開発許可処分取消請求事件 最高裁判所第一小法廷平成27年(行ヒ)第301号 平成27年12月14日判決

       主   文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人高荒敏明の上告受理申立て理由について
1 本件は,鎌倉市長が,都市計画法(平成26年法律第42号による改正前のもの。以下同じ。)29条1項による開発許可をしたことについて,開発区域の周辺に居住する被上告人らが,上告人を相手に,上記開発許可の取消しを求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)都市計画法は,都市計画区域について無秩序な市街化を防止し,計画的な市街化を図るため必要があるときは,都市計画に市街化区域と市街化調整区域との区分を定めることができるものとし(7条),上記の区分に応じて開発行為に対する規制を行っている。その規制の概要は,次のとおりである。
ア 都市計画区域又は準都市計画区域内において開発行為を行う者は,原則として,あらかじめ,都道府県知事又は指定都市等の区域内にあっては当該指定都市等の長(以下「知事等」という。)の開発許可を受けなければならない(29条1項)。
イ 知事等は,申請に係る開発行為が33条1項各号に定める許可基準に適合しており,かつ,その申請の手続が同法又は同法に基づく命令の規定に違反していないと認めるときは、開発許可をしなければならない(同項)。市街化調整区域に係る開発行為については,同条に定める要件に該当するほか,当該申請に係る開発行為が34条各号のいずれかに該当すると認める場合でなければ,知事等は,開発許可をしてはならない(同条)。
ウ 開発許可を受けた者は,当該開発行為に関する工事を完了したときは,その旨を知事等に届け出なければならず(36条1項),知事等は,上記届出があったときは,当該工事が開発許可の内容に適合しているかどうかについて検査し,その検査の結果当該工事が当該開発許可の内容に適合していると認めたときは,検査済証を当該開発許可を受けた者に交付し(同条2項),当該工事が完了した旨を公告しなければならない(同条3項)。 
エ 開発許可を受けた開発区域内の土地においては,上記公告があるまでの間は,知事等が支障がないと認めた場合等を除いては,建築物を建築し,又は特定工作物を建設してはならない(37条1号)。そして,上記公告があった後は,当該開発許可に係る予定建築物等以外の建築物又は特定工作物を新築し,又は新設してはならず,また,建築物を改築し,又はその用途を変更して当該開発許可に係る予定の建築物以外の建築物としてはならない(42条1項本文)。ただし,市街化区域において用途地域等が定められているときに行う建築物及び一定の第一種特定工作物の建築等には,上記の制限は及ばない(同項ただし書)。
 なお,市街化調整区域のうち開発許可を受けた開発区域以外の区域内においては,知事等の許可を受けなければ,原則として,一定の建築物を除く建築物を新築し,又は第一種特定工作物を新設してはならず,また,建築物を改築し,又はその用途を変更して一定の建築物以外の建築物としてはならない(43条1項)。
(2)ア 鎌倉市長は,鎌倉市鎌倉山2丁目所在の合計3374.50平方メートルの土地を開発区域とし(以下,この開発区域を「本件開発区域」という。),予定建築物等の用途を専用住宅とする訴外人からの都市計画法29条1項に基づく開発行為の許可の申請に対し,平成24年12月28日付け開発許可(鎌倉市指令開第7-15号。以下「本件許可」という。)をした。
 本件開発区域は,昭和45年6月に市街化調整区域に定められた区域内にある。
イ 本件許可に係る開発行為に関する工事が完了し,鎌倉市長は,訴外人に対し,平成25年12月26日付けで検査済証を交付した。
3 原審は,上記事実関係等の下において,本件許可に係る開発行為に関する工事が完了し,検査済証が交付された後においても,本件許可の取消しを求める訴えの利益は失われないと判断し,これが失われるとして被上告人らの訴えを却下した第1審判決を取消して本件を第1審に差し戻すべきものとした。
4 所論は,最高裁平成3年(行ツ)第46号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号4955頁及び最高裁平成9年(行ツ)第24号同11年10月26日第三小法廷判決・裁判集民事194号907頁を引用して,市街化調整区域内にある土地を開発区域とする本件許可についても,本件許可を受けた開発行為に関する工事が完了し,当該工事の検査済証が交付された後においては,本件許可の取消しを求める訴えの利益は失われる旨をいう。
5(1)都市計画法の規定によれば,開発許可は,あらかじめ申請に係る開発行為が同法33条及び34条所定の要件に適合しているかどうかを公権的に判断する行為であって,これを受けなければ適法に開発行為を行うことができないという法的効果を有するものであるところ,開発許可に係る開発行為に関する工事が完了し,当該工事の検査済証が交付されたときは,当該開発許可の有する上記の法的効果は消滅するものというべきである(前掲第二小法廷判決参照)。
(2)そこで,このような場合にも,なお開発許可の取消しを求める訴えの利益があるか否かを検討する。
 市街化調整区域のうち,開発許可を受けた開発区域以外の区域においては,都市計画法43条1項により,原則として知事等の許可を受けない限り建築物の建築等が制限されるのに対し,開発許可を受けた開発区域においては,同法42条1項により,開発行為に関する工事が完了し,検査済証が交付されて工事完了公告がされた後は,当該開発許可に係る予定建築物等以外の建築物の建築等が原則として制限されるものの,予定建築物等の建築等についてはこれが可能となる。そうすると,市街化調整区域においては,開発許可がされ,その効力を前提とする検査済証が交付されて工事完了公告がされることにより,予定建築物等の建築等が可能となるという法的効果が生ずるものということができる。
 したがって,市街化調整区域内にある土地を開発区域とする開発行為ひいては当該開発行為に係る予定建築物等の建築等が制限されるべきであるとして開発許可の取消しを求める者は,当該開発行為に関する工事が完了し,当該工事の検査済証が交付された後においても,当該開発許可の取消しによって,その効力を前提とする上記予定建築物等の建築等が可能となるという法的効果を排除することができる。
 以上によれば,市街化調整区域内にある土地を開発区域とする開発許可に関する工事が完了し,当該工事の検査済証が交付された後においても,当該開発許可の取消しを求める訴えの利益は失われないと解するのが相当である。
(3)本件許可は,市街化調整区域内にある本件開発区域に係るものであるから,被上告人らは,本件許可に関する工事が完了し,当該工事の検査済証が交付された後においても,本件許可の取消しを求める訴えの利益を有するということができる。
6 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。所論引用の判例は,市街化区域内における土地を開発区域とする開発許可に関するものであるところ,市街化区域においては,開発許可を取り消しても,用途地域等における建築物の制限(都市計画法10条,建築基準法第3章第3節)等に従う限り,自由に建築物の建築等を行うことが可能であり,市街化調整区域における場合とは開発許可の取消しにより排除し得る法的効果が異なるから,本件に適切でない。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 櫻井龍子 裁判官 山浦善樹 裁判官 池上政幸 裁判官 大谷直人 裁判官 小池裕)