙区定数」すなわち旧区割規定中の別表第1に定められた小選挙区数をそのままそれぞれの都道府県内の小選挙区数とすると規定している。そこで,1人別枠方式を含む旧区割基準による定数配分の結果であるこの改正前小選挙区定数を含む本件選挙区割りが,人口少数県への配慮という合理性のない要素を考慮したことの影響をどの程度残しているかが問題となる。
ア この問題を検討する前提として,「人口少数県への配慮という合理性のない要素を考慮したことの影響」とは何かを考えるに,そもそも1人別枠方式は,相対的に人口が少ない県に人口比例方式によるよりも多い定数を配分し,人口の多い都道府県には人口比例方式によるよりも少ない定数を配分するための手法であって,「人口の少ない県へのより多い定数配分」と「人口が多い都道府県へのより少ない定数配分」が一体のものとして行われるところに大きな特徴がある。これまでの大法廷判決ではどちらかといえば人口の少ない県への定数配分の不合理性に焦点が当てられてきたきらいがあるが,人口少数県への配慮という要素に合理性がない以上,人口の少ない県により多い配分をすべく人口の多い都道府県への配分を減らすことにも合理性はない。1人別枠方式を採用することにより合理性のない要素を考慮して行われた旧区割基準による定数配分によって生じた配分のゆがみは,人口の少ない県にだけでなく,人口の多い都道府県にも,同時に,かつ不可避的に及んでいるといわざるを得ない。
イ 1人別枠方式による配分のゆがみは,相対的に人口の少ない県と人口の多い都道府県の双方に確実に生じたはずであるので,その是正がどのように,どの程度されたかを検証してみるに,平成23年大法廷判決以降に行われた平成24年改正法による0増5減及び平成28年改正法による0増6減という定数の改正は,いずれも「定数削減」のみを行った改正であり,人口の少ない県から定数1を削減することによって1人別枠方式により与えられた定数を剥奪するという効果を有する改正であった。これに対し,人口の多い都道府県の定数を増加させる方向の改正が平成23年大法廷判決以降の法改正によってされたことはない。
ウ 多数意見は,「議員1人当たりの人口の少ない合計11県の定数をそれぞれ1減ずる内容の定数配分の見直し」があったことを本件区割規定が憲法の投票価値の平等の要求に反する状態ではないことの理由の一つに挙げているが,上記イで述べたとおり,この見直しは,人口の多い都道府県に配分された定数を見直す改正ではなかった。厳密に考えると,各都道府県に配分された定数の小選挙区総数に対する割合という観点からみれば,定数削減は,小選挙区総数という分母を減少させるので,分子(当該各都道府県に配分されている定数)が変わらなくても,人口の多い都道府県に配分されている定数の小選挙区総数に対する割合を微増させる効果を有することになる。しかしながら,0増5減及び0増6減の定数改正によっても人口最少県(鳥取県)に配分された定数は一度も改定されなかったから,これらの定数改正が選挙区間の最大較差に及ぼした影響は極めて限定的である。また,多数意見では,本件選挙区割りが合憲であることの理由の一つとして,本件区割規定の制定に当たり,選挙区間の投票価値の較差を縮小させるための選挙区割りの見直し(改定)が行われたことも挙げられている。しかしながら,人口の多い都道府県は,選挙区間の最大較差が2倍以上にならないようにするという限度で見直しの対象とされただけであるから,その見直しは,1人別枠方式により合理性のない要素を考慮してされた旧区割規定による定数配分の是正を意味するものではない。
エ 平成27年国勢調査の人口を基礎として計算した結果をみると,人口の多い都道府県の選挙区と議員1人当たり人口最少選挙区との較差が恒常的に高止まりしていること(例えば,本件区割規定による改定がされる前の各選挙区と最少人口選挙区との較差をみると,較差が2以上の選挙区は全部で32選挙区あるところ,そのうち31選挙区は人口上位10位以内の都道府県の選挙区である。)や,人口上位5位までの都府県と人口最少県の議員1人当たりの人口較差を,人口下位5位の県のそれと比べると,前者は平均1.717倍,後者は平均1.2328倍で,そこには約0.5近い大きな差があることが認められ,さらに,本件選挙時の選挙人数を基礎とした計算結果からも,最少選挙区との較差が2倍に張り付かんばかりに高い4選挙区(1.979倍から1.972倍)は全て人口1位の東京都の選挙区であることや,較差上位60位程度までみてもその大部分は人口上位10位以内の都道府県の選挙区であることが分かるが,これらは,いずれも人口少数県への配慮という合理性のない要素を考慮してされた定数配分によって人口の多い都道府県に配分された定数の見直しがされてこなかったために生じている現象であって,人口の多い都道府県の選挙人の投票価値が,合理性のある要素だけが考慮された場合に比べてより低い方向にゆがめられていることを示している。
オ 平成27年国勢調査による人口を基礎として計算すると,本件区割規定における各都道府県の議員1人当たり人口数の最大較差は1.844倍(東京都と鳥取県)となる。これは,東京都は,人口最少県である鳥取県の約23倍の人口を抱えているにもかかわらず,本件区割規定によって東京都に配分された定数は25,鳥取県は2(いずれも2号区域なので,この配分定数は,附則2条2項2号の改正前小選挙区定数である。)であって,本件区割規定によって東京都に配分された定数は鳥取県の12.5倍にすぎないことを反映した数値である。しかるに,平成27年国勢調査の結果を基礎として人口比例方式の一つとされるアダムズ方式によって都道府県への定数配分を行うこととした場合には,東京都に配分されるべき定数は,本件区割規定に定められている25から3増加されて28となるのであるが(別の人口比例方式であるヘア式最大剰余法であれば,配分されるべき定数は5増加されて30となる。),東京都にこの3の定数増を与えた場合には,上記の東京都と鳥取県の議員1人当たり人口数の較差は,1.844倍から1.646倍まで縮小して,0.198倍分だけ改善されることになる。
 東京都に配分された定数(25)が上記のように28に改善された場合における較差の改善数値(0.198倍)は,平成27年大法廷判決において違憲状態とされた平成26年選挙時における選挙区間の最大較差である2.129倍と本件選挙時における最大較差である1.979倍の差である0.15倍を32%も上回る。言い換えると,平成27年大法廷判決によって違憲状態とされた際の最大較差と本件訴訟の多数意見が合憲状態と認める状態における最大較差の差(0.15倍)よりも,合理性のない要素により生じた最大較差の差(0.198倍)の方が大きいのである。これは,旧区割基準による定数配分において人口少数県への配慮という合理性のない要素が考慮されたことによって生じ,その後改善されていないために残されている較差(この較差は,選挙区間の最大較差の数値の中に「埋め込まれている」とみることができる。)が決して小さくはなく,実質的に無視し難い大きさを持っていることを示している。また,定数が是正されないために投票価値を低く抑えられてきた国民(具体的には,人口の多い都道府県の居住選挙民)の総数は決して少なくない(平成27年国勢調査人口に基づいてアダムズ方式による都道府県への定数配分を行った場合に定数の増加が必要とされる,東京都,神奈川県,愛知県及び埼玉県の人口合計は,全国の総人口の3割近い。)。
カ さらに,人口少数県への配慮という合理性のない要素が定数配分において考慮されていたことの影響が本件選挙区割りにどの程度残っていたかの大きさを検証するべく,本件選挙区割りの平成27年国勢調査の結果による選挙区間の人口の最大較差が1.956倍と計算されていたことに着目し,飽くまでも概念的な整理としてではあるが,かかる較差を生じさせた要因別に分解してみると,次のことが分かる。
(ア)本件区割規定においては,都道府県に対してまず定数配分を行い(第1ステップ),これを前提として都道府県ごとに具体的な選挙区割りを行う(第2ステップ)という方式が採用されていることを踏まえると,平成27年国勢調査の結果に基づく選挙区間の人口の最大較差1.956倍のうち,〔1〕1を超えて1.844倍(本件区割規定における都道府県間の議員1人当たりの人口の最大較差)までの部分(すなわち,0.844倍に相当する部分)は,第1ステップ,すなわち本件区割規定が採用していた都道府県への定数配分方式(附則2条2項1号及び2号)によって生じた較差であり,〔2〕1.844倍を超えて1.956倍までの部分(すなわち,0.112倍に相当する部分)は,第2ステップ,すなわち各都道府県がそれぞれ同条3項に定められている諸要素(同項2号に定められている行政区画,地勢,交通等の事情を含む。)を考慮して行った具体的な区割りによって生じた較差であると考えることができる。
(イ)そして,平成27年国勢調査の結果を基礎として人口比例方式の一つとされるアダムズ方式によって都道府県への定数配分を行ったとすると,本件区割規定の下における都道府県間の最大較差である1.844倍が1.655倍に縮小するという計算結果が出されている。そうすると,この1.655倍は(アダムズ方式により)人口比例という要素のみを考慮して各都道府県に対して定数配分することによって生じる較差であることが明らかであるから,その差,すなわち1.655倍を超えて1.844倍までの較差部分(すなわち,0.189倍に相当する部分)は,本件選挙区割りの前提となった定数配分が人口比例以外の要素,すなわち人口少数県への配慮という合理性のない要素を考慮して定数配分がされた結果として生じた較差として,1.844倍の中に「埋め込まれている」と考えることができる。
(ウ)上記のように本件選挙区割りの下における平成27年国勢調査の結果による選挙区間の人口の最大較差1.956倍をかかる較差を生じさせている要因別に分解してみると,最大較差1.956倍のうち1を超える部分(0.956倍)の構成比率は,a都道府県に対して人口比例方式で定数配分を行うことによって生じる部分(0.655倍)が約68.5%,b上記(イ)の人口少数県への配慮という合理性のない要素によって生じた「埋め込まれている」較差部分(0.189倍)が約19.8%,c上記(ア)〔2〕の附則2条3項に定められている諸要素であって合理性について特に疑問を呈されてはいないものによって生じた較差部分(0.112倍)が約11.7%になる。つまり,人口少数県への配慮という合理性のない要素を考慮して定数配分がされたことによって生じた較差部分(上記b)の方が具体的な選挙区割りにおいて考慮された諸要素によって生じた較差部分(上記c)よりも約1.69倍大きいことが分かる。
(エ)なお,我が国が都道府県にまず定数配分する方式を採用していることによって生じる投票価値の平等に反する作用は,人口比例方式の一つとされるアダムズ方式が採用されたとしてもかなり大きい(すなわち,上記(ウ)で示した0.655倍部分)といわなければならないが,合理性のない要素によって生じた較差部分がそれよりも小さいことをもって,合理性のない要素によって生じた較差が残っていることを正当化することはできない。むしろ,都道府県への人口比例方式による定数配分によって生じる較差部分がこれだけ大きいという事実は,較差を可能な限り1に近づくよう小さくすることを本旨とすべき投票価値の平等の確保のために,合理性のない要素による較差を生じさせないことの重要性を一層高めるものというべきである。
(3)ア ところで,多数意見では,本件選挙当日における選挙人数に基づく選挙区間の最大較差が1.979倍に縮小したことも,本件区割規定の定める本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできないとする理由の一つとして言及されている。しかしながら,上記(2)の検証結果が示すとおり,最大較差が1.979倍に縮小したことは,合理性のない要素を考慮してされた定数配分が完全に解消し,是正されたことを意味するわけではない。なぜならば,本件区割規定のように,2号区域に属する各都道府県に配分された定数が是正されない場合でも,都道府県内の1選挙区当たりの人口が極力均等になるように(例えば,市町村を分割するなどして)区割りを行うことによって選挙区間の最大較差を縮小させることができるとしても,その中に「埋め込まれている」合理性のない要素を考慮してされた定数配分の影響として生じている較差部分が消えてなくなることはないからである。
イ また,検討の結果,合理性のない要素を考慮してされた定数配分が実質的にみて是正されたとは評価できないと判断される場合には,最大較差が2倍未満であっても,その定数配分が憲法の投票価値の平等の要求に反する状態ではないと認めることはできないというべきである。なぜならば,憲法の投票価値の平等の要求とは,上記1で述べたように,人口比例を最も重要かつ基本的な基準とし,人口比例以外の要素は合理性がある限り考慮することが許容されるということであるところ,この要求に反する定数配分であっても国会の裁量権の行使としては合理的であるとするのは、憲法の要求を国会の裁量権に劣後させるという本末転倒な結果になるからである。同様に,定数配分や選挙区割りにおいて,投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められるのは,飽くまでも合理性のある諸要素との間においてであるから,合理性のない要素と投票価値の平等を確保するという要請との調和を図るべき理由はない。
ウ 多数意見は,本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったか否かを判断するに当たり,本件区割規定にまだ反映されていない立法措置(特に,平成28年改正法によって改正された新区画審設置法3条1項及び2項,すなわち上記(1)の本則基準)をも考慮するという手法を採用した上で,「本件選挙において,1人別枠方式を含む旧区割基準に基づいて配分された定数とアダムズ方式により各都道府県の定数配分をした場合に配分されることとなる定数を異にする都道府県が存在していることをもって,本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反するものとなるということはできない。」というが,かかる判断手法には賛同できない。 
 なぜならば,投票価値の平等という観点からみた選挙制度(定数配分及び選挙区割り)の合憲性という問題は,国会が選挙制度の立法に当たり憲法によって与えられた裁量権をどのように行使すべきかという問題と緊密に接するものであると同時に,選挙時点という断面において国民が行使する具体的権利としての投票権がその選挙において憲法の投票価値の平等の要求に適合するものであったかという国民の権利の「質」を問うものでもあるからである。前者の観点からは,下記3(1)で述べるように,本件区割規定にまだ反映されていない立法措置の内容も考慮し,時間軸を入れた観察に基づく動態的評価まで行って最終的な合憲性判断を行うことが適切である場合があるとしても,後者の観点からは,国民が衆議院議員選挙の投票権という権利を行使して享受することができるのは,具体的な選挙の時においてだけであること,そもそも法律の規定は実際の選挙に適用されない限り投票権を実際に行使する国民にとっては絵に描いた餅でしかないことを考えるならば,まずは,実際の選挙時点という断面において適用された定数配分及び選挙区割りに関する規定(本件選挙の場合は,本件区割規定がこれに当たる。)における具体的な投票権の内実が憲法の投票価値の平等の要求に適合する状態であったかという点を判断の対象にすべきであると考える。そして,その判断においては,実際に適用された選挙区割りにまだ反映されていない法律(本件選挙の場合は,新区画審設置法3条1項及び2項がこれに当たる。)の存在を考慮すべきではない。
 そして,私の考え方からすれば,旧区割基準に基づいて定数配分された都道府県に合理性のない要素を考慮したことによる投票価値の較差が実質的に生じていることが認められる場合には,「1人別枠方式を含む旧区割基準に基づいて配分された定数とアダムズ方式により各都道府県の定数配分をした場合に配分されることとなる定数を異にする都道府県が存在している」という事実は,本件選挙時点という断面において適用された本件選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態であることを示すものというべきことになる。
(4)上記(2)において検討した結果を総合すると,本件選挙時においては,本件区割規定が,平成23年大法廷判決によって合理性がないと判断された要素を考慮してされた定数配分を是正し,その影響を解消したものとはいえず,また残されている影響の程度は実質的に無視し難い大きさであると評価せざるを得ない。この評価に,上記(3)において述べたことを併せて考慮した結果,私は,本件選挙時における本件選挙区割りは,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態,すなわち違憲状態であったと考える。
3(1)しかしながら,衆議院議員の選挙の合憲性について判断した累次の大法廷判決が,訴訟の対象となっている特定の選挙における定数配分又は選挙区割りが投票価値の較差において憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていると判断される場合であっても,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったと判断される場合に限って定数配分規定又は区割規定が憲法の規定に違反すると判断するという判断枠組みを採用してきたこと,さらに,平成25年大法廷判決及び平成27年大法廷判決では選挙制度の改正が漸次的に行われることも許容される旨判示されたことも踏まえると,本件の場合には,平成23年大法廷判決の言渡しの日以降,取り分け平成27年大法廷判決の判断の対象とされた平成26年選挙以降において,国会が行った平成23年大法廷判決の趣旨に沿った較差是正のための法改正とその実現への取組を,本件選挙時点という断面においてではなく,時間軸も入れて動態的に観察して合憲性を判断するという判断枠組みを採用することは,現行憲法下における定数配分や選挙区割りの合憲性の審査の一つの在り方として,少なくとも本件訴訟においては意味があると考えられる。
(2)そこで,上記で述べた時間軸を入れた観察を更に行い,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったといえるか否かについて検討すると,多数意見に示されている経緯により成立した平成28年改正法による改正後の新区画審設置法3条1項及び2項において,都道府県への定数配分については人口比例方式の一つとされているアダムズ方式の採用を含む定数配分基準(本則基準)が法定されたこと,その内容は平成23年大法廷判決以降の累次の大法廷判決の趣旨に沿った較差の是正を図るものと評価することができることに加え,同条で法定された定数配分基準(本則基準)の中にはそれ自体で直ちに合理性のない要素といえるものが含まれていることはうかがわれないことから,同条に基づいて作成される改定案の勧告が実際にいつ,どのようにされるか,またその改定案がいつ,どのように立法化されるかという点は将来に残されてはいるものの,現時点ではこれを基本的に肯定的に評価することができる。
(3)そして,平成23年大法廷判決の言渡しの日から平成28年改正法及び平成29年改正法の成立に至るまで約6年かかり,また同判決の言渡しの日から実際に1人別枠方式の影響が解消されるまで(すなわち,新区画審設置法3条1項及び2項の基準に沿った選挙区割りの法制化措置がとられるまで)少なくとも10年はかかるという時間軸は,相当長いというべきであるし,これは,「合理的な期間」という表現から一般国民が通常想定するであろう期間よりも長いとも思われるものの,これまでの国会の是正のための作業の成果については,上記のとおり現時点では肯定的な評価ができることを勘案すると,本件選挙に至るまでの国会における是正の実現に向けた取組が立法裁量権の行使として相当なものでなかったとまでいうことはできない。よって,選挙区割りの合憲性の判断におけるこれまでの大法廷判決の判断枠組みに沿って考えた結果として,私も,本件においては,本件区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないと考える。
4 最後に,以上述べた理由を補足するものとして,私がこの意見の基礎に置いた考え方を念のために述べておきたい。
 我が国の現行憲法上は,衆議院議員は国民の代表であって都道府県等の地域の代表ではなく,衆議院には解散制度が設けられていることを考えるならば,衆議院議員の選挙は,常に,民意を可能な限り的確に反映できるような形で行われるべきであり,憲法の投票価値の平等の要求が選挙制度上合理的に担保されてこそ,その選挙結果は民意を反映したものという大義も立つというべきである。この点も含めて,投票価値の平等は最も重要かつ基本的な憲法上の要求であることについては疑問の余地はないが,投票価値の平等が,各投票が選挙の結果に及ぼす影響力が数字的に完全に同一であることまで要求するものと考えることができないことは,前掲最高裁昭和51年4月14日大法廷判決が判示しているとおりである。
 代表民主制の選挙制度に一定不変の形態があるわけではなく,かかる選挙制度としては様々な形態が考えられるものの,どのような形態であれ,憲法に従って国会が立法すべき具体的な選挙制度は,(選挙区制を採用する場合には,選挙人がその属する選挙区における具体的な候補者を知る機会を与えられた上で投票する仕組みが確保されているという意味も含めて)公正な選挙を可能にし,もって公正かつ効果的な代表を実現するものでなければならないと解される。そうすると,定数配分や選挙区割りの在り方に大きな影響を及ぼす要素である人口(又は選挙人数)の動態変化を前もって正確に予測することは不可能であるという制約があることも考えると,国会による選挙に関する事項(定数配分及び選挙区割り)の立法が,投票価値の平等を最も重要かつ基本的な基準としつつ合理的に必要な限度で一定の非人口的要素(例えば,行政区画)をも考慮してされたとしても,その結果立法された選挙制度が,公正な選挙による公正かつ効果的な代表を実現するという目的にかなうものである限り,それも現行憲法が採用する代表民主制の選挙制度の一つの形態として認めることができるというべきである。
 現行選挙制度中の小選挙区制の部分については,我が国の人口動態変化やその傾向も踏まえた上で,投票価値の平等に関する尺度として先進諸国で採用されている偏差を採用すべきであるかどうか,(都道府県に対する定数配分は,上記2(2)カ(ウ)の検討からも分かるように,人口比例方式によったとしても相当大きな較差を生じさせる原因となり得ることから)都道府県に代えてより少ない数の相互に人口差が少ない地域ブロックに人口比例方式によって定数配分する方式を採用することの適否を含め,定数配分及び選挙区割りの在り方,選挙区割りの変更頻度(逆からいうと,選挙区割りの安定性)と憲法の投票価値の平等の要求との調和点をどこに求めるべきかなどについてのより深化した議論や実証研究を踏まえた法改正により,憲法の要求する投票価値の平等が人口動態の変化に遅れることなく,較差又は偏差をより小さくする方法で実現されるようにする努力が継続されていくことが強く望まれるところである。ただし,どのような選挙制度であっても,選挙人一人ひとりが有する投票権の価値に合理性のない理由による較差を生じさせることは現行憲法上許されないといわなければならないと考える。平成23年大法廷判決が,相対的に人口が少ない県により多くの定数を配分することにはもはや合理性はないと判示したのも,衆議院議員は全国民の代表者であり,衆議院の解散制度には選挙によって民意を問うという意味があることを踏まえてのものであることを改めてかみしめるべきである。

 裁判官鬼丸かおるの反対意見は次のとおりである。

1 私は,多数意見とは異なり,本件選挙時の本件区割規定は憲法に違反しており,本件選挙についてその違法を宣言することが相当であると考える。
2 憲法は,14条1項においてすべて国民は法の下に平等であると定め,15条1項,3項,44条ただし書の各規定により選挙権の平等及び選挙権の内容すなわち各選挙人の投票価値の平等も要求している。代表民主制の下における選挙制度は,選挙された代表者を通じて選挙人の意見を集約し,議会等に適正に反映することを目標とするものであるから,投票価値に合理性を有するとはいえない較差が存在する状態で実施された選挙の結果は,選挙人の意見を適正に反映したものとはいい難く,憲法前文が規定するところの正当な選挙ということは困難である。
 投票価値の不平等などを理由とする衆議院議員選挙無効請求事件について,昭和51年4月14日以降の累次の大法廷判決における多数意見も,基本的には,上記のとおり投票価値の平等は憲法の要求するところであるとの考えを示してきたものであり(前掲最高裁昭和51年4月14日大法廷判決,平成27年大法廷判決等),本判決の多数意見も,端的に「憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば投票価値の平等を要求しているものと解される。」と指摘しているものである。
3 他方,多数意見は,本件選挙当日における小選挙区の選挙区間の選挙人数の最大較差が,2倍未満となったもののほぼ2倍であったことについて,「投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであるところ,国会の両議院の議員の選挙については,憲法上,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとされ(43条2項,47条),選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認められている。」として,議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれること以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されているものと解されるとした上,平成28年改正法がアダムズ方式を採用することとし,同方式による定数配分がされるまでの較差是正の措置として,各都道府県の選挙区数の0増6減の措置を採るとともに選挙区割りの改定を行うことにより,本件選挙当日の選挙人数の最も少ない選挙区を基準として較差が2倍以上となっている選挙区が存在しなくなったなどとして,投票価値の平等の要求に反する状態は解消されたと評価した。
4 しかし,私は,上記3の多数意見の考えに賛同することができない。
 衆議院は,その権能,議員の任期及び解散制度の存在等に鑑み,適正に国民の意思を集約し,反映されていることが求められる。そうであるからこそ,憲法は,1対1に近い投票価値の平等を保障しており,これが最も重要かつ基本的な基準となるのである。
 私は,議員の定数,選挙区や投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項を定めることについて国会に裁量が認められていることを否定するものではない。しかし,憲法の保障する1対1に近い投票価値の平等は重要かつ基本的な基準であるから,議員の定数配分及び選挙区の区割りを定めるに当たっては,それ以外の要素は上記基準に反しない程度の合理性を有するものに限り考慮することができるのであって,憲法の保障する1対1に近い投票価値の平等を超えて約2倍の較差を認めることになるような考慮要素等が国会に認められる裁量であると解することは困難であると考える。その詳細は以下のとおりであり,この結果,私は,本件区割規定は憲法に違反すると考えるものである。
(1)第1に,本件選挙における選挙区間の選挙人数の較差は,最大で2倍未満に収まったものの,全選挙区289のうち較差が1.9倍以上となる選挙区が28選挙区,1.8倍以上となる選挙区が71選挙区,1.5倍以上となる選挙区が168選挙区存在したものである。最大較差は2倍未満に収まったとはいえ,1対1の平等とは相当程度の乖離のある選挙区が多数存在するのであって,このような乖離の大きさや乖離の大きい選挙区が多く存在することについて国会からその政策的目的ないし理由が説明されたことはないと思われる。
 本件選挙に先立ち設けられた新区画審設置法3条1項は,選挙区間の人口較差が2倍以上にならないようにする旨を規定しているが,憲法の投票価値の平等の要求に照らしたとき,同項がほぼ2倍の較差のある選挙区が多数生じることを当然に容認するものと解することはできない。
(2)第2に,衆議院議員総選挙に小選挙区比例代表並立制が採用されて以来,小選挙区の議員の定数配分に当たっては,まず都道府県に議員定数を配分し,具体的な選挙区はこれを細分化して議員定数1に相当する選挙区に分割するという手続が採用されているが,人口の少ない県よりも人口の多い都道府県の選挙人1人当たりの投票価値が低い傾向が当初より長期間継続してきた。
 このような較差が継続する理由として,地域の声の届きにくい人口少数県の声を国会に届ける目的で人口少数県の議員定数を増加させるという考え方もあるところであろう。しかし,国会議員は全国民の代表者であって(憲法前文,43条1項),自己の選挙区の奉仕者ではないから,いずれの地域において選出されたかに関わりなく,全国民の視野に立って行動することが憲法の要求である。人口の少ない地域の産業や経済等が日本全国に多大な影響を及ぼす重要な存在であることや,人口の少ない地域の様々な事情については,近年の発達した通信技術により発信が容易になり,また少子高齢化社会に伴う問題の現れとして報道されることも多く,国会議員にも国民にもその実情は知られるようになっている。議員定数を増加する方法を採用しなくとも,人口が少ない地域の実情は知ることができるのであるから,人口少数県により多くの議員定数を配分することには合理性があるとはいえない。都道府県別の人口の多寡以外にも,若年齢層やマイノリティー等,選挙人数の少なさから意見が反映しにくいと考えられる要素は多々存在するのであるから,こうした要素を選挙において合理的に考慮しきれるものではなく,人口の多寡という要素のみを特に考慮して1人1票に近い投票価値の平等を損なうことを,憲法は許容していないというべきである。
(3)第3に,平成23年大法廷判決は,旧区画審設置法の定める区割基準のうち1人別枠方式に係る部分が憲法の投票価値の平等の要求に反するに至ったものと判断したが,同判決は1人別枠方式を規定した同法3条2項を形式的に削除すれば足りるとしたものではなく,実質的に1人別枠方式に従ってされる憲法の投票価値の平等の要求に反する定数配分及び選挙区割りは憲法の要請に反するとしたものである。
 平成23年大法廷判決後に法改正及び区割りの改定を経たが,選挙区数が1ずつ減少となった合計11県を除く36都道府県では議員定数配分は旧区割基準に基づく定数配分を見直されていない。したがって,本件選挙実施時における議員定数の配分は,実質的に1人別枠方式が廃止された上で定数の再配分が行われた場合とは異なる定数の配分がされたものであり,憲法の投票価値の平等の要求に沿った選挙制度の下で本件選挙が行われたものとはいい難い。
5 次に,上記憲法に反する状態が憲法の要求する合理的期間内に是正されたといえるか否かを検討する。
 平成23年大法廷判決は,「1人別枠方式がこのような選挙区間の投票価値の較差を生じさせる主要な要因となっていたのであって,その不合理性が投票価値の較差としても現れてきていたものということができる。」(理由4(3))と判示した。同判決言渡しの後,1人別枠方式を定めた旧区画審設置法3条2項は廃止されたが,前記4のとおり,実質的には同判決が憲法に反する状態にあるとした区割りの多くが維持されたままであり,同判決の指摘した違憲状態は解消したとはいい難いから,本件選挙に関する投票価値の平等の要求に反する状態の是正に係る合理的期間の始期は,同判決の言渡しがされた日である平成23年3月23日と解する。
 同日以降,本件選挙実施までに既に6年6か月が過ぎており,立法府が司法の判断の趣旨を踏まえ,投票価値の平等の実現に向けて真摯に行動していれば,上記の期間内に憲法の投票価値の平等の要求するところに沿った1対1に近い定数配分及び選挙区割りへの是正を行うことは十分可能であったものであり,憲法上要求される合理的期間は経過したというべきである。
6 以上のとおりであるから,本件選挙当時において,本件区割規定ないし本件選挙区割りは,全体として違法であったというべきである。しかし,本件選挙を無効と認めるべきか否かについては検討を要するところである。
 本件選挙は,投票価値の不平等を理由とする衆議院議員選挙の無効訴訟が提起されるようになって以来,最大較差が初めて2倍未満となった選挙である。これは,国会が十分とはいえないまでも,較差是正に向けた努力を重ねてきた結果であると評価することができよう。また,新区画審設置法3条2項にアダムズ方式を採用する旨の規定を設け,平成32年以降に行われる国勢調査の結果に基づき同方式を適用することが予定されている。同方式は,都道府県の人口をある基準人口で除し,その商の小数部分を切り上げた数を議員定数とする方式であり,直ちに憲法の投票価値の平等の要求に沿った選挙制度の実現を見込むことは困難であると思われる。しかし,当面は同方式を適用することにより選挙区間の投票価値の較差が縮小することが見込まれており,投票価値がより1対1の平等に近づくことを期待することができよう。
 そうであるとすれば,司法が直ちに選挙無効の結論を出すのではなく,まず国会が新区画審設置法のもとで投票価値の較差是正を一層進め,その結果について司法が検証するということが憲法の予定する立法権と司法権の関係性に沿うものと考える。
 したがって,本件区割規定は違憲であるが,いわゆる事情判決の法理により請求を棄却した上で,本件選挙は違法であることを宣言すべきであると考えるものである。

 裁判官山本庸幸の反対意見は,次のとおりである。

1 投票価値の平等は唯一かつ絶対的基準
 日本国憲法は,その前文において「日本国民は,正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し,(略)主権が国民に存することを宣言し,(略)そもそも国政は,国民の厳粛な信託によるものであつて,その権威は国民に由来し,その権力は国民の代表者がこれを行使し,その福利は国民がこれを享受する。」とし,代表民主制に支えられた国民主権の原理を宣明している。そして,国を構成する三権の機関のうち,国会が国権の最高機関であり,国の唯一の立法機関と規定する(41条)。
 したがって,このような民主国家の要となる国会を構成する衆議院及び参議院の各議員は、文字どおり公平かつ公正な選挙によって選出されなければならない。憲法43条1項が「両議院は,全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。」と規定するのは,この理を表している。その中でも本件にも関わる「公平な選挙」は,憲法上必須の要請である。すなわち,いずれの国民も平等に選挙権を行使できなければ,この憲法前文でうたわれている代表民主制に支えられた国民主権の原理など,それこそ画餅に帰してしまうからである。例えば国政選挙に際して特定の地域の一票の価値と他の地域の一票の価値とを比べて数倍の較差があったとすると,その数倍の一票の価値のある地域の国民が,もう一方の一票の価値が数分の一にとどまる地域の国民に対して,その較差の分だけ強い政治力を及ぼしやすくなることは自明の理である。これでは,せっかく主権が国民に存するといっても,「その権力は国民の代表者がこれを行使し,その福利は国民がこれを享受する。」とはとてもいえないと考える。
 その意味で,国政選挙の選挙区や定数の定め方については,法の下の平等(14条)に基づく投票価値の平等が貫かれているかどうかが唯一かつ絶対的な基準になるものと解される。 
2 2割超の較差のある選挙制度は違憲無効
 なるほど多数意見のいうように「憲法上,議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているというべきであるが,それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されているものと解されるのであって,具体的な選挙区を定めるに当たっては,都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単位として,地域の面積,人口密度,住民構成,交通事情,地理的状況などの諸要素を考慮しつつ,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められているところである。したがって,このような選挙制度の合憲性は,これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお,国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによって判断される」として国会の裁量を広く認める考え方もある。しかし,国民主権と代表民主制の本来の姿からすれば,投票価値の平等は,他に優先する唯一かつ絶対的な基準として,あらゆる国政選挙において真っ先に守られなければならないものと考える。これが実現されて初めて,我が国の代表民主制が国民全体から等しく支持される正統なものとなるのである。
 また,衆議院議員選挙の場合であれば2倍程度の一票の価値の較差でも許容され,これをもって法の下の平等が保たれていると解する考え方があるが,私は賛成しかねる。というのは,一票の価値に2倍の較差があるといっても,例えばそれがある選挙では2倍であったが,次の選挙では逆に0.5倍になるなどと,何回かの選挙を通じて巨視的に観察すれば地域間又は選挙区間でそうした較差の発生がおおむね平均化しているというのであれば,辛うじて法の下の平等の要請に合致しているといえなくもない。ところが,これまでの選挙の区割りをみると,おおむね,人口が流出する地域については議員定数の削減が追いつかずに一票の価値の程度は常に高く,人口が流入する地域については議員定数の増加が追いつかずに一票の価値の程度は常に低くなってしまうということの繰り返しである。これでは後者の地域の国民の声がそれだけ国政に反映される度合いが一貫して低くなっていることを意味し,代表民主制の本来の姿に合致しない状態が継続していることを示している。
 したがって,私は,現在の国政選挙の選挙制度において法の下の平等を貫くためには,一票の価値の較差など生じさせることなく,どの選挙区においても投票の価値を比較すれば1.0となるのが原則であると考える。その意味において,これは国政選挙における唯一かつ絶対的な基準といって差し支えない。ただし,人口の急激な移動や技術的理由などの区割りの都合によっては1~2割程度の一票の価値の較差が生ずるのはやむを得ないと考えるが,それでもその場合に許容されるのは,せいぜい2割程度の較差にとどまるべきであり,これ以上の一票の価値の較差が生ずるような選挙制度は法の下の平等の規定に反し,違憲かつ無効であると考える。
3 選挙無効の場合の経過措置
(1)事情判決の法理は明文の根拠なし
 このように,一票の価値について原則は1.0であるが例外的に2割程度の較差が生ずることはやむを得ないものの,これを超えた場合には当該選挙は無効になると考える次第であるが,その場合,第一に「判決により無効とされた選挙に基づいて選出された議員によって構成された衆議院又は参議院が既に行った議決等の効力」及び第二に「判決により無効とされた選挙に基づいて選出された議員の身分の取扱い」の二つが主に問題となる。
 このような場合,いわゆる事情判決の法理を用いて,当該「選挙が憲法に違反する公職選挙法の選挙区及び議員定数の定めに基づいて行われたことにより違法な場合であっても,それを理由として選挙を無効とする判決をすることによって直ちに違憲状態が是正されるわけではなく,かえって憲法の所期するところに必ずしも適合しない結果を生ずる判示のような事情などがあるときは,行政事件訴訟法31条1項の基礎に含まれている一般的な法の基本原則に従い,選挙を無効とする旨の判決を求める請求を棄却するとともに当該選挙が違法である旨を主文で宣言すべきである。」(前掲最高裁昭和51年4月14日大法廷判決の判決要旨)とする考え方がある。しかし,国政選挙という代表民主制を支える最も重要な制度の合憲性が争われる争訟において,裁判所がこれを違憲と判断しながら当該選挙を無効とせずに単に違法の宣言にとどめるということが,法律上の明文の根拠もなく許されるものであるかどうか,私には甚だ疑問に思えてならない。現にこれまでの経緯を振り返ると,選挙区の区割りや定数に関する幾たびかの法改正や国会における検討を経てもなお,一票の価値の平等という代表民主制を支える根幹の原理が守られておらず,その改善は遅々として進まないという状況にあって,選挙制度の憲法への適合性を守るべき立場にある裁判所としては,違憲であることを明確に判断した以上はこれを無効とすべきであり,そうした場合に生じ得る問題については,経過的にいかに取り扱うかを同時に決定する権限を有するものと考える。
(2)既に行った議決等の効力
 例えば,先ほどの二つの問題のうち,第一の「判決により無効とされた選挙に基づいて選出された議員によって構成された衆議院又は参議院が既に行った議決等の効力」については,それが判決前にされた議決等であれば,裁判所による選挙無効の判決の効力は将来に向かってのみ発生し,過去に遡及するものではないから,当該議決等の効力に影響を及ぼす余地はなく,当該議決は当然に有効なものとして存続することとなることは,いうまでもない。
 それに加えて,判決後においても,裁判所による選挙無効の判断を受けて一票の価値の平等を実現する新たな選挙制度が制定されこれに基づく選挙が行われて選出された議員で構成される衆議院又は参議院が成立するまでの間を含めて,後述のとおり一定数の身分の継続する議員で構成される院により議決等を有効に行うことが可能となるので,その点で国政に混乱が生ずる余地はない。また仮に,判決の直後に判決前と同じ構成の院が議決等を行ったとしても,国政の混乱を避けるために,当該議決等を有効なものとして扱うべきである。
(3)無効な選挙で選出された議員の身分
 次に,先ほどの二つの問題のうち,第二の「判決により無効とされた選挙に基づいて選出された議員の身分の取扱い」については,衆議院の場合,選挙無効の判決がされると,訴訟の対象とされた選挙区から選出された議員のうち,一票の価値(各選挙区の有権者数の合計を各選挙区の議員定数の合計で除して得られた全国平均の有権者数をもって各選挙区の議員一人当たりの有権者数を除して得られた数。以下同じ。)が0.8を下回る選挙区から選出された議員は,全てその身分を失うものと解すべきである。なぜなら,一票の価値が許容限度の0.8より低い選挙区から選出された議員がその身分を維持しつつ他の選挙区の議員と同様に国会の本会議や委員会において議事に加わることは,そもそも許されないと解されるからである。ちなみに,それ以外の選挙区から選出された議員は,選挙は無効になるものの,議員の身分は継続し,引き続きその任期終了又は解散までは衆議院議員であり続けることができる。このように解することによって,衆議院は,経過的に,一票の価値が0.8以上の選挙区から選出された議員及び訴訟の対象とされなかった選挙区がある場合にあってはその選挙区から選出された議員のみによって構成されることになり,これらの議員によって構成される院で,一票の価値の平等を実現する新しい選挙区の区割り等を定める法律を定めるべきである。仮にこれらの議員によっては院の構成ができないときは,衆議院が解散されたとき(憲法54条)に準じて,内閣が求めて参議院の緊急集会を開催し,同緊急集会においてその新しい選挙区の区割り等を定める法律を定め,これに基づいて次の衆議院議員選挙を行うべきものと解される。(注1)(注2)。
(注1)平成29年10月22日現在の選挙人名簿登録者(在外を含む。)の衆議院小選挙区選出議員の定数289人中,一票の価値が0.8を下回る選挙区の定数は,試算によると55人であり,総定数が465人であることを考えると,これらの議員が欠けたとしても,院の構成には特段の支障はないものと考えられる。
(注2)他方,参議院の場合,例えば全選挙区が訴訟の対象とされているときは,その無効とされた選挙において一票の価値が0.8を下回る選挙区から選出された議員は,全てその身分を失うが,それ以外の選挙区から選出された議員については,選挙は無効になるものの,議員の身分は継続し,引き続きその任期終了までは参議院議員であり続けることができる。参議院議員は3年ごとにその半数が改選される(憲法46条)ので,このように解することにより,参議院はその機能を停止せずに活動することができるだけでなく,必要な場合には緊急集会の開催も可能である。
4 一票の価値の平等を実現する選挙制度
 なお,一票の価値の平等を実現するための具体的な選挙区の定め方に関しては,もとより新しい選挙区の在り方や定数を定める法律を定める際に国会において十分に議論されるべき事柄であるが,都道府県又はこれを細分化した市町村その他の行政区画などを基本単位としていては,策定が非常に困難か,事実上不可能という結果となることが懸念される。その最大の障害となっているのは都道府県であり,また,これを細分化した市町村その他の行政区画などもその大きな障害となり得るものと考えられる。
 したがって,これらは,もはや基本単位として取り扱うべきではなく,細分化するにしても例えば投票所単位など更に細分化するか,又は細分化とは全く逆の発想で全国を単一若しくは大まかなブロックに分けて選挙区及び定数を設定するか,そのいずれかでなければ,一票の価値の平等を実現することはできないのではないかと考える。
(裁判長裁判官 大谷直人 裁判官 岡部喜代子 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 山本庸幸 裁判官 山崎敏充 裁判官 池上政幸 裁判官 小池裕 裁判官 木澤克之 裁判官 菅野博之 裁判官 山口厚 裁判官 戸倉三郎 裁判官 林景一 裁判官 宮崎裕子 裁判官 深山卓也 裁判官 三浦守)