配当異議事件 最高裁判所第一小法廷平成24年(受)第880号,平成24年(受)第881号,平成24年(受)第882号 平成26年6月5日判決

       主   文

1 原判決を破棄する。
2 被上告人の控訴を棄却する。
3 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

       理   由

 上告人Y1代理人市川武志ほかの上告受理申立て理由第2,上告人Y2代理人上田裕康ほかの上告受理申立て理由第3の1ないし3及び上告人Y3代理人菊地健治,同大橋由紀の上告受理申立て理由について
1 本件は,再生手続終結の決定後に破産手続開始の決定を受けたA株式会社の破産管財人である被上告人が,同社の工場等の土地建物(以下「本件各不動産」という。)を目的とする担保不動産競売事件において作成された配当表(以下「本件配当表」という。)の取消しを求める配当異議訴訟である。被上告人は,Aが,上記再生手続において,当時別除権者であった上告人Y1,B及び株式会社C(以下「本件各別除権者」という。)との間で別除権の行使等に関する協定(以下「本件各別除権協定」という。)をそれぞれ締結し、これにより,別除権の目的である本件各不動産の受戻しの価格(以下「本件各受戻価格」という。)が定められ,各担保権の被担保債権の額が本件各受戻価格に減額されたから,上告人Y1,Bから被担保債権及び担保権を譲り受けた上告人Y2並びにCから被担保債権及び担保権を譲り受けた会社の承継人である上告人Y3は,本件各受戻価格から既払金を控除した額を超える部分につき,配当を受け得る地位にないと主張している。これに対し,上告人らは,本件各別除権協定は破産手続開始の決定がされたことにより失効したと主張して争っている。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。 
(1)Aは,平成14年3月,再生手続開始の決定を受けた。その当時,本件各不動産につき,本件各別除権者を権利者とする抵当権又は根抵当権(以下「本件各担保権」という。)が設定されており,本件各別除権者は,Aに対し,本件各担保権の被担保債権を有していた。
(2)Aは,平成14年9月から10月にかけて,本件各別除権者との間で,次のような条項を含む協定書(以下「本件各別除権協定書」という。)をそれぞれ取り交わして,本件各別除権協定を締結した。
ア Aと本件各別除権者は,本件各別除権者の担保権の内容を変更した結果,上記被担保債権の額よりも減額された本件各受戻価格が被担保債権の額であることを確認する。
イ Aは,本件各別除権者に対し,本件各受戻価格の額を平成14年から分割弁済する(分割弁済すべき期間は,早いものでは平成19年まで,遅いものでは平成27年までであった。)。
ウ Aは,事業を継続するため本件各不動産を使用することができるが,上記イの分割弁済を2回以上怠ったとき等には,本件各不動産を明け渡し,本件各別除権者が本件各担保権を行使することに異議を述べない。
エ Aと本件各別除権者は,Aが上記イの分割弁済を完了したときは,本件各担保権が消滅することを確認する。
オ Aと本件各別除権者は,別除権予定不足額(別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額(民事再生法94条2項)をいう。)を本件各別除権協定書記載の金額とする。
カ 本件各別除権協定は,再生計画認可の決定の効力が生じないことが確定すること,再生計画不認可の決定が確定すること又は再生手続廃止の決定がされることを解除条件とする(以下,この条項を「本件解除条件条項」という。)。
(3)平成14年9月,Aの再生事件において,再生債権の元本の8%を同年から平成24年までに一括又は分割して支払う旨の再生計画案が可決されて再生計画認可の決定がされ,その後同決定は確定した。そして,平成17年10月,再生計画認可の決定が確定した後3年を経過したとして再生手続終結の決定がされた。
(4)Aは,再生計画及び本件各別除権協定に基づく弁済をし続けていたが,それらの履行完了前に,同社の取締役が破産手続開始の申立てをしたことで,平成20年1月,破産手続開始の決定(以下「本件破産手続開始決定」という。)を受け,その破産管財人として被上告人が選任された。
(5)上告人Y2は,本件各不動産の担保不動産競売の申立てをし,平成20年10月,その開始決定がされた。
 本件配当表に記載された本件各担保権に係る配当実施額は,いずれも本件各別除権協定によって定められた本件各不動産の本件各受戻価格から上記(4)の弁済額を控除した額を超えるものであった。被上告人は,平成21年9月,上記競売事件の配当期日において,本件配当表のうち上記の各超過部分につき異議の申出をした。
3 原審は,次のとおり判断して,被上告人の請求を認容した。
 本件解除条件条項は,再生計画認可の決定の効力が生じないことが確定すること,再生計画不認可の決定が確定すること又は再生手続廃止の決定がされることを本件各別除権協定の解除条件とするものであるところ,本件破産手続開始決定はそのいずれにも該当しないから,本件各別除権協定は失効していない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)前記事実関係によれば,本件各別除権協定書には,本件各別除権協定の解除条件として,再生計画認可の決定の効力が生じないことが確定すること,再生計画不認可の決定が確定すること又は再生手続廃止の決定がされることという記載(本件解除条件条項)がある一方で,その再生計画の履行完了前に再生手続廃止の決定を経ずに破産手続開始の決定がされることは明記されていない。しかし,本件各別除権協定の内容からすれば,本件各別除権協定は,再生債務者であるAにつき民事再生法の規定に従った再生計画の遂行を通じてその事業の再生が図られることを前提として,その実現を可能とするために締結されたものであることが明らかであり,そのため,再生計画の遂行を通じて事業の再生が図られるという前提が失われたというべき事由が生じたことを本件解除条件条項により解除条件としているのである。本件のように,再生計画認可の決定が確定した後3年を経過して再生手続終結の決定がされたが,その再生計画の履行完了前に破産手続開始の決定がされる場合は,もはや再生計画が遂行される見込みがなくなり上記の前提が失われた点において,再生手続廃止の決定がされてこれに伴い職権による破産手続開始の決定がされる場合(民事再生法194条,250条1項参照)と異なるものではないといえる。また,本件各別除権協定の締結に際し,本件のように再生計画の履行完了前に再生手続廃止の決定を経ずに破産手続開始の決定がされた場合をあえて解除条件から除外する趣旨で,この場合を解除条件として本件解除条件条項中に明記しなかったものと解すべき事情もうかがわれない。
 そうすると,本件解除条件条項に係る合意は,契約当事者の意思を合理的に解釈すれば,Aがその再生計画の履行完了前に再生手続廃止の決定を経ずに破産手続開始の決定を受けた時から本件各別除権協定はその効力を失う旨の内容をも含むものと解するのが相当である。
(2)Aはその再生計画の履行完了前に再生手続廃止の決定を経ずに本件破産手続開始決定を受けたものであるから,本件各別除権協定は,本件破産手続開始決定時から,本件解除条件条項によりその効力を失ったというべきである。そして,その結果,本件各担保権の被担保債権の額は本件各別除権協定の締結前の額から前記2(4)の弁済額を控除した額になり,本件配当表に記載された配当実施額はいずれもこれを超えないから,上告人らは配当を受け得る地位にあるといえる。
5 以上と異なり,被上告人の請求を認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の請求には理由がなく,これを棄却した第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 金築誠志 裁判官 櫻井龍子 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木勇 裁判官 山浦善樹)